第1節 取消訴訟
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/11 14:45 UTC 版)
詳細は「取消訴訟」を参照 行政事件訴訟法の中心は、抗告訴訟における取消訴訟の内「処分の取消しの訴え(処分取消訴訟)」にあるので、以下処分取消訴訟について概観する。 処分取消訴訟を提起するための要件(却下されないための要件)は、およそ次のとおりである。 行政庁の「違法な処分(処分性の問題)」の存在(第3条第2項) 特に問題となるのは「処分性」と「原告適格の存在」である。 その他の要件においても注意すべき事項が多く、いわゆる「門前払い」の問題が生じている。 第8条(処分の取消しの訟えと審査請求の関係)自由選択主義(原則)処分の取消しの訴えは、審査請求をすることができる場合においても、原則として直ちに提起することができ、両方を同時にすることも出来る。 審査請求前置主義(例外)法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがあるときは、提起できない。ただし審査請求があった日から3か月を経過しても裁決がないとき 処分、処分の執行または手続きの続行により生ずる著しい損害を避けるために緊急の必要があるとき 裁決を経ないことにつき正当の理由があるとき には、裁決を経なくても直接出訴できる。 不服申立てを不適法として却下する裁決の場合は、審査請求前置の要件を充足したことにならない。 実際には審査請求前置を求める法律が多く、原則と例外の逆転現象が起きている(例:都市計画法第52条、建築基準法第96条、介護保険法第196条、生活保護法第69条、国民年金法第101条の2等)。 第9条(原告適格)(「法律上の利益(訴えの利益)」)の存在 「処分取消訴訟」および「裁決取消訴訟」は、その処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益(訴えの利益)を有する者に限り、提起することができる(第9条第1項)。 裁判所は、処分または裁決の相手方以外の者について「法律上の利益」の有無を判断するにあたって、処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、「当該法令の趣旨及び目的」ならびに「当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質」を考慮するものとされ、この場合において、法令の趣旨及び目的を考慮するにあたっては、「法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌する」ものとし、利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、「処分または裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質ならびにこれが害される態様および程度をも勘案する」ものとされた(第9条第2項)。 原告適格における「法律上の利益」については、いくつかの見解がある。法律上保護されている利益説法律が直接保護している個人的利益が「法律上の利益」であるとする説。 いわゆる反射的利益(法律が公益を保護している結果として生ずる間接的な利益)については「法律上の利益」に該当しない。 裁判上保護に値する利益説処分により侵害される私人の利益の重大性によって「法律上の利益」を判断すべきであるとする説。 原告適格を否定した判例質屋営業許可取消請求 最高裁判所第三小法廷判決:昭和34年08月18日 ジュース不当表示事件最高裁判所第三小法廷:昭和53年03月14日 原告適格を認めた判例公衆浴場営業許可無効確認請求最高裁判所第二小法廷判決:昭和37年01月19日 長沼ナイキ基地事件 最高裁判所第一小法廷判決:昭和57年09月09日 原子炉設置許可処分無効確認等最高裁判所第三小法廷:平成4年09月22日 小田急線連続立体交差事業認可処分取消,事業認可処分取消請求事件最高裁判所大法廷:平成17年12月7日:第59巻10号2645頁第9条第2項の趣旨に基づき原告適格を認めた最高裁判例。 第10条 (取消の理由の制限)自己の法律上の利益に関係のない違法の主張を理由として取消を求めることはできない(第1項)。 原処分主義(第2項)原処分の違法を争う場合は、裁決取消訴訟ではなく処分取消訴訟の提起による。裁決取消訴訟で原処分の違法を主張することはできない。 