白根御池とは? わかりやすく解説

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北岳

(白根御池 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/10/05 15:02 UTC 版)

北岳
南南西にある中白根山から望む北岳
標高 3,193.2[1] m
所在地 日本
山梨県南アルプス市
位置 北緯35度40分28秒 東経138度14分20秒 / 北緯35.67444度 東経138.23889度 / 35.67444; 138.23889座標: 北緯35度40分28秒 東経138度14分20秒 / 北緯35.67444度 東経138.23889度 / 35.67444; 138.23889
山系 赤石山脈
種類 隆起
初登頂 1871年(名取直江)[2]
北岳 (中部山岳)
北岳 (中部地方)
北岳 (日本)
プロジェクト 山
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北岳(きただけ)は、山梨県南アルプス市にある標高3,193 m[1]富士山に次ぐ日本第2位の高峰[1]で、火山でない山としては日本で最も高い。赤石山脈(南アルプス)北部に位置し、「南アルプスの盟主」とも呼ばれる[3]。山体はすべて山梨県内に含まれ、他の県には接していない。

日本百名山[4]新・花の百名山[5]および山梨百名山[6]に選定されており、同じく日本百名山の一峰である間ノ岳日本二百名山農鳥岳とともに白峰三山を構成する。早川支流である野呂川が当山を源流とする。

全山古生層の堆積岩から成る[7]。山体の東側斜面は北岳バットレスと呼ばれる岩壁があり、登攀の対象となっている。

地理

赤石山脈の北部に位置し、白根山系の北端となっている[8]。山脈の主要山系である赤石山系とは野呂川を挟んで隔たっている[8]。北岳の南方の稜線上には同じ白根山系に属する間ノ岳、農鳥岳、白峰南嶺の山々が連なっている[8]。東側には池山吊尾根[9]、北側には小太郎山のある小太郎尾根が延びる。北岳を含む白峰三山の稜線は赤石山脈の主稜線からは外れており、間ノ岳の西に位置する三峰岳で派生した支脈である。また北岳は野呂川の源流となっており、山体の周囲を取り囲むように野呂川が流れている。

赤石山脈は中生代の地層の堆積岩から構成される四万十層群に属する傾向があり[10]、当山の山体も四万十層群に属する[10]。山頂部はやや険しい山容を示すが、これは石灰岩チャート(角岩)、海洋玄武岩などの岩石が構成する混合岩石層となっているためである[11][12]。これらの岩石は硬く侵食を受けにくく、よって赤石山脈ではあまり見られない鋭い峰を造る[12]。後述の北岳バットレスも石灰岩とチャートで構成され、なだらかな尾根の続く赤石山脈において、周囲とは異なった岩石が構成要素となっている[11]。また、北岳バットレスの岩石は海洋性のものであり、隆起前に堆積した海洋生物の化石が観察される[13]。一方、小太郎尾根はなだらかな山容を示し、これは泥岩や砂岩などの岩石が構成要素となっているからである[11]

地形には、褶曲構造が多く見られることが特徴として挙げられる[14]。褶曲構造は内的営力による造山運動が形成の原因である。一方3 kmほどしか離れていない間ノ岳では圏谷(カール)が見られる。これは、外的営力による侵食運動が形成した氷河地形の一つである。他にも小太郎尾根には二重山稜が見られる[15]

周辺の山

赤石山脈の北部に位置し、以下が近接する主な山である。

山容 名称 標高 (m) 三角点等級
基準点名[16]
北岳からの
方角と距離 (km)
備考
甲斐駒ヶ岳 2,967 (一等)「甲駒ケ嶽」
(2,965.58 m)
北 9.3 日本百名山
仙丈ヶ岳 3,032.56 二等
「前岳」
北西 7.1 日本百名山
鳳凰山 2,840 (停止) 東北東 6.7 日本百名山
小太郎山 2,725.08 三等
「小太郎岳」
北 2.9 小太郎尾根
北岳 3,193 (三等)「白根岳」
(3,192.18 m)
0
八本歯ノ頭 2,920 なし 南東 0.8 池山吊尾根の小ピーク
中白根山 3,055 なし 南 2.0 別称「中白峰」
間ノ岳 3,189.50 三等
「相ノ岳」
南 3.3 日本百名山
農鳥岳 3,025.90 二等
「農鳥山」
南 5.9 日本二百名山
小仙丈ヶ岳より見た赤石山脈北部・北岳周辺の山々(2017年10月撮影)

