静岡県知事の態度硬化(2017年-)
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「中央新幹線」の記事における「静岡県知事の態度硬化(2017年-)」の解説
2017年10月10日、川勝平太・静岡県知事は記者会見の冒頭、南アルプストンネル工事について発言を行った。川勝知事が自ら会見でリニアに言及するのは2010年6月28日以来、実に7年ぶりのことであった。川勝知事は、かつて国土交通省の国土審議会の委員を務めていたことに触れ、大井川の水問題について「不明にして私が分からなかった、気付いていなかったこと」としながら、以下のように発言した。 水問題を中心に多くの課題についてご指摘を頂き、JR東海に対してトンネル湧水の全量戻しなどを求めてまいったところであります。現時点で、これに対するJR東海からの誠意ある回答はまいっておりません。平成23年、今、平成29年でございますので、丸6年以上経過しているということであります。この工事では、何本ものトンネルを掘られます。当然、大井川の流量が減ります。これが一番大きい問題ですね。第二には、残土を南アルプスに処分するということです。第三に地形が改変されます。第四に生態系が壊れます。こうした問題がございます中で、JR東海は、トンネルが掘られることによる水問題につきまして、全量を戻すと明言されていないわけであります。利水団体が求める水の確保について、JR東海が約束をして水を戻すのは当たり前のことであります。 (中略) この水問題に関しましても、具体的な対応を示すこともなく、静岡県民に対して誠意を示すといった姿勢がないということに対し、心から憤っております。 現時点では、JR東海への協力は難しいと言わねばなりません。リニア中央新幹線工事に先行して、静岡県民に、例えばこの工事によって、どのような地域振興なり、地域へのメリットがあるのかといったことについて、基本的な考え方もないまま、勝手にトンネルを掘りなさんなということでございます。厳重に抗議を申し上げ、その姿勢に対して猛省を促したいと思っております。 — 川勝平太・静岡県知事、記者会見 2017年10月10日(火) また、同年11月30日の記者会見でも、川勝知事はJR東海に対し「南アルプストンネル(仮称)で発生したトンネル湧水の全量を恒久的にかつ確実に大井川に戻すこと」を求めた。 2018年3月13日には引き続き静岡県知事が記者会見で、中央新幹線の工事業者が指名停止処分を受けたことについて、不正がはっきりした場合はそれに応じた仕事はそちらに回せないという形で対応したい旨発言している。 同年7月11日に静岡県知事は、トンネル工事の作業員の宿舎や道路については問題はないということだが、水の問題についてはトンネル工事開始の段階で別の話としている。 続く8月29日には静岡県が、大井川の水資源が減少する問題について、トンネル工事でポンプアップしないと一部が山梨県側に流れるものとしている。静岡県内では渇水問題で節水対策として取水制限が頻発している状況で全量を静岡県側へ戻すものとしないといけないものと資料で提示している。 同年9月19日、JR東海は南アルプストンネル建設の準備工事となる作業員宿舎の建設に着手した。これに対して静岡県知事は「私たちが問題にしているのは、南アルプスにトンネルを掘ると大井川の水が減少すること。それはとても心配している。工事は誠意ある形にしてもらわないと周りの非難を浴びる」と同月19日に報道されている。 翌20日には静岡市長・田辺信宏の記者会見において、静岡県とJR東海が「大井川の流量減少問題」について合意がない段階でも「南アルプストンネル工事静岡工区」での林道東俣線の通行許可をJR東海に出すとし、トンネル建設に向けた準備工事にあたる作業員用宿舎建設工事に限って林道の使用許可を出したことが報道された。 同年10月9日には、静岡県知事は大井川の水資源喪失について丹那トンネルによる丹那盆地での産業変化を例に挙げて、失われた水資源は戻らないことを指摘している。同月19日にはトンネルを掘れば必ず水が出るが、失われた水は戻ってこない。2027年開通にこだわる理由が国への債務であると考えているが、南アルプス山脈は軟弱土質で重金属が出る所もあり、中部横断自動車道の開通が1年以上延期になったように、軟弱土質にぶつかれば2027年どころではない。JR東海はようやく問題の重大さに気付いたようだが、環境調査を精査するべきであると指摘している。大井川水資源の問題は国土交通省の関係者も「2018年8月の日経ビジネス」で掲載されるまで認識していなかったのでは、とする一方で、技術的に可能、大阪まで一気に開通しないとリニア新幹線としての有効性がないという判断でルートを決定したのは安易であると問題提起している。 同年11月21日には静岡県が独自に「静岡県中央新幹線環境保全連絡会議」を設置。JR東海は静岡県に対し大井川水系の水量を全量戻す方法などを説明し、今後も協議を重ねていくとしている。ただ、水量を戻す手段や水利権者の合意が課題となる。ただ、静岡県知事は同年12月18日の記者会見において、リニアの耐久年数から水量の全量戻しが30年の補償期間がないことも懸念している。 2019年1月4日には、静岡県知事は「大井川の水量および生態系の影響」を熟考する条件なら賛成であると表明している。 同月25日には大井川の水資源の影響において、静岡県の中央新幹線対策本部長である難波喬司静岡県副知事は「正直、あぜんとした。