りしりれぶんサロベツ‐こくりつこうえん〔‐コクリツコウヱン〕【利尻礼文サロベツ国立公園】
利尻礼文サロベツ国立公園
海を見渡す桃岩の断崖の上は、花の咲き乱れる草原。目もあやに咲き競う無数の花の中には、この島でないと目にすることのできない、固有の種類も多い。
それから、地平線がまっすぐに空と陸を画する広大な原野。エゾカンゾウが湿原を橙黄色に埋めるその向こうに、ただ1ヵ所、鋭く空を切って立つ山の頂。ここには北方的雰囲気のあふれる自然がある。
さいはての花の島
この公園は、利尻・礼文両島とサロベツ原野一帯からなる、日本最北の自然公園である。
利尻島は稚内(わっかない)市西海岸の南西約30kmにあるほぼ円形の島で面積182km2、中央に利尻山(1,721m)がそびえる。利尻山はもともとは成層火山であり、海岸に向かって長く裾を引いているが、山頂部は強風と雨雪による激しい浸食により変形し、鋭い岩峰が林立する荒々しい姿となっている。
植生は、海岸から標高約500mまではトドマツを主とする針葉樹林、その上部は低木林で、高度約1,000mより上部には随所に高山植物群落がある。
固有種のリシリヒナゲシは、日本の野生のケシとして唯一の種であり、ほかにボタンキンバイなどの希少種も見られる。
公園区域は利尻山の中腹以上と、鴛泊(おしどまり)、沓形(くつがた)からつけられた2本の登山道周辺、鬼脇及び姫沼、オタドマリ沼、沓形岬など山麓と海岸の景勝地が含まれる。
礼文島は利尻島の北西約8kmにあり、面積82km2の南北に細長い島である。利尻島とは対照的に非火山性の島で、全体が丘陵状であり、最高点は礼文岳(490m)である。西岸には海食崖があって風衝性の高山植物群落が発達し、特に南端の桃岩周辺には見事なお花畑が広がる。礼文島の植物には、レブンアツモリソウ、レブンソウなどの固有種をはじめ、レブンウスユキソウ、レブンコザクラなど希少種がきわめて多い。
サロベツ原野
サロベツ原野は釧路湿原とともに日本に残る数少ない大湿原である。サロベツ川流域に発達したもので、低層湿原が大部分を占める釧路湿原と異なり、サロベツは高層湿原の割合が高く、国内ではほかに尾瀬と大雪山にしかないナガバノモウセンゴケが生育している。
特徴的な動物としては、コモチカナヘビの生息が知られる。また、湿原の南寄りにあるペンケ沼、パンケ沼の2湖沼は、周辺にアシ・スゲ類が生える低層湿原や中間湿原が広がり、ガンやカモ類など水鳥の渡りの中継地として重要である。
サロベツ原野はかつて農用地として開発する計画があり、調査が進められ、一部は土地利用が進んでいた。しかし、かつて無用の土地とされた湿原の価値が認められ、保護の気運が高まるとともに、国定公園であった利尻・礼文両島と合わせて、主要部が昭和49年に国立公園に指定されたのである。
サロベツ原野西側の海岸には稚咲内(わかさかない)砂丘林がある。数列の砂丘が海岸線と平行に並び、全体の幅は約800m、延長約35kmもある。砂丘上にはミズナラ、エゾイタヤ、トドマツなどの森林が発達し、砂丘列の間の低地には大小100以上の池沼や湿原が続く、特異な景観をつくっている。
サロベツの主な利用地点はサロベツ原生花園とパンケ沼畔である。車道が通じ、両地区にビジターセンターがある。また、稚咲内砂丘林には歩道があり、実際以上に奥深い感じのする北方森林の静けさを味わえる。乾燥しつつある湿原では、その保全・再生と周辺農業の共生を目指して自然再生事業が実施されている。
高層湿原と低層湿原
泥炭が水中で堆積し、地表面が水面より低いものを低層湿原、堆積が進んで地表が水面より高くなったものを高層湿原、中間段階のものを中間湿原という。低層湿原は富栄養性で大型のアシ、スゲ類、ハンノキが育ち、高層湿原は貧栄養性でミズゴケを主に、モウセンゴケ、ミカヅキグサなど小型の植物が優占する。一般に湿原の川沿いや周辺部は低層湿原が、川や周辺山地から流入する水の影響がない中央部に高層湿原が発達する。
関連リンク
- 利尻礼文サロベツ国立公園 (環境省ホームページ)
利尻礼文サロベツ国立公園
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/03/13 00:45 UTC 版)
利尻礼文サロベツ国立公園 Rishiri-Rebun-Sarobetsu National Park |
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利尻山(2013年6月)
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指定区域 | 北緯45度10分43秒 東経141度14分31秒 / 北緯45.17861度 東経141.24194度座標: 北緯45度10分43秒 東経141度14分31秒 / 北緯45.17861度 東経141.24194度 |
分類 | 国立公園 |
面積 | 24,166ヘクタール |
前身 | 利尻礼文国定公園 |
指定日 | 1974年9月20日 |
運営者 | 環境省 |
年来園者数 | 730,000人(平成25年)[1] |
施設 | サロベツ湿原センター、幌延ビジターセンター |
事務所 | 北海道地方環境事務所 |
事務所所在地 | 札幌市北区北8条西2丁目 札幌第1合同庁舎3F |
公式サイト | 環境省_利尻礼文サロベツ国立公園 |
利尻礼文サロベツ国立公園(りしりれぶんサロベツこくりつこうえん)は、北海道にある国立公園。
概要
日本国内最北の国立公園であり、利尻島と礼文島の約半分、稚内市から豊富町・幌延町へ続く海岸砂丘林とサロベツ原野が指定されている[2]。公園全体の約7割が原生的な自然状態であり、全域に渡って風が強いため風衝植生になっている[2]。サロベツ原野がラムサール条約に登録されている他[2][3]、「礼文島桃岩付近一帯の野生植物」「利尻島のチシマザクラ自生地」「稚内海岸砂丘林」「レブンアツモリソウ群生地」が北海道の天然記念物に指定されている[4]。
