愛と誠 愛と誠の概要

愛と誠

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/29 14:23 UTC 版)

愛と誠
ジャンル 少年漫画学園漫画
漫画
原作・原案など 梶原一騎
作画 ながやす巧
出版社 講談社
掲載誌 週刊少年マガジン
レーベル KCコミックス
発表号 1973年3・4合併号 - 1976年39号
巻数 KCコミックス全16巻
(旧)講談社漫画文庫全16巻
KCスペシャル全13巻
KCデラックス全10巻
講談社漫画文庫全10巻
KPC版全8巻
講談社プラチナコミックス版全6巻
話数 全175話
テンプレート - ノート
プロジェクト 漫画
ポータル 漫画

概要

不良少年の太賀誠、財閥令嬢の早乙女愛、二人の純愛を描いた学園青春漫画[1]。冒頭にて、元インド首相ジャワハルラール・ネルーが独立運動家時代に獄中から娘(後の首相インディラ・ガンディー)へ宛てた手紙が引用されており[3]、それに含まれる「愛」と「誠(誠実)」という言葉がタイトルの由来にもなっている。なお、この手紙の文章は、テレビドラマ版のオープニング・ナレーションとしても使用された。

本作品は『週刊少年マガジン』第4代編集長の宮原照夫が編集長に就任する以前から、梶原一騎の持つ繊細な部分に着目し「父と子のドラマ、子弟のドラマはもうやっている。読者である少年たちが、それら以外に出会う重要なドラマは何か。女性です」と持ち掛けたことにより誕生した[3]。両者は、木下惠介監督の映画『野菊の如き君なりき』やイワン・ツルゲーネフの小説『初恋』を参考にして構想を温めていた[3]。本作品は作画を務めたながやす巧の筆致もあって[3]、少年誌に連載された純愛物の先駆けとなり一世を風靡[4]。ヒロイン・早乙女愛が幼き日の太賀誠を回想して語った「白馬の騎士」や、その早乙女愛への報われない愛を貫く優等生・岩清水弘のセリフ「きみのためなら死ねる」などが流行語になった[4]。また、それまでスポ根ものの第一人者という評価がついて回っていた梶原にとっては、そのイメージから脱却する転機ともなった[3]

単行本は、雑誌連載中に講談社コミックス(KC)として順次発売され、最終的に全16巻が出版された。その後、講談社漫画文庫(全16巻)、KCスペシャル(全13巻)、KCデラックス(全10巻)などの形で再出版された。

なお、漫画は全4部構成になっており、連載中に何度か小休止をはさんでいる。

  • 第一部: 1973年3・4合併号 - 同53号
  • 第二部: 1974年3号 - 同36号
  • 第三部: 1974年37号 - 1975年49号(1975年2号は休載)
  • 第四部: 1975年52号 - 1976年39号

自筆原稿について

全175話のうち第74話全てと第12、35、55話の大部分を除いたほぼ全ての自筆原稿が現存しており、風塵社から1997年に「梶原一騎直筆原稿集『愛と誠』」(ISBN 4938733366)として発売された。梶原の自筆原稿は『あしたのジョー』の一部を除いてほとんどが消失しており、このケースは極めて希有な事例である。

2018年には、ながやす巧の自筆原稿のうち、外部に貸し出した後、行方不明となった15枚のうち1枚とみられる原稿がまんだらけのネットオークションに出品された。ながやすサイドは購入しないことを呼び掛けるも、400万円で落札された。この扱いにながやすサイドは落胆のコメントを発表したが、まんだらけサイドは原稿紛失を起こした講談社側の問題であるとして出品を特に問題視しなかった[5]

あらすじ

信州の蓼科高原早乙女愛(さおとめ あい)が偶然出会った不良青年・太賀誠(たいが まこと)。彼は幼い頃、愛の命を救った時、額に大きな傷を負ったばかりでなく両親や自らの人生さえも壊れてしまう。その償いとして誠を東京の高校へ転入させ、更生させようとするが、傷を負わされた誠の怒りは強く、逆に暴力で学園を支配しようと企む。しかし愛の献身的な行為により、これを阻止されると誠は関東一の不良高校・花園実業へと転校する。愛、そして彼女を愛し陰から支える男・岩清水弘(いわしみず ひろし)も花園へ移り物語は新たな展開を示す。

