遺伝子組み換え農作物 (GMO)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/18 09:26 UTC 版)
「蜂群崩壊症候群」の記事における「遺伝子組み換え農作物 (GMO)」の解説
「遺伝子組み換え作物」を参照 一部の研究者は、冬用の貯蔵物に高果糖コーンシロップ (HFCS)を与える慣習にCCDの原因があるとしている。CCDの報告に一貫性がないのは、HFCSの可変性が関連しているかもしれない。ヨーロッパの解説者は遺伝子組み換えトウモロコシから作られたHFCSに関連がある可能性を示唆している。しかし、もしこれが関連する唯一の要因であるのなら、冬にHFCSを与えているコロニーにのみCCDが見られるはずであるが、実際にはHFCSを与えていない養蜂家においてもCCDは多数報告されている。 また、バチルス・チューリンゲンシス (Bt)毒素を生じる遺伝子組み換え作物による花粉や蜂蜜を採集するミツバチへの潜在的な影響の研究では、その様な植物を訪れるミツバチに悪影響を与えるという実証はまだされていない。トウモロコシは大々的に遺伝子組み換えが行なわれており、ミツバチには推奨できない作物ではあるものの、トウモロコシ畑の近くでミツバチを飼育している養蜂家は「トウモロコシの雄花では、よく花粉がとれる」と述べている。 二番目に重要なBt植物である綿花には、蜜をとりにミツバチがよく訪れる(他から花粉が手に入らない場合にのみ、その花粉が消費される)。しかし、遺伝子組み換え綿花の開花期に使用される殺虫剤以外の毒性に関しては、明確な証拠がない。Bt毒素(Bt toxin)には生産株によって様々な種類があり、それらの殺虫スペクトルは異なっている。つまり、鞘翅目昆虫に毒性を持つが鱗翅目昆虫には示さない、あるいはその逆というようにBt毒素の種類によってその殺虫スペクトルは大いに異なる。そのため、害虫である鞘翅目や鱗翅目昆虫に抵抗性を与えるために作物に導入されたBt毒素の種類が、ミツバチの属する膜翅目昆虫にどの程度の影響を与えるのか評価する必要がある。つまり、蜂群崩壊症候群をおこした群れの近辺の遺伝子組み換え作物の種類と量、導入されているBt毒素の種類とミツバチに与える毒性、その花粉における含量の情報が必要になる。 シエラクラブ遺伝子工学委員会はウェブ上でトーマス・ハーキン上院議員への書簡を発表した。「高く尊敬されている科学者は、遺伝子工学による作物への農薬散布とその成長によって作物内に生じる農薬は、CCDの進行と拡散に寄与する要因や原因として、深刻に考える必要があると信じている。」この理論を支持するような文献が9つ引用されている。 昆虫へのBtの影響は主に幼虫に認められる。そのため、Btの毒性とミツバチへの影響に関する研究は当初、幼虫とその成長過程に注目していた。しかし、蜂パン (bee bread)の材料の一部として重要であり、また成虫の食料にもなるのは花粉であるから、成虫のミツバチは、幼虫のためにフィルターのようなものとなって、花粉の材料の影響をより受けやすいと考えている養蜂家もいる。そして、CCDは成虫のミツバチが消える現象なので、幼虫における症状が認められない問題点や、CCDを被ったミツバチが遺伝子組み換え作物と接触したことがあるという証拠が無い問題点があるものの、直接の関連があるかもしれないと考える人もいる。 米国で1996年以降商業生産されているBtトウモロコシは、2005年に合衆国の総トウモロコシ作付け面積の35% (106,400 km2)に達した。対昆虫抵抗性の遺伝子組み換え綿花は1996年より合衆国で栽培されているが、2005年に綿花総作付け面積の52% (28,000 km2)に達した。米国養蜂連合の前代表であり、養蜂家としてCCD関連の広報を行っているデイビッド・ハッケンベルグは次のように述べている。「もっとも影響を受けた養蜂家は、コーン、綿花、大豆、カノーラ、ヒマワリ、リンゴ、葡萄、かぼちゃの近くにいた。」しかし、ハッケンベルグ個人はネオニコチノイドの農薬を撒布したこれらの作物に原因があると考えている。つまり、Bt作物の中には、後にCCDを発症するミツバチが訪れている可能性のあるものもあるということである。しかし、同様のミツバチの大量死(もしくは大量消失)はこれらの作物を導入する何十年も前から生じており 、「Btトウモロコシが栽培されていないヨーロッパやカナダの地域でも発生している。」EUの「GMOコンパス」によれば、Btトウモロコシはスペインやフランス、チェコやポルトガル、ドイツやスロバキアで栽培されている。 ミツバチについての危険性評価研究に関連した各種の文章がアメリカ合衆国環境保護庁 (RPA)のホームページ上に公開されている。これらの研究がミツバチに対するBtの花粉の影響を見出したとは書いていない。 2004年には、GMO認可機関の知識は主に、学術雑誌Bee Worldに発表された研究結果の包括的概要をベースにしており、その研究はミツバチへのさまざまな商業的・非商業的導入遺伝子の効果を検証したものであった。その研究は、「これまで分かっている証拠から、商業的に利用可能な遺伝子組み換え作物のどれもミツバチの健康に対して重要な影響を与えることがないことが示される。」