歴史
サロベツ原野は戦後開拓による開発の対象になっていたこともあり、国定公園指定の際には公園区域にはならなかったが[5]、湿原の保護や観光地として注目されるようになり、国立公園指定の際に公園区域に加わった[5]。2005年(平成17年)に上サロベツ自然再生協議会が設立し、自然再生事業に取り組んでいる。
- 1965年(昭和40年):国定公園指定
- 1974年(昭和49年):国立公園指定
- 1989年(平成元年):幌延ビジターセンター開設[6]
- 2003年(平成15年):第1回点検
- 2005年(平成17年):サロベツ原野がラムサール条約に登録[3]。
- 2011年(平成23年):サロベツ湿原センターがオープン[7]。
- 2014年(平成26年):日本郵便発行の310円普通切手の意匠に採用[8]。
自然
利尻島は円錐形の火山島であり、利尻山は利尻礼文サロベツ国立公園のシンボル的存在になっている[9]。高山植物に富む地域の一つとして山頂部にはリシリヒナゲシやボタンキンバイなどの固有種があり、各所に高山性植物群落によるお花畑を見ることができる[9]。山麓ではトドマツを中心とした針葉樹林帯があるほか、オタトマリ沼周辺ではアカエゾマツや湿原植物がある[9]。礼文島は丘陵性地形の離島であり、レブンキンバイソウやエゾノハクサンイチゲなどのお花畑、レブンアツモリソウに代表する固有種が数多く存在し、礼文島は別名「花の浮島」とも呼ばれている[9][10]。いずれの島も渡り鳥の中継地になっている[9]。稚内市から幌延町までの約40kmに渡って数列の砂丘が帯状に発達しており、砂丘の間には複数の湖沼がある景観になっている[9]。日本国内唯一といわれているミコアイサの繁殖地があるほか、オジロワシなどの貴重な鳥類を観察することができる[9]。サロベツ原野はサロベツ川流域に形成された泥炭地であり、低平地における日本国内最大の高層湿原になっている[9]。多くの渡り鳥が観察でき、チュウヒやシマアオジなどの繁殖地も存在している[9]。
景勝地
- 礼文島
- 利尻島
ビジターセンター
センター名 | 設置者 | 所在地 | 利用者数(人) |
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サロベツ湿原センター | 環境省 | 北海道天塩郡豊富町上サロベツ8662 | 52,111[17] |
幌延ビジターセンター | 北海道天塩郡幌延町字下沼 | 6,849[17] |
脚注
- ^ “国立公園の利用者数(公園、年次別)” (PDF). 環境省. 2016年8月24日閲覧。
- ^ a b c 利尻礼文サロベツ国立公園管理計画書 2007, p. 1.
- ^ a b “サロベツ原野” (PDF). 環境省. 2016年8月22日閲覧。
- ^ “道指定文化財概要一覧(天然記念物)” (PDF). 北海道教育委員会. 2016年8月24日閲覧。
- ^ a b “はじめに(序文) | 全体構想”. サロベツ自然再生事業. 環境省. 2016年8月22日閲覧。
- ^ “幌延町情報ボックス 平成27年度版” (PDF). 幌延町. p. 4 (2015年). 2016年8月22日閲覧。
- ^ “サロベツ湿原センター”. サロベツ・エコ・ネットワーク. 2016年8月22日閲覧。
- ^ “新料額の普通切手の意匠等” (PDF) (プレスリリース), 日本郵便, (2013年12月6日) 2016年8月22日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i 利尻礼文サロベツ国立公園管理計画書 2007, pp. 2–5.
- ^ “レブンアツモリソウだけじゃない! 礼文島に行ったら見るべき花5選”. 北海道ファンマガジン (2008年12月1日). 2016年8月22日閲覧。
- ^ “礼文島には桃の形をした巨岩「桃岩」がある!桃台猫台展望台へ!”. 北海道ファンマガジン (2014年10月3日). 2016年8月22日閲覧。
- ^ “利尻島の4分の1を見下ろすならココ! 5合目展望台「見返台園地」”. 北海道ファンマガジン (2013年10月1日). 2016年8月22日閲覧。
- ^ “名水百選「甘露泉水」が有名! 利尻島の4つの湧水ポイントを巡ろう!”. 北海道ファンマガジン (2013年9月28日). 2016年8月22日閲覧。
- ^ “利尻の「姫沼」は人造湖だった!? 急坂を上って辿り着いた癒され空間”. 北海道ファンマガジン (2013年9月15日). 2016年8月22日閲覧。
- ^ “白い恋人のパッケージに採用! 利尻島一の人気観光地「オタトマリ沼」”. 北海道ファンマガジン (2013年10月3日). 2016年8月22日閲覧。
- ^ “浜勇知園地・展望休憩施設こうほねの家”. 北海道ファンマガジン (2008年3月14日). 2016年8月22日閲覧。
- ^ a b “国立公園内ビジターセンター等利用者数” (PDF). 環境省 (2013年). 2016年8月22日閲覧。
参考資料
- “利尻礼文サロベツ国立公園管理計画書” (PDF). 北海道地方環境事務所 (2007年). 2016年8月22日閲覧。
関連項目
外部リンク
ウィキトラベルには、利尻礼文サロベツ国立公園に関する旅行ガイドがあります。
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