手術
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/06 02:21 UTC 版)
手術の流れ
術前管理
手術に際しては安全性を高めるため、可能な限り全身状態を良好に保つことが必要である。原則的には手術前に入院のうえ全身状態の管理を行ったうえで手術を行うが、これには例外もあり、近年白内障手術や腹腔鏡下胆嚢摘出術など比較的侵襲の小さい手術(低侵襲手術)については日帰り手術が行われている。
- 手術侵襲に耐えられる全身状態を維持[要出典]
- 自己血の貯血(手術時に輸血が必要なことが予めわかっている場合、手術の2 - 3週前に患者自身の血液を採取し、輸血用血液として使用することがある。自己血輸血を参照。)[要出典]
- 手術に悪影響を及ぼす薬の一時中止(休薬)、他剤への変更[要出典]
- アレルギーの確認・評価[要出典]
- 口腔ケア[要出典]
術前計画
手術を行う医師、術中全身管理を行う麻酔科の医師、手術に関わる看護師らによって患者と手術に対する評価が行われ、周術期管理計画が立てられる[要出典]。
術前処置
全身麻酔が予定されている場合は、麻酔導入時の誤嚥を予防するため、手術前の一定期間は絶飲食となる。また腹腔内の手術などでは腸管内の清浄化を目的に下剤が投与される。手術部位の剃毛がかつては行われていたが、剃毛により皮膚感染が増加することが明らかになり、一部の例外を除いて現在では行われていない。手術室へ入る直前に、気道分泌の抑制、鎮痛、手術に対する緊張の緩和を目的に、抗コリン薬、鎮痛薬、鎮静薬が投与される(これらを前投薬と呼ぶ)場合があったが、最近ではなるべく行わない方向へと進んでいる。
手術室への入室
手術を行うための部屋を手術室と言う。 なお手術室のことをアメリカ英語で operating room と呼ぶことから、その省略形であるOR(オー・アール)、あるいは、日本語との混交で「オペ室」と呼ぶ場合がある。
欧米の病院では、一般に、それぞれの診療科に手術室のセクションがある。 日本の病院では、一般に、手術室は中央集中型であり中央手術部として一カ所にまとめられている。
手術室を含む手術エリアは清潔区域のため、入室する際は外来菌をなるべく少なくする目的から、スタッフは術衣に着替え、靴を履き替え、帽子とサージカルマスクを着用する。術衣の色は術野の赤色ばかりを見て色残像が生じることを考慮して一般に「緑」ないしは「青」がほとんどである。
患者は病棟のストレッチャー(担架)から手術室内のストレッチャーへ移し変えられる。症状によっては歩行で入室可能な場合もある。
麻酔
執刀に先立って麻酔が施行される。麻酔の主な目的は、有害な反射の抑制と疼痛のコントロールであり、麻酔担当の医師が術者とは別に付くのが原則である(局所麻酔の手術では術者が麻酔管理を兼ねることもある)。手術において麻酔担当医は患者の全身状態を管理しており、呼吸・循環の管理から体温の調節、薬剤投与、輸液の調節、出血量の監視、輸血に至るまであらゆる処置を一手に担う。また必要に応じて術者にもこれらの情報を提供し、安全な手術が行えるようサポートする。
麻酔には局所麻酔(浸潤麻酔・脊椎麻酔・硬膜外麻酔)と全身麻酔があり、目的により選択される。
- 局所麻酔:体のある部分のみに効く麻酔。通常は神経の伝達を遮断する薬剤が注射される。目的の部位に直接麻酔薬を注射する(浸潤麻酔)こともあれば、目的の部位を支配する神経に麻酔薬を効かせる(伝達麻酔)こともある。
- 全身麻酔:全身に効く=意識がなくなる麻酔。通常は鎮痛・鎮静・筋弛緩の3つを得る麻酔を指す。麻酔をかけられるとまず意識がなくなり、やがて自発呼吸も止まる。すると麻酔担当医によって気管内挿管され、人工呼吸器に接続される。手術中は継続的に薬剤が投与され、麻酔が維持される。
手洗い・ガウンテクニック
外来菌による感染を防ぐため、手術は無菌の領域(清潔野)を形成して行われる。手術操作に関わるスタッフも清潔野に触れる部分(上肢・前胸部・腹部)は無菌でなければならない。そのため、術者である医師、助手を務める医師、内回り(器械出し)の看護師等全員が、手ないし腕の洗浄を行い、滅菌ガウンを着用し、滅菌手袋を装着する。
