とわだはちまんたい‐こくりつこうえん〔‐コクリツコウヱン〕【十和田八幡平国立公園】
十和田八幡平国立公園
[十和田湖]
ブナやトチノキやカツラがつくる天蓋を透過する光は、やわらかな明るさで空間を満たし、その中を澄んだ水が流れてゆく。穏やかに、しかし十分な勢いを持った奥入瀬(おいらせ)の流れは、小さな淵では静まり、早瀬では岩に当たって飛沫を散らし、白く泡立ちながら走る。岩には緑も鮮やかなコケがつき、小島には小さな木々が育つ。植物も岩も水も、すべてが調和した、繊細でみずみずしい風景が、新緑に紅葉にと、季節ごとに装いを替えて展開する。
十和田・八甲田地域
昭和11年に十和田国立公園として指定された十和田湖、奥入瀬渓流、八甲田山を含む十和田・八甲田地域と、31年に編入された八幡平、岩手山、秋田駒ヶ岳を含む八幡平地域に分かれた公園である。
十和田湖は二重カルデラの清澄な湖で、面積は61km2、水深327mある。内壁は水際までブナ、カツラなどの落葉広葉樹林に覆われているが、湖内の小カルデラである御倉(おぐら)半島には断崖が立っている。
十和田湖の利用の中心は休屋(やすみや)で施設が集中し、子(ね)ノ口などと結ぶ遊覧船も発着する。湖岸沿いの園地には、十和田湖のシンボルともいえる高村光太郎の乙女の像が立つ。ほかに子ノ口、宇樽部(うたるべ)、生出(おいで)、大川岱(たい)が利用拠点である。湖面の展望地点としては瞰湖(かんこ)台、御鼻部(おはなべ)山などがあり、南のカルデラ壁上の発荷(はっか)峠からは、十和田湖の全景と八甲田山が一望できる。
奥入瀬川は十和田湖から流れ出る唯一の河川で、流出口の子ノ口から下流の焼山(やけやま)まで14kmが奥入 瀬渓流として知られる。十和田湖とともに、明治時代から文人大町桂月等により、日本屈指の景勝地として紹介されてきた、この公園の核心となるところである。国道とは別に渓流に沿って遊歩道があり、探勝の便が図られている。
八甲田山は八甲田大岳(1,585m)を最高峰とする山群で、青森市と十和田湖を結ぶ国道を挟み北八甲田と南八甲田に大きく分けられる。北八甲田は田茂萢(たもやち)岳にロープウェイがかかり、利用者が多い。南八甲田の駒ヶ峰、櫛ヶ峰などはなだらかな山頂に湿原を配した、静かな山である。山腹には広大なブナやオオシラビソの森林が広がる。酸ヶ湯(すかゆ)温泉に東北大学付属植物園があり一般に公開されている。明治35年、雪中行軍で青森歩兵第5連隊の199名が遭難死したことでも知られる山である。
八幡平地域
八幡平地域は、岩手山(2,038m)を最高峰とする。火山活動により形成された山岳地帯であり、公園区域に一般集落をまったく含まない。岩手山は盛岡市からは富士山型の姿が望めるが、山頂西側は鬼ヶ城ドムなど複雑な構造を持つ複式火山であり、南部片富士の異名も持つ。東北側の山腹には、享保4年(1719)の噴火のとき流れ出した焼走り溶岩流がある。
岩手山以外の山岳は地形がおおむねなだらかで、山麓にはブナを主に、カツラ、サワグルミなどの森林が広がる。亜高山帯は一般にオオシラビソの森林となるが、秋田駒ヶ岳(1,637m)はオオシラビソを欠き、ダケカンバなどの低木林になっている。稜線には湿原がよく発達し、八幡平山頂の八幡沼や乳頭(にゅうとう)山の東にある千沼(せんしょう)ヶ原は、代表的なものである。
八幡平は八甲田山とともに樹氷で知られ、春の山岳スキーの適地でもある。秋田駒ヶ岳は、コマクサやエゾツツジなど高山植物の宝庫として知られる。また、一帯は今も火山活動の盛んな地域であり、後生掛(ごしょがけ)や玉川温泉では噴気、噴湯などの現象が活発である。
公園内には、八甲田山周辺では酸ヶ湯、蔦(つた)など、八幡平地域では後生掛、網張(あみはり)、松川、玉川、乳頭温泉郷など各所に温泉があり、昔ながらの湯治場の雰囲気を残すところも少なくない。
関連リンク
- 十和田八幡平国立公園 (環境省ホームページ)
十和田八幡平国立公園
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/04/14 04:56 UTC 版)
十和田八幡平国立公園 Towada-Hachimantai National Park |
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御鼻部展望台より望む十和田湖
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指定区域 | 北緯39度51分09秒 東経141度00分04秒 / 北緯39.85250度 東経141.00111度座標: 北緯39度51分09秒 東経141度00分04秒 / 北緯39.85250度 東経141.00111度 |
