【潜水艦】(せんすいかん)
Submarine.
水中への潜水、及び水中からの再浮上が可能な艦艇。
船体に潜航・浮上用のタンク(バラストタンク)を装備し、そこに海水を注・排水することで海中と海面を自在に行き交うことができる。
この特性を活かして、下記に述べるように様々な任務に投入されており、現代の海軍にとっては、戦略・戦術上重要な位置を占める艦艇となっている。
また、海中という苛酷な環境下で行動し、隠密性が何よりも重視されることから、乗員になるには航空機の搭乗員に匹敵する厳しい適性試験をクリアーすることが要求される。
そうしたことから、現代において潜水艦に搭乗する将兵は、海軍の中でもエリート集団と位置づけられることが多い。
関連:群狼戦術 てつのくじら館 サブマリナー 哨戒機 対潜機 対潜魚雷 対潜ヘリコプター
潜水艦が使用される任務
潜水艦が使用される任務の一例を以下に述べる。
これらはいずれも「水中にて行動できる」特性を活かしたものである。
- 平時及び戦時における(仮想)敵国艦船の動静監視。
- 艦隊決戦における主力艦隊の援護。
水中から魚雷や対艦ミサイルにより攻撃することで、主力艦隊到着までの時間稼ぎをする。
あるいは主力艦同士の戦闘が終結した後、駆逐艦などと共に抵抗力を失った敵の残存艦艇を掃討して戦果を決定づける。
- 敵国商船及び輸送船に対する通商破壊戦。
魚雷により船を沈める。
あるいは敵が支配する港湾や海峡に機雷を散布する。
- 戦略核兵器の分散秘匿配置。
自国が核戦争に巻き込まれる事態に備えて、弾頭に戦略核を積む巡航ミサイルや弾道ミサイルを搭載した潜水艦を展開させ、先制核攻撃が行われた際には速やかに反撃できる態勢を確立するもの。
戦略哨戒の項も参照のこと。
- 攪乱工作。
工作員や特殊部隊を敵国領内に隠密裏に輸送する。
あるいは巡航ミサイルや弾道ミサイルにより、後方の軍事拠点(港・都市・工業地帯など)をゲリラ的に攻撃する。
- 海上兵站路が絶たれて孤立した地域に対する兵員・軍需物資の隠密強行輸送。
東京急行の項も参照。
- 上記各任務にあたる敵潜水艦の探知・掃討。
動力の発達史
潜水艦は、隠密性こそが攻撃力であり防御力でもある。
登場初期は潜行時の動力が電動機、すなわちモーターであり、電源となる蓄電池の問題から長時間潜行することが難しかった。
そのため、当時の潜水艦は内燃機関で水上を航行しながら蓄電池へ充電しておき、特に必要のある場合のみ潜行する――実質「可潜艦」であり、船体構造も水上航行に適したものであることが多く、潜航時の速度は極端に低下した。
時代を下るにつれ、レーダーや音響技術の発展により、浮上しての航行は被発見率が極端に上がってしまうようになり、その一方で潜水技術も向上したのに伴い、潜水艦の船体は、常に潜航する事を前提として、水中での行動に適した涙滴型→葉巻型へと徐々に進化した。
戦後には機関として原子炉を搭載した原子力潜水艦(原潜)も登場した。
前述の通り、従来の潜水艦は動力に内燃機関(ディーゼルエンジンやガソリンエンジン)を使用していたが、機関の運転には酸素が必要なため水中で使えなかった。
そのため、水中航行には別途蓄電池が必要となり、その充電のために定期的に浮上する必要があった。
しかし、原潜はその特性上、機関の運転そのものに酸素が不要で、また乗組員への酸素は無尽蔵に得られる電力を生かした海水の電気分解により取り出せる為、長時間の潜行が可能となった。
一方で通常動力潜水艦に比べ、原子力潜水艦は機関設備がおおがかりになり、また、原子炉を常に稼動させていなければならないため、静粛性に劣るという欠点もある。
近年では、通常動力潜水艦でもスターリングエンジンや燃料電池などのAIP(非大気依存)機関を搭載し、潜航時間を延長した艦も出現している。
