新たな通勤形車両と世代交代
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/19 04:21 UTC 版)
「通勤形車両 (鉄道)」の記事における「新たな通勤形車両と世代交代」の解説
国鉄が解体され、JRとなって再出発すると、国鉄にあった全国統一という概念がなくなったため、会社ごとに違った方向性を持って線区ごとの事情に合わせた車両を投入できるようになった。 真っ先に動きを見せたのは西日本旅客鉄道(JR西日本)で、1990年から当時建設されていた片福連絡線(現・JR東西線)直通用として207系を導入した。形式こそ国鉄時代に登場した207系900番台と同じであるが、それ以外の設計思想は全く異なり、各部分に斬新な設備が取り入れられている。車体はラッシュ対策として広幅にされ、前年に登場していた近郊形車両221系の思想を受け継ぎ、低運転台、大型窓で明るい照明と共に明るい車内を演出し、前面展望も良くしている。また、並行する私鉄への対抗として座席や内装を高級感のあるものとしたほか、編成は時と場合に応じて2両以上が自由に組めるようになっている(現在では試作編成を除き3両と4両編成のみで、原則7両に固定されて運用される)。 207系は、機器類が何度かマイナーチェンジをされているものの、車体は2003年までほとんど同じものが480両製造され、後継の321系もこれを踏襲したデザインを採用するなど、JR西日本では通勤形の完成系と位置付けられる車両になった。また、207系は103系の淘汰も目的としたが、同系列でも状態のいい車両は延命・リニューアル改造を進め、新車並みの装備に更新された車両も登場している。 これらの車両はJR東西線に直通する学研都市線やJR宝塚線・京阪神緩行線に優先的に導入されており、それ以外の線区では阪和線の205系1000番台以外は新車の投入が無く、大阪環状線では103系や201系といった国鉄型車両が主力となっていた。両形式とも経年劣化が進んでいたほか、同線に乗り入れる221系・223系・225系は3ドア車であり整列乗車に混乱をきたした。置き換えと整列乗車による混雑緩和を図るため、2016年に大都市圏の通勤形車両としては異例となる3ドア車の323系を登場させた。また、2010年代以降、阪和線・大和路線・おおさか東線の通勤形は近郊形で置き換える方策を打ち出している。 車両面での体質改善と並行して、各地の通勤路線では人口増加に伴う輸送力の増強が急務となっていた。この頃になると、大半の線区で車両・ダイヤともに増発は限界の状況にあったため、以前とは異なる方法が取り入れられる事となった。 最初に試みられたのは「扉数の増加」である。片面5ドアとした車両は1970年の京阪5000系電車が最初の導入例であったが、これ以後は長期にわたり導入例がなかった。その後、1990年に帝都高速度交通営団(現・東京地下鉄)が関東で初めて編成中の一部の車両を5ドアとした03系を導入し、これ以降、京王6000系、東武20000系でも採用された。京阪5000系では閑散時に5か所のうち2か所の扉を締め切り、その部分に座席を下ろして3ドア車とする機構を装備しているが、多扉車として唯一の事例である。 一方、1991年からはJR東日本が山手線の11両編成化にあわせて片面6ドアのサハ204形を導入した。これは片面6ドアであることに加え、ラッシュ時は座席を収納しすべて立席とする機構を備える。同様の6ドア車両はその後、横浜線、京浜東北線、中央・総武線各駅停車、埼京・川越線、そして東京急行電鉄の田園都市線にも導入された。 これらの多扉車はラッシュ時に効果を発揮したものの、座席数減少による閑散時の不評さに加え、複々線や車両増結といった他の混雑緩和策が完成して混雑率が低下したこと、更にはホームドアへの対応が難しいことから、2000年代後半以降は連結を中止する事例が増え、6ドア車は2020年3月13日に中央・総武緩行線のE231系、5ドア車は2020年3月27日に東武20050系がそれぞれ運用を離脱し、首都圏から多扉車が消滅した。最後まで運用されていた多扉車である京阪5000系も、2021年9月4日に営業運転を終了した。 「扉のワイド化」により混雑緩和を図る会社も現れた。