主な山との位置関係

周辺の各山域の主要な山との位置関係は以下の通り。

山容 名称 標高 (m) 三角点等級
基準点名[16]
北岳からの
方角と距離 (km)
備考
奥穂高岳 3,190 北西 86.5 北アルプスの最高峰
木曽駒ヶ岳 2,955.95 一等
「信駒ケ岳」
西 41.3 中央アルプスの最高峰
赤岳 2,899.17 一等
「赤岳」
北 34.9 八ヶ岳の最高峰
北岳 3,193 (三等)「白根岳」
(3,192.18 m)
0 南アルプスの最高峰
富士山 3,776 (二等)「富士山」
3,775.63 m
南東 56.4 日本の最高峰

北岳バットレス

北岳バットレス

北岳バットレスは、北岳の東側斜面にある高さ約600 m[17]の日本最高所の岩壁であり、戦前から攀じられてきたアルパイン・クライミングの定番ルートである[18]。主に石灰岩やチャートから構成され[11]、大樺沢二俣から眺めることができる[19]。命名者は小島烏水とされている[20]

2010年10月10日未明[21]、第4尾根で大規模な崩落が発生し、ルートの一部が消失した[22]

源流の河川

北岳を源流とする河川は、富士川水系早川の支流である野呂川。北岳を取り囲むように流れており、北岳の山体を西側から左俣沢、東側から大樺沢として削っている。左俣沢の上流部には落差10 mほどの左俣大滝がある[23]。また、同じく早川の支流である荒川は、主に西農鳥岳を源流としているが、北岳の南側にある北沢も荒川に流れ込んでいる[24]ため、荒川も北岳を一部源流としているということになる。

山梨県道37号南アルプス公園線は、奈良田温泉方面から野呂川に沿って広河原まで延び、さらに広河原からは北沢峠方面に南アルプス林道が延びている。北沢峠は野呂川の支流である北沢峠と天竜川水系の三峰川支流の戸台川との分水嶺である。北岳の山頂付近から延びる池山吊尾根、小太郎尾根、西尾根は野呂川で終端となる。

動植物

北岳南稜頂上付近の登山道沿いに咲くタカネマンテマ
草すべりの高山植物の群生地

北岳の植物

北岳を含む赤石山脈は、夏に降雨量が多いため、上部の森林限界ハイマツコケモモを除いて、コメツガシラビソなどの針葉樹林に覆い尽くされている[25]。森林限界の下部には、ダケカンバカラマツが多い。残雪が消えた山頂直下南東斜面の石灰岩質の場所では、北岳の固有種であるキタダケソウが咲き始める[26]。キタダケソウが世の中に紹介されるようになったのは1934年からである[20]。他に、高山植物の代表的な固有種であるキタダケトリカブトキタダケキンポウゲキタダケナズナキタダケヨモギなどが自生する。環境省の絶滅危惧II類であるキタダケソウとともに絶滅が危惧されている高山植物に、絶滅危惧I A類のタカネマンテマがある[27]。北岳の名を冠し保護が盛んに叫ばれているキタダケソウよりも深刻な状態にあり、盗掘などが原因で個体数が減少している[27]。2010年では100株以下に数を減らしていると考えられている[27]

登山道周辺の高山植物

各登山道周辺では以下の種が分布している[28][29]

ハイマツ キタダケソウ チョウノスケソウ ハクサンイチゲ ミヤマハナシノブ ミヤマキンポウゲ

「キタダケ」を冠する和名の種のレッドリスト

山域には10種以上の「キタダケ」を冠する和名の種が自生している[30]。多くの種は環境省や山梨県[31]など各県のレッドリストに指定されている[32]

