発射から月遷移軌道への投入
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「アポロ8号」の記事における「発射から月遷移軌道への投入」の解説
アポロ8号は1968年12月21日、米東部標準時 7:51:00 a.m. に、第一段S-IC、第二段S-II、第三段S-IVBからなる三段式ロケットサターンVを使い、まず地球周回軌道に乗ることを目的に発射された。発射の際には、わずかに三つの小さな問題が発生した。一つは第一段S-ICの出力が 0.75% 低かったことで、これはエンジンが予定よりも 2.45秒長く燃焼したことが原因だった。また第二段S-IIはロケットを噴射している間、ずっとPogo振動を発生させていた。ボーマンの試算によれば、このときの振動は周波数 12ヘルツで、加速度は±0.25 g-force (±2.5 m/s2) だった[出典無効]。 三段すべてのロケットは発射の間燃焼を続け、第一段S-ICとS-IIは途中で切り離された。S-ICは大西洋上 北緯30度12分 西経74度7分 / 北緯30.200度 西経74.117度 / 30.200; -74.117 (Apollo 8 S-IC impact) に、S-IIは北緯31度50分 西経37度17分 / 北緯31.833度 西経37.283度 / 31.833; -37.283 (Apollo 8 S-II impact) に落下した。第三段S-IVBは地球周回軌道に乗った後も切り離されず、後に宇宙船を月遷移軌道に乗せる噴射をするために残された。 周回軌道に乗ると、搭乗員と管制センターは宇宙船のチェックと遷移軌道移行の準備のために2時間38分を費やした。前回の無人試験のとき再点火に失敗したS-IVBが適切に作動するかどうかは、計画にとってきわめて重大な要素であった。 飛行中は、同僚の三人の宇宙飛行士が宇宙船連絡員として、三交代制で勤務した。宇宙船連絡員とは通常「カプコム (Capsule Communicators, CAPCOM)」と呼ばれるもので、飛行士たちと定期的に会話ができるのは彼らだけだった。8号で最初にCAPCOMを担当したのはコリンズで、発射から2時間27分22秒後に「アポロ8号、遷移軌道投入のための噴射準備よし」と無線で連絡した。この会話によって明らかなように、8号に月に向かう許可を正式に与えたのは管制センターであった。噴射のための次の12分間、飛行士たちは宇宙船とS-IVBの監視を続けた。軌道投入のための噴射は完璧なものだった。 軌道投入の任務を完全にこなした後、S-IVBは切り離された。その後飛行士たちは使用済みの第三段の写真を撮影するために宇宙船を反転させ、しばらくの間S-IVBと編隊飛行を続けた。宇宙船を後ろに向けたその時、彼らの目に飛び込んできたのは、遠ざかりつつある地球の姿だった。人類が初めて地球の全体像をひと目で見たのは、まさにこの瞬間であった。だがボーマンはそれよりも、S-IVBが宇宙船とあまりにも近いところにあることを懸念していた。そのため彼は、管制センターにロケットと離れる作業を行うことを提案した。はじめセンターは宇宙船を地球の方角に向け、機械船に搭載されている姿勢制御用ロケット (Reaction Control System, RCS) を噴射して速度を地球から遠ざかる方向に秒速 0.91mだけ加速することを提案したが、ボーマンはS-IVBが視界から消えてしまうことを恐れた。議論の結果、指示通りRCSをこの方角に噴射するかわりに速度は秒速 2.7mにすることが決定されたが、この検討のためにスケジュールは一時間遅れた。 発射から5時間後、管制センターはS-IVBに対しタンクの中に残っている燃料をロケットのノズルから排出し、軌道を変えるよう指令を送った。これによりS-IVBは月を通過してから太陽を周回する軌道に乗り、8号にそれ以上の危険を与える可能性はなくなった。S-IVBのその後の軌道は、太陽からの距離 0.92〜0.99天文単位 (138〜148ギガメートル)、黄道に対する傾斜角 23.47°、公転周期は 340.80日である。 8号の乗組員たちは、地球から 15,000マイル (24,000km) 離れたところまで広がるヴァン・アレン帯を通過した初めての人類となった。科学者たちはヴァン・アレン帯を宇宙船が最高速で急速に通過すると、胸部撮影のレントゲン写真で浴びるのと同程度の 1ミリグレイ程度のX線を被曝するのではないかと予想していた (人間が1年間で浴びる放射線は、平均で2から3ミリグレイである)。被曝量を記録するため、飛行士たちはリアルタイムでデータを地球に送る線量計と、通算で浴びた放射線量を表示するための感光フィルムを身につけていた。計画終了までに彼らが浴びた放射線量は、平均して1.6ミリグレイであった。 月を通過した後、S-IVBはこれから先の長い時間太陽を周り続けるであろう宇宙ごみ (スペース・デブリ) となった。2013年9月現在、軌道に残っていることが確認されている。
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