乱用される主な薬物
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精神活性物質の特徴の概要(世界保健機関、2004年)物質主な作用機序行動的影響耐性離脱長期使用による影響エタノール GABA-A受容体の活性の増加 鎮静、記憶障害、運動失調、抗不安 酵素誘導により代謝耐性が生じる。学習により行動耐性を得る。耐性はGABA-A受容体を変化させることで形成される。 震え、発汗、脱力、興奮、頭痛、吐き気、嘔吐、発作、振戦せん妄 脳の機能と形態の変化。認識機能障害。脳容積の減少。 睡眠薬と鎮静剤 ベンゾジアゼピン系:GABAによるGABA-Aクロライド・チャネルの開口を促す。バルビツール酸系:GABAイオノフォアの特異的部位に結合し、クロライド伝導性を増加する。 鎮静、麻酔、運動失調、認識障害、記憶障害 GABA-A受容体の変化により、(抗けいれんを除き)多くの作用に対して急速に形成される 不安、覚醒、落ち着かない、不眠症、興奮、発作 記憶障害 ニコチン ニコチン様コリン作動性受容体作動薬。脱分極を誘発しチャンネルを介してナトリウムの流入を増加する。 覚醒、注意、集中や記憶を増す;不安や食欲を減少させる;覚醒剤に似た作用 耐性は代謝因子を介して形成され、受容体の変化は食欲を増加させる 易刺激性、敵愾心、不安、不快、気分の落ち込み、心拍数の減少、食欲の増加 喫煙による健康への影響は十分に実証されている。タバコの他の化合物からニコチンの影響を分離するのは困難である。 オピオイド ミューおよびデルタ・オピオイド受容体作動薬 陶酔、鎮痛、鎮静、呼吸器の抑制 短期間および長期間の受容体の脱感作。細胞内伝達機構における順応。 流涙、鼻漏、あくび、発汗、落ち着きのなさ、寒気、腹痛、筋肉痛 オピオイド受容体とペプチドにおける長期間の変化。報酬、学習、ストレス反応における順応。 カンナビノイド CB1受容体作動薬 リラクゼーション、知覚の気づきの増加、短期記憶の低下、運動失調、鎮痛、抗嘔吐および抗てんかん作用、食欲増加 カンナビノイドの多くの作用に対して急速に形成される。 まれだが、おそらく半減期の長さに起因して。 認識機能障害、精神病の再発と悪化の危険性 コカイン モノアミン(ドーパミン、ノルエピネフリン、セロトニン)トランスポーターの遮断薬(シナプス間隙でのモノアミンを増加する) 警戒、活力、運動活動、能力感の増加;陶酔、不安、落ち着きのなさ、妄想症 おそらく短期間の急性耐性 多くない、高揚後の落ち込みを除く。 認知障害、PETにおける眼窩前頭皮質の異常、運動機能障害、反応時間の低下、EEG異常、脳虚血、梗塞、出血 アンフェタミン ドーパミントランスポーターを介して神経末端のドーパミンの放出を増加させる。活動電位上の依存はない。モノアミン酸化酵素を阻害する(MAO) 警戒、覚醒、活力、運動活動、会話、自信、集中、健康感の増加;空腹感の減少、心拍数の増加、呼吸増加、陶酔 行動および生理的な作用に対して急速に形成される 疲労感、食欲増加、易刺激性、感情の落ち込み、不安 睡眠障害、不安、食欲減少、血圧増加;脳のドーパミン、前駆体、代謝物および受容体の減少 エクスタシー セロトニンの再取り込みを阻害する 自信、共感力、理解力、親密さの感覚、コミュニケーション、陶酔、活力の増加。 一部の人では形成される可能性がある。 吐き気、筋硬直、頭痛、食欲不振、かすみ目、口渇、不眠症、抑うつ、不安、疲労感、集中困難 脳のセロトニン系への神経毒性は、行動と生理的な影響につながる。 