教え子
『田舎教師』(田山花袋) 林清三は「世の中に認められたい」との野心を持ちながらも、地方の小学教師の生活に甘んじている。彼は友人の妹に恋したり、貧しい娼婦のもとへ通ったりしたが、孤独であった。そんな中で、教え子の田原ひで子は清三を慕い、師範学校に進学した後も手紙を寄こし、遊びにも来た。清三は、ひで子とともに家庭を作ることを考えることもあった。しかし彼は肺を病み、20代半ばで没した。
『春』(島崎藤村) 20代初めの岸本捨吉は、東京・麹町の女学校の教師となり、教え子の安井勝子を恋する。しかし勝子には、親の決めた許嫁があった。失意の岸本は辞職し、放浪の旅に出て、死を思うこともあったが、家族や友人たちに支えられる。勝子は許嫁と結婚してまもなく、病死してしまう。自分の道を見出せず行き詰まっていた岸本は、仙台の学校に職を得て赴任する。汽車の中で、彼は「ああ、自分のようなものでも、どうかして生きたい」と願う。
★2a.教師が教え子と関係を持つ。
『欲望という名の電車』(ウィリアムズ) ブランチ・デュボアは、結婚相手が自殺して以来(*→〔同性愛〕2)、精神の平衡を失った。彼女は孤独と恐怖から逃れるために、何人もの行きずりの男たちに身をまかせる。ハイスクールの教師となったブランチは、17歳の男子生徒と関係を結び、そのことが明るみに出て職を失う。彼女は町にもいられなくなり、ニューオリンズの貧民街に住む妹のもとへ、身を寄せる。
『若い人』(石坂洋次郎) 26歳の間崎慎太郎は、北海道の女学校の国語教師である。同僚の橋本スミ子先生と、18歳の生徒・江波恵子が、間崎に好意を寄せ、間崎の心は2人の間を揺れ動く。ある夜、間崎は、船員たちの喧嘩の一方に加勢し、大怪我をする。間崎は江波恵子の家へ運ばれ、恵子が看病して、やがて2人は結ばれる。しかし恵子は、その後の橋本先生の様子を見て、橋本先生が間崎を深く愛していたことを悟り、間崎に別れを告げる。
『雪の日』(樋口一葉) 山里の名家の1人娘として育った「我(薄井珠)」は、小学校の桂木一郎先生にかわいがられ、「我」も桂木先生を慕っていた。「我」が15歳、桂木先生が33歳の時、2人のことが村の噂になり、親代わりの伯母から、「我」はひどく叱られた。雪の日、「我」は意を決して桂木先生の下宿を訪れ、2人はそのまま東京へ出て結婚した。しかし夫となった桂木先生は思いのほか冷淡で、今では「我」は結婚を悔やんでいる。
★3.十二人の教え子。
『二十四の瞳』(壺井栄) 昭和3年(1928)4月、瀬戸内海べりの村の分教場に、学校を出たばかりの大石久子先生が赴任する。受け持つ1年生は、男子5人・女子7人の、計12人だった。いろいろな出来事の中で子供たちは成長して行く。大石先生は結婚するが、太平洋戦争で夫は戦死した。戦争が終わり、かつての1年生たちが、大石先生のために会を開く。12人のうち、男子3人は戦死、女子1人が病死、1人が行方不明になっていた。集まった7人のうちの1人磯吉は、戦争で両眼を失っていた。
★4.家庭教師とその教え子。
『新エロイーズ』(ルソー) 青年サン=プルーは、デタンジュ男爵家の1人娘ジュリの家庭教師となり、やがて2人は相思相愛の仲になる。しかしサン=プルーが平民なので、父男爵は2人の結婚を認めない。ジュリは父の意志に従い、50歳近いヴォルマール男爵の妻となって、2児を産む〔*ヴォルマール男爵は人格者で、サン=プルーとジュリの仲を理解していた〕。サン=プルーとジュリはいつまでも互いを思い合っていたが、ある日ジュリは、湖に落ちた子供を救うために水に入り、それがもとで病み、死んでゆく。
『未完成交響楽』(フォルスト) 貧しい青年作曲家シューベルトは、伯爵家令嬢カロリーネの家庭教師となって、音楽を教える。2人の間に恋が芽生えるが、伯爵は結婚を許さない。カロリーネは陸軍士官と結婚式を挙げ、シューベルトは披露宴で、自作の交響楽をピアノ演奏する。しかし曲が終わり近くになった時、カロリーネは失神してしまう。シューベルトは演奏を中止し、その後の楽譜を破り捨てて、「わが恋の終わらざる如く、この曲も終わらざるべし」と書きつける。