リスク管理を事前にできないと言っているに等しい。それなら(リニア新幹線事業を)やめてほしい。そのような基本姿勢を改めない限り、議論を進める必要はない」と言及しており、JR東海に対する基本認識の違いから来るリスク管理の再考を求め、同月30日の連絡会議でもリスク管理の要求を改めて求めている。同年2月5日の知事会見でも同様に言及している。 同年2月4日には、静岡県庁で公共事業チェックの会(宮本岳志、武田良介、初鹿明博、山崎誠の4名の国会議員の参加)により、「リニア中央新幹線」のトンネル工事における主に大井川減水問題でヒアリングを行っている。 同年5月10日には、大井川利水関係協議会が開催された。島田市長はJR東海からの準備工事の申し入れ受認について明文化が必要、川根本町長は静岡市のJR東海とのトンネル工事合意協定の発言については一旦白紙撤回しない限り静岡市との協議に応じないと明言していることを知事会見で報告している。 同月28日には、静岡新聞社の取材に対し、大井川流域の川根本町と島田市だけでなく水資源を利用している8市2町(焼津市、掛川市、藤枝市、袋井市、御前崎市、菊川市、牧之原市、吉田町)の首長は大井川利水に関して準備工事を認めると本体工事も容認したように受け取られかねないと警戒し、水の全量確保や水質問題に万全を期すようにと意見を述べている。リニア建設に賛同する首長もおり、袋井市の原田英之市長は「国全体として考えるならリニアは必要だ」とした上で、「JRは、地域の人を納得させるプロセスをきちんと踏むべきだ」とも訴えている。 同年7月18日には、難波喬司静岡県副知事が山梨県庁を訪れ、若林一紀山梨県副知事と面会し、山梨県側からは「静岡県の懸念は理解した。JR東海と静岡県が課題の解決に向けて互いに真摯に話し合うことを願っている」とのコメントがなされた。 同年8月29日には、新美憲一中央新幹線推進本部副本部長は2018年(平成30年)10月にJR側がトンネル湧水の全量を大井川に戻すという方針を「工事終了後の認識」と釈明し、工事中を含む全量回復の方針を事実上撤回した。 2020年1月17日には、国土交通省は「トンネル湧水の全量の大井川表流水への戻し方」「トンネルによる大井川中下流域の地下水への影響」の2点についてJR東海側の説明が静岡県側において納得が得られていないと考えており、この科学的・工学的な課題については三者協議とは別に設置した有識者会議の検証結果を踏まえた助言や指導を行うことが考えられるとし、JR東海に対しては責任ある説明を求め、地元の不安を払拭して適切な方法で工事を進めることが大切であると指導、監督を行ないたいとする旨の回答を公表した。同年3月中に「リニア中央新幹線静岡工区に係る有識者会議」の委員候補者を静岡県が独自に公募した。同年4月、蔵治光一郎東大教授(森林水文学)並びに稲場紀久雄大阪経済大学名誉教授(環境科学)を推薦したが、国土交通省はこれを拒否した。 同年2月12日には、知事会見で南アルプスがユネスコエコパークに指定されており、SDGsの観点からも環境省などの関連する他省庁が委員として協議に関わるべきであると言及している。同年4月に第1回リニア中央新幹線静岡工区有識者会議の開催がなされた。座長には元国土交通省社会資本整備審議会会長の福岡捷二中央大学教授が選任された。 同年6月26日、JR東海の金子慎社長が静岡県庁を訪れ、川勝平太県知事との初会談に臨んだ。金子社長は2027年開業予定が困難になるとして準備工事着手に同意を要請したが、川勝知事は認めず物別れに終わった。更に、県は同年7月3日にJR東海宛に「準備工事の着手を認めない」と文書で回答した。JR東海は事実上の期限としていた予定月内(2020年6月)着工を断念し、翌週にも開業の延期と計画の見直しを表明する見通しとなり、同年7月3日に「品川 - 名古屋間の2027年開業は難しい」として、開業延期を事実上表明した。同年7月10日には国土交通省の事務方トップの国土交通事務次官・藤田耕三が静岡県庁において川勝知事と会談をした。 2021年3月23日、10回目となる有識者会議において公表された中間報告で、「大井川水系の全量の戻し方が論点」としつつ、「工事期間中は全量戻しとはならないが、下流の河川流量は維持される傾向にある」と纏められ、翌日の会見で川勝知事は、有識者会議の進み具合を「1合目だ」との認識を示した。これは、難波副知事が3月上旬に「8合目」と評したのと対照的だった。南アルプスにトンネルを掘れば山の水が抜け、JR東海の計画では工事期間中は山梨県側などにこの水が流出する。県はトンネルに抜けた水を大井川に全量を戻すよう主張しているが、中間報告には「全量戻しでなくても大井川水系の水量と水質は維持できる」と考えているJR東海の主張がソフトな言い回しで採り入れられた。これを受け、金子社長は3日後の会見で「中下流に影響ないとの議論をいただいた」とし、同年4月8日の会見でも「有識者会議も水利用に影響しないだろうとおっしゃっていただいている」と踏み込んだ認識を示している。 同年4月7日、有識者会議の第9回の議事録の中で座長の発言の改変が判明し、13日にも第8回の議事録が改変されていることが判明。これに対し県は「議事録の透明性が確保されていない」と国交省を批判している。
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