イスラム教圏の名前とは? わかりやすく解説

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イスラム教圏の名前

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/10 04:06 UTC 版)

人名」の記事における「イスラム教圏の名前」の解説

オスマン朝マフムト2世トゥグラによる署名。「アブデュルハミト息子マフムト・ハン、永遠勝利者」と読める アラブ人伝統的な名前はクンヤ(「某の親」)、イスム本人の名)、ナサブ(「某の子」)、ニスバ出自由来名)、ラカブ尊称・あだな)の要素から成り立っている。 クンヤ クンヤは「アブー・某」(某の父)、「ウンム・某」(某の母)という形を取る。アラブ圏では兄弟姉妹といった近親の名前が某部分に来るものもクンヤと呼ぶ。 初代正統カリフアブー・バクル本名アブドゥッラー改宗前はアブドゥルカアバ)だったが、ラクダ好きだったことからついたあだ名アブー・バクル(若ラクダの父)の方が後世まで定着さらには彼への崇敬から一般的な男児名として使われるようにもなりイスム転じたエジプト女性歌手ウンム・クルスームという名前は預言者ムハンマドの娘の名前として元々有名だが、こちらはアブー・バクルの例と違い本名としてつけられたものでほほがふっくらしている愛らしさから「クルスーム(ほほがむちむち男の子)の母」という複合名呼ばれる至ったケースである。(なお第三正統カリフであるウスマーン姉妹ウンム・クルスームという名だった。) このクンヤ職業名としても使われることがあり、アブーの後に品名添えて「~屋」を意味するなどした。息子の名前を添えた基本的なクンヤ含め家名転じたケース多く現代アラブ世界ではファミリーネームラストネームとして用いられていることも少なくない。 またクンヤ既婚未婚・子の有無に関係なくニックネーム使われる用法があり、本人ファーストネームから想起させる人名と結びつけて青年等を「アブー・某」と呼ぶ慣例見られるさらにはゲリラ名として用いられてきた経緯があり、実子の名前とは関係が無い「アブー・アンマール」(パレスチナアラファト議長あだ名)等が有名である。 イスム イスム本人の名である。男性には預言者ムハンマド本名やその別名(アフマドマフムードムスタファー等)、ウマルウスマーンアリーなど正統カリフイブラーヒームアブラハム)、ムーサーモーゼ)、イーサーイエス)といった預言者たち、アッラーの持つ99美名属性名に「しもべ」を意味するアブド」を繋げたアブドゥッラー神の僕)、アブドゥッラフマーン慈悲深き者のしもべ)などの名も好まれる預言者ムハンマド正統カリフアリーの子孫であるハサンフサインらの名前も広く命名用いられるが、ジャアファルなども含めシーア派イマームとなった人物の名称についてシーア派信徒に特に好まれる傾向があり宗派差が大きい。 女性にはハディージャファーティマアーイシャ、ザイナブなど預言者ムハンマド親族由来する名前やガゼル、花などにちなん美しさ愛らしさ意味する名前が好まれてきたが、現代では音感重視命名傾向があり女児名について流行影響比較強く見られるナサブ ナサブその人物の系譜を示すもので「イブン・某」(某の息子)、「ビント・某」(某の娘)という形を取る。また、某(本人の名)・イブン・某・イブン・某・…と本人の名の後にナサブ連結して先祖をたどる表現もできるが基本的に現代アラブ人そのようなフルネーム使わずアラビア半島王族部族民のフルネーム用いるのみとなっている。 ナサブ日本語だとイブンで書くのが慣習となっているがアラビア語文語では格に応じてブヌ、ブニ、ブナ発音が変わる。格母音取り去った場合発音対応するのがブン、そして口語的な発音に近いカタカナ表記ビンアラビア半島等)やベン(主に北アフリカ諸国)である。 現代アラブ世界ではこのナサブ表記用い地域少なく普段ナサブ抜きで本人イスム父の名前・祖父の名前/家名など併記のみしているケースでも、本人系譜明示する場合にはイブン用いて表記することもある。またアラビア半島地域ではフルネーム表記イブン入れて書くこともあるが、毎回そうした表記という訳ではなくイブン抜き現代フルネームを使うといった具合に、同一人物であってもイブン有り・無しの両バージョン使い分けていることもある。 アラブ諸国ではこのナサブ家名となっている例も少なくなく、代々引き継いでイブン某家」「ビン某家」と呼ばれるなどしている。 ニスバ ニスバ出身地所属部族所属宗派形容詞語尾イー」を付けた形を取る。マグリブ出身ならばマグリビー、アフガニスタン出身ならアフガーニーとなる。中世では本人比較的近い父・祖父などの出身地ファーストネーム添えて表記していたが、現代ではファミリーネーム当のものとして何代にもわたり継承する傾向強く、遠い祖先出身地近代祖先所有していた荘園名・帰属する大部族名を示す場合が多い。 また元々部族由来ニスバを元々名乗っていた家系でも途中で職業名家長由来ファミリーネーム切り替えるケース多く家系をたどらないと何部族末裔なのか分からない場合が多い。 ラカブ ラカブ本人のもつ尊称称号もしくはあだ名である。称号尊称については中世以降功績あるに授与されいたものあだ名については身体的特徴等由来のものである例えアイユーブ朝建設者ユースフ・ブン=アイユーブサラーフッディーン転訛した「サラディン」の名でよく知られている)のラカブ持っていたがこれは称号相当するものである。現代はそうした称号の授与行われておらず、基本的にファーストネームであるイスムとして使われている。 また身体的特徴等由来するラカブについては家長名として用いられていたケースが多いため、現代ではファミリーネームとして用いられていることがしばしばある。 