ホーマン遷移軌道
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ホーマン遷移軌道(ホーマンせんいきどう、英語: Hohmann transfer orbit) またはホーマン軌道(ホーマンきどう、英語: Hohmann orbit)とは、同一軌道面にある2つの円軌道の間で、軌道を変更するための遷移軌道である。ドイツのヴァルター・ホーマンが1925年に提案した。
概念

宇宙力学 |
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ホーマン遷移軌道は、内側の軌道上に近点が有り、外側の軌道上に遠点が有る楕円軌道である(近点・遠点を参照)。軌道半径の比が約11.94を超えず、同一の軌道面上の2つの円軌道の間の遷移の中で、最少のエネルギーで遷移できる軌道である。また、近点と遠点の2回だけしか速度変化を必要としない。なお、軌道半径の比が約11.94を超える場合には、二重楕円遷移の方がエネルギー効率が高い。
静止トランスファ軌道は、低軌道から静止軌道へのホーマン遷移軌道である。地球において、その静止衛星の軌道投入では、ほとんどが静止トランスファ軌道を使用している。なお、低軌道の軌道面が赤道面と一致している事はまずないため、ホーマン遷移と同時に軌道面の遷移も行う。
惑星探査機では、黄道面および目的地の軌道傾斜角が問題となることや、打ち上げタイミングが会合周期(惑星により0.3年 - 2.2年)に1回しか訪れないため、単純なホーマン遷移軌道を使う事例は少ない。
参考文献
- ホーマン軌道 - 宇宙航空研究開発機構(JAXA) 宇宙情報センター
関連項目
月遷移軌道
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/25 02:43 UTC 版)
司令船操縦士であるラヴェルに与えられた主な役割は、航法士 (ナヴィゲーター) であった。管制センターは宇宙船の軌道計算を完璧に行っていたが、もし万が一センターとの連絡が途絶えてしまった場合でも安全に帰還できるように、飛行士の誰かが航法士として軌道を計算する必要があった。ラヴェルは宇宙船に組み込まれた六分儀を使って星を観測し、星と地球 (もしくは月) の地平線の角度を測ることで軌道を計算したが、S-IVBから排出された燃料が大きな塵の雲となって宇宙船の周りを漂い、星と区別できなくなってしまったため、この作業は困難を極めた。 発射から7時間後まで、S-IVBの問題とラヴェルが天測航法に手間取ったことにより、1時間40分ほどスケジュールから遅れてしまった。飛行士たちは「受動的温度管理 (Passive Thermal Control, PTC)」の準備を始めた。PTCとは俗に「バーベキューロール」とも呼ばれているもので、宇宙船を中心線に沿って1時間におよそ1回転させ、表面温度を均一にさせるものである。宇宙船は直射日光を浴びる部分は200℃以上にもなるのに対し、影の部分はマイナス100℃以下に下がってしまう。これだけの温度差があると、大気圏再突入の際の熱から宇宙船を守る耐熱保護パネルにひびが入ったり、燃料パイプが破断する恐れがある。宇宙船を完璧に中心線に沿って回転させることは現実的には不可能で、どうしても「歳差 (すりこぎ運動)」が発生してしまうため、飛行士たちは30分ごとに微調整をしなければならなかった。 最初の軌道修正は発射から11時間後に行われた。地上での燃焼試験では、司令船の主エンジン (Service Propulsion System, SPS) は燃焼室が初めに「コーティング」されていない状態で長時間噴射すると、稀に爆発する可能性があることがわかっていた。エンジンを短時間だけ噴射すれば、このコーティングを実施することができた。この最初の軌道修正ではSPSエンジンがわずか 2.4秒間だけ噴射され、速度が順行 (進行方向) に向かって秒速 20.4フィート (6.2m) だけ加速されたが、これは予定されていた 24.8フィート (7.6m) よりも低いものだった。原因は酸化剤のパイプの中にヘリウムの泡が発生し、それが燃料の圧力を下げたことであった。このため飛行士は姿勢制御用ロケットを噴射し、微調整を行った。このあと2回の軌道修正が予定されていたが、軌道は完璧なものであることが分かったためにキャンセルされた。 発射から11時間が経過した時点で、飛行士たちはすでに16時間睡眠をとっていなかった。NASAは発射前、緊急事態が発生したときに備えて少なくとも一人の飛行士は常に起きていなければならないと決めていた。このためボーマンが最初の睡眠につくことになったが、無線の会話や機械的な騒音がひっきりなしに聞こえてくるため、眠りにつくのは困難であることが分かった。 睡眠をとろうとしてから1時間後、ボーマンはバルビツール酸系睡眠薬を服用する許可を求めた。睡眠薬はあまり効果がなかったが、それでも何とか眠りについた。だがその直後、彼は気分が悪くなって目が覚めてしまった。ボーマンは二回吐いた。