サンカヨウ
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サンカヨウ | |||||||||||||||||||||
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分類(APG III) | |||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||
Diphylleia grayi F.Schmidt[1] | |||||||||||||||||||||
シノニム | |||||||||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||||||||
サンカヨウ |
サンカヨウ(山荷葉、学名:Diphylleia grayi F.Schmidt[1])は、メギ科サンカヨウ属に分類される多年草の1種[5][6][7][8][9][10][11][12][13][14][15][16][17][18]。属名(Diphylleia)は、2つの(di)と葉(phyiion)のギリシャ名[10][12][16]。種小名(grayi)は北米の分類学者のエイサ・グレイ(Asa Gray)の献名[11][16]。シノニムの種小名(cymosa)は集散花序の(cymosus)を意味する[16]。和名は漢名に由来する[5][8][10]。ただし中国の山荷葉は別の植物だといわれる[5][10]。荷葉はハスの葉を意味し、本種の葉がハスの葉に似ているとし[18]、山のハスを意味する[12][14]。
特徴
根茎は太く、横にはい、多くのひげ根を出す[9]。古い茎の基部が残っているところから高さ30-60 cm[6]の茎がでる[5]。1株1茎で[10]、やや肥厚して枝分かれしない[11]。生長が早く、1日で5-10 cm茎を伸ばす[14]。茎の基部には根出葉はなく、鱗片がある[9]。葉と茎に縮毛がある[5][6][9]。ふつう葉は2個が互生する[7][9]。下の葉は長さ10-30 cm、幅12-35 cmの腎円形で粗い鋸歯があり、上端と基部は湾入し、長い葉柄に楯状につき[9]、フキの葉と同大[8]。上の葉は小さく、ほとんど無柄で[5][6]、湾入した基部で茎につき楯状にならない[9]。どちらの葉も中央に深い切れ込みがあり、縁には不揃いの鋸歯がある[5]。葉裏の脈は著しい[10]。
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葉は2個が互生する
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上の葉は小さく、下の葉は長い葉柄に楯状につく
茎の先端に直径約2 cmの白色の花を集散状に3-10個つける[9]。花に比べて葉が大きい[13]。外萼片6個は緑色で小さく[9]、早く落ちて、花が満開のころには落下していることが多い[5]。内萼片は6個で、白色で花弁状[9]の広披針形[5]、長さ8-10 mm。蜜腺をもった花弁はない[9]。黄色の6個の雄蕊が緑色の雌蕊を囲む[7]。雄蕊は長さ3-4 mm[11]、葯は外向し、弁開する[9]。雌蕊は1個で花柱は短く[11]、側膜胎座に胚珠を2列につける[9]。花は雨に濡れると磨りガラスが濡れて透明になる現象と同じ原理で透明になることから、スケルトンフラワーと呼ばれていて[19]、花弁が散らない程度の弱い雨が長時間続き、低温高湿状態になるという条件を満たしてはじめて透明になる[20]。極微芳香がある[12]。開花時期は5-8月[6]、島根県大万木山では5月[21]、木曽駒ヶ岳では7月上旬-7月下旬[15]。染色体数は2n=12(2倍体)[7]。
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茎の先端に集散状に白い花をつけ、黄色の6個の雄蕊が緑色の雌蕊を囲む
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外萼片6個は緑色で小さく、花が満開のころには落下していることが多い
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雨に濡れて透明になる花(スケルトンフラワー)
果実は液果で長さ1-1.3 cmの楕円形[11]、熟すと黒紫色になり、白粉をかぶり、甘酸っぱく食べられ[6][9]、中に数個の種子が入っている[5]。
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若い果実
