運動に対する評価
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「タイガーマスク運動」の記事における「運動に対する評価」の解説
この運動について、原作者である梶原一騎の実弟の真樹日佐夫は「閉塞した時代に風穴をあける連鎖行動」と指摘する一方、児童虐待などで家庭から保護された子どもの増加が背景にあるとした。また、2010年末にタイガーマスクをテーマにしたパチンコの新機種が登場したこと、最初に伊達直人名義でランドセルが寄贈された群馬はかつてパチンコ台の製造工場が多かったことから「てっきりパチンコ屋が仕掛けたのかと思っていた」と言いつつ「この現象で生まれたタイガーマスクは、仕事だけで精一杯だった兄がなりたくてもなれなかった姿だ」と語った。梶原の妻の高森篤子は「全国の“伊達直人”さん、善意の匿名さんたちへ心からありがとうと御礼を言いたい。私も主人の心を伝える為、日本中の施設を訪問するなど行動を起こしてゆきたい」と述べた。 実在の初代タイガーマスクの佐山聡は「すごくいいことだと思う」と歓迎の意を示しているが、「皆さんの善意なので、(騒動に便乗するようにして)自分が出て行くつもりはまったくない」と、この件に関しての取材をほとんどすべて断っている。真樹日佐夫は、初代タイガーマスク、4代目、5代目を合わせた3人に『タイガーマスク基金』を呼び掛けているが、佐山は「僕1人が前に出ないように、違うところで考えている。伊達直人という存在は僕なりに意識はしている」と語った。その後、佐山は独自に「初代タイガーマスク基金」を2011年11月に発足させている。 アニメで一時期、伊達直人の声を担当し、民放の朝の番組でナレーターとして偶然このニュースを読み上げることになった声優の森功至は「びっくりした。殺伐とした世の中で、明かりをともしてくれるような愛のある人だと思う」「個人的には会ってみたいが、アニメキャラクターのように夢は夢のままで、誰だか分からない方がいい」、イラストレーターの山藤章二は「タイガーマスクの名を借りるのはちょっとした、しゃれっ気だし、もらった側に負担を感じさせない。私もそうだが、年とともに世の中に恩返しをしたい気持ちが芽生える。ランドセルというのも大げさでないし、直接的かつ謙虚で、まねしたくなる行為だ」と話した。 アニメ「タイガーマスク」で主人公の伊達直人が寄付などをした施設「ちびっこハウス」にいた少年「健太」の声を担当した声優・野沢雅子は「本当に心のこもった素晴らしいことが全国で起こっているんですね」と感慨深げに述べた。ただ、その半面で「ドラマでは伊達直人がたびたびハウスを訪れて、子どもと接していました。高価なランドセルじゃなくても、お菓子1個でもいいと思うんです。4月になって、入学シーズンが過ぎて、こういった運動の火が消えてしまうのではなく、続いていったら、うれしいですね」と話した。また「やっぱり、みなさん、顔を出さない架空のお兄ちゃんでいたいのでしょうか。ぜひ子どもの喜ぶ姿も見ていただきたいです」とコメントしている。 新潟青陵大学大学院教授の碓井真史は「日本では寄付は恥ずかしいという気持ちが出るが、伊達直人を名乗ることで遊び感覚が働き、やってみようという気になれたのだろう。作中でも寄付をしていた登場人物だからこそ共感を呼んだ」と指摘、「贈り主の多くは漫画やアニメでタイガーマスクを見ていた40歳代〜60歳代」と予想した。臨床心理士の矢幡洋は「最初の贈り主は50歳代前後かもしれないが、経済的余裕のある30歳代〜40歳代が加わったのではないか」「インターネット上の『祭り』と呼ばれる感覚で、自分たちでブームを広げようという意図がみえる。善意の表現も時代性が出ているといえるのではないか」と分析した。精神科医の日向野春総は「昔から、自分の名前を出さずに不幸な人へささやかな寄進をするのは、日本人の美徳とされた。決して悪くはない行為だが、内向きで自己満足に陥ってしまう。逆に欧米のように個人で名前を出して、巨額の寄付を行った場合、批判が出てくる。一大改革の方向には向かっていない」と話した。 東洋大学名誉教授の中里至正は「匿名による寄付は日本人が持つ照れの文化によるもの」と見ている。東京女子大学教授の広瀬弘忠は「広く社会に知られることにあまり意味を見いださず、自分の周囲にあの寄付は私がしたと言えるだけで満足なのでは」「今回の現象は架空の英雄に名を借りた一種のアミューズメントという側面もあり長続きしない可能性がある」と分析している。 