  • 絶滅危惧I A類 (CR) の種
    • 環境省 - キタダケイチゴツナギ、キタダケキンポウゲ、キタダケデンダ、キタダケトリカブト
    • 山梨県 - キタダケイチゴツナギ、キタダケキンポウゲ、キタダケデンダ、キタダケトラノオ、キタダケトリカブト、キタダケヨモギ
  • 絶滅危惧I B類 (EN) の種
    • 環境省 - キタダケカニツリ、キタダケナズナ、キタダケヨモギ
    • 山梨県 - キタダケカニツリ、キタダケソウ、キタダケナズナ
  • 絶滅危惧II類 (VU) の種
    • 環境省 - キタダケソウ、キタダケトラノオ
  • 準絶滅危惧 (NT) の種
    • 環境省 - キタダケオドリコソウ
和名 学名 絶滅危惧分類
キタダケイチゴツナギ
北岳苺繋
Poa glauca var. kitadakensis イチゴツナギ属
Poa
イネ科
Poaceae
CR環境省
CR山梨県
キタダケオドリコソウ
北岳踊子草
Lamium album var. kitadakense オドリコソウ属
Lamium
シソ科
Lamiaceae
VU静岡県
キタダケカニツリ
北岳蟹釣
Trisetum spicatum var. kitadakensis カニツリグサ属
Trisetum
イネ科
Poaceae
EN環境省
EN山梨県
キタダケキンポウゲ
北岳金鳳花
Ranunculus kitadakensis キンポウゲ属
Ranunculus
キンポウゲ科
Ranunculaceae
CR環境省
CR山梨県
キタダケソウ
北岳草
Callianthemum hondoense キタダケソウ属
Callianthemum
キンポウゲ科
Ranunculaceae
UV環境省
EN山梨県
キタダケデンダ
北岳連朶
Woodsia subcordata イワデンダ属
Woodsia
メシダ科
Woodsiaceae
CR環境省・山梨県
別名:ヒメデンダ
キタダケトラノオ
北岳虎尾
Pseudolysimachion kiusianum
var. kitadakemontanum
ルリトラノオ属
Pseudolysimachion
ゴマノハグサ科
Scrophulariaceae
UV環境省・CR山梨県
別名:シナノルリトラノオ
キタダケトリカブト
北岳鳥兜
Aconitum kitadakense トリカブト属
Aconitum
キンポウゲ科
Ranunculaceae
CR環境省
CR山梨県
キタダケナズナ
北岳薺
Draba kitadakense ナズナ属
Capsella
アブラナ科
Brassicaceae
EN環境省
EN山梨県
キタダケヤナギラン
北岳柳蘭
Chamerion latifolium ヤナギラン属
Chamerion
アカバナ科
Onagraceae
キタダケヨモギ
北岳蓬
Artemisia kitadakensis ヨモギ属
Artemisia
キク科
Asteraceae
EN環境省
CR山梨県
キタダケリンドウ
北岳竜胆
Gentiana scabra var. kitadakensis リンドウ属
Gentiana
リンドウ科
Gentianaceae
CR長野県

ニホンジカによる食害調査報告

山梨県は2008年度から白峰三山周辺で、ニホンジカの食害による被害の調査を行っている[33]。2008年度の調査では、特に草すべり上部で多くの獣道が見られた[33]。こうした調査を受け、2009年度に環境省は南アルプス国立公園高山植物等保全対策検討会を設置し、この検討会にて「南アルプス国立公園及び隣接する地域における高山植物等保全対策基本計画」を策定した[33]。この計画に基づき2010年度から本格的な調査や対策が行われた[33]

北岳の動物

稜線上のハイマツ帯にはライチョウ[34]ホシガラスイワヒバリなどが生息し、山梨県の絶滅危惧I A類(CR)に指定されている[31]。山腹の1,000 mから2,600 m付近には特別天然記念物であるニホンカモシカが生息している[25]ホンドオコジョも生息し、岩の隙間を住処としている[34]。また、前述のシカの他にニホンザルも高山帯に進出して食害を引き起こしている[34]。気温の高い夏の間を稜線付近で過ごしながら高山植物を食み、高山植物が減り気温が低くなる8月下旬に稜線付近から下りるという行動が観察されている[34]

ライチョウ ホシガラス イワヒバリ ニホンカモシカ ニホンジカ

人間史

毛無山より望む白峰三山
左から農鳥岳間ノ岳、北岳

古くから、北岳、間ノ岳、農鳥岳一帯の山体は、「白い雪をかむった山」という意味で白根山または白峰山と呼ばれた。平安時代前期の和歌集『古今和歌集』では「君すまば甲斐の白嶺のおくなりと雪ふみわけてゆかざらめやは」と詠われ、平安期の『後拾遺和歌集』では、「いづかたと甲斐の白ねは知らねども、雪降るごとに思ひこそすれ」と詠まれた。鎌倉時代に成立した軍記文学『平家物語』では「北に遠ざかりて雪白き山あり、問へば甲斐の白嶺といふ」と記された[35]