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熟すと黒紫色になり、白粉をかぶり、中に数個の種子が入っている
分布・生育環境

日本、サハリンの[6][7][12]、温帯から亜寒帯にかけて分布する[9]。日本では北海道、本州(中部地方以北と大山)に分布する[6]。日本海側の多雪地帯の要素である[22]。近畿地方では、大峰山と伊吹山に分布する[11]。広島県廿日市市が西限と思われている[22]。長野県北安曇郡白馬村の白馬大雪渓末端の白馬尻では、残雪が解ける端から次々と花が咲き、同時期にオオサクラソウ、キヌガサソウ、シラネアオイなどの花が見られる[7]。基準標本はサハリンのもの[6][7]。雪が解けて間もなく葉が地上に出て、開ききらないうちに花が咲き出す[15]。
低山地帯上部から高山帯下部にかけての[11]深山[5]の湿った[7]林縁、林内、広葉草原の半陰地[12]に生育する[6]。北海道では札幌市円山公園の低地でも見られる[18]。伊吹山では山頂部の低木林やササ原の下に生育する[17]。
種の保全状況評価
日本では環境省によるレッドリストの指定を受けていないが[23]、以下の都道府県のレッドリストで指定を受けている。自然公園法により、大山隠岐国立公園と氷ノ山後山那岐山国定公園などで指定植物に指定されている[24]。シカによる食害で個体数が減少している地域がある[25][26][27]。氷ノ山ではシカから守るための電気柵が設置されている[26]。
- 絶滅危惧IA類(CR+EN) - 島根県[28]
- 絶滅寸前種 - 奈良県[29]
- 絶滅危惧IB類(EN) - 山梨県[27]
- 絶滅危惧II類- 岡山県[24]、広島県[30]
- Bランク - 兵庫県[25]
- 準絶滅危惧 - 鳥取県[26]
- 分布上重要種 - 滋賀県[31]
脚注
- ^ a b 米倉浩司・梶田忠. “サンカヨウ”. (2003-) 「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList),http://ylist.info(2025年9月18日). 2025年9月18日閲覧。
- ^ 米倉浩司・梶田忠. “サンカヨウ”. (2003-) 「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList),http://ylist.info(2025年9月18日). 2025年9月18日閲覧。
- ^ 米倉浩司・梶田忠. “サンカヨウ”. (2003-) 「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList),http://ylist.info(2025年9月18日). 2025年9月18日閲覧。
- ^ 米倉浩司・梶田忠. “サンカヨウ”. (2003-) 「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList),http://ylist.info(2025年9月18日). 2025年9月18日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k 林 (2009)、464頁
- ^ a b c d e f g h i j 豊国 (1988)、431頁
- ^ a b c d e f g h 清水 (2014)、80-81頁
- ^ a b c 門田 (2013)、209頁
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o 佐竹 (1982)、88頁
- ^ a b c d e f 牧野 (1982)、126頁
- ^ a b c d e f g h 前沢 (1970)、99頁
- ^ a b c d e f 小野 (1987)、534頁
- ^ a b 久保田 (2007)、174頁
- ^ a b c 高村 (2005)、82頁
- ^ a b c 林 (2002)、40頁
- ^ a b c d 大川 (2009)、79頁、123頁
- ^ a b 村瀬 (2010)、80頁
- ^ a b c 岡田尚武. “北の息吹 - 日本の魅力的なワイルドフラワー500種 統合版(和名順)” (PDF). 北海道大学. pp. 252. 2025年9月21日閲覧。
- ^ 小野 (2024)、522頁
- ^ “サンカヨウ”. 建築照明計画株式会社 (2020年3月27日). 2025年9月21日閲覧。