分類 | 国立公園 |
面積 | 85,551ha[3] |
指定日 | 1956年7月10日 |
運営者 | 環境省 |
年来園者数 | 589万人(2010年)[4] |
事務所 | 東北地方環境事務所 |
事務所所在地 | 〒 980-0014 宮城県仙台市青葉区本町3-2-3 仙台第二合同庁舎6階 |
公式サイト | 十和田八幡平国立公園(環境省) |
十和田八幡平国立公園(とわだはちまんたいこくりつこうえん)は、北東北に位置する国立公園。青森県・岩手県・秋田県にまたがり、十和田湖周辺と八幡平周辺の火山群を包括する。1936年(昭和11年)2月1日に十和田地区だけが十和田国立公園として、吉野熊野国立公園、富士箱根国立公園(現・富士箱根伊豆国立公園)、大山国立公園(現・大山隠岐国立公園)とともに指定されたのが始まり。1956年(昭和31年)7月10日に八幡平地域が追加されたことにより、現在の十和田八幡平国立公園に改称された。
概要
一帯が那須火山帯に含まれており、多種多様の火山が見られるため、「火山の博物館」の異名をもつ。また、玉川温泉、蔦温泉、酸ヶ湯温泉、八甲田温泉など温泉地が多い。また新緑、紅葉の名所としても知られ、訪れる観光客は多い。歴史的経緯もあり、十和田・八甲田地域と八幡平地域とに大別される。当園は2015年(平成27年)2月2日発売の500円普通切手に描かれている[5]。
主な景勝地
- 十和田八甲田地域
- 八幡平地域
自然
地形
噴気孔やそれによってできた噴泥など、無数の火山地形が見られる。中でも玉川温泉の北投石や岩手山の焼走り熔岩流などは国の特別天然記念物に指定されている。十和田湖は二重のカルデラ湖で、奥入瀬渓流は十和田湖から唯一流れ出る河川となっており、熔岩性の凝灰岩の侵食が顕著。八甲田山系は南北2群の火山群からなる雄大な山脈である。かつては八幡平をアスピーテ(楯状火山)、八甲田山や駒ヶ岳をコニーデ(成層火山)、焼山をトロイデ(鐘状火山)などと呼んでいたが、現在の地理学・地質学では用いられない。
植生
いずれの地域も落葉広葉樹の宝庫で、ブナ、カツラ、カエデ、トチノキ、ダケカンバなどの植生が見られる。また、標高の高い場所にはハイマツを中心とした高山植物群落が確認される。田代平などの湿原地帯には湿性植物が見られ、火山ガスの蓄積した一帯にはイソツツジなど、火山地帯ならではの硫気孔原植生が見られる。
動物
八幡平地域ではツキノワグマ、カモシカ、タヌキなど哺乳動物の棲息が盛ん。また、大小多数の鳥類が見られる。
ビジターセンター
利用者数は2008年(平成20年)[6]。
センター名 | 設置者 | 所在地 | 利用者数(人) |
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十和田ビジターセンター | 環境省 | 青森県十和田市奥瀬十和田湖畔休屋486 | 39,636 |
蔦温泉ビジターセンター | 青森県十和田市奥瀬字蔦野湯 | 20,854 | |
酸ヶ湯インフォメーションセンター | 青森県青森市荒川南荒川山国有林酸湯沢50 | 14,430 | |
石ヶ戸休憩所 | 十和田湖ふるさと活性化公社 | 青森県十和田市奥瀬字惣辺山1 | 315,462 |
網張ビジターセンター | 環境省 | 岩手県岩手郡雫石町長山小松倉1-2 | 21,117 |
松尾八幡平ビジターセンター | 岩手県 | 岩手県八幡平市柏台一丁目28番地 | 51,168 |
八幡平ビジターセンター | 環境省 | 秋田県鹿角市八幡平字大沼2 | 58,637 |
玉川温泉ビジターセンター | 秋田県 | 秋田県仙北市田沢湖玉川渋黒沢 | 17,730 |
脚注
- ^ “十和田八幡平国立公園の区域図(十和田・八甲田)” (PDF). 環境省. 2012年10月6日閲覧。
- ^ “十和田八幡平国立公園の区域図(八幡平地域)” (PDF). 環境省. 2012年10月6日閲覧。
- ^ “十和田八幡平国立公園の公園紹介”. 環境省. 2012年10月6日閲覧。
- ^ “国立公園の利用者数(公園、年次別)” (PDF). 環境省. 2012年10月6日閲覧。
- ^ “新デザインの普通切手の発行”. 2022年5月17日閲覧。
- ^ 環境省自然ふれあい推進室"表II-9 国立公園内ビジターセンター等利用者数"自然公園等利用者数調(2013年3月18日閲覧。)
関連項目
外部リンク
「十和田八幡平国立公園」の例文・使い方・用例・文例
十和田八幡平国立公園と同じ種類の言葉
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