江戸時代後期に成立した甲斐国地誌甲斐国志』では、「南北に連なりて三峯あり、其北の方最も高き者を指して今専ら白峯と称す」と記された。南北に連なる白峰山の一番北にあることから北岳と呼ばれるようになった[7][36]。現在では三つの峰それぞれを1つの山として取り扱っているが、これらの山々を合わせて白峰三山(しらねさんざん)と呼ぶこともある[14]

また、江戸時代に制作された甲斐国絵図類においても白根岳は富士山や八ヶ岳とともに冠雪や雲上表現、登山道の省略など神格表現で描写されており、甲府盆地を抱く特殊な霊山として認識されていたと考えられている[37]

1964年(昭和39年)6月1日には、赤石山脈の多くの山域が南アルプス国立公園に指定され、山の上部はその特別保護地区、山腹は特別地域となっている[38]。1980年(昭和55年)には北沢峠を越える南アルプススーパー林道が開通[25]し、その後長野県と山梨県の両方向から、登山および観光用のバスが運行されるようになった。

2004年(平成16年)10月15日には国土地理院が最高点の標高を3,193 mに改定[39]。それ以前は標高3,192 mと公表されていたが、山頂の三等三角点 (3,192.18 m)[16]より南の岩盤の方が約80 cm高いことが確認されたためである[39]

登山史・登攀史

1871年(明治4年)に、巨摩郡芦安村(現在の南アルプス市芦安)の修験者である名取直江が、広河原から白根御池を経由して登頂し、里宮・中宮・奥宮を造り開山したと伝わる[2][40]。これ以後、北岳登頂が多くの登山家によってなされてゆく。

1902年(明治35年)8月23日には、イギリス人宣教師ウォルター・ウェストンが登頂し、1904年(明治37年)に日本を再訪問した際に再登頂した。この時、間ノ岳と仙丈ヶ岳にも登頂した[41]。1905年(明治38年)には伊達九郎らが、白根御池から稜線ルートにて登頂[42]。日本山岳会初代会長である小島烏水は1908年(明治41年)7月に登頂し、山頂に寛政7年(1795年)の年号が彫られた石祠を確認した[2]。積雪期に初登頂が成されたのは1925年(大正14年)3月22日で、当時京都三高山岳部であった西堀栄三郎桑原武夫ら4人が成し遂げた[35]

北岳バットレス登攀の動きも積雪期初登頂から少しして見られるようになる。初登攀は1927年(昭和2年)の7月18日[17]京都大学の高橋健治ら4人が第5尾根より無雪期に初めて登攀した[17]。初登攀から7年後の1934年(昭和9年)12月27日には、立教大学の浜野正男、榎本忠亮が東北尾根より積雪期の初登攀をした[17]。7つの岩稜の中で最後まで残されたのが積雪期中央稜である。この登攀が行われたのは太平洋戦争後になってからで、1958年(昭和33年)に奥山章、芳野満彦らが積雪期初登攀を成した[17]。中央稜の初登攀は松濤明によって1942年7月30日に成された[17]。松濤はこの時20歳、飛騨山脈南部の槍ヶ岳北鎌尾根にて死亡する7年前だった。

1962年(昭和37年)、野呂川林道(後の南アルプススーパー林道の一部)開通によって、山麓の広河原までの往来がしやすくなり、登山客が増加するきっかけとなった。

登頂を目指して活発に登山が行われた明治大正時代、1924年(大正13年)に登山者のための山小屋が造られた[42]。それから54年後の1978年(昭和53年)7月には、山梨県が北岳山荘を建造した[43]

第126代天皇徳仁は登山を趣味として国内の多くの山へ登り、立太子前の1987年(昭和62年)8月11日、白峰三山縦走の際に北岳登頂を果たしている。

登山

登山基地である広河原[44]から入山する登山者の7割が北岳を目指す[35]。山頂付近には、山頂をはさんだ南北両側の稜線上に山小屋がそれぞれ1軒ずつある[43][45]。北岳バットレスにも登攀ルートが伸びている。登山道沿いは高山植物が豊富で、特に山頂の南東側斜面(中白峰までの縦走路付近)、山頂北側の白根御池上部の「草すべり」や「右俣コース」、北岳肩の小屋のキャンプ指定地付近などに大きな群落があり、夏には100種以上の高山植物が見られる。

登山コース

広河原からのコース

大樺沢雪渓と北岳
南側の北岳山荘方面より山頂を目指す登山者
  • 広河原 - 大樺沢 - 二俣 - 八本歯のコル - 山頂
  • 広河原 - 大樺沢 - 二俣 - 小太郎尾根 - 北岳肩の小屋 - 山頂
  • 広河原 - 白根御池小屋 - 小太郎尾根 - 北岳肩の小屋 - 山頂

