発射および軌道上
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/12 04:27 UTC 版)
「マーキュリー・アトラス5号」の記事における「発射および軌道上」の解説
この飛行には、マーキュリー宇宙船9号とアトラスロケット93-D号が使用された。宇宙船は1961年2月24日にケープ・カナベラルに到着したが、飛行前準備には40週を要し、これはマーキュリー計画の中で最長のものであった。9号の飛行目的は何度も変わり、当初は計器による弾道飛行が設定され、次にチンパンジーを乗せての弾道飛行、さらに軌道を3周する計器飛行となり、最終的にイーノスを乗せての周回飛行となった。 同年9月のMA-4の成功により、アトラスロケットの信頼性は高まった。11月には猿を乗せたアトラスEが発射に失敗していたが、NASA高官はこれはマーキュリー計画で使用されるアトラスDとは違う形式のロケットであり、この事故は何の関連性もないと保証した。MA-4は順調に機能したが、発射から20秒までの間の高いレベルの振動には依然として懸念があった。そのためMA-5の自動操縦装置は、この問題を修正すべく若干の変更が加えられていた。 アトラス93Dの射場安全管理システムは、支持エンジンに手動による停止指令を送れるよう修正された。これはもしエンジンの過加速が発生したとき、宇宙船が予定よりも高い軌道に打ち上げられてしまうことを防止するためのものであった。 遠隔装置は、それ以前に使用されていた真空管を基本にした大きくてかさばるものから、すべてが半導体化されたよりコンパクトなものに変更された。 アトラス93Dにもまた、発射前のジャイロスコープモーターの適切な作動を保証するため新たにセンサーが装備された。3Bと17Eという2回のアトラスミサイルの発射試験は、ジャイロのモーターが正確に作動しなかったことが原因で失敗していた。 MA-5は、来たるべき有人軌道飛行であるMA-6の近似値を取るように計画されていた。ケープ・カナベラルの空軍基地14番発射台から72.51度北東に向けて発射され、軌道投入はケープ・カナベラルから770キロメートル、高度160キロメートル、速度は毎秒7,832メートルとなる予定だった。また逆噴射は発射から4時間32分26秒後に行われ、宇宙船は逆噴射から21分49秒後に着水、大気圏再突入の際の温度は耐熱板の部分で1,650°C、アンテナ格納部分で1,090°C、前部の円筒形の部分で582°C、機体の円錐形の部分で682°Cとなっていた。さらに使用済のアトラスの支持エンジンは、軌道を9⅓周した後、大気圏に再突入すると予想された。 MA-4では当初は宇宙船9号が使用される予定だったが、代わりに発射に失敗したMA-3で使用された8号が改修して使用された。9号は大きな矩形の窓を持ち、爆発ボルトでハッチを吹き飛ばすことのできる「マークII」と呼ばれる形式の2番機であり、一方で旧式の「マークI」は小さい丸形の窓と頑丈なハッチのロック機構を持つものであった。ガス・グリソムが搭乗したMR-4の飛行では、既にマークIIが使用されていた。だが大型の窓が大気圏再突入の際のさらなる高温に耐えられるかどうかを保証するためには、適切な軌道飛行をして検証することが求められていた。 1961年10月29日、3匹のチンパンジーと12名の医療専門家が発射準備のためケープ・カナベラルの専門区画に移動した。MA-5の飛行に選抜されたチンパンジーに与えられたイーノス (Enos) という名前は、ヘブライ語で「人間」を意味する。イーノスの予備として (いつでも呼び出せるように) 選ばれたのは、ドゥエイン (Duane)、ジム (Jim)、ロッキー (Rocky)、そしてマーキュリー・レッドストーン2号で飛行したことのあるハム (Ham) の4匹だった。イーノスはアフリカのカメルーン出身で、元はチンパンジー81番と呼ばれ、1960年4月3日に空軍が購入した。飛行当時は約5歳で、体重は40ポンド (18キログラム) よりもわずかに下だった。 1961年11月29日、発射の約5時間前、イーノスと宇宙服仕様の座席が宇宙船に挿入された。秒読みは様々な理由で一時停止され、2時間38分かかった。発射は15時08分UTCに行われ、アトラスはMA-5宇宙船を高度159から237キロメートルの軌道に打ち上げた。改良された自動操縦装置は問題なく作動し、振動を許容できるレベルにまで抑え、ロケットの挙動は全体的に何の異常もなく良好なものであった。 機体の反転と減衰比の操作で、搭載された27.9キログラムの姿勢制御用燃料のうち2.7キログラムを消費したが、これはMA-4が同じ操作で使用した量よりは少ないものであった。MA-5は、機体が軌道に対し34度の角度を取るように姿勢制御用ロケットを噴射するよう設定されていた。最初に地球を一周する間に、正しい姿勢を保つために推進器が使用した燃料はわずか0.68キログラムだった。 最初の一周が終わるとき、宇宙船の時計が18秒進み過ぎていることがわかったため、ケープ・カナベラルを通過する際に時計を正しく合わせるための指令が送られたが、管制室はそれ以外は宇宙船のすべての機能が順調であるという情報を受信した。 その後2周回目の初めに大西洋上の追跡船を通過した際、逆変換装置の温度が上昇していることを示す情報が送られてきた。またカナリア諸島の追跡所も、環境制御装置の故障を確認した。温度の異常な上昇は初期の飛行でも発生したことがあり、そのような場合、原因は逆変換装置が作動し続けているか、あるいは待機モードに切り替えられていることだったが、管制センターでは何の警報も発せられなかった。オーストラリアのムチアに設置されていた追跡センター(Muchea Tracking Station)で検知した時には、推進器が作動し宇宙船が軌道を逸脱したことが検知されたが、他のデータは機体が34度の姿勢を保持していることを示していた。さらにオーストラリアのウーメラ追跡基地を通過した際には姿勢制御の問題は検知されなかったため、最初の警報は無視された。
※この「発射および軌道上」の解説は、「マーキュリー・アトラス5号」の解説の一部です。
「発射および軌道上」を含む「マーキュリー・アトラス5号」の記事については、「マーキュリー・アトラス5号」の概要を参照ください。
- 発射および軌道上のページへのリンク