いせしま‐こくりつこうえん〔‐コクリツコウヱン〕【伊勢志摩国立公園】
伊勢志摩国立公園
[英虞湾]
衛星画像で見るリアス式海岸は美しい。小さな半島と湾入が繰り返され、半島にはさらに小さな出入りが、シダの葉か雪の結晶の切片のように精緻に複雑に、海との境界を区切っている。
数多い日本のリアス式海岸の中で、伊勢志摩の海岸は、とりわけ繊細な美しさを持つものの一つであり、構成要素のスケールが大きく豪壮な陸中海岸と好対照をなしている。ともにかけがえのない日本の自然である。
志摩半島
[夫婦岩]
紀伊半島東岸の付け根にある志摩半島と、伊勢神宮を含む公園で、戦後間もない昭和21年に指定された。
志摩半島は紀伊山地が海に沈むところである。海岸線は出入りの複雑なリアス式海岸で、北から鳥羽湾、的矢(まとや)湾、英虞(あご)湾、五ヶ所湾などの湾入部が並ぶ。
公園区域の北部には二見浦(ふたみがうら)がある。長さ約6kmの砂浜で五十鈴(いすず)川の河口に近く、伊勢神宮参拝の禊(みそ)ぎ場であり、また、歌枕として名高い。東端の立石崎近くの沖に、大しめ縄で結ばれた夫婦岩がある。海中にある興玉神社神石の鳥居である。夏至を中心とした春から夏にかけて、岩の間から朝日が昇るのが見られる。
鳥羽湾は、実際は、答志(とうし)島と菅島など平行する2列の島に挟まれた水道で、奥が閉じた湾ではない。この島列の先には、渥美半島の伊良湖(いらこ)岬(三河湾国定公園)がある。
英虞湾は、先志摩半島によって外洋と隔てられ、西向きに開いた深く複雑な入江で、この公園随一の景勝地である。小さな半島は木の枝のように出入りがあり、波静かな湾内には天童島など60余の島嶼(とうしょ)があって、繊細で優美な多島海景観を展開する。海面に浮く真珠貝養殖の筏(いかだ)は、この地の風景には欠かせないものだ。人文景観としては、潜水してアワビなどを獲る海女(あま)の活動も、この公園の添景である。
英虞湾の展望地としては、湾奥の登茂(とも)山、北西の横山などがすぐれている。賢(かしこ)島は湾奥の島で、2つの橋と近鉄志摩線で本土と連絡しており、英虞湾の利用の中心地である。
五ヶ所湾は、カエデの葉のように入り組んだ形から楓江(ふうこう)湾ともいわれる。湾口西側の南海展望公園から一望できる。これより西は山地が海岸に迫り、海岸線はこれまでと比べて幾分単調になる。
公園内の交通は、鳥羽市今浦と志摩を結ぶパールロードや、山道の伊勢志摩スカイラインなどがある。鳥羽には、伊良湖岬からフェリーも通っている。スカイラインが通る朝熊(あさま)山には、空海が天長2年(825)に開基したと伝えられる金剛證寺(こんごうしょうじ)があり、山上園地からの展望がよい。
伊勢神宮
[伊勢神宮]
伊勢神宮は、天照大神(あまてらすおおみかみ)を祀る皇大神宮(内宮(ないくう))と、豊受大神(とようけのおおかみ)を祀る豊受大神宮(外宮(げくう))、それに多数の別宮などからなり、内宮と外宮は伊勢市内に約5km離れて鎮座する。天照大神は皇祖神であり、国内総鎮守とされる神、また、豊受大神は食物をつかさどる神である。
内宮、外宮ともに正殿は、古来の形式が伝えられる唯一神明(ゆいつしんめい)造りで、2本の棟持柱で茅葺き屋根を支える白木造りの簡明な構造である。7世紀の持統天皇の代に始まった式年遷宮(しきねんせんぐう)によって、20年ごとに古式に則って建て替えられる。前回は、平成5年に第61回の遷宮が行われた。一連の祭事は8年間かかり、次回平成25年の第62回遷宮に向けての行事は、17年5月の山口祭を皮切りにすでに始まっている。正殿は4重の垣によって囲まれており、一般参拝者が入れるのは板垣の内、外玉垣の南御門までである。
神宮林