南アルプス市芦安の広河原は、南アルプス林道と山梨県道37号南アルプス公園線との合流部の野呂川右岸にあり、北岳へのメインルートの登山口である。甲府方面や北沢峠方面へのバス発着所がある「野呂川広河原インフォメーションセンター」[46]と、それに隣接して宿泊施設「広河原山荘」[44]が建つ。毎年6月末にインフォメーションセンター前の広場で、南アルプス開山祭が行われている。この広場に1989年(平成元年)10月15日、南アルプス開祖の人として、ウォルター・ウェストン、名取運一、天野久の3名のレリーフが埋め込まれた石碑が設置された[47]

広河原からの登路は大樺沢(おおかんばさわ)左俣を利用するもの、大樺沢右俣を利用するもの、草すべりを利用するものの三つに大別される[18]が、大樺沢を経由するコースは2019年の台風19号により登山道の崩壊や仮設橋の流出などの被害を受け[48]、地形変化が進んだため、2025年時点で通行止めとなっている[49]

大樺沢左俣コースは、夏も残る雪渓歩きや北岳バットレスの展望が特徴[18][50]。途中、八本歯のコルでは梯子を使って登る箇所があり、このコースを登りきると山頂南側の稜線に出る[50]。右俣コースは、二俣から右俣と呼ばれる沢沿いを登る[51]。このコースを登りきると、山頂北側の稜線に出る[51]。草すべりを利用するものは白根御池小屋を経て[52]、同小屋裏から延びる「草すべり」と呼ばれる急な登山道を登る[52]。このコースを登りきると、小太郎尾根の稜線に出て右俣コースと合流し、山頂へ至る[52]

両俣からのコース

  • 野呂川出合 - 両俣 - 左俣大滝 - 中白峰沢ノ頭 - 北岳肩ノ小屋 - 北岳[24]

西側から登るコースである[53]が、渡渉箇所が多く道も不明瞭であり、梯子や標識なども整備されていない[54]ため、2025年時点で通行止めとなっている[55]

野呂川出合から林道を歩き[53]、両俣に建つ両俣小屋に向かう。両俣から野呂川左俣沿いの登山道を歩き、最後の給水地点となる左俣大滝[23]に向かう。この滝の高さは10 mほどである[23]。左俣大滝で沢から離れ、中白峰沢ノ頭を経由して北岳の北側の登山道に合流する[53]

広河原が主要な登山口となっているため、このコースの利用者は他のルートと比較して少ない[53][18]

池山吊尾根からのコース

  • 鷲ノ住山 - あるき沢橋 - 池山御池小屋 - ボーコン沢ノ頭 - 八本歯のコル - 北岳

バリエーションルートとして、池山吊尾根コース(鷲住山展望台からボーコン沢ノ頭を越えて山頂に至る)があるが、一般向きではない。ただし、冬季にはこのルートが一般路となる[56]

白峰三山縦走のコース

  • 北岳 - 北岳山荘 - 中白根山 - 間ノ岳 - 農鳥小屋 - 西農鳥岳 - 農鳥岳 - 大門沢下降点 - 大門沢小屋 - 奈良田第一発電所 - 奈良田

山頂からは中白根山、間ノ岳、西農鳥岳、農鳥岳を経由して奈良田温泉に下山する白峰三山縦走路が南に続いている[18]。間ノ岳でこの縦走路と分かれて三峰岳へ進むと、赤石山脈主稜線の縦走路と合流する。

北岳バットレス(登攀ルート)

  • 広河原 - 大樺沢 - 二俣 - バットレス - 北岳

北岳バットレスには7つの岩稜があり、中でも第4尾根が主たる登路となっている[18]。尾根の間にはガリー(岩溝)があり、それぞれ名が付けられている[17]

山小屋

周辺には、下表に挙げる複数の山小屋があり、うち一部の小屋にはキャンプ指定地が併設されている。主に無雪期の登山シーズン中に有人の営業が行われ、冬期は一部が緊急避難場所として開放される小屋がある[57]。水は山小屋の天水またはペットボトルのミネラルウォーターを購入するか、あるいは条件により小屋の水場で得ることができる。