と結論付けている。しかし、2005年にApidologie誌で新たに発表された研究では、CRY1Abを与えられたミツバチの摂食活動が、処理間に回復を見せることなく、処理の各段階を通じて継続的に減少することがあると示した(ただし、CRY1Abの量を増やす処理を施しても、ミツバチの死亡率に関しては有意な差がでなかった)。EUの欧州食品安全機関 (EFSA) GMO委員会は、「上記の結果は主にCRY1Abに依存したものである」というこの著者の見解を支持しないとした。この委員会では次の様な意見を述べている。 「ミツバチに対する否定的な影響は、実験の構成と同時性の管理と再現性を欠いているため、CRY1Ab蛋白に暴露されたことには直接に関連があるのではないと考えられる。」 ドイツで行なわれた研究調査では、ノゼマの感染がない場合には影響が検出できないため、直接な影響ではなく、Btトウモロコシの花粉への暴露でミツバチの成虫のノゼマに対する抵抗力が弱化するのではないかと示唆されている。 「試行を繰り返すときには、コロニーに抗生物質で予防処理を施し、再感染を防いだ。[…]これは、健康なミツバチのコロニーは6週間にわたってBtトウモロコシの花粉に極端にさらされた場合であっても、コロニーの大きさや摂食活動、子育て活動や発達のコロニー維持に必要な活動のどれも、毒素により損なわれることがないことを示している。」 しかし、もし、「ミツバチのコロニーがたまたま寄生虫(微胞子虫)に感染したとすれば、その感染によってミツバチの数は減少し、結果として幼虫も減少する。[…]この影響は特にBtの餌を与えたコロニーにおいて顕著に発生した。」更に、「遺伝子組み換えコーンはミツバチの腸の表面を寄生虫が入りやすくするように弱めた可能性がある―あるいはひょっとして、その逆かもしれない。」と示唆されている。しかし、以下のようにも注釈がある。 「もちろん、毒素の濃度は通常のBtコーンの花粉と比較して10倍である。さらに、ミツバチは非常に長い期間、6週間もの間投与されたものである。」 より最近の他の研究では健康なミツバチのコロニーにBt花粉を与えた場合の副作用を示すことに失敗しているが、Bt花粉が既に「不健康な」コロニーを更に弱めるという可能性に関しては研究がなされなかった。 秋の減少病 ("Fall Dwindle Disease")に関する蜂群崩壊症候群研究グループの予備報告によると、「全てのPAサンプルにはその直腸の中に“ノゼマ病微胞子虫”が存在していることが分かったとしている。調査した多くのミツバチの針腺は明確な黒い“印”で区別できた。すなわち、この種の一点のメラニン化や黒化はある種の病原体に対する免疫反応を示している。」もし、ペンシルベニアのミツバチがBt毒素を含んだコーンの花粉を集めていたなら、潜在的に「ノゼマ」に感染する可能性があり、そのコロニーにCCDを引き起こしていたはずである。しかし、これらのコロニーが死亡前にその様なトウモロコシの花粉を集めていたという証拠はないし、CCDに感染したコロニーが他の場所でトウモロコシの花粉を集めていたという報告もない。CCDで死亡寸前と報告されているコロニーの多数が、GMトウモロコシを栽培していない場所にある(少なくとも合衆国ではそうである。GMトウモロコシをはじめとして、大量のトウモロコシを栽培している10州のうち5州、イリノイ州、インディアナ州、カンザス州、ミズーリ州、ネブラスカ州ではCCDの報告がない)し、ペンシルベニア州の外から来たミツバチが著しく「ノゼマ」に感染しているとも報告されていない(例えば)。 2006年、全米研究委員会の「花粉媒介の状態と傾向に関する委員会 (Committee on Status and Trends of Pollinators)」は「北アメリカにおける花粉媒介の状態」報告書を発表した。報告書ではこの件に関する先行研究の概観によれば「導入遺伝子の消費に原因を帰すことのできる否定的ではあるが実質的な効果が見られる事例もある」ため、GMOが花粉媒介者の減少の原因となっている可能性もありうると示唆。報告書はさらに、「この効果はどの導入遺伝子を用いるかについて、またその発現量で変化したが、どの事例においても、遺伝子組み換え作物がミツバチの数に与える影響に関しては記録されていない。」と指摘した。 2007年3月28日、中部大西洋養蜂研究及び成長コンソーシアムは「ミツバチにおけるBtトウモロコシの花粉が示す非標的生物への影響に関する研究概要」を発行し、実地研究によれば「これまでに現在用いているBtたんぱく質がミツバチに与える致死・準致死効果の証拠はない」と述べ、また、Bt花粉とCCD間の潜在的因果関係に関し「この可能性は排除されてはいないが、ここに報告する証拠の重みは、現在Bt作物を使用していることがCCDとは関連していないことを、強く主張するものである。」とした。
※この「遺伝子組み換え農作物 (GMO)」の解説は、「蜂群崩壊症候群」の解説の一部です。
「遺伝子組み換え農作物 (GMO)」を含む「蜂群崩壊症候群」の記事については、「蜂群崩壊症候群」の概要を参照ください。
- 遺伝子組み換え農作物のページへのリンク