貧酸素水塊の発生
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/03 06:24 UTC 版)
伊勢湾の水質については、特に夏場における貧酸素水塊の形成が問題視されている。貧酸素水塊は、大雨後に晴天や水温の上昇、穏やかな潮流が続いた場合に発生し易い。なお、この条件は、梅雨時期から夏季に整い易い。 その背景は、まず大雨後に、伊勢湾へと注ぐ幾多の河川から栄養塩が大量に流入し、植物プランクトンに必要な物質が揃った所に、充分な太陽光が加わった結果、海水表層で植物プランクトンが大繁殖する。特に、潮流が穏やかな場合は、赤潮が発生に至り易い。その後、大繁殖したプランクトンが栄養塩の枯渇や気象変化等により大量死した際に、その死骸は沈降する。死骸は海底で微生物により分解される際に、溶存酸素が大量に消費され、貧酸素水塊が発生する。 さらに夏季は、強い日射により表層水温が上昇するため水温成層が発達し、加えて、大雨や河川水の流入によって密度成層が顕著になると、湾内の海水の鉛直混合が妨げられる。この結果、より大規模な貧酸素水塊が発達し易くなる。貧酸素水塊は、梅雨後期に発達し(密度成層が発達)、夏季に最盛期を迎え(水温成層及び密度成層が発達)、秋季に海水温の低下に伴い、減衰する。 また、日本列島沿岸を流れる黒潮が蛇行して伊勢湾湾口から離れている場合は、外海水との海水交換量が減少し、これも貧酸素水塊が発生を助長する。 これらの要因で発生した貧酸素水塊は、逃避能力が低い二枚貝などの底生生物に大きな影響を与える。底生生物に限らず、海水中に充分な溶存酸素が無いと生きられない水棲生物が窒息死すると、その死骸が水底で微生物によって分解される際にも溶存酸素が消費され、同様に貧酸素水塊の発生につながる。 加えて、特に底生生物は海水中の有機物を食糧として消費する事で水質浄化に大きく寄与している事で知られるが、底生生物の窒息死に伴い、この水質浄化も滞り、さらなる水質悪化を招き、これも赤潮の発生を誘発し得るなど、悪循環に陥る。 なお、貧酸素水塊が海底に発生している状況下で、陸から沖方向へ強い風が吹くと、水面近くの水が沖方向へ流され(吹送流)、海底近くの海水が湧き上がる現象が発生する。しばしば貧酸素水塊には微生物の作用によって硫化水素が含まれており、硫化水素などを含んだ貧酸素水塊が上昇してくる現象を青潮(苦潮)と言い、沿岸漁業に大きな被害が発生する場合がある。
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