トロン仕様チップとは? わかりやすく解説

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トロン仕様チップ(TRONCHIP)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/17 00:21 UTC 版)

TRONプロジェクト」の記事における「トロン仕様チップ(TRONCHIP)」の解説

TRONプロジェクトにおけるチップマイクロプロセッサ、現在で言うCPUに相当)の設計目的とするサブプロジェクト1986年開始アーキテクチャCISC型を採用している。チップ設計においては坂村命令セットの設計のみを行い実際回路の設計生産に当たる各社で行う、と言う形式取った。そのため、同じアーキテクチャ製品複数メーカーから発売された。この方式は、後に組み込みCPU市場寡占するARM社でも採用されることになる。 トロン仕様チップの策定東京大学坂村研究室が行ったが、策定当初より日立製作所積極的に関与した1983年当時日立モトローラ68000セカンドソース製造していたが、当時アメリカの各CPUメーカー日本メーカー対すCPUライセンス供与消極的になりつつあり、モトローラからの独立果たそうとする日立マイコン部門日立製作所武蔵工場日立製作所半導体事業部経て、後のルネサス武蔵)は1983年頃より32bitマイコン自力開発進めていた。1986年5月日立モトローラセカンドソース利用して1985年より発売して大ヒット中の「ZTATマイコンに関して、ついにモトローラからのライセンス得られず、牧本次生(1986年当時日立製作所武蔵工場長率い日立マイコン部隊モトローラに「ワインドダウン」を要求されるという屈辱を受ける。そのため奮起した日立マイコン部隊日立独自の新アーキテクチャ「H32」の仕様策定進めていたが、1社単独開発を行うのはリスク大きいと判断し日立製作所半導体事業部長金原取締役働きかけインテルセカンドソース製造していた富士通1986年7月提携して「GMICROグループ」を結成、2社共同開発体制を取ることにする。その過程で、アーキテクチャとして坂村の提唱するトロンチップを採用することで決定1987年には三菱もGMICROグループ加盟その頃には他のメーカーもトロンチップに興味示し始めた最終的に、トロンチップの開発・製造には、富士通三菱電機日立製作所松下電器産業東芝沖電気工業、の6社が参加した主な実装としては、富士通三菱電機日立の3社(GMICROグループ)の共同開発によるGMICROシリーズや、沖電気通信用システム使われOKI O32などが挙げられ各社製品1988年頃よりサンプル出荷1989年頃より量産された。 TRONプロジェクトにおいてはOSCPU仕様並行して開発されたことが大きな特徴である。『トロン仕様チップ標準ハンドブック』によると、坂村ITRONBTRONを「目標OS」としてアーキテクチャ決定したとしている。命令セット設計した坂村によると、「仕様策定段階ソフトウェアハードウェア総合した最適化考え方取り入れられている」とのことで、具体的には「オペレーティングシステム高速実行向いた命令セット、あるいはコンパイラ開発有利な命令セット準備されている」とのこと坂村1985年当時ワークステーション並み性能パソコン並み低価格マシンである「スーパーパーソナルコンピュータ」の概念提唱しており、トロンチップを主にパソコン向けとして想定していた。 しかし、トロンチップにメインフレーム用IBMOS載せ、「IBM互換機下位機種作る」つもりの日立富士通に、坂村押し切られた。ミニコン・オフコンにも使いたい日立富士通意見入れる形で、チップ高機能化日立TRONチップ設計完了した1987年7月時点では、TRON仕様OSであるリアルタイムOSITRON)やビジネスOS(BTRON)の高速処理はもちろんの事、UNIXその他のOSでも高速処理が行える汎用プロセッサとして設計されていた、と『日立評論』では語られているが、坂村回想によると、「個人用パソコンUNIX載せる」などの当時坂村構想は、実際は全く理解されず、「まずIBMOS載せると言われとのこと。 トロン仕様チップでは、MMUなどを搭載した「L1(Level 1)」仕様同時に、「L1」仕様から命令実行リラン機能MMU除去したITRONμBTRON動作想定した)「L1R(Level 1 Real)」仕様規定された。