学園を支配する影の大番長・高原由紀(たかはら ゆき)、座王権太(ざおう ごんた)との対決、そして第3勢力の砂土谷峻(さどや しゅん)の登場。学園を舞台に誠と砂土谷の最後の対決が始まった。自分を捨てた母との悲しい再会ゆえに命を捨てて挑む誠の気迫に砂土谷は敗れた。束の間のやすらぎは長くは続かない。

次は愛の父が汚職事件に巻き込まれ逮捕、母は実家に戻り、かつてない苦況に立たされる。単身事件の解決に乗り出す誠は得意の喧嘩殺法で事件の首謀者達を叩きのめした。やがて検察の手で黒幕の総理が逮捕され、全てが解決されたその時、再び姿を現した砂土谷のナイフが誠を貫く。負傷した体を引きずり愛の待つ海岸へ向かった誠は、最後の力をふり絞り愛を抱きしめ初めての口づけを交わす。太賀誠と早乙女愛にようやく訪れた幸福な時は、今訪れ、そして…終わった。


注釈

  1. ^ 雑誌連載中および初期単行本では「劇画」と表記されていた。
  2. ^ 映画で砂土谷峻平役を演じた伊原剛志(当時は伊原剛)が2012年版の映画『愛と誠』では誠の好敵手である座王権太を演じている。
  3. ^ 文庫本第6巻の著者同士の対談(194頁)では、原作者の真倉翔が篠崎愛の登場に触れて「はじめは別の名前だったと思うけど岡野先生が愛ちゃんに変えたんだよね」と話した後に岡野剛が「だって「まこと」とくれば、「愛」でしょう!」と答えている。
  4. ^ 当時、池上は『マガジン』で『ひとりぼっちのリン』(原作:阿月田伸也)を連載していた。

