環境と社会的影響
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/04 14:20 UTC 版)
「ダムと環境」も参照 ユーフラテス川のダムの建設と灌漑の計画は環境と川沿いの国々の社会に重大な影響を与えている。ユーフラテス川とティグリス川の流域の双方でGAPの一環として建設された複数のダムは382の村落に影響を及ぼし、200,000人の人々が他の土地へ移住することになった。 最も多くの人口の移住を必要としたのはアタテュルク・ダムの建設で、このダム単独の影響で55,300人が移住した。移転を要求された人々についての調査によれば、その過半数は新しい状況に不満を持っており、受け取った補償金は十分ではないと考えられていた。シリアではアサド湖による冠水によって約4,000家族が強制的な移住を余儀なくされ、トルコとイラクの国境に沿ってアラブベルト(英語版)[要リンク修正]を作る計画の一環として、北部シリアの別の地域に移った。この計画は2009年現在では放棄されている。 ユーフラテス川の流路変更とは別に、多数のダムと灌漑の計画は環境に他の影響も及ぼしている。平均気温の高い諸国の領内における広い表面積を持った貯水池の建設は蒸発量を増加させ、それによって人類が利用可能な水の総量が減少している。貯水池からの年間蒸発量はトルコで2立方キロメートル、シリアで1立方キロメートル、そしてイラクで5立方キロメートルであると推計されている。イラク領内のユーフラテス川の水質は悪い。なぜならば上流で灌漑用水としてトルコとシリアで取水が行われ、農地で使用された水溶性の化学肥料と共に川に戻されるためである。また、上流でのダム建設の結果としてイラク領内のユーフラテス川の塩分が増加し、飲料水としての品質が低下した。多くのダムや灌漑計画と、それに付随する大規模な取水はイラクで、既に脆弱なメソポタミアの湖沼(英語版)と淡水魚の生息地に有害な影響を及ぼしている。 (ダム建設に伴う)ユーフラテス河谷の大部分での増水は、特にトルコとシリアでは多くの考古学的な遺跡や文化的な意義のある地域を浸水させている。危機に晒された文化遺産を記録または保存するために協調した努力が行われているが、多くの場所は恐らく永遠に失われた。トルコのユーフラテス川で行われたGAPの一連のプロジェクトは、危険に晒されているユーフラテス渓谷の考古学的、文化的遺産を記録するための重要な国際的努力をもたらしている。とりわけ、ビレジク・ダム(英語版)のダム湖によってゼウグマ(英語版)が貴重なローマのモザイクと共に水没したことはトルコおよび各国の報道機関の双方で多くの議論を巻き起こした。シリアのタブカ・ダムの建設はアサド湖の形成に伴う水没によって姿を消す遺産を文書化するためのUNESCOの調整の下での大規模な国際的運動に繋がった。多数の国から集まった考古学者たちはナトゥーフ文化からアッバース朝時代までの遺跡を発掘し、2本のミナレットが水没域の外側に移築された。氾濫ないしはアサド湖の水位上昇の影響を受けた重要な遺跡にはムレイベット、エマル、そしてテル・アブ・フレイラなどがある。ティシュリン・ダムの建設時にも同様の国際的な取り組みがなされ、水没する遺跡、中でも重要な前土器新石器B文化(英語版)の遺跡であるJerf el-Ahmarで調査が行われた。 考古学の一般調査と緊急発掘(英語版)はイラクのカーディシーヤ湖に水没する地域でも行われた。こうした水没した地域の一部は近年、湖が干上がったことで再びアクセスが可能になった。これによって新たに考古学者が更なる研究を行う可能性が高まったが、盗掘(英語版)も可能としており、2003年のイラク戦争の後、イラク各地で横行している。
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