ウィリアム・ブレイクと現代
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「ウィリアム・ブレイク」の記事における「ウィリアム・ブレイクと現代」の解説
ブレイクは多くの思想家、アーティストたちにインスピレーションを与え続けている。 オルダス・ハクスリーはエッセイ集『知覚の扉』(The Doors of Perception、1954年)の中で、たびたびブレイクに言及しながらドラッグによる幻視体験について語っている。この本はブレイクの『天国と地獄の結婚』から "If the doors of perception were cleansed every thing would appear to man as it is: infinite"(知覚の扉が清められたなら、物事はありのままに、無限に見える)という言葉をエピグラフとして引用している。 ロック・グループ、ドアーズのバンド名もブレイクに由来する。これはハクスリーの本から影響を受けていたジム・モリソンの提案によるものである。 ビートの詩人アレン・ギンズバーグが1948年自宅でブレイクの詩集『無垢と経験の歌』を読んでいるとき、「ひまわりよ」(Ah! Sun-flower)、「病める薔薇」(The Sick Rose)、「迷子になった女の子」(The Little Girl Lost)を朗読するブレイクの声が外側から聞こえてくる幻聴体験をしたと言われている。ギンズバーグが初めてブレイクを知ったのは、1943年にウィリアム・バロウズの家を初めて訪れその本棚を見た時であり、その際バロウズはブレイクのことを「完璧な詩人」(a perfect poet)と称したとの逸話が残されている。 アルフレッド・ベスターによる長編SF作品『虎よ、虎よ!(Tiger! Tiger!、1956年)の題名はブレイクの詩『虎』(The Tyger)に由来し、エピグラフとして "Tyger, Tyger, burning bright" からはじまる一節が引用されている。 イギリスのロックバンド、アトミック・ルースターの1970年のアルバム『デス・ウォークス・ビハインド・ユー』のジャケットで、ブレイクの色刷版画『ネブカドネザル』(Nebuchadnezzar)が使われている。 レイ・ファラディ・ネルスン(Ray Faraday Nelson)は、SF作品『ブレイクの歴程』(Blake's Progress, 1975年)に、ブレイクとその妻キャサリンを、ユリゼンをはじめとするブレイクの神話体系の登場人物たちと同じように登場させ、異次元と異空間の探索に旅立たせている。この作品は1985年に『ブレイクの飛翔』(Time Quest)という題名で再出版されている。 ブレイクの後期預言書のひとつ『ミルトン』の序詩に、サー・チャールズ・ヒューバート・パリーが、1916年に曲をつけ "And did those feet in ancient time"(古代あの足が)という聖歌を作った。この聖歌は一般に『エルサレム』という曲名で知られており、労働党が保守党に圧勝した1945年以来、労働党の党歌として歌われている。また、BBCが主催する音楽祭プロムスでは、この曲が最後の楽曲の一つとして歌われる。 経済学者カール・ポランニーは著書『大転換』(1944年)で、産業革命以降の市場経済化のたとえとして、ブレイクの『ミルトン』序詩の第2節にある「悪魔のひき臼(dark Satanic Mills)」を引いている。 ヒュー・ハドソン監督の映画『炎のランナー』(1981年)でもこの聖歌が歌われる。"Chariots of Fire" という映画の原題も、この聖歌の "Bring me my chariot of fire"(ぼくに炎の戦車を)という一節に呼応している。 イギリスのプログレッシブ・ロック・グループ、エマーソン・レイク・アンド・パーマーのアルバム『恐怖の頭脳改革』(Brain Salad Surgery、1973年)に収録されている「聖地エルサレム」(Jerusalem)はこの聖歌をアレンジした曲である。 イギリスのミュージシャン、ビリー・ブラッグも、この聖歌を「ブレイクのエルサレム」(Blake's Jerusalem)というタイトルで、左翼のプロテスト・ソングの焼き直しやカバー曲を集めたアルバム『インターナショナル』(1990年)に収録、自らのアレンジによるその曲を「ブレイクが目にしていた資本家どもの新バージョンへの攻撃」と称している。 カール・セーガン原作の小説『コンタクト』(1985年)はブレイクの「蠅」("The Fly")をエピグラフに用いている。 