しれとこ‐こくりつこうえん〔‐コクリツコウヱン〕【知床国立公園】
知床国立公園
平成17年、知床は白神山地、屋久島に続く国内3番目の世界自然遺産に登録され、新たな一歩を踏み出した。
流氷に覆われる海域としては北半球で最も低緯度にあること、海と陸との生命のつながりが顕著に見られること、サケ科の魚類やアザラシ、クジラや海鳥を含む海陸の希少生物や、渡り鳥の生息地として重要であることなどが高く評価されたのである。
原生的な自然景観
オホーツク海に突き出た知床半島は長さ約65km、基部の幅は約25kmあり、その先端から半分ほどが国立公園である。昭和39年に指定され、その後、55年に南西端の遠音別(おんねべつ)岳が原生自然環境保全地域に指定され、この部分を削除した。
脊梁山地は羅臼(らうす)岳(1,661m)を最高峰として、この地域唯一の活火山である硫黄山(1,563m)、その先の知床岳(1,254m)などの山岳が連なり、突端の知床岬は草原となっている。一方、半島先端部の海岸、特に斜里(しゃり)側の海岸は大部分が切り立った断崖となり、容易に人を寄せつけず、断崖の下のわずかな平地にサケ・マス漁業のための番屋が点在するのみである。
公園内は多くがエゾマツ、トドマツ、イタヤカエデ、ミズナラなどの森林に厚く覆われている。その間にちりばめられた湖沼、湿原、渓流など、豊かな多様性にも恵まれている。また、山頂部には、標高は低いが、ハイマツをはじめ雪田や風衝地に生育する高山植生が発達し、硫黄山には知床半島固有種のシレトコスミレも見られる。
日本指折りの野生の王国
知床は道内でも有数のヒグマの生息地であり、また、絶滅が危惧されるシマフクロウも、国内の分布は知床が中心である。冬季、沿海にはアザラシやトドが姿を見せ、オジロワシ、オオワシ、各種の海鳥が多数渡来する。オジロワシは、少数が夏もとどまって繁殖している。まさに野生の王国であり、原始性の高さは我が国の自然公園の中でも屈指のところである。
ただ、近年エゾシカが増加し、知床岬の草原などで植生への影響が懸念されるようになっている。また、遡上するサケやマスを狙うヒグマが見られる一方で、公園利用者とヒグマが接近することもあり、関係者は事故の防止に神経を使っている。
知床の自然に親しむ
公園の利用は、陸上では知床横断道路が通る半島の中部より基部にほぼ限られ、知床峠、羅臼湖などこの道路沿線とウトロ、羅臼、岩尾別(いわおべつ)などの温泉周辺、知床五湖の探勝が主なものである。羅臼温泉にはビジターセンターが、ウトロには知床財団の運営する知床自然センターがあって、知床探勝の基地となっている。また、山岳のうち、一般登山の対象となるのは羅臼岳から硫黄山にかけてに限られ、それ以外の山には登山道はない。
海上の利用は、ウトロと羅臼から遊覧船が運航しており、海岸の豪壮な景観を探勝できる。特にウトロ側は高さ100〜200mの断崖が連続し、ウミウやオオセグロカモメのコロニーもある。
冬季、オホーツク海は南下してきた流氷に覆われ、白一色の世界となる。寒さが厳しく、野外での活動には制約も多い季節であるが、流氷や多数渡来するワシ類や海獣類の観察や撮影は、この時期に訪れる人だけの特権である。また、最近は流氷の下の海中景観が映像により紹介される機会も増えてきた。ウトロ側の公園入り口近くには、日本におけるナショナル・トラストの先駆けとなった「しれとこ100平方メートル運動」の地があり、開拓跡地を森林に戻す作業が続けられている。
[流氷の海]
関連リンク
- 知床国立公園 (環境省ホームページ)
知床国立公園
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/01/17 16:15 UTC 版)
知床国立公園 Shiretoko National Park |
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フレペの滝遊歩道と知床連山(2014年8月)
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指定区域 | 北緯44度04分33秒 東経145度07分20秒 / 北緯44.07583度 東経145.12222度座標: 北緯44度04分33秒 東経145度07分20秒 / 北緯44.07583度 東経145.12222度 |
分類 | 国立公園 |
面積 | 38,636ha(陸域のみ)[1] |
指定日 | 1964年6月1日[2] |
運営者 | 環境省 |
年来園者数 | 1,740,000人(平成25年)[3] |
施設 | 知床世界遺産センター、知床自然センター、知床五湖フィールドハウス、知床五湖パークサービスセンター、知床世界遺産・知床国立公園羅臼ビジターセンター、知床世界遺産ルサフィールドハウス |
告示 | 昭和39年厚生省告示第235号 昭和55年環境庁告示第1号(変更) 平成17年環境省告示第140号(変更) 平成22年環境省告示第120号(変更) |
