環境と生産量
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太田川大橋周辺。橋の向こう側に草津がある。見えている杭はカキ用のもので、1960年代までこのような沿岸部が主要な採苗地点であった。 宮島弥山から東方向の大奈佐美島・江田島能美島を望む。海上に浮かぶのはすべてカキ筏。沿岸部で採苗できなくなって以降、1970年代から1980年代にかけてこの海域が主要採苗地点であった。 1990年大黒神島。1990年代以降に定着した採苗地点であり、生食用カキ採取指定海域の中でも屈指の海水透明度を誇る。 1990年阿多田島。広島県で唯一ハマチ養殖が行われているところで、島側がハマチ用生簀、沖側がカキ筏。 2006年大崎上島。島の北西側に3箇所見える池が塩田跡で、カキの陸上養殖が行われている。 高度経済成長期に全国的な規模で公害が問題となった1950年代以降、広島のカキもその影響を受けている。 1966年(昭和41年) 、広島産の酢カキが原因と推測される食中毒が発生、関東以西11都府県で患者数1,596人、全員が軽度の腹痛と下痢、重症者0人死者0人。 これ以前には小規模の食中毒は発生していたが、大規模なものは初めてであった。当時いくつかの衛生研究所で感染経緯を調査したが、結局原因を特定するには至らなかった。この時代、都市化・工業化および下水道未発達のため海域汚染が増えていたことに加え、海域検査基準が未整備であったため、発生したと推察されている。 この食中毒事件が契機となり、翌1967年(昭和42年)国は「生食用かきの成分規格加工基準および保存基準」を作成し、細菌数・大腸菌最確数の成分規格基準やパッケージに生食用/加熱調理用の明示など、現在の生食カキに関する規格基準が作られた。また県は清浄化対策推進本部を設置、様々な施策・指導が行われ、例えば県独自の生食用かき採取海域つまり大腸菌群最確数を基準として指定海域・条件付き指定海域を策定した。 1973年(昭和48年)、豊田郡安浦町・安芸津町(現呉市・東広島市)および福山市松永湾でとれたカキから最高4.95ppmの高濃度カドミウムが検出。県を中心に広島かき衛生対策協議会を設置し対策した。 沿岸部から沖合に採苗地点を移し筏採苗が普通になった1970年代から80年代にかけて、赤潮や貧酸素水塊の発生、ムラサキイガイ・フジツボ類・カンザシゴカイ類・ホヤ類などの付着生物が顕著となったため、1990年代には更に沖の島嶼部へと移っていった。 1990年代以降現在まで、広島ではカキの生産量減少傾向が続いている。その理由については諸説ある。 都市化による漁場環境の悪化 広島湾周辺から都市生活排水・工業排水の流入そして閉じられた湾であるため海水交換が不十分であることから水質が悪化している。加えて少雨などの気候も関係してくる。 漁業関係者による環境保全としては、河川上流域の山々に植林し森林整備することで魚介類にとって良好な生育環境を整える「漁民の森」事業がある。これは他県で行なわれていた事業を広島にも取り入れたもので、1995年(平成6年)広島市かき養殖連絡協議会が始め、1996年(平成7年)から県漁連が事務局となり県内で広く行われるようになった。 過密養殖による漁場環境の悪化 カキ筏から出る糞やゴミなどが海底にたまり、過剰になると貧酸素化するというもの。 市場需要により肥満度の高いカキを育てるため、あるいは減少する生産量を補うため、筏に吊るすカキの量を過剰に増やし養殖期間を伸ばしていき、結果海底が悪化する、という悪循環に陥る。ただ1999年時点での研究では、養殖を要因とする海底悪化からの貧酸素水塊発生は局地的なものであるとしている。 これに対し漁場にあった適切な密度で養殖を行うよう指導されている。 貝毒 1992年(平成4年)広島湾から採取されたカキから貝毒が検出され出荷自主規制。1998年(平成10年)まで行われ、1990年代に生産量が減少した要因の一つとなった。 県による貝毒対策実施要領など流通を防ぐ対策が取られている。 有害プランクトンによる赤潮 高度経済成長以降、赤潮が頻発し問題化していた。ただ赤潮を起こすプランクトンが養殖カキにとって全て有害なわけではなく、更に近年は赤潮自体が減少傾向にあった。そこへ、昔は見られなかった種類の赤潮が発生するようになった。その代表例がヘテロカプサ・サーキュラリスカーマによる赤潮であり、広島湾では近年1995年(平成7年)・1997年(平成9年)・1998年(平成10年)と発生し、特に1998年のものは被害総額で38億円余にのぼった。 食害 カキの稚貝が魚に食べられてしまうことで斃死する被害。 広島では1980年代以降クロダイの放流事業が行われたことで漁獲が回復し、現在クロダイ漁獲量は全国1位である。養殖カキの食害はこのクロダイが主犯であると考えられている。他にもフグ類の食害も確認され、これらは餌となるムラサキイガイが減少してくるとカキを狙うと考えられており、実際カキへのムラサキイガイ付着が多かった年は食害が減少している。 また生産業者は食害を見込んで多めに種苗するため、過密養殖となり不十分な状態のまま抑制へ移るため、量や質に影響してくる。 これに加えて台風による被害もある。近年では2004年(平成16年)台風10号・16号・18号・21号・23号により総額約74億円もの被害を出した。 2006年(平成18年) ノロウイルスが大流行した際カキがその感染源であるとして名指しされたことにより、過剰にカキが敬遠されるという風評被害の状態になった。 近年の年度別生産量等生産量(t)生産額(億円)経営体数計生鮮用加工用計生鮮用加工用缶詰用冷凍等用乾燥等用2009年 20,300 8,300 110 10,140 1,750 153 87 66 323 2010年 19,500 7,600 - 10,640 1,260 154 81 73 318 2011年 21,100 10,000 9,970 1,130 168 108 60 315 2011年 19,300 8,700 9,540 1,060 155 96 59 308 2012年 21,200 9,000 10,800 1,400 174 95 79 314 2013年 18,700 7,300 11,050 350 213 105 108 314 2014年 17,100 7,200 8,910 990 179 98 81 300 2015年 18,800 7,100 10,110 1,590 176 91 85 304 また環境問題としては、カキ筏から出る漂流ゴミや加工後の貝殻と、ゴミ問題が叫ばれている。生産業者としては燃料の高騰などコストの問題もあり経営を圧迫している。
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