手術用手洗いはまず、指先から肘に至るまでを滅菌水と消毒液を用いて念入りに洗浄する。手術用手洗いの目的は、手指に付着している病原菌の除去である。手術用手洗いの仕方は各施設ごとに若干個性があり、古典的には滅菌ブラシを用いた擦り洗いであるが、皮膚保護などを理由に簡便な揉み手洗いを行っている施設もある。
手術用手洗いの後、滅菌されたガウンを着る。手術用手洗いを行った手が再び汚染されないように、介助者の手を借りて着用する。その後に滅菌手袋を装着する。手袋には一般手袋とヨード配合の抗菌手袋が存在する。また、手袋に生じた穿孔による手術部位感染を低減するため、手袋の二重化(二重手袋)を行う事例もある[4]。
麻酔管理の医師や、外回りの看護師、ME(臨床工学技士)等、清潔野に直接関わらない者は手洗いは行わない。
消毒・清潔野形成
切開を行う部位を中心に、ポビドンヨードないしはアルコールによる十分な消毒が行われる。消毒が終わると、消毒した部分の周囲を滅菌されたシーツ(ドレープ)で覆い、清潔野を形成する。
執刀
こうして手術を行う環境が整ったら執刀が開始される。執刀に参加する医師は、例えば一般的な開腹や開胸手術の場合は3 - 4人程度である。大学病院や大病院であると4人 - 5人程度、人手の少ない病院だと2人で行うこともある。また手術介助の看護師が参加する。
まず術者(執刀医師)によって皮膚にメスが入れられる。術者は術前の計画に沿って手術を進行する。実際の所見が術前の予想と異なる場合(例:予想より進行していた、腫瘍の癒着が強固)があり、術中の判断で計画(術式)が変更、追加されることもある。ただしこの術中の計画変更、追加については患者にあらかじめ可能性として説明されていることが望ましい。術中に偶然発見された全く別の疾患については、たとえ医学的に妥当性があったとしても、本人(もしくは代理人)の同意なしには治療を行うべきでないというのが2021年現在主流の考え方である。しかし、一般的には多く行われ、事後同意という形式を取っている場合も多い。
手術操作終了後、術後の癒着防止、細菌や遺残癌細胞の除去などを目的に、温めた生理食塩水による術野の洗浄が行われる。また切開創の直下は術後高頻度に癒着を起こすが、主に繰り返し開腹を行う可能性がある帝王切開などで癒着防止のシート材が使用されている。創を閉鎖する前には、手術で使われた器具やガーゼ、針などの体内遺残を防ぐため、主に手術補助の看護師によって入念な数合わせが行われる。これが合わない場合は創を閉鎖せず、体内に遺残物がないと確認できるまで探し続けるのが原則である。また人的ミスも考慮して、術後すぐに手術部分のX線写真を撮影し、遺残物がないか確認することも多い。
創閉鎖後、滅菌シーツ(ドレープ)が取り外され、麻酔薬の投与が中止され、患者は麻酔から回復する。
最終術式
手術後に最終術式がどうなったか判断され、記録される。
術後管理
術後、手術のダメージから回復するまで治療は継続される。手術創の処置が行われ、点滴や投薬で全身状態の改善が図られる。術後合併症の予防には細心の注意が払われるが、不幸にも発症した場合には対症療法が行われる。
- ^ 広辞苑 第五版【手術】
- ^ “ここまで進んだ心臓病の低侵襲医療 国立循環器病研究センター”. 2024年4月21日閲覧。
- ^ “治療実績 当院におけるカテーテルアブレーション件数の推移”. 2024年4月21日閲覧。
- ^ 2重手袋で術中感染を防ぐ その手袋、穴が開いていませんか? 日経メディカルオンライン 2016/1/26
- ^ a b c d e f g h i j がん情報、手術(外科治療)
- ^ “手術を受けるなら月曜日? 曜日で異なる死亡リスク”. Medical tribune (2013年6月3日). 2024年4月19日閲覧。
- ^ a b “日本での大腸がん手術の転帰、月~木曜日vs.金曜日”. Care Net. 2024年4月19日閲覧。
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