伊勢神宮内宮の後背に広がる面積約5,500haの宮域林は、「神宮林」と呼ばれる。神路山、島路山、前山の一帯で五十鈴川の水源である。かつては遷宮の際の用材が生産されていたが、現在用材は主に県外から調達している。
将来に備えて区域の一部はヒノキの人工林であるが、森林の一部は伐採せず、シイ、タブノキ、ヤブツバキなど照葉樹の自然林として維持されているため、トキワマンサクやジングウツツジなどの希少種も見られる。
関連リンク
- 伊勢志摩国立公園 (環境省ホームページ)
伊勢志摩国立公園
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/26 08:58 UTC 版)
伊勢志摩国立公園 Ise-Shima National Park |
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英虞湾に沈む夕日
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指定区域 | 北緯34度27分18秒 東経136度43分33秒 / 北緯34.45500度 東経136.72583度座標: 北緯34度27分18秒 東経136度43分33秒 / 北緯34.45500度 東経136.72583度 |
分類 | 国立公園 |
面積 | 55,544 ha[2] |
指定日 | 1946年11月20日 |
運営者 | 環境省 |
年来園者数 | 820万人(2010年)[3] |
施設 | 関連施設を参照 |
事務所 | 中部地方環境事務所 |
事務所所在地 | 〒460-0001 愛知県名古屋市中区三の丸2-5-2 |
公式サイト | 伊勢志摩国立公園(環境省) |
伊勢志摩国立公園(いせしまこくりつこうえん)は、三重県志摩半島一帯からなる国立公園である。1946年11月20日に指定された。リアス式海岸と温暖な気候による植生が特徴で、英虞湾、的矢湾、五ヶ所湾など深い入り江が多い。
日本の国立公園の面積の約60%が国有地であるが、鳥羽市・志摩市の市街地のほかに神路山などの伊勢神宮の宮域林5500 ha[4]を含む伊勢志摩国立公園では90%以上が私有地である[5]。年間訪問者は1017.6万人(2002年)[6]。生活圏と重なるため、日本の国立公園の中では最も人口が多い[6]。
指定までの経緯
伊勢志摩国立公園は観光客の増加を期待し、戦前に鳥羽と志摩が吉野熊野国立公園の区域拡大を求めたことに始まる。1942年に独立した志摩国立公園の計画に変更されたが、当初の計画では宇治山田市(現伊勢市)を含まなかった。太平洋戦争の戦況が悪化し、計画は頓挫したかのように見えた。
1945年の敗戦直後から厚生省が国立公園事務を再開し、翌1946年4月に厚生省石神甲子郎技師が志摩国立公園の候補地を視察した。政教分離のためにGHQが神宮を過剰に解体してしまうことが危惧され、宇治山田市議会が宇治山田市と度会郡沼木村(のちに伊勢市)を追加することを決議した。5月には神宮の宮域林を含む範囲が申請区域に追加され、伊勢志摩国立公園の計画に変更された[7]。鳥羽・志摩では英虞湾が真珠の主要産地であることをアピールするためにGHQ要人の夫人へ真珠のネックレスなどを贈与し便宜を求めた[8]。これとは別に神宮側が懸命に説得したこともあり、1946年11月20日に戦後初の国立公園として伊勢志摩国立公園が誕生した[9]。
地理
面積
- 面積別
- 総面積74,644 ha:内訳(陸域55,544 ha 海域19,100 ha)
- 所有者別[6]
- 国有地 0.3%
- 私有地 99.7%(公有地 3.6%、民有地 96.1%)
- 保護地域別(陸域)[10]