有機溶剤 GABA-A受容体を介している可能性が高い 目まい、失見当識、陶酔、軽い頭痛、気分を増す、幻覚、妄想、協調運動失調、視覚障害、抗不安、鎮静 いくらかの耐性が形成される(推定するのは難しい) 発作に対する感受性の増加 ドーパミン受容体における結合と機能の変化;認知機能の低下;精神病理的および神経学的な後遺症 幻覚剤 様々:LSD:セロトニン自己受容体作動薬 PCP:NMDA型グルタミン酸受容体拮抗薬 アトロピン様薬:ムスカリン性コリン作動性受容体拮抗薬 心拍数、血圧、体温の増加;食欲低下、吐き気、嘔吐、運動失調、乳頭膨張、幻覚 耐性は身体的および精神的作用に対し急速に形成される 証拠なし 急性あるいは慢性的な精神病のエピソード、薬物使用後しばらくして薬物効果のフラッシュバックあるいは再体験 アヘン類 ヘロイン、モルヒネ、コデイン、ペンタゾシンなど。 容易に耐性が形成される。精神的、身体的依存が高い。モルヒネ、コデイン、ペンタゾシンは鎮痛剤などとして医療目的で使用される。 アルコール 容易に身体依存性と耐性が形成され、アルコール依存症となる。また、過剰摂取すると急性アルコール中毒症状の危険性があり、これは致命的となる可能性がある。依存によりアルコール成分を摂取したいがため、工業用アルコールなどを誤飲する事故もある。 ニコチン 容易に身体依存性と耐性が形成され、ニコチンには血管収縮作用があるため血管疾患の症状があらわれる。最近ではニコチンパッチの乱用も多く見られる。 依存性があり、通常量でも頭痛、心臓障害、不眠、苛立ちなどの症状が現れる。過量投与では嘔吐、振戦、痙攣が起こり、場合により死亡する。また、タバコに含まれるほかの有害物質は肺癌の原因となる。 大麻 マリファナ、ハシッシュなど。離脱症状はまれである。 覚醒剤 アンフェタミン、メタンフェタミン、メチルフェニデートなど。 乱用を続けることで脳に不可逆的な過敏性が残るため、いったん断薬しても、少量の再使用で以前と同じ症状が再燃する(逆耐性現象)。身体依存性は弱い。副作用として、覚醒剤に誘発された精神障害は、統合失調症に酷似し重症になりやすい。 日本においては、薬物乱用の治療を要する患者の大多数が覚せい剤によるものである。 鎮静催眠剤 ベンゾジアゼピン系やバルビツール酸系の抗不安薬や睡眠薬である。離脱症状が致死的となる場合があり、アルコールとの併用も同様に致死的となる場合がある。日本の依存症回復施設において2番目に患者が多く、多くは女性である。国際麻薬統制委員会は2010年に、日本でのベンゾジアゼピン系の消費量の多さの原因に、医師による不適切な処方があるとしている。 麻酔 ケタミンは幻覚剤に属する。モルヒネについてはアヘン類にて上述。 コカイン 身体依存性は弱いが、強い精神依存作用がある。 幻覚剤 LSD、マジックマッシュルーム、フェンシクリジンなど。離脱症状はない。 使用によって幻覚を発現する。精神疾患の治療薬として研究されている。 キノコ マジックマッシュルーム、テングタケ、タマゴテングタケ、ベニテングタケ、クサウラベニタケなど。精神疾患の治療薬として研究されている。 使用によって幻覚を生じる。一般的にマジックマッシュルームと呼ばれるキノコに含まれる幻覚成分はシロシビンである。 キノコに含まれるほかの幻覚作用のある成分には、アマトキシン類、ムスカリン、イボテン酸、コプリン、イルジンなどがある。摂取すると、嘔吐などの消化器症状、痙攣、昏睡などを生じ、最悪、死亡することもある。 カフェイン コーヒー、紅茶、緑茶に含まれる。 主な作用は、覚醒、脳細動脈収縮、利尿など。医薬品としても使われ、眠気や頭痛などに効果がある。若干の依存性を持ち、カフェイン中毒を誘発する。濃縮カフェインは薬事法で劇薬に指定されている。 依存は、可逆性であり摂取を止めたり摂取量を減らすことで身体的、精神的依存は容易に消失する。 有機溶剤・ガス シンナー、ベンゼン、トルエン、キシレンなど。 容易に身体依存性と耐性が形成され、アルコール依存症と類似した症状があらわれる。最近ではライター用ブタンを補充用ボンベから吸引するガスパン遊びも増えている。 一度に大量に摂取すると最悪、中毒を起こし死亡する場合がある。
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