設計面での特徴
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/09 02:43 UTC 版)
「MAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島」の記事における「設計面での特徴」の解説
前項のような経緯を経て出来上がった本球場の特徴として、以下の点が挙げられる。 広島の新しい観光資源としてPR:公認野球規則に倣い、本塁から投手板を経て二塁に向かう線を東北東向きとした上で、球場を北側のJR側へ大きく開く形態とした。これによって平行する山陽新幹線などJR車窓から試合の様子が窺えるようになった上 (参照動画:山陽新幹線客席から見た満員のスタジアム)、内外野の天然芝保護に必要な風通し・通気性も確保されている。 左右非対称を基本とした構造:フィールドのサイズは、左翼101m(計画当初は103m)・中堅122m・右翼100m。公認野球規則の規定1・04付記(a)(両翼約99.06m以上、中堅約122m以上)を満たしているが、こうした左右非対称のフィールドはメジャーリーグでは一般的であるものの、従来の日本ではあまり見られないものである。外野スタンドも人気のあるホームチーム側(ライト側)の席を多くした左右非対称形であり、特にレフト外野席のデザインはフェンウェイ・パークやオラクル・パークを彷彿させる特徴有るスタンドとなっている(此処にボールが飛んで来ると場外に消えるシーンが多く見られる)。これは前述したように、球場敷地傍を山陽本線、山陽新幹線が通過するという設計上の制約を逆手に取り、JR乗客をも球場の観客と見立て、車窓から球場内を窺える構造にしたことによる。 ファウルグラウンドの縮小:公認野球規則の制限内で可能な限り縮小したことにより、観客は選手のプレーをより身近に見ることができるようになった。広島球団の松田オーナーは「選手との近さは大切な要素だ。二軍ホームグラウンドの建設当時、ファウルグラウンドを広く取るのがいいと考えたが、プレーの臨場感や迫力を考えればミスジャッジだった。」と語っており、その反省点が活かされている。 フィールド側へせり出した2階スタンド:従来の球場において、フィールドまでの距離が遠く臨場感が薄れてしまう例が多い2階内野スタンドも、本球場ではその先端部分を約10m程度跳出させ、よりフィールドに近い「スカイシート」が設けられるなど、ゲームの熱気を体験できるようになっている。 緩やかな勾配のスタンド:従来の日本の野球場は、立地上の制約や野球以外の多目的な使用方法が考慮された結果、内野スタンドの勾配を1階席部分15.0〜25.0度、2階席部分を35.0〜40.0度に設定していた。野球専用施設として設計された本球場では、スタンドの勾配が1階席8.9〜18.6度、2階席29.5度と、国内の一般的な球場に比べて5〜10度勾配が緩やかになっており、これはメジャーリーグのボールパークとほぼ同じ数値である。このため観客席からコンコースへのアクセスも容易である。 多様な観戦シート:鳴り物装備の私設応援団や熱烈なファン向けの「パフォーマンスシート」や「砂かぶり席」の他、「ボックスフロア」「パーティフロア」「ブルペンレストラン」「のぞきチューブ」、さらにはAT&Tパークで見られるような「ただ見エリア」などが用意され、多くの人に様々なスタイルで観戦を楽しんでもらえるよう配慮されている(詳細は後述)。 ゆったりとしたスペースの観客席:内外野スタンドの全席に、メジャーリーグクラスの横幅50cm・奥行85cmのスペースが用意されている。さらに内野スタンド外野寄りの席はピッチャーマウンド方向に向けて設置され、投手と打者とのマウンド間の勝負が基本になる野球の観戦に最適になるよう配慮されている。 幅が広く段差のないコンコース:内野部分12m・外野部分8mの幅を持つコンコースは1階観客席の最後部に配置される。ここには多数の売店・トイレが用意されており、どの位置からでもフィールド上の選手のプレーを眺めることができる(スコアボード裏部分は一時的にフィールドが見えなくなるため、プレーを確認できるテレビモニターが設置されている)。