発射および上昇初期
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/07 06:44 UTC 版)
「チャレンジャー号爆発事故」の記事における「発射および上昇初期」の解説
以下の記述は、逐次テレメトリーによって得られたデータと画像を分析、および空中-地上間と管制室で交わされた交信記録に基づいている。すべての時間は発射の瞬間からの経過秒数を表し、詳細な計測事象から発生した出来事までがテレメトリーのタイムコードに対応している。 機体が発射台から離れる前であれば、必要があればスペースシャトルのメインエンジンを安全に停止して発射を中止することができた。発射の瞬間(T=0:米国東部標準時午前11時38分)に3基のメインエンジンは設計性能値に対して100%に達しており、コンピュータの制御によって104%まで推力が増されはじめていた。この瞬間に2基のSRBが点火され、同時に発射台に繋ぎ止めていたボルトが爆薬によって切断されて、機体は発射台から自由になった。機体が最初に垂直に動きはじめると、気化水素排気アームが外部燃料タンク(ET)から引き離されたが、戻り止めラッチが機能しなかった。発射台のカメラ映像を検証すると、このアームは機体には再び接触してはおらず、今回の事故に関係する要素からは除外された。発射後に行われた発射台の検査においても機体を固定していたボルトの4つのキック・スプリングが見つけられなかったが、これも同様に原因となった可能性は否定された。 後に発射時の画像を分析すると、T+0.678(発射から0.678秒後)に右側SRBの、外部燃料タンクとSRB間を連結する後部接続支柱部近くからひと吹きの黒煙が吹き出ていることが確認された。煙のわずかな噴出は、最後はT+2.733に発生していた。最後に接続支柱周辺で煙が見えたのは T+3.375 であった。後にこれらの現象は右側SRBの後部の現場接続部が開閉したことで起きたと結論づけられた。点火の圧力によってSRBの外殻が膨張し、その結果として外殻のこの金属部分が両側から曲がって分離し、開いた隙間から高温のガス(5,000°F、2,800℃)が漏れたものである。この現象はそれ以前の発射時にも発生していたが、そのたびに第一O-リングが溝から外れることによって密閉性を確保していた。SRBは元々そのように設計されてはいなかったが、結果的にうまく機能していたことになる。そのためサイオコール社は後に設計を変更し、押し出し加工と呼ばれる加工法を採用してこの機能を取り入れることにした。 だが、押し出されたリングが漏洩箇所を塞ぐまでの間、高温のガスが漏れ続け、塞がれるまでにO-リングが損傷を受ける「ブロー・バイ」(blow-by)と呼ばれる現象が起きていた。サイオコール社の技術者達によってこの現象は調査され、O-リングが受ける総損傷量は押し出しが起きるまでの時間が直接関係しているとして、当日の寒い気象条件によってO-リングが硬くなり押し出しまでの時間が延びたと結論付けた(このチャレンジャー事故以後に使用される改良型SRBの現場接続部には、ブロー・バイを緩和するために追加の噛み合い式ほぞ穴と中子、それに3番目のO-リングが設けられるようになった)。 事故当日の朝、第一O-リングは寒さによってとても硬くなっていたため密閉が間に合わなかった。第二O-リングは金属が曲がったことで正しい位置に収まってはいなかった。これによって燃焼ガスを食い止める手段は失われ、2つのO-リングは70度の角度にわたって蒸発してしまったが、固体燃料の燃焼残留物である酸化アルミニウムが損傷した結合部の穴を塞いだので、本物の炎が結合部を襲うまではこれがO-リングの機能を代行していた。 機体が発射整備塔を離れメインエンジン(SSME)の推力が104%に達すると、ケネディ宇宙センターの発射コントロール・センター(Launch Control Center, LCC)から、テキサス州ヒューストンのジョンソン宇宙センター内のミッション・コントロール・センター(Mission Control Center, MCC)に管制が引き継がれた。空力が軌道船の構造に過負荷を与えないよう、T+28 になると通常の操作手順に従って、濃密な下層大気圏内でのシャトルの限界速度までメインエンジン(SSME)の推力が下げられ始めた。T+35.379 になるとメインエンジンの推力は少しだけ戻されて予定通りの65%になった。その5秒後に高度約5,800m(約19,000フィート)で機体の速度はマッハ1を超えた。T+51.860 には動圧が最大となるマックスQ(最大動圧点)を超え、SSMEの推力は再び最大104%にまで上げられ始めた。
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