米子鉄道郵便局職員停職(昭和62年04月21日)(最高裁判所判例集) 裁決主義(例外)法律により裁決の取消しの訴えのみを認めるもので、原処分の瑕疵を主張することができる。 例:特許法の定める審決等に対する訴訟、電波法96条の2、労働組合法27条の19 永源寺第2訴訟(最決平成19年10月11日公刊物未登載、大阪高判平成17年12月8日・平成14年(行コ)第106号)も参照のこと。 第11条(被告適格等)行政庁の所属する国または公共団体を被告として提起しなければならない(第1項)。 行政庁が国または公共団体に所属しない場合は、当該行政庁を被告として提起しなければならない(第2項)。 処分又は裁決をした行政庁は、当該処分又は裁決に係る第一項の規定による国又は公共団体を被告とする訴訟について、裁判上の一切の行為をする権限を有する(第6項)。 第12条(管轄)被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所又は処分若しくは裁決をした行政庁の所在地を管轄する裁判所の管轄に属する(第1項)。 土地の収用、鉱業権の設定その他不動産または特定の場所に係る処分または裁決についての取消訴訟は、その不動産又は場所の所在地の裁判所にも、提起することができる(第2項)。 当該処分または裁決に関し事案の処理に当たった下級行政機関の所在地の裁判所にも、提起することができる(第3項)。 国又は独立行政法人を被告とする取消訴訟は、原告の普通裁判籍の所在地を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所(特定管轄裁判所)にも、提起することができる(第4項)。事物管轄は訴額に関係なく、原則として地方裁判所が第一審管轄裁判所となる(裁判所法第24条)。 第14条(出訴期間)処分又は裁決があったことを知ったときから6か月以内、処分の日から1年以内に提起しなければならない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。「処分があったことを知った日」とは、処分の存在を現実に知った日を指すのであって、抽象的な知り得べかりし日を意味するのではない(判例)。 第15条(被告を誤った訴えの救済)原告が故意または重大な過失によらないで被告とすべき者を誤ったときは、裁判所は、原告の申立てにより、決定をもって、被告を変更することを許すことができる。この決定は、書面でするものとし、その正本を新たな被告に送達しなければならない。この決定に対しては不服を申し立てることができない。 第16条(請求の客観的併合)取消訴訟には、関連請求に係る訴えを併合することができる。 第17条(共同訴訟) 第18条(第三者による請求の追加的併合) 第19条(原告による請求の追加的併合) 第20条 第21条(国または公共団体に対する請求への訴えの変更)裁判所は行政事件訴訟法による取消訴訟の目的たる請求を処分または裁決に係る事務の帰属する国または公共団体に対する損害賠償その他の請求に変更することが相当であると認めるときは、請求の基礎に変更がない限り、口頭弁論の終結に至るまで、原告の申立てにより、決定をもって、訴えの変更を許すことができる。裁判所は、訴えの変更を許す決定をするには、あらかじめ、当事者及び損害賠償その他の請求に係る訴えの被告の意見をきかなければならない。訴えの変更の要件(民事訴訟法第143条)を緩和したうえで、訴訟手続が行政事件訴訟から民事訴訟に変更され、被告が変更する場合であっても訴えの変更を認めている。この規定は取消訴訟の変更を認めるもので、逆のケースは想定していない。 第22条 (第三者の訴訟参加)裁判所は、訴訟の結果により権利を害される第三者があるときは、当事者もしくはその第三者の申立てにより又は職権で、決定をもって、その第三者を訴訟に参加させることができる。裁判所は、第三者の訴訟参加を認める決定をするには、あらかじめ、当事者及び第三者の意見をきかなければならない。取消判決の効果は第三者に対しても及ぶ(第32条)ので、権利を害される第三者に手続的な保障を与えるためである。 第23条 (行政庁の訴訟参加)裁判所は、処分または裁決をした行政庁以外の行政庁を訴訟に参加させることが必要であると認めるときは、当事者もしくはその行政庁の申立てによりまたは職権で、決定をもって、その行政庁を訴訟に参加させることができる。裁判所は、行政庁の訴訟参加を認める決定をするには、あらかじめ、当事者及び当該行政庁の意見をきかなければならない。行政庁の訴訟参加は、被告である国または公共団体の側にのみ認められると解されている。もし原告側への行政庁の訴訟参加を認めてしまうと、機関訴訟に類似した関係が発生するためである(機関訴訟は法律の定めによらないと提起できない)。