明治大学講師の関修は「少年期にタイガーやジョーを見ていた50代の男性が中心だろう。欧米人と違って、日本人は慈善活動で名前を売りたがらない。だけど何か善いことをしたいと思っている。そこで誰かが行動すると、自分もやりたいと思ってこっそり動く。いい意味での便乗。善意のタイガーさんたちは普段は地味な仕事をコツコツしているタイプ。社会に喜ばれることで満足し、生きる励みにする人たち。目立とう精神はない」と分析し、社会学者で作家の岳真也は「たしかに目頭が熱くなる美談だが、その裏には一向に暮らしが良くならない現実に不満と不安を募らせる国民感情もあると思う。“景気が良くならないのなら、自分たちで明るい社会にしてみせる”と大衆が相互扶助に走っている。社会不安が善意に駆り立てていると言ってもいいだろう」と語った。 漫画評論家の呉智英は、これは「『善意の愉快犯』。『愉快犯』の連鎖反応みたいなもの。寄付行為は善行だから額面通りに受け止めていいが、『遊び』が感じられ、どこか仮装行列に似たところがある」と言い、成城大学教授の川上善郎は「流行現象からすれば特別なことではなくおそらく一過性のもので、報道しなくなるとすぐにも終息するだろう。ボランティアとしてこの先定着することは全くないと見ている」と話した。 東洋大学教授の安藤清志は「慈善的な行動を取りたいと内に秘めている人は多い。『伊達直人』の名前を引用することで、気軽に贈り物や寄付をできるようになった」と分析。赤い羽根共同募金を手がける群馬県共同募金会によると、昨年末からタイガーマスク運動に追随する動きはないが、安藤は「タイガーマスク運動は自らの手で贈り物を届けているので、贈った後の様子を想像しやすい。募金の場合はイメージがわきにくい」と解説した。 精神科医の斎藤環は「システムへの不信もあって日本では継続的な慈善活動が定着しにくいと言われるが、「祭り」としてのチャリティーには好んで参加する。年末年始というタイミングとマスコミ報道によるフレームアップも相まって、二重の意味で「祭り」化していったようにもみえる。また特異だったのは、当初の「伊達直人」からキャラクターがどんどん拡散し、多様化していったことで、あたかも「コスプレ」のように「慈善キャラ」になりきりたい、という欲望があったのではないか。祭りという性質上、おそらく一過性で終息するだろうが、この「キャラ祭り」は、小さな善意の表現形式として、日本人ならではのナイスな「発明」だった。迷惑をかけない程度に楽しめばいいし、楽しんだら忘れてしまってもいい。でも、また年の瀬がめぐってきたら「伊達直人」には帰ってきてほしいものだ」と書いている。 作家の佐藤優は「必要なところに必要なモノやカネが再分配されるのはよいことだが、自ら稼いだカネで行うのが筋だ。経済的に保護者に依存する立場にある中学生らが不労所得を寄付し、いいことをした、と勘違いしてもらっては困る」などと書いた。 俳優・哀川翔は「20歳くらいまで、本気でなろうと思っていた」という程の「タイガーマスク」のファンであり、2月23日に都内で行われたauのイベント『アニメ王決定戦』記者発表会にて、「いい方向に続くのはいいこと。義理人情は日本人にとって大事だと思う」とコメントしている。なお、後に哀川は映画『タイガーマスク』にて、ミスターXを演じている。 菅直人首相(当時)は1月12日、「本当に心温まる活動だ。共助の精神を大切にしたいと改めて思った」と述べた。2月2日には、衆議院予算委員会で「多くの国民が、何らかの形で困っている子どもなどに手を差し伸べたいという思いを持っていることの一つの表れだ。アメリカなどと比べ、日本では一般的に寄付が少ないと言われており、NPOなどに寄付を行った場合の税の控除をしっかりやっていきたい」と述べた。 皇太子徳仁親王は、51歳の誕生日を控えた2月21日の記者会見で、「昨年末から今年に入って、タイガーマスクの主人公を名乗る人からの善意のプレゼントが、全国各地で相次いだことは、一つの善意の表れでありますし、昨年のチリ鉱山での落盤事故における統率のとれた救出劇、救出への動きなどとともに心温まるニュースでありました。これらの出来事を通じて、人と人とのつながりが大事であり、お互いを思いやる心が大切であることを改めて感じました。」とコメントしている。
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