搭載兵装
敵艦を発見、追尾する方法は、主にソナー(音波探信儀)である。
かつては光学的に探知する「潜望鏡」も使用されていたが、センチメートル波レーダーが発明されて以後は潜望鏡の被発見率が格段に上がったため、現在は戦闘時に使用されることはまずない。
また、対水上レーダーや対空レーダーを装備しているものが多いが、使用されることは少ない。
初期の武装は魚雷と艦載砲(甲板砲とも呼ばれる)であり、第一次世界大戦では魚雷の精度が低かったため、浮上して砲戦を行うことも多かった。
その影響で、第一次世界大戦後には大型の砲塔を装備した潜水艦も何隻か出現した(シュルクーフなど)。
また、日本海軍では潜水艦に水上偵察機を搭載した艦も建造、前方海面に進出しての偵察や奇襲攻撃などに用いていた。(この発想を進化させたのが、後に「潜水空母」と呼ばれた伊400である)
しかし、1940年代ごろから徐々に砲は廃れてゆき、魚雷が支配的になった。
現在の潜水艦の武装は魚雷と艦対艦ミサイルが多く、さらに対地攻撃用の巡航ミサイルや弾道ミサイルの発射能力を持つものもある。
大戦後には核報復力としての戦略潜水艦が登場したため、戦闘用の潜水艦は攻撃潜水艦と呼ばれることがある。
秘密保持
潜水艦はその秘匿性が最大の特長であるため、性能や活動について秘密にされている事項が他の艦艇に比べても特に多い。
海上自衛隊でも、潜水艦隊は訓練内容すら秘(防衛秘密のランク)とされており、就役後には船体から番号が消されるため、同型艦の識別は困難である。
内部見学ができる事もあるが、基本的に写真は撮らせてもらえない。
ハッチの厚さから最大潜行深度を推測されてしまうのを防ぐためにハッチにカバーを取り付ける、深度計を貼り紙などで隠すなど、秘密保持が特に徹底している。
しかし、それでも秘密保持に失敗した例がいくつかある。
- イタリアのある雑誌に、建造中のドイツ潜水艦の断面写真が掲載されて耐圧船殻の厚みが露呈した事案
- この写真は「広報用」として掲載されたものだったが、内殻から甲板までの断面がしっかり映っており、その横には作業員も映っていたという。
そしてこの写真を連合国側が入手し、開発中の対潜爆雷「ヘッジホッグ」の弾頭に積むべき炸薬の必要量を割り出したという。
- オンライン地図サービスによるスクリュー形状の機密漏洩事案
- アメリカ海軍の「オハイオ」級戦略原潜の一艦が、整備のためたまたまドライドックに入渠していたところを航空写真に撮影され、その写真が、マイクロソフト社の提供するオンライン地図サービスにそのまま掲載されてしまい、機密にされていた同艦のスクリュー形状が明らかになってしまった。
必要な技術力
静寂性の確保・潜航深度・(原子炉を搭載している場合は)核関連技術・ソナーなど、潜水艦の建造は高い技術力と工業力が必要であり、また持てる技術のレベルが性能に直結するため、潜水艦を自力で設計段階から建造できる国はごく限られている。
現在の日本において、潜水艦がほぼ毎年1隻づつ竣工しているのもこうした「技術保存」の側面からであるという。
しかし、海自が作戦用に保有できる潜水艦の数が「最大16隻まで」と制限されており、また、武器輸出三原則等の関係で中古艦を外国へ売却することも出来ないため、通常動力型潜水艦としては世界トップクラスの優秀な能力を持つ艦が、わずか艦齢10数年程度で廃棄、もしくは支援任務に転用されてしまう事態になっている。
ところが、21世紀に入って武器輸出の禁が緩められつつある中で、オーストラリア海軍がそうりゅう型の輸入を検討するという噂が持ち上がるなど、既にこの「お宝」に目を付けて水面下で動き出している国もあるという。
潜水艦の区分
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