補助参加(民事訴訟法第42条)も認められると解されている。 第23条の2 (釈明処分の特則)裁判所は、訴訟関係を明瞭にするため、必要があると認めるときは、被告である行政庁に対し、処分または裁決の理由を明らかにする資料であって当該行政庁が保有するものの全部または一部の提出を求めることができる(第1項)。 裁判所は、審査請求に対する裁決を経た後に取消訴訟の提起があったときは、行政庁に対し、当該審査請求に係る事件の記録であって当該行政庁が保有するものの全部または一部の提出を求める処分をすることができる(2項)。 第24条(職権証拠調べ)裁判所は必要があると認めるときは、職権で証拠調べをすることができる。なお、その証拠調べの結果について、当事者の意見を聴かなければならない。民事訴訟法における弁論主義の修正である。 第25条(執行停止)執行不停止の原則(第1項)処分の取消しの訴えの提起は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない。 例外としての執行停止(第25条第2項、第4項)民事訴訟法における仮差押・仮処分のような仮の権利保護に相当する。 次の積極的要件を充足し、かつ次の消極的要件を充足しないときに、裁判所は申立てにより執行停止の決定をすることができる。積極的要件(第2項) 適法な処分取消訴訟の提起がある。 「重大な損害」を避けるため「緊急の必要」がある。 消極的要件(第4項) 執行停止をすると、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがある。 本案について理由がないとみえるとき。 第25条第3項の規定により裁判所は、積極的要件における「重大な損害」を生ずるか否かを判断するにあたっては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとすることとされた。 この執行停止の決定は、第三者にも効力が及び(第32条)、当事者たる行政庁その他の関係行政庁を拘束する効力を有する(第33条第4項)。 執行停止の決定は、口頭弁論を経ないですることができる。書面審理で執行停止を決定する場合には、あらかじめ当事者の意見を聴かなければならない(第6項)。実際上も書面審理で決定されることが多い。 第27条(内閣総理大臣の異議)執行停止の決定の申立て、仮の義務付け又は仮の差止め(第37条の5において準用)があった場合には、内閣総理大臣は、裁判所に対し、異議を述べることができる。執行停止の決定があった後においても、同様とする(第1項)。異議には理由を付さねばならない(第2項)。やむをえない場合でなければ異議を述べてはならず、異議を述べた場合は次の常会において国会に報告しなければならない(第6項)。 異議があったときは、裁判所は執行停止できず、すでに執行停止したをしているときは取消さなければならない(第4項)。 この異議の制度については、違憲説も存在する。 第30条(裁量処分の取消)本案審理(処分の違法性の存否)の結果、原告の請求に理由がある(処分は違法である)として、処分の全部または一部を取り消す判決である。 行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があった場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる。 第31条(特別の事情による請求の棄却)事情判決と呼ばれる。取消訴訟については、処分又は裁決が違法ではあるが、これを取り消すことにより公の利益に著しい障害を生ずる場合において、原告の受ける損害の程度、その損害の賠償または防止の程度および方法その他一切の事情を考慮したうえ、処分または裁決を取り消すことが公共の福祉に適合しないと認めるときは、裁判所は、請求を棄却することができる。 この場合には、当該判決の主文において、処分又は裁決が違法であることを宣言しなければならない(第1項第2文)。その結果、処分又は裁決が違法であることに既判力が生ずる。 第32条(取消判決等の効力)処分または裁決を取消す判決は、第三者に対しても効力を有する。 第33条処分又は裁決を取消す判決は、その事件について当事者たる行政庁その他の関係行政庁を拘束する(第1項) 申請を却下・棄却した処分が判決により取消されたときは、行政庁は、判決の趣旨に従い改めて申請に対する処分をしなければならない(第2項、第3項)。
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