事務所 | 釧路自然環境事務所 |
事務所所在地 | 北海道釧路市幸町10-3 |
公式サイト | 環境省_知床国立公園 |

知床国立公園(しれとここくりつこうえん)は、北海道知床半島にある国立公園。
概要
全国22番目の国立公園として南アルプス国立公園とともに指定された。日本国内最東北端に位置する知床半島中央部から知床岬までの周辺海域を含む約60,000ヘクタールが公園区域になっている。厳正な保護規制がかけられている「特別保護地区」が陸域公園面積の半分以上を占めており、公園区域の西端の知西別岳は、「遠音別岳原生自然環境保全地域」に隣接している。
知床国立公園を含む一帯(約71,100ヘクタール)は、2005年(平成17年)に「世界自然遺産」に登録された[4][5]。
歴史
知床半島には、数千年にさかのぼる先史時代の遺跡が数多く残されている[6]。中でも10世紀前後にオホーツク海沿岸で栄えた北方の漁猟民族によるオホーツク文化の影響を受けて、アイヌの人々はシマフクロウやヒグマ、シャチなどを神と崇め、狩猟や漁撈、植物採取などをしながら豊かな自然を大切にした文化を育んできた[6]。
- 1964年(昭和39年):国立公園指定。
- 1980年(昭和55年):公園区域の変更(遠音別岳を原生自然環境保全地域へ)。
- 1984年(昭和59年):再検討。
- 1990年(平成 2年):公園計画の一部変更(乗り入れ規制地域の指定)。
- 1995年(平成7年):第一次点検。
- 2003年(平成15年):公園計画の一部変更(北海道長距離自然歩道追加)。
- 2005年(平成17年):知床が「世界自然遺産」登録[4][5]。公園区域の変更(海域の拡張)。
- 2010年(平成22年):公園計画の一部変更(利用調整地区の指定、生態系維持回復事業の追加)。公園区域の変更。
自然
知床半島はプレート運動や火山活動、海食などの地形形成作用により造られていることから、奇岩や海食崖、火山地形などの多様な景観が形成されている[7]。現在も活動中の火山のうち、知床硫黄山は1936年(昭和11年)に約20万トンの溶融した硫黄を8ヶ月間にわたって噴出している[7]。オホーツク海は地形的・地理的条件により流氷ができる海洋として北半球で最も低緯度に位置する季節海氷域となっている[8]。流氷下にはアイスアルジー(海氷内や海氷の底で増殖する藻類)が増殖し、流氷形成時の鉛直混合により作られる栄養塩の豊富な中層水が表層に運ばれることで植物プランクトンの大増殖が生じ、それを餌とする動物プランクトン、高次消費者である魚類や海棲哺乳類(海獣)、陸上の生物にまでつながる食物連鎖が形成されている[9]。海岸から山頂までの標高差は約1,600m程であるが、比較的低い標高域から高山帯にあるハイマツの低木林や高山植物群落が発達するなど、多様な植生が垂直的に分布している[9]。
知床半島には手つかずの原生的な自然が残されているため、かつて北海道に広く生息していた北方及び南方由来の哺乳類、鳥類がほとんどすべて生息しており、多様性に富んでいる[6]。陸上にはヒグマやエゾシカ、海域には鯨類や鰭脚類といった大型動物が高密度で生息していることは、知床半島が哺乳類にとって質の高い生息地となっていることを表しており、特にヒグマは世界有数の高密度状態で維持されている[6]。また、天然記念物に指定されているシマフクロウ、オジロワシやクマゲラの繁殖、オオワシの越冬が確認されており、周辺地域はシマフクロウにとって日本国内で繁殖するつがいの約半数が生息している最も重要な繁殖地であり、オオワシにとっては越冬個体数が1,000羽以上になる世界的に重要な越冬地になっている[6]。河川では、サケ類が著しく優占していることが大きな特徴となっている[6]。
- 川:岩尾別川、カムイワッカ川、ルシャ川、テッパンベツ川、アウンモイ川、ルサ川、ケンネベツ川、サシルイ川、羅臼川
- 滝:フレペの滝、カムイワッカ湯の滝、カムイワッカの滝、カシュニの滝、男滝、女滝、セセキの滝、熊越の滝
- 湖沼:知床五湖、羅臼湖
- 山:知西別岳、天頂山、羅臼岳、サシルイ岳、オッカバケ岳、知円別岳、知床硫黄山、ルシャ山、トッカリムイ岳、知床岳、ポロモイ岳、ウイーヌプリ
- 岬:プユニ岬、知床岬
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岩尾別川(2013年7月)
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カムイワッカ湯の滝(2011年9月)
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カムイワッカの滝(2009年8月)
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知床硫黄山(2013年7月)
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知床岳(2013年2月)