『トロン仕様チップ標準ハンドブック』が刊行され1991年10月時点では、将来製造されるトロンチップに実装される予定の「L2Level 2)」も策定されていた。また、32ビット版トロンチップの設計時点64ビットまでの上拡張性確保されており、64ビット版トロンチップの仕様である「LXeXtension)」仕様策定され予定であった。 トロンチップが各社から出そろった1990年当時32bitCPUはほとんど普及していなかったが、今後普及予想されており、例えばGMICROグループでは、組み込みやパーソナルワークステーション向けのGMICRO/100(日立資料では「H32/100」と呼称しているが、実際製造三菱担当し「M32」としてリリース)、エンジニアリングワークステーションFAコントローラ向けのGMICRO/200(日立が「H32/200」としてリリース)、スーパーミニコンやオフィスワークステーション向けのGMICRO/300(日立資料では「H32/300」と呼称しているが、実際製造富士通担当し「F32」としてリリース)、と規模に応じて3種類を用意し幅広い要求応えられるようにしていた。 しかし組み込み用としては、トロンチップは元々パソコンワークステーション用として開発されていたこともあって、COBOLコンパイラを使うときのための十進演算命令や、MMU搭載するなど組み込みには不相応なほど規模大きくコストパフォーマンスが悪すぎたため、成功しなかった(日立のGmicro/200のトランジスタ数は730K、MMU搭載しない三菱のGmicro/100ですら340Kであり、トランジスタ数70KのHD68000はおろか273Kの68030すら上回るちなみに1994年発売SH-2トランジスタ数は450Kで、トロンチップH32シリーズ比較するSHシリーズがどれだけ高コスパであったかが分かる)。例え日立では、1988年12月にはトロンチップのH32/200(日立版のGMICRO/200)にITRON載せた開発用シングルボードコンピュータリリースしており、制御プロセッサとしての需要早くから見込んでいたが、組み込み用としてはITRON搭載した8bitのH8シリーズ1988年6月リリース)が主力であり続けた。H8とH16がモトローラ特許侵害として訴えられ、H16は1989年1月より法廷での特許紛争始まったために製造ができなくなったことにより、1990年頃日立ではH16を代替する次世代組み込みマイコン開発急務となっていたが、来るべきマルチメディア時代において、日立既存技術であるトロンチップのH32やRISCチップHPPA(PA-RISC)ではコストパフォーマンスの点で戦えない、と木原利昌が率い日立マイコン部門1990年判断次世代CPU設計河崎俊平(日立製作所半導体事業部マイコン設計部)に一任され、H8シリーズ並行してSHマイコン開発開始された。ちなみにSHシリーズMMU搭載するのは日立マイクロソフト提携してWindows CE搭載前提として開発されSH-31995年リリース以降である。 パソコン・オフコン・ワークステーション用としても採用例が無く同時期にPA-RISC日立のHP/PA互換CPUで、マイコン部隊がいる日立武蔵より「格上とされる日立中央研究所開発)やMC68040存在したこともあり、日立マイコン部門設計したH32を、日立オフコン部門採用しなかった。『日立評論1990年1月号ではH32シリーズファミリー展開大い期待寄せているが、『日立評論1991年1月号ではH8シリーズのH8/300しか取り上げられておらず、日立(のマイコン部門)は1990年内にH32シリーズの多展開を諦めたようだ。 組み込み専用アーキテクチャとなると敢えてCISC型で行く意味はなく、ちょうどそのころ組み込みCPUとしてRISC型のアーキテクチャ注目されていたこともあり、各社とも1990年頃には組み込み32ビットCPUとしてのTRONチップ継続諦めRISCによる独自アーキテクチャ開発が行われることとなった日立でも、1992年11月にはH32シリーズ後継として、高性能、低消費電力低価格同時に満たすRISCCPUSH-1リリースしSHシリーズ32bit組み込みCPU主力としている。 一方NTTによるCTRONプロジェクト成功していたため、トロンチップは1990年代中頃まで電話交換機プロセッサとして各社開発続けられた。