北岳周辺で営業をしている山小屋で、最も利用されているのは北岳山荘である[58]。2004年から2008年にかけての間は、毎年1年間で8,000人前後の利用者を集めた[58]。次いで利用されているのは北岳肩の小屋で[58]、同様の期間におおよそ毎年6,000人の利用者を集めた[58]。広河原にあった国民宿舎広河原ロッジは、2004年(平成16年)3月に閉鎖されて、その後撤去された。

周辺の山小屋に関する情報は下表を参照[24]

画像 名称 所在地 標高 (m) 北岳からの
方角と距離 (km)
収容
人数
キャンプ
指定地
備考 出典
広河原山荘 広河原 1,510 北東 3.8 101 テント50張 2022年新築移転 [44]
両俣小屋 野呂川左俣沢出合 2,020 西 3.2 30 テント40張 [59]
白根御池小屋 白根御池畔 2,238 北東 1.8 51 テント80張 [60]
北岳肩の小屋 北斜面山頂直下 3,010 北 0.5 80 テント50張 [45]
北岳山荘 北岳・中白根山鞍部 2,900 南南西 1.2 150 テント80張 昭和大学医学部夏山診療所 [43]
池山御池小屋 池山吊尾根の御池畔 2,900 東 4.1 30 なし 避難小屋 [61]
農鳥小屋 間ノ岳・西農鳥岳鞍部 2,800 南 4.9 120 テント50張 [62]
熊の平小屋 仙塩尾根井川越 2,800 南西 5.7 30 テント25張 [63]
大門沢小屋 大門沢上部 1,765 南南東 7.5 100 テント40張 [64]

交通・アクセス

最寄りの登山口である広河原へ通じる道路はマイカー規制が行われる[65]ため、夜叉神峠や戸台(北沢峠経由)からの観光や登山用の市営バスが運行されている[66]。この市営バスの利用者は、2008年度には山梨県側から26,636人、長野県側から43,635人が利用した[67]。1980年の運行開始以来、2008年度までに累計1,888,554人がこれらのバスを利用した[66][67]

北岳が取り扱われた作品

芸術・文学

テレビ番組

楽曲

日本第二位の高峰として

北岳は日本で二番目に高い山であるものの、一番目である富士山に比べて知名度は高くない。阪急交通社が2021年に実施した調査では、日本一高い山である富士山の知名度が81.3%であったのに対し、二番目の北岳は17.9%という結果であった[73]。このため、日本で一番高い山が富士山であることは多くの人が知っているが、二番目が北岳であることはそれほど知られていないことを前提として、一番にならないと意味がないと主張する場合に北岳が引用されることがある[74]

一方、北岳が位置する南アルプス市の住民グループは、二番目であることを肯定的に捉え[75]、一番目に劣らない魅力を発信するため[76]、日本で二番目に広い湖の霞ヶ浦がある茨城県かすみがうら市の観光業者や、日本で二番目に狭い町の奈良県三宅町などと連携し、2022年2月22日に「日本No.2協会」を設立した[75]

ギャラリー

北岳からの眺望
北岳から北側の眺望
北岳から南側の眺望
北岳の風景

脚注

注釈

  1. ^ 深田久弥は『日本百名山』中で、アサヨ峰方面からの北岳の山容を「惚れ惚れするくらい高等な美しさの絶品」と表現している。

出典

  1. ^ a b c 基準点成果等閲覧サービス”. 国土地理院. 2017年10月3日閲覧。
  2. ^ a b c 山と溪谷社(1992)
  3. ^ 中西(1993)、18頁
  4. ^ 深田久弥『日本百名山』朝日新聞出版、1982年7月、297-300頁。 ISBN 4-02-260871-4 
  5. ^ a b 田中澄江『新・花の百名山』文藝春秋、1995年6月、189-192頁。 ISBN 4-16-731304-9 
  6. ^ 山梨百名山”. 社団法人やまなし観光推進機構. 2010年11月6日閲覧。
  7. ^ a b 『コンサイス日本山名辞典』三省堂、1992年12月、154頁。 ISBN 4-385-15403-1 
  8. ^ a b c 南アルプス総合学術検討委員会(2010)、22頁
  9. ^ 北岳・池山吊尾根”. 南アルプス芦安山岳館. 2010年11月12日閲覧。
  10. ^ a b 小泉(2000)、64頁
  11. ^ a b c d 小泉(2000)、38頁
  12. ^ a b 南アルプス総合学術検討委員会(2010)、29頁
  13. ^ 南アルプス総合学術検討委員会(2010)、23頁
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参考文献

関連項目

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