出典

  1. ^ a b c 小学館漫画賞事務局『現代漫画博物館』小学館、2006年、165頁。ISBN 4-09-179003-8 
  2. ^ 愛と誠”. 松竹. 2022年12月1日閲覧。
  3. ^ a b c d e 斎藤貴男『梶原一騎伝』新潮文庫、2001年、223,226-228頁。ISBN 4-10-148731-6 
  4. ^ a b 高取英 編『梶原一騎をよむ』ファラオ企画、1994年、26-27頁。ISBN 4-89409-050-3 
  5. ^ 『愛と誠』紛失原画落札、オークション運営元・まんだらけが声明 「問題になること自体に違和感」 講談社を批判”. ITmedia NEWS. アイティメディア株式会社 (2018年5月21日). 2018年11月24日閲覧。
  6. ^ a b ササキバラ・ゴウ『<美少女>の現代史 「萌え」とキャラクター』新潮社〈講談社現代新書〉、2004年、71-73頁。ISBN 4-06-149718-9 
  7. ^ 松本品子 (2017年7月24日). “わが青春の漫画十選(7)梶原一騎・ながやす巧「愛と誠」”. 日本経済新聞. 2018年11月24日閲覧。
  8. ^ a b 野内政宏(編)「日本一スペシャル企画 マガジンを支える先生達からの熱きメッセージ!!」『週刊少年マガジン』1998年13号、講談社、1998年3月11日、164・167。 
  9. ^ 野内政宏(編)「発行部数日本一達成記念 少年マガジンヒストリー」『週刊少年マガジン』1998年13号、5頁。 
  10. ^ a b 夏目房之介『消えた魔球 熱血スポーツ漫画はいかにして燃えつきたか』双葉社、1991年、192-193頁。ISBN 4-575-28117-4 
  11. ^ 吉田豪「吉田豪のBUBKA流スーパースター列伝レジェンド漫画家編VOL.7 小林まこと」『BUBKA』 2018年3月号、白夜書房、75頁。 
  12. ^ 『「明石家さんま」の誕生』新潮社 88頁
  13. ^ TeLePAL テレパル 東版 1991年1月9日号
  14. ^ 週刊TVガイド2007年4月9日号
  15. ^ 『セントラル・アーツ読本』洋泉社 205頁
  16. ^ 『男組の時代』(株)明月堂書店 163頁
  17. ^ a b c d e f g h i j k l 梶原一騎『劇画一代』毎日新聞社、1979年、138-140頁。 
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  19. ^ a b c d e f g h i j k l 梶原一騎『劇画一代』毎日新聞社、1979年、135-137頁。 
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  21. ^ 鈴木英之「洋楽はアイドルが教えてくれた──70年代アイドルのライヴ・アルバムを聴く」(通算第13回) 西城秀樹-アルテス電子版、アルテスパブリッシング
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  23. ^ 「39074分の1 選ばれた西城秀樹の相手役」『週刊朝日』、朝日新聞社、1974年5月24日、37頁。 
  24. ^ 愛と誠(DVD)| 松竹DVD倶楽部
  25. ^ a b c 「西城秀樹の相手役決る『愛と誠』で一般募集」『映画時報』1974年5月号、映画時報社、19頁。 
  26. ^ 『愛と誠』で共演の西城秀樹、早乙女愛さん訃報を受け「清純さと強さを兼ね備えた人、残念でなりません」”. シネマトゥデイ (2010年7月26日). 2017年5月24日閲覧。
  27. ^ a b 山下勝利「早過ぎる自叙伝 20代のまぶしい女たち(25)早乙女愛」『週刊朝日』、朝日新聞社、1983年12月23日・30日合併号、138-142頁。 
  28. ^ a b c d e f 馬飼野元宏「君のためなら死ねる!2作目のバイオレンス度に注目!『愛と誠』シリーズ」『日本不良映画年代記』洋泉社〈洋泉社MOOK〉、2016年5月4日、172頁。ISBN 978-4-8003-0900-6 
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  31. ^ a b c d e f g “"'50の顔" 早乙女愛 羽ばたく"愛" 誠は秀樹じゃないけれど…”. 内外タイムス (内外タイムス社): p. 4. (1975年1月1日) 
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  34. ^ 大塚祐哉『梶原一騎、そして梶原一騎』風塵社、1997年、13-15,132-133頁。ISBN 4-938733-37-4 
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  36. ^ 蕪木和夫『劇画王 梶原一騎評伝』風塵社、1994年、102-103頁。ISBN 4-938733-07-2 
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  39. ^ a b c 鳴呼!! 七〇年代劇画イズムRETURNS - ラピュタ阿佐ヶ谷
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  43. ^ a b c d “芸能ファイル”. サンケイスポーツ (産業経済新聞社): p. 11. (1975年2月14日) 
  44. ^ キネマ旬報」2013年2月下旬決算特別号 206頁
  45. ^ 三池監督もびっくり! 監督作『愛と誠』が『一命』に続き2年連続でカンヌへ 2012年4月20日 ムービーコレクション
  46. ^ カンヌが大爆笑! 三池崇史監督作『愛と誠』映画祭での動画が到着@ぴあ映画生活ニュース”. 2012年9月21日閲覧。
  47. ^ 『愛と誠』カンヌで上映!観客からは「三池はクレイジー!」「何人もいるんじゃないか?」の反応! - シネマトゥデイ”. 2012年9月21日閲覧。
  48. ^ 戦う白雪姫がトップ初登場!『愛と誠』を押さえて『図書館戦争』がベストテン入り! シネマトゥデイ 2012年6月19日
  49. ^ ながやす巧の妻
  50. ^ a b c d e f g h i 木俣冬「『愛と誠』 目指したのはバズ・ラーマン世界と昭和映画へのリスペクト 宅間孝行〔脚本〕/インタビュー」『キネマ旬報』2012年6月下旬号、キネマ旬報社、31–33頁。 
  51. ^ 純愛山河 愛と誠 - ベストフィールド
  52. ^ a b 白石雅彦「村石宏實 監督」『別冊映画秘宝電人ザボーガー』&ピー・プロ特撮大図鑑』洋泉社〈洋泉社MOOK〉、2011年11月14日、56-59頁。ISBN 978-4-86248-805-3 
  53. ^ a b 日刊スポーツ』1975年2月1日 - 3月29日付、テレビ欄。
  54. ^ a b 『日刊スポーツ』1975年2月7日 - 3月28日付、テレビ欄。
  55. ^ a b 『日刊スポーツ』1975年2月6日 - 3月27日付、テレビ欄。


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