例え日立NTT通信機納入しているため、CTRON載せた通信用プラットフォーム作るためにはGMICRO/300を使った方がコストパフォーマンスが高いと日立情報システム部門は判断し1993年にはGMICRO/500を完成させるなど、トロンチップの開発続けた1994年三菱リリースしたGmicro/400(40MHz)が最後のトロンチップとなる。ただし、性能自体日立のGmicro/500(66MHz)の方が高い。 坂村自身考えでは、トロンチップを制作した電機メーカーからトロンチップを使ったパソコンが出なかった理由として、半導体部門作ったトロンチップをコンピュータ部門は「おもちゃ」として見ておらず、半導体部門勝手にコンピュータ作れない以上、トロンチップはソフトウェア開発装置CPU評価基板として作られるしかなかった、としている。また、半導体部門抱え電機メーカー以外のメーカーからトロンチップを使ったパソコンが出なかった理由としては、「周辺チップの不足」を理由挙げており、各社CPU作ることを第一義としていたため周辺チップが揃わず、周辺チップ揃ったIntelチップ比べてパソコン作りづらかった、としている。そして、パソコンと言う応用実現できなかったために、組み込みにも使われなかった、結果としてトロンチップは普及しなかった、と考えている。坂村は、1993年パーソナルメディア社が制作した日立のGmicro/300にBTRON仕様OS載せたパソコン試作機が、Intel iAPX486で動くWindows 3.1比較して非常に軽快作動したことや、1993年リリースされ日立のGmicro/500が、同年リリースされIntelPentium比べて遜色ない性能技術であったことから、トロンチップがパソコン向いてなかったわけでは無い、と考えている。 1986年10月に「マイコン独立宣言」を発表して日立の独自マイコンHシリーズ(H8・H16・H32)の開発指揮した牧本次生(1989年当時は「(半セ)」こと日立製作所半導体事業部半導体設計開発センター長、後に日立製作所専務取締役)の回想によると、トロンチップが失敗したのは「日米貿易摩擦ターゲットとして取り上げられた」ためとのことで、Hシリーズ後継であるSHシリーズ開発指揮した木原利昌(当時半導体設計開発センター・マイコン設計部長、後にSuperH,Inc.CEO)の回想によると、トロンチップが組み込み使えなかったのはコスパ悪かったからとのこと。なお、SHマイコン設計した河崎俊平は、トロンチップの浮動小数点演算ユニット「GMICRO/FPU」の設計中心人物としてTRONプロジェクト '88-'89』にも名を連ねているが、CPU設計がしたかったのにFPU仕事させられた上に、当時は既にトロンチップの市場がしぼみかけていたので仕事イヤだったが、「ガマンして働いていた」とのことSHマイコン命令セットをほぼ一人設計した河崎は、命令セットの設計大勢関わり各人提案する命令寄せ集めてほとんど使わない命令をたくさん搭載するような従来日立方式を「まるで万葉集」と批判している(編注:トロンチップが失敗した理由として、マイコン売りたいマイコン部門と、大型機を売りたいコンピュータ部門との意識差異坂村指摘しているが、トロンチップを設計した日立マイコン部門・(半セ)の内部でも、日米貿易摩擦巻き込まれ牧本らの世代と、SHマイコン成功した木原らの世代では、トロンチップの評価差異があることが分かる)。 統一規格であったものの、各社用途に応じて様々な工夫行い例え三菱のGMICRO/200は宇宙線対策施され技術試験衛星きく7号」に搭載され32bitプロセッサとしては初め宇宙行ったパーソナルメディア社が1993年制作したBTRON搭載したパソコン試作機「SIGBTRON基本ボード」でGmicro/300が採用され1995年発売したBTRONワークステーションMCUBEでGmicro/500が採用された。 また、日本の電機メーカーは、TRONチップの開発通じてマイコン開発ノウハウ蓄積した。後の各社32ビットマイコンの命令セットにいくらかの影響みられる。特に三菱・M16シリーズはトロンチップM32の下位版として開発され、トロンチップにかなり近い設計思想であり、販売面でも組み込み用として日立のH8シリーズと並ぶほど売れたという。日立(特にSH開発陣)におけるトロンチップの評価はとても低いが、トロンチップのコスパ悪さ反面教師として開発されたという点で、日立SHシリーズにも影響与えた

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