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プユニ岬(2014年8月)
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知床岬(2015年4月)
景勝地
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フレペの滝(2014年8月)
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知床五湖の高架木道(2014年8月)
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知床峠(2009年8月)
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岩尾別沖から望む羅臼岳(2014年8月)
集団施設地区・ビジターセンター
地区名 | 面積 | 所在地 | 利用者数(人) |
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羅臼温泉 | 31.1ha | 北海道目梨郡羅臼町 | 514,000[11] |
施設名 | 設置者 | 所在地 | 利用者数(人) |
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知床世界遺産センター | 環境省 | 北海道斜里郡斜里町ウトロ西186-10(道の駅うとろ・シリエトク隣) | 98,491[12] |
知床世界遺産・知床国立公園羅臼ビジターセンター | 北海道目梨郡羅臼町湯ノ沢町6-27 | 34,481[13] | |
知床世界遺産ルサフィールドハウス | 北海道目梨郡羅臼町北浜8 | 6,464[13] | |
知床自然センター | 北海道斜里郡斜里町字岩宇別531 | 154,426[13] | |
知床五湖フィールドハウス | 北海道斜里郡斜里町大字遠音別村字岩尾別 | 208,584[14] | |
知床五湖パークサービスセンター |
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知床世界遺産センター(2011年9月)
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羅臼ビジターセンター(2011年7月)
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知床自然センター(2011年7月)
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知床五湖フィールドハウス(2011年7月)
脚注
- ^ “基礎情報”. 環境省. 2015年10月31日閲覧。
- ^ “知床国立公園 30周年を祝う”. 北海道新聞 (北海道新聞社). (1994年7月27日)
- ^ “国立公園利用者数(公園、年次別)” (PDF). 環境省. 2015年11月1日閲覧。
- ^ a b “知床その後 世界遺産登録3カ月 下 国と地方 環境保護へ連携課題”. 北海道新聞 (北海道新聞社). (2005年11月2日)
- ^ a b “第29回世界遺産委員会における知床の審査結果について(概要)” (PDF). 知床データセンター. 環境省. 2015年10月30日閲覧。
- ^ a b c d e f 知床国立公園管理計画書 2013, p. 3.
- ^ a b 知床国立公園管理計画書 2013, p. 1.
- ^ 知床国立公園管理計画書 2013, pp. 1–2.
- ^ a b 知床国立公園管理計画書 2013, p. 2.
- ^ “国立公園集団施設地区” (PDF). 環境省 (2015年). 2015年11月1日閲覧。
- ^ “国立公園集団施設地区等利用者数” (PDF). 環境省. 2015年11月1日閲覧。
- ^ “(4)知床世界遺産センター利用者数”. 知床データセンター. 環境省. 2015年11月1日閲覧。
- ^ a b c “平成25年度 事業報告について” (PDF). 知床財団. pp. 3-4. 2015年11月1日閲覧。
- ^ “国立公園内ビジターセンター等利用者数” (PDF). 環境省 (2013年). 2015年11月1日閲覧。
参考資料
- “知床国立公園管理計画書” (PDF). 北海道地方環境事務所釧路自然環境事務所 (2013年). 2015年10月31日閲覧。
関連項目
外部リンク
- 環境省_知床国立公園
- 知床世界遺産 | SHIRETOKO WORLD NATURAL HERITAGE SITE[リンク切れ] - 環境省
- 知床データセンター - 環境省
- 知床財団
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