- 特別保護地区 944ha(1.7%)
- 第1種特別地域 1,084ha(2.0%)
- 第2種特別地域 6,691ha(12.0%)
- 第3種特別地域 8,790ha(15.8%)
- 普通地域 38,035ha(68.5%)
※ 普通地域の割合は日本の国立公園の中で最も高い[10]。
地形
リアス式海岸や海食崖[6]、日本最大の隆起海食台地[11]などの海岸地形に特色がある。
湾
島
岬
植生・動物
内陸部は伊勢神宮の神宮林(宮域林)のジングウスギや常緑広葉樹と針葉樹の成す針広混交林や国の天然記念物に指定されている「鬼ヶ城暖地性シダ群落・細谷暖地性シダ群落」などの貴重な自然が残る[6]。山中にはシカ・イノシシ・ニホンザルなどが生息し[6]、三重県道32号伊勢磯部線(伊勢道路)等の山中を通る道路で時折遭遇する。
沿岸部はハマユウ・ハマナデシコなどの暖地性海浜植物が咲き、ウミネコ・セグロカモメなどの海鳥が舞う[6]。カモメは鳥羽市の鳥に指定されている。
参観灯台
展望台
関連市町村
三重県
観光地
主な観光地
- 伊勢神宮
- 二見浦
- 鳥羽城跡
- 御座白浜海水浴場
- 国府白浜
- 伊勢夫婦岩ふれあい水族館シーパラダイス
- 鳥羽水族館
- 志摩マリンランド
- 志摩スペイン村
- ミキモト真珠島
- パールロード
- 鳥羽市立海の博物館
- NEMU RESORT
- 朝熊山(伊勢志摩スカイライン)
- 青峰山
- 横山展望台
- 賢島
- 伊勢志摩サミット記念館
ビジターセンター
利用者数は2008年[12]。
センター名 | 設置者 | 所在地 | 利用者数(人) |
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横山ビジターセンター | 環境省 | 三重県志摩市阿児町鵜方857-24 | 13,437 |
鳥羽ビジターセンター | 伊勢志摩国立公園協会 | 三重県鳥羽市鳥羽一丁目2383-22 | 6,813 |
ともやまビジターセンター | 志摩市 | 三重県志摩市大王町波切2203 | 55,300 |
脚注
- ^ “伊勢志摩国立公園の区域図”. 環境省. 2012年10月6日閲覧。 (PDF)
- ^ “伊勢志摩国立公園の公園紹介”. 環境省. 2012年10月6日閲覧。
- ^ “国立公園の利用者数(公園、年次別)”. 環境省. 2012年10月6日閲覧。 (PDF)
- ^ 『伊勢神宮と周辺の自然』(伊勢志摩きらり千選)
- ^ 『ようこそ国立公園へ』(環境省)
- ^ a b c d e f g 古田(2005)、74ページ
- ^ 『遷宮論集』(神社本庁)
- ^ 『驕るなかれ』53ページ(中村幸昭著、Google ブック検索) - 中村は鳥羽水族館創設者である
- ^ 環境省 国立公園
- ^ a b 古田(2005)、121ページ
- ^ 藤田・田林(2007)
- ^ 環境省自然ふれあい推進室"表II-9 国立公園内ビジターセンター等利用者数"自然公園等利用者数調(2013年3月16日閲覧。)
参考文献
- 『鳥羽市観光基本計画 ― 資料編別冊 -』(鳥羽市)
- 古田陽久・古田真美『誇れる郷土ガイド―日本の国立公園編―』シンクタンクせとうち総合研究機構、2005年3月15日、128pp. ISBN 4-916208-94-3
- 藤田佳久・田林明『日本の地誌7 中部圏』朝倉書店、2007年4月25日、672pp. ISBN 978-4-254-16767-2
関連項目
外部リンク
伊勢志摩国立公園と同じ種類の言葉
固有名詞の分類
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