以上から分かるように、本来アラブ人には親子代々継承する姓は厳密に存在しないファミリーネーム相当する現代では西欧ファーストネーム、ラストネーム・ファミリーネームに影響され用法普及してきており中世人名のような旧式人名表記適用できないケースもしばしば見受けられる家名についてはその由来文法的用法により複数パターンがあり一律ではない。家名種類にも地域性がある。アラビア半島のように大半大部族に帰属する地域ではは定冠詞語尾形容詞形にした「アル=◯◯イー」を用いるが、分家名を家名として用い場合は「アール・某」「(アール)・アブー某」「(アール)・ビン某」などとなる。地中海沿岸地域には職業名由来家名多く大工陶工鍛冶屋など実に多様である。日本欧米人々には一般に姓と見なされているウサーマ・ビン=ラーディンビン=ラーディンは、何代前もの先祖某の名を使ったビン=某」がいわば『家名のようなものとして用いられた例にあたるが、ビン=ラーディン場合近代になってビン=ラーディン財閥形成されたことによりビン=ラーディンファミリーという家名広く知られることとなった。(注;ビン某という家名ビン=ラーディン家出身のイエメンに多い方式。) 現代において人名ファーストネームラストネームのみの2つだけを挙げる方式広がっている。しかしながら国民登録においては4つの名の記載求める国が多い。4つの名前の記載をする場合人によって異なりサウジアラビアのように部族成員が多い地域では「本人の名+父の名祖父の名+部族由来形容詞等の家名」が多いが、姓の使用少なエジプトのような本人の名+父の名祖父の名+曽祖父の名」というパターンありまちまちである。部族成員家長名を用いたファミリーネーム名乗っていることも多いのでフルネームから出身部族言い当てることは必ずしもできないが、出身大部族名を形容詞化したニスバ家名)を使っている場合出自明確に示されるちなみにアラビア半島元首ファミリー部族由来形容詞形を名乗り用いることは少なく、たいていが「アール某」という分家名を公的なファミリーネームとしている。サウジアラビア王国場合は元々の出身大部族(バヌー・ハニーファ)を示す形容詞アル=ハナフィーは名乗っておらず、分家・支族家長名に由来する「アール・サウード」としている。サウジアラビア王国内において家名がアール・サウードとなっている人間は必ずサウード家人間である。家名生涯不変アラブ人名の原則であり、生まれた子供認知を受ける限り必ず父親家名継承するこのため外から嫁いできた女性らはアール・サウードではないが、王女らの家名全てアール・サウードとなる。 イラク場合は、元大統領サッダーム・フセイン・アブドゥル=マジード・アッ=ティクリーティー (Ṣaddām Ḥusayn ʿAbd al-Majīd al-Tikrītī) はティクリート出身のアブドゥルマジードの子フセインの子サッダームという意味である。アッ=ティクリーティーはアラブ人名の現代的用法により半ば家名のように使われており、本人ティクリート生まれていなくとも子供らが継承して名乗っていた。長男ウダイ・サッダーム・フセイン・アッ=ティクリーティー (Uday Saddām Husayn al-Tikrītī、厳密なアラビア語発音はウダイイ)はティクリート出身家でフセインの子サッダームの子ウダイ、サッダームの次男クサイ・サッダーム・フセイン・アッ=ティクリーティー (Qusay Saddām Husayn al-Tikrītī、厳密なアラビア語発音はクサイイ)はティクリート出身家でフセインの子サッダームの子クサイといった意味となる。 非アラブイスラム教徒の間では、ペルシア語で「息子」を意味する「ザーデ」、トルコ語で「息子」を意味するオウルオグルオール)」の語を、ナサブ該当する部分用いる他は、概ねアラブ人の名と似通った名が伝統的に使われていた。しかし、トルコイランではそれぞれ1930年代に「創姓法」が制定され全ての国民に姓をもつことが義務付けられたため、上流階級アラブ同じよう先祖の名前や出自由来する家名』を姓とし、庶民父の名あだ名居住地名、職業名や、縁起良い言葉選んで姓をつけた。この結果両国では姓名は「本人の名」・「家の姓」の二要素統合された。例えば、トルコ人レジェップ・タイイップ・エルドアン (Recep Tayyip Erdoğan) はレジェップ・タイイップが名、エルドアンが姓であり、イラン人マフムード・アフマディーネジャード (Mahmūd Ahmadīnejād) はマフムードが名、アフマディーネジャードが姓である。 トルコでは、1934年導入された創姓法によって、国民全員が姓を持つことが義務付けられた。 また、旧ソ連のアゼルバイジャン・トルクメニスタン・ウズベキスタン・タジキスタン・キルギスタン・カザフスタンやロシアに住むチェチェン人などのイスラム教徒は、長くロシア人の強い影響にあったために、スラブ語父称用いたスラブ式の姓が一般的である。例えば、アリーから創られた姓はアリエフ、ラフマーンから創られた姓はラフモノフと言いソビエト連邦解体後もそのまま使われている。 日本ではイスラム教入信した者がハサン中田考のようにムスリム名を本名繋げる例もある。イスラム教徒イスラム教圏出身者日本人の間に生まれた子供の場合伝統的な名前、父姓+日本名日本姓+イスムなどがある。ガーナ人の父親日本人の母の間に生まれた陸上選手サニブラウン・アブデル・ハキームは「アブデルハキーム(賢き者の僕)」という伝統的な命名であり、イラン人のダルビッシュセファット・ファルサと日本人の母の間に生まれたダルビッシュ・セファット・ファリード・有は「ファリード・有」の部分が「アリー・ファリード(比類なきアリー)」という伝統的な名前と漢字組み合わせた名前となっている。

※この「イスラム教圏の名前」の解説は、「人名」の解説の一部です。
「イスラム教圏の名前」を含む「人名」の記事については、「人名」の概要を参照ください。

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