こちらは扉の数をそのままにしながら開口幅を一般的な1.3 - 1.4m程度から1.6 - 1.8m程度と広くし、乗降をスムーズにしようとしたものである。まず、営団が多扉の03系との比較の意味もあり、05系で導入した。これに続いて小田急電鉄でも導入し、関西では阪急8200系電車で採用している。小田急では1000形の一部で開口幅2mという極端な大型扉を採用したものの、乗客がドア付近に滞留し、車内の流動性が悪化したことや着席定員が少なすぎること、夏季・冬季の運行時に支障が出たことから、2000年までに1.6m幅へ改造している。幅広扉は2000形・3000形の初期車まで採用していたが、複々線の完成に伴い混雑率が下がったことからその後は導入されていない。営団を引き継いだ東京地下鉄では通常扉幅の05系の増備を続けてきたが、更なる混雑緩和策として2010年からワイドドア車の15000系を導入しており、2017年現在は東西線で運行される東京メトロの車両のうち、21編成がワイドドア車となっている。 以上2つの方法はあくまでもラッシュ対策であったため、並行して通常の車両も導入しなければならなかった。その際、JR東日本ではそれまで常識とされてきた設計思想とは全く異なる車両を導入した。京浜東北線に投入され、後に209系として量産されることになる901系は、車体寿命を10年程度とし、同時に各部の構造も簡素化している。従来、電車は20 - 30年程度の耐用年数を有していたが、JR東日本では発想を変えて「寿命を短く、リサイクルしやすい車両を作ることで、常に最新の設備と機能を持った車両を追い求めることができる」として「寿命半分、価格半分、コスト半分」をコンセプトに開発された。なお、「コスト減少」という点では自社開発の車両製造や大規模修理を行える設備として新津車両製作所の本格的な稼働もこの時期からである。座席もソファー式の長椅子からS字型の特殊な形状の1人分ずつに成型されたバケットシートが採用された。これは着席マナーの向上を狙ったものとされている。また、座席の間にスタンションポールを立て、座席間の仕切りとして定員着席をさせるとともに子供や老人の安全を図っている。1998年までに京浜東北線を209系で統一し、南武線、川越線川越 - 高麗川間と八高線八王子 - 高麗川間、中央・総武線各駅停車、常磐緩行線にも導入された。ただし、「寿命半分、価格半分、コスト半分」のうち、「寿命半分」については導入当初に誤解されていた「10年で廃車」ではなく「解体修繕周期の長期化や部品寿命の適正化など信頼性の向上」とされている。 209系以降、JR東日本では通勤形電車と近郊形電車の隔たりを少なくすることも進めた。近郊形電車の座席をロングシートにする発想は国鉄時代からあり(415系500番台がその先駆け)、各地で行われていたが、首都圏のラッシュ時における混雑緩和を計る必要に迫られていたJR東日本では「片側4扉、一部を除きロングシート」という形態の車両を計画し、E501系、E217系となって実現させた。なお、前者は常磐線東京近郊区間での運用を前提とした「交直両用電車として日本初の通勤形電車」とされ、純粋な近郊形電車としては後者とされる。 この流れは最終的に一般形電車と称されるE231系にたどり着くことになる。この系列は試作編成こそ「209系950番台」として経年劣化が進んでいた中央・総武線各駅停車の103系の代替として導入されたが、量産車は総武線を筆頭に首都圏の各路線に少しずつ形態を変えながら配備を続けた。また、本系列導入後の技術革新や運行時に生じた問題点をフィードバックさせ、更なる改良を加えたE233系・E235系も登場している。 私鉄(および公営交通)各社でも製造コスト低減のためJRに倣った車両やメーカー標準設計を基にした車両を導入するケースが増加している。帝都高速度交通営団(現・東京メトロ)、東武鉄道、西武鉄道、京成電鉄、小田急電鉄、京王電鉄などは車両メーカー提唱の標準化車両(後述)を、相模鉄道、東京急行電鉄、東京都交通局などではE231系・E233系をベースにした車両を採用している。 JR西日本207系 JR東日本209系 JR東日本E231系 JR東日本E235系
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