*女性家庭教師が、7人の教え子たちの母になる→〔七人・七匹〕4の『サウンド・オブ・ミュージック』(ワイズ)。
★5.小説家とその教え子。
『煤煙』(森田草平) 妻帯者である20代の小説家・小島要吉は、文学懇話会「金葉会」で、女子大学出の眞鍋朋子を知る。強い自我を持つ朋子に要吉は魅せられ、文学書を貸し、彼女の習作を批評する。朋子も要吉に恋心を抱くが、接吻はするもののそれ以上の関係を許さず、要吉も強いて求めない。朋子は自らの心を持て余し、「先生の手で殺して」と要吉に訴える。2人は心中するために那須塩原の雪山を登るが、要吉は互いの愛を確信できず、「生きよう」と考える。
『蒲団』(田山花袋) 竹中時雄は30代半ばの小説家で、妻と3人の子供がいる。女学生芳子が「弟子になりたい」と望んで、時雄の家の2階に住み込む。時雄は若い娘との生活に心ときめき、彼女と過ちを犯しそうになるが、踏みとどまる。やがて芳子には、田中という学生の恋人ができ、2人は性関係を結ぶ。時雄は嫉妬し懊悩しつつ、芳子を田中と別れさせ、親元へ帰す→〔ふとん〕1。
★6a.教え子たちが、退職した「先生」をいつまでも慕い続ける。
『まあだだよ』(黒澤明) 「先生」は還暦間近で学校を退職したが、教え子たちは「先生」を慕い続け、「先生」を囲む「摩阿陀(まあだ)会」を毎年催した。教え子たちが「まあだ(死なないの)かい?」と問いかけ、「先生」は元気よく「まあだだよ!」と答えて、ビールの大杯を一気に飲み干すのである。17回目の「摩阿陀会」で、喜寿の「先生」は不整脈の発作を起こし、幹事役の4人が「先生」を家まで送る。主治医は「心配ないでしょう」と言う〔*しかし4人が、眠る「先生」の隣りの部屋に泊り込んで酒を飲むのは、要するに「お通夜」をしているのだろう〕。
『野分』(夏目漱石) 中学校教師・白井道也は「金力と品性」という題で演説し、大会社役員の暴慢と人々の拝金主義を戒めた。町の有力者たちは道也を批難し、中学生たちは扇動されて道也を追い出しにかかった。夜、大勢で道也の家におしかけて喊声をあげ、石を投げ込んだのである。道也は辞職した〔*その時の中学生の1人・高柳周作は、数年後に道也と再会し、「私は、先生をいじめて追い出した弟子の1人です」と打ち明け、自身に必要な百円の金を、道也のために用立てた〕。
★6c.教え子の事故死。
『父ありき』(小津安二郎) 堀川は、金沢の中学校の教師であった。東京箱根方面への修学旅行の時、生徒の1人が堀川の注意を聞かず、湖でボートに乗って溺死した。親から預かった大事な子供を死なせたことに、堀川は責任を感じ、辞職する。彼は「2度と教職にはつかない」と決心し、役場や会社に勤めつつ、男手ひとつで1人息子を育てる。息子は大学を出て教師になる→〔父と息子〕3。
『学校』(山田洋次) 夜間中学には、年齢も職業もさまざまな生徒たちが学んでいる。小さな町工場で働くイノさんは50歳を過ぎてから、読み書きを学ぼうと入学した。イノさんが生まれて初めて書いたハガキは、美しい田島先生へのラブレターだった。しかしイノさんは重い病気にかかり、死んでいった。担任の黒井先生と生徒たちは、イノさんを偲びつつ、人間の幸福とは何か、話し合う。自閉症で登校拒否だったえり子は、「私は進学して、学校の先生になる。そしてこの夜間中学へ帰って来る」と黒井先生に語る。
『鶯姫』(谷崎潤一郎) 大正時代、55~56歳になる老教師・大伴は、京都郊外の女学校で国文を教えていた。彼は平安朝の昔を慕い、生徒たちの中でも、公卿(くげ)の血筋を引く壬生野春子を、とりわけ贔屓(ひいき)にしていた。そのため、ある春の午後、大伴は平安時代へ行って、壬生野春子の先祖・鶯姫をさらう夢を見た→〔時間旅行〕2c。
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