その上ひどい下痢に襲われたため、船内に嘔吐と下痢の排泄物の小滴が漂う結果となってしまった。その除去のために、飛行士たちは悪戦苦闘することになった。ボーマンははじめ自分の体調不良を誰にも知らせたくなかったのだが、ラヴェルとアンダースは管制センターに報告することを求めた。飛行士たちは、データ保存装置 (Data Storage Equipment, DSE) を使用することに決めた。これは音声や身体測定の結果を記録し、それを高速で管制センターに伝えることができるというものである。ボーマンの体調の詳細を記録した後、飛行士たちは管制センターに対して診察結果をチェックすることを求め、「音声のコメントへの評価をしてほしい」と述べた。 8号の乗組員と管制センターの医療担当班は、センターの使用されていない二階の部屋を使用して遠隔会議を開いた (ヒューストンの管制センターの二階と三階には全く同一の管制室が用意されていたが、実際に使用されていたのは三階だけであった)。 会議の結論は、ボーマンの体調不良の原因は彼自身が考えていたように胃腸炎であるとともに睡眠薬の副作用であって、心配するほどのものではないとのことだった。今日の研究では、彼はいわゆる「宇宙酔い」にかかったのであろうとされている。これは今日でも宇宙飛行士の三割が患うもので、前庭系が無重量状態に適応しようとするときにかかるものである。宇宙酔いはアポロ以前のマーキュリー計画やジェミニ計画では問題とはならなかったものだった。なぜならこの二つの計画では宇宙船はあまりにも小さすぎて、飛行士は船内を自由に動き回ることはできなかったからである。アポロ計画では船室が広がり自由度が大きくなったため、ボーマンや後の9号のシュウェイカートのように宇宙酔いを患う飛行士が現れるようになった。 巡航期間中は全体の飛行の中では比較的退屈なもので、飛行士たちは機器に異常がないか、あるいは宇宙船が正確に軌道に乗っているかをチェックする以外には仕事がなかった。そのためNASAは発射から31時間後にテレビ中継を予定していた。8号で使用されたカメラは重量が 2kgで、撮像管を使用して白黒の映像しか送ることができないものだった。また 160°の広角と 9°の望遠の二種類のレンズが搭載されていた。 最初の中継では飛行士たちは船内を案内し、また宇宙から地球がどのように見えるのかを伝えようとした。だがカメラには今現在映し出されているものを撮影者に知らせるためのモニターがついていなかったため、望遠レンズを使って地球を撮影することは不可能だった。加えてフィルターも用意されていなかったため、地球の画像は他の何かの光源に干渉されてしまい、全く映し出すことはできなかった。結局、飛行士たちが何とか地上の人々に見せることができた地球の映像は、ぼんやりとした光のしみのようなものだけであった。17分後、宇宙船が回転して高利得アンテナが地球の中継基地からの信号を受け取ることができなくなったため、ラヴェルが管制に「母に誕生日おめでとうとのメッセージを伝えてほしい」と告げて中継は終わった。 この時まで、飛行士たちは予定されていた睡眠シフトを完全に放棄していた。ラヴェルは発射から 32.mw-parser-output .frac{white-space:nowrap}.mw-parser-output .frac .num,.mw-parser-output .frac .den{font-size:80%;line-height:0;vertical-align:super}.mw-parser-output .frac .den{vertical-align:sub}.mw-parser-output .sr-only{border:0;clip:rect(0,0,0,0);height:1px;margin:-1px;overflow:hidden;padding:0;position:absolute;width:1px}1⁄2時間後に睡眠をとったが、これは彼が予定していたものよりも 31⁄2時間前だった。そのすぐ後、アンダースも睡眠薬を服用した後に眠りについた。 月に向かう軌道上では、飛行士たちはほとんど月を見ることができなかった。その理由は シリコンの目張りから漏れ出したガス化した油が五つあるうちの三つの窓を曇らせてしまったことと、PTC (受動的温度管理) のために船体を月を背面に置く方向に向けておかなければならないことだった。彼らがようやく月を目にしたのは、月周回軌道に進入するために方向転換したときだった。 発射から55時間後、8号は二度目のテレビ中継をした。今回は望遠レンズで地球の姿をとらえることができるよう、スチールカメラにフィルターを装着した。カメラの中に収まるように宇宙船自体の姿勢を傾けるなど困難は伴ったものの、今度は地球の映像を地上に送ることに成功した。飛行士たちは実際に見える色や様子などを、無線を使って解説した (カメラで送られてきた映像は白黒だった)。中継は 23分で終了した。
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