父子関係
『波』(山本有三) 小学校教員の見並行介は、もと教え子のきぬ子と関係を持ち、結婚する。結婚後1年もたたぬうちに、きぬ子は医学生と駆け落ちする。行介はきぬ子を許し、連れ戻す。きぬ子は男児駿(すすむ)を産み、子癇のために死ぬ。行介は、駿が果たして自分の子かどうか疑い、悩みつつ育てる。駿は小学生、中学生、と成長して行く。行介は「駿は、自分の子でも医学生の子でもない。社会の子供、人類の子供なんだ」と考える。
*複数の男と関係を持ったため、誰が父親かわからない→〔一妻多夫〕4・5a・5b。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第2巻第4章 アムピトリュオンは、双子の赤ん坊イピクレスとヘラクレスの、どちらが自分の子で、どちらがゼウスの胤なのか、知りたく思った(*→〔双子〕6)。そこで赤ん坊の臥床に蛇を投げ込んだところ、イピクレスは逃げ、ヘラクレスは蛇に立ち向かったので、アムピトリュオンは、イピクレスが自分の子であることを知った。
『シャクンタラー』(カーリダーサ)第7幕 ドゥフシャンタ王が聖者の苦行林を訪れ、1人の少年を見て愛情を感じる。王は「かつて私が、行方知れずのシャクンタラー姫との間にもうけた子ではないか?」と思う。少年の手首から護符の霊草が地面に落ち、王はそれを拾う。少年とその両親以外の者が拾えば霊草は蛇となり、拾った者を噛むはずだったので、ドゥフシャンタ王と少年は父子であることがわかった。
*老年になってからもうけた子→〔老翁〕4の『棠陰比事』6「丙吉験子」。
★3.真の父子であれば、子の血は父の血と融合し、父の骨に染(し)み込んで行く。
『閲微草堂筆記』「槐西雑志」151「骨肉の鑑定」 親と子の血を取って混ぜ合わせ融合すれば真の親子だ、という鑑定の古法があった。ある男がこれを信用せず、自分の血と息子の血をまぜても融合しないので、「鑑定法は当てにならない」と主張した。しかしその息子は、妻が情夫との間にもうけた子だった。
『大岡政談』「小間物屋彦兵衛之伝」 小間物屋彦兵衛が鈴ヶ森で獄門にかけられたと聞き、夜、息子の彦三郎が刑場へ行って父の骨を捜す。白骨が多くあって、どれが父の骨かわからないので、彦三郎は自分の指を噛んで血をしぼり、骨に染(し)み込んで行くかどうか試す。しかし、どの骨にも血は入らず、流れてしまった〔*実は大岡越前守は小間物屋彦兵衛を処刑せず、某所にかくまっていた〕。
『聊斎志異』巻5-190「土偶」 王氏が亡夫をしのんで土偶を造ると、夫の霊が土偶に乗り移り、王氏を身ごもらせて去って行った(*→〔像〕1c)。王氏は男児を産んだが、本当に亡夫の子か疑う人がいたので、男児の指を刺して、その血を土偶に塗った。血は、たちどころに滲(し)みこんで、痕もとどめなかった。他の土偶に塗っても滲みこまず、ひと拭いでふきとれた。
*父の髑髏に血が吸い込まれる→〔髑髏〕1aの『南総里見八犬伝』第6輯巻之5下冊第60回・第7輯巻之2第65回。
★4.息子が父親を見るが、それが父であることを友人たちに言わず、赤の他人のような態度をとる。
『父』(芥川龍之介) 修学旅行に出かける朝。生意気盛りの中学生である「自分」たちは、停車場の待合室に出入りする人々を、遠慮なく品評して笑った。特に能勢五十雄の下す評言が、いちばん辛辣で諧謔に富んでいた。時代遅れの背広姿の老人がいたので、皆は「あいつはどうだい?」と能勢に批評を求める。老人は実は能勢の父だったが、能勢は「あいつはロンドン乞食さ」と言って皆を笑わせた→〔親孝行〕6。
★5.母は父の姿を、幼い娘の目から隠す。父は幼い娘を見ても、他人のふりをする。
『父』(太宰治) 39歳の小説家である「私」は、家庭も家計も顧みず、今日も遊びに出かける。白昼、「私」は酒に酔い、四十女の前田さんと街を歩く。半病人の妻がマスクをかけて、下の男の子を背負い、お米の配給の列に立っている。傍にいた上の女の子が「私」に気づいたので、妻は「ねんねこ」の袖で、女の子の顔を覆い隠す。前田さんが「お嬢さんじゃありません?」と言い、「私」は「冗談じゃない」と否定した。
★6.父親の遺骸に平気で矢を射込む息子と、射ることができない息子。
『ゲスタ・ロマノルム』45 ある王の妃が4人の王子を産んだが、最初の3人は愛人との間の子で、4人目だけが王の子だった。王の死後、王国の支配権をめぐる争いが起こった時、王の秘書だった老騎士が、「王の御遺骸に、矢をもっとも深く射込んだ王子が、支配権を得るべきです」と言った。第1の王子は遺骸の右手を、第2の王子は口を、第3の王子は心臓を射た。ところが第4の王子は、「御遺骸がこのように傷つけられるとは、痛ましいことです。私は、父上のお身体を射ることなどできません」と嘆いた。国民は、第4の王子をたたえて玉座にすわらせ、他の3王子を追放した。
父子関係
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母子関係に比して、父子関係の証明は難しい問題とされる。非嫡出子の場合に法律上の父子関係を生じるには、父の認知が必要とされる(779条、784条)。ただし、子供の母が別の男性と結婚しており、後に述べる嫡出推定が働く場合、子供はその夫婦の嫡出子となるので、嫡出否認の訴えが認められるまで認知できない。 父子関係の証明の問題に関連してDNA鑑定による親子鑑定が取り上げられることがあるが、プライバシー保護の観点から諸外国でもこれに慎重な立法例が多いとされ、日本の今後の立法においても遺伝子分析による鑑定のあり方について十分な検討が必要と指摘されている。 2014年7月の最高裁の判例では父子以外の血縁関係がDNA鑑定で証明されても、それを理由として戸籍上の父との親子関係を取り消すことはできないとして、嫡出推定の規定はDNA鑑定に優先するとの判断を示した。
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