このため試合途中で観戦を中断させられることがなく、さらにこのコンコースを利用して球場を周回することも可能である。このコンコースは球場完成以後も拡張工事が行われており、2011年のシーズンオフにライトスタンド側、2013年のシーズンオフにレフトスタンド側が増築されたのに続いて、2015年秋から2016年にかけては、バックスクリーン裏手から大州雨水貯留池関連建物付近に至るまで増築された。 ユニバーサルデザインの導入:車椅子利用者のためのスペースがコンコース上に142席用意される他、利用者はエレベーター(球場開場時は5基、2014年より1基増設され6基)を使えば球場内のあらゆる場所へアクセス可能である。コンコース上にはさらに、オストメイト対応型多目的トイレ、授乳室など用意されているほか、内外野スタンドの観客席には、難聴者向けに音声を電気信号に変えて床下に備えた装置から直接補聴器に届ける設備が1,000席分用意されている。こうした取組は高く評価され、国土交通省の『バリアフリー化推進功労者大臣表彰』を、国内のスポーツ施設として初受賞した。 内外野天然芝:本球場で育成される天然芝は、見た目の美しさやクッション性が考慮された結果、洋芝のティフトン419(夏芝)とペレニアル・ライグラス(冬芝)の2期作(オーバーシード)としている。この天然芝を効率的に育成・維持するため、国内プロ野球球団の専用球場としては唯一、フィールドにポップアップ式の自動散水装置(59基)を備える。コンピューターにより制御されたこの設備は、決まった時間に適量の水を、天然芝が最も吸収しやすい霧状にして撒く仕組みになっている。さらに球場敷地内(一塁側内野スタンド傍)には、シーズン中に痛んだ天然芝のフィールドを整備するため、補修用の芝が養生されているが、2012年からは、より大規模な補修に対応するため、広島市内にある旧一軍選手寮(三省寮)跡地でも養生を行っている。2016年からは天然芝の美しさをより引き立てるため、内野土を従来の黒土、砂、アンツーカーとの混合土から、水捌けが良いことに加えて赤味を帯びた色彩を持つアンツーカー土に切り替えている。 このように新球場は、様々な“観客視点に立った試み”がなされているのが大きな特徴である。 これは90年代以降、メジャーリーグで主流となったオリオール・パーク・アット・カムデン・ヤーズに代表される「新古典派(ネオ・クラシカル様式)」の考え方を、広島球団が本球場に取り入れるよう要望したためである。建設予算等で制約はあったものの、オラクル・パークの設計を参考に、構造物内の配管はむき出しのままにしつつも客席スペースは広くとる等、ここでもメジャーリーグ流の機能的、かつコスト配分のメリハリをつける設計思想が採用され、さらに建設時においては2階スタンドにプレキャスト工法を導入する等、さまざまな工夫により建設費用抑制、工期短縮を実現した。 また当初の球場本体建設費90億円とは別に、広島球団はプロ野球興行に必要とされる設備(プロ専用のロッカールーム、スポーツバー、球場建物内の球団事務所、等)の建設費として22億円を追加負担、最終的には建設費として110億円余りが注ぎ込まれた結果、規模・設備面において、国内のオープン球場としては屈指のものとなった。 雑誌「日経アーキテクチュア」の記事では、マツダスタジアムのハード面の特徴として、途切れずにつながる、幅8〜12mのループ状コンコースを設けたこと。客席のバリエーションを増やし、グループ席やパーティー席など団体用の空間を随所に設けたことの2点を挙げた。設計は、環境デザイン研究所が手がけた。研究所会長の仙田満が「遊環構造」と呼ぶ、複数の道と広場を組み合わせた建築コンセプトを取り入れている。仙田は、じっと座って試合を観戦するのが苦手で、アメリカのスタジアムでも、ゾーニングを無視して歩き回っていると注意される場合がある。「階級社会の表れだと思った。自由に回遊できる場所をつくりたいという思いが強くあった」と説明した。
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