- ^ “大万木山のサンカヨウ”. 島根県. 2025年9月21日閲覧。
- ^ a b 吉野由紀夫. “広島県のサンカヨウ (Diphylleia grayi Fr.Schm.) の新産地とアオホオズキ(Physaliastrum savatieri (Makino) Makino)” (PDF). 広島市植物公園. pp. 7. 2025年9月21日閲覧。
- ^ “環境省レッドリスト2020の公表について”. 環境省 (2020年3月27日). 2025年9月21日閲覧。
- ^ a b “岡山県版レッドリスト2025_植物編” (PDF). 岡山県. pp. 169. 2025年9月21日閲覧。
- ^ a b “兵庫県版レッドリスト2020(植物・植物群落)” (PDF). 兵庫県. 2025年9月21日閲覧。
- ^ a b c “レッドデータブックとっとり第3版2022” (PDF). 鳥取県. pp. 305. 2025年9月21日閲覧。
- ^ a b “山梨県 レッドデータブックの改訂 (平成30年3月公開)、植物” (PDF). 山梨県. pp. 70. 2025年9月21日閲覧。
- ^ “改訂しまねレッドデータブック2013植物編” (PDF). 島根県. pp. 42. 2025年9月21日閲覧。
- ^ “レッドデータブック2016改訂版 選定種目録(奈良県レッドリスト)、維管束植物” (PDF). 奈良県. pp. 54. 2025年9月21日閲覧。
- ^ “絶滅のおそれのある野生生物(「レッドデータブックひろしま2021」)について” (PDF). 広島県. pp. 488. 2025年9月21日閲覧。
- ^ “「滋賀県で大切にすべき野生生物-滋賀県レッドデータブック-」について”. 滋賀県. 2025年9月21日閲覧。
参考文献
- 大川勝德『伊吹山の植物』幻冬舎ルネッサンス、2009年10月20日。ISBN 9784779005299。
- 小野幹雄、林弥栄『原色高山植物大図鑑』北隆館、1987年3月30日。 ISBN 4832600079。
- 小野洋介「構造色による斬新なデザインの具現化」(PDF)『日本デザイン学会研究発表大会概要集』、日本デザイン学会、2024年、522頁、doi:10.11247/jssd.71.0_522。
- 門田裕一、畔上能力、永田芳男、菱山忠三郎、西田尚道『山に咲く花』(増補改訂新版)山と溪谷社〈山溪ハンディ図鑑〉、2013年3月30日。 ISBN 978-4635070218。
- 久保田修『高山の花―イラストでちがいがわかる名前がわかる』学習研究社、2007年6月。 ISBN 978-4054029033。
- 佐野光雄『イラストで見る富士山の草花』東洋館出版社、2019年11月16日。 ISBN 978-4491037509。
- 清水建美、門田裕一、木原浩『高山に咲く花』(増補改訂新版)山と溪谷社〈山溪ハンディ図鑑8〉、2014年3月22日。 ISBN 978-4635070300。
- 高村忠彦『季節の野草・山草図鑑―色・大きさ・開花順で引ける』日本文芸社〈実用BEST BOOKS〉、2005年5月。 ISBN 4537203676。
- 豊国秀夫『日本の高山植物』山と溪谷社〈山溪カラー名鑑〉、1988年9月。 ISBN 4-635-09019-1。
- 佐竹義輔、大井次三郎、北村四郎、亘理俊次、冨成忠夫 編『日本の野生植物 草本II離弁花類』平凡社、1982年3月17日。 ISBN 458253502X。
- 林芳人『中央アルプス駒ヶ岳の高山植物』ほおずき書籍、2002年8月31日。 ISBN 9784434022678。
- 林弥栄『日本の野草』山と溪谷社〈山溪カラー名鑑〉、2009年10月。 ISBN 9784635090421。
- 前沢秋彦『高山植物』保育社〈標準原色図鑑全集 11〉、1970年1月。 ISBN 4586320117。
- 牧野富太郎『原色牧野植物大図鑑』北隆館、1982年7月。ASIN B000J6X3ZE。
- 村瀬忠義『伊吹山お花事典』伊吹山ドライブウェイ、2010年3月1日。
外部リンク
- サンカヨウの標本 国立科学博物館標本・資料統合データベース
- サンカヨウなどの標本 山形県立博物館
- サンカヨウの標本(1951年7月28日に岩手県岩手山で採集) 千葉大学附属図書館学術成果リポジトリ
- サンカヨウ 広島大学デジタル標本館
- Diphylleia grayi F.Schmidt GBIF 2024年11月24日閲覧。
- サンカヨウのページへのリンク