アイアン・メイデンのボーカリスト、ブルース・ディッキンソンのソロ・アルバム『ケミカル・ウェディング』(1998年)には、『ミルトン』の序詩にディッキンソン等が独自に曲をつけた「エルサレム」(Jerusalem)というタイトルのオリジナル曲が収録されている。このアルバムでディッキンソンは、ブレイクのテンペラ画『蚤のゴースト』(The Ghost of A Flea)をジャケットに用い、ブレイク神話の登場人物セルやユリゼンについての曲「セルの書」(Book of Thel)や「ユリゼンの門」(Gates of Urizen)を歌う。またこのアルバムでは『ユリゼンの書』(The Book of Urizen)および『ミルトン』の一節が朗読され、次の楽曲への導入的効果を果たしながら楽曲同士を繋げている。 映画『炎のランナー』は『ミルトン』の序詞にある「炎の戦車」が題名の由来であり、オリンピックを目指す青年群像という内容もこの詞を意識したものである。 トマス・ハリスの小説『レッド・ドラゴン』(1981年)の中で、ブレイクの水彩画『巨大な赤い龍と太陽の衣をまとった女』(The Great Red Dragon and the Woman Clothed in the Sun)が重要な役割を与えられている。 ロック・グループ、タンジェリン・ドリームのアルバム『タイガー』(1988年)は、ブレイクの詩と思想に対するオマージュとなっている。彼らは斬新な曲作りをすることで、「虎」(The Tyger)や「ロンドン」(London)をはじめとするいくつものブレイクの詩に新たな息吹を吹き込んでいる。 大江健三郎の短編連作集『新しい人よ眼ざめよ』(1983年)において、語り手の「僕」は、一流のブレイク研究者と言っていいほどの読解力で、難解なブレイクのテキストを丹念に読み続け、ブレイクの言葉を自分の人生に重ね合わながら、人間存在や人類の運命についてのヴィジョンを展開していく。この作品のタイトル『新しい人よ眼ざめよ』は、『ミルトン』の序の一節からインスピレーションを得たものであり、さらに収録された短編のタイトルもすべてブレイクの作品に由来している。 リドリー・スコット監督による映画『ブレードランナー』(1982年)で、チュウのラボに現れたロイの台詞「Fiery the angels fell. Deep thunder rode around their shores, burning with the fires of Orc.」は、ブレイクの『アメリカ ひとつの預言』の「Fiery the Angels rose, & as they rose deep thunder roll'd / Around their shores: indignant burning with the fires of Orc」に由来すると思われる。Orc (オーク)はブレイク独自の象徴体系に基づく神話の登場人物の名前である。 マイク・ニューウェル監督の映画『フォー・ウェディング』(1994年)の後半の教会の結婚式で「エルサレム」が披露される。 ジム・ジャームッシュ監督による映画『デッドマン』(1995年)も、ブレイクの詩と思想に対するオマージュ作品であり、登場人物たちの名前や多くの台詞がブレイクの作品に由来している。 ロック・ミュージシャンのパティ・スミスは、2001年にパリで行われたライブで、『オオカミが来たと叫ぶ少年』(Boy Cried Wolf)の演奏の前に「子羊」(The Lamb、『無垢の歌』の中の短詩)を朗読している。この朗読は、アルバム『ランド』(LAND、2002年)のディスク2に収められている。 映画版『Vフォー・ヴェンデッタ』(2005年)で、V の部屋の壁にブレイクの色刷版画『アダムを造るエロヒム』が飾ってある。 ケン・ローチ監督の映画『麦の穂をゆらす風』(The Wind That Shakes The Barley、2006年)の中で、主人公が入れられた牢獄の壁に「愛の園」(『無垢と経験の歌』の「経験の歌」のなかの短詩)の一節が刻まれている。 2012年ロンドンオリンピックの開会式のアトラクションは「エルサレム」で知られる『ミルトン』の序詞をコンセプトにしており、作中の「緑なす豊潤なイングランドの大地」「暗い悪魔の工場」「炎の戦車」という言葉をキーワードにアトラクションが演ぜられた。 小泉堯史監督・脚本による映画『博士の愛した数式』(2006年)でクレジットタイトルが流れる直前に、「無心のまえぶれ」(Auguries of Innocence、ピカリング原稿に収められた詩)の冒頭の一節が朗読される。 その他、ブレイクの言葉は聖書やシェイクスピアに次いで日常的に報道やジャーナリズムでも引用されることが多い。
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