車体傾斜式車両とは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 辞書・百科事典 > 百科事典 > 車体傾斜式車両の意味・解説 

車体傾斜式車両

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/15 20:22 UTC 版)

車体傾斜式車両(しゃたいけいしゃしきしゃりょう、英語: tilting train)とは、曲線通過時に車体を傾斜させることで、通過速度の向上と乗り心地の改善を図った鉄道車両である[1]車体傾斜車両とも呼ばれる。


注釈

  1. ^ 日本国有鉄道の場合、乗り心地上許容される車体床面における水平方向の加速度を0.08G(地表方向の重力の約1/12)以下を限度としていた。この数値は、テーブルの上のコップが横に動くか動かないかという程度の遠心力の強さである。
  2. ^ 許容可能な超過遠心力=許容カント不足量(Cant deficiency)として規定される。
  3. ^ ただし、振り子式車両は概して重心が低いためそもそも脱線しにくい。同じ車両で比べた場合に、車体傾斜機構によって脱線を防ぐことはできないということである。
  4. ^ 側圧増大を抑制するために車体傾斜システムとともに操舵台車を搭載する車両もあるが、軌道が強化されなければ安定した高速走行そのものが困難である。
  5. ^ 逆に幹線区間で半径の小さな曲線がなく、通過速度に対して充分なカント量がある場合も、車体傾斜を動作させる必要はない。
  6. ^ 車体傾斜装置を装備しないJR西日本681系683系等で曲線通過速度を高めているのはこの例である。
  7. ^ 枕ばり(ボルスタ)の下部を円形にして回転できるようにしたもの。
  8. ^ タルゴ・ペンデュラーも小田急の試験車両もともに車体端より外に連接台車の中心があり、ボギー車に比べれば空気ばねを高く設置しやすい。小田急の場合、約2000 mmの高さであった。
  9. ^ JR北海道のように単に「車体傾斜」と呼ぶ鉄道会社もある。また「簡易振り子」とは呼ばれても自然振り子式や制御付き自然振り子式を元に簡易構造としたものではない。
  10. ^ ほか、E991系電車の中間車には空気ばねの伸縮差を大きくすることで7度の車体傾斜を実現したロングストローク空気ばねによる車体傾斜が搭載されていた(西岡康志, 佐藤与志, 根来尚志 他「ロングストロ-ク空気ばねによる鉄道車両用車体傾斜制御」(PDF)『住友金属技術誌』第49巻第4号、住友金属工業、1997年10月、112-118頁、ISSN 0371411XNAID 40002005055 
  11. ^ 先頭車両に搭載したジャイロセンサー(角速度センサー)のデータにより曲線を検知して、その後に各車両に搭載された車体傾斜電磁弁により、台車の外軌側の空気ばね内圧を高めて車体を傾斜させる方式。
  12. ^ 予め線路上の曲線部ごとのカント等のすべての情報をあらかじめ車上装置へ組み込まれたマイコンに記録しておき、そこで記録された曲線情報に速度発電機と地上にあるATS地上子(新幹線の場合はトランスポンダ地上子を使用する)を使用して得られる絶対位置情報、速度発電機の検出で得られる速度情報、空気ばねの高さの情報を元に、車体傾斜制御装置が傾斜角を計算して各車両に搭載されている車体傾斜電磁弁装置に指令を送り内軌側の空気ばね内圧を低め、外軌側の空気ばね内圧を高めて、車体を傾斜させる方式。
  13. ^ この場合には、空気ばねの高さの数値も計算に入れる。
  14. ^ 先行して投入した8600系電車でも、量産先行車での試験の結果空気タンクの増設が必要とされ、量産車では空気タンクを増設した。だが、こちらは電車であり電動車は2〜3両に1両のみ艤装スペースに余裕があったため、増設への対応が容易であった。
  15. ^ 自動高さ調整弁自体を車体傾斜に用いる小田急50000形、台湾TEMU2000型では別途安全装置は設けていない。
  16. ^ 強制車体傾斜機構が曲線走行で車体傾斜制御中に車体を突然直立状態に戻してしまい、乗客が曲線の外側に投げ出される、あるいは車体傾斜制御の異常で脱線する、といった凄まじい事故が多発した。
  17. ^ 本則とは、国鉄の運転取扱基準規程第121条2項の線路の分岐に接続しない曲線における曲線半径別制限速度を指す。JRの運転規定においては電車・気動車の基本の速度、あるいは基本の速度イに相当する。
  18. ^ 1989年3月11日ダイヤ改正における651系特急「スーパーひたち」の北千住 - 日立間以降、特に高性能な車両にのみ適用されている。これ以前は1986年3月11日ダイヤ改正での183系特急「あずさ」の八王子 - 松本間から適用された105 km/hが最高であり、さらに以前は95 km/hであった。
  19. ^ 1973年7月10日ダイヤ改正における381系特急「しなの」の名古屋 - 中津川間から。なお当時の車体傾斜無しの車両では本則+5km/hが最大であった。
  20. ^ 383系特急「しなの」の名古屋 - 中津川間のみ。その他の制御付き自然振り子式車両はE351系(最高115 km/h)を除いて最高120 km/hである。
  21. ^ JR四国8600系、2600系のみ。E353系はE351系を踏襲しており115km/h、車体傾斜装置を使用していた当時のキハ261系も115km/h。
  22. ^ 双方とも非貫通で、高運転台と低運転台によるスタイリングの差以外に着座位置による運転士への影響が比較された。
  23. ^ 車体傾斜車両の投入が望まれる線区は即ち曲線主体の線形であり、最高速度引き上げが難しい。
  24. ^ 最高速度を130 km/hに設定し、また591系で成功を収めたチョッパ制御器+直流複巻整流子電動機による発電ブレーキを有効に活用するには、同系列と同様に全電動車方式を採用する必要があり、車両製作・保守コストの点でも変電所負担の点でも望ましくなかった。
  25. ^ このため、名古屋 - 大阪間(東海道本線)では、振り子装置の使用を停止して運用された。
  26. ^ 他にクロ381-11もリニア・鉄道館にて保存展示されていたが、2019年7月に展示車両の入れ替えに伴い撤去された。
  27. ^ 試作車2両にコロ式を、後に製作した試作車1両にJR四国8000系電車試作車で採用されたベアリングガイド方式をそれぞれ採用し比較検討された。
  28. ^ 自動車における半クラッチと同様の制御。
  29. ^ 宗谷本線名寄駅 - 稚内駅は高速化工事が行われなかったため改正以前から車体傾斜装置を非使用としている。

出典

  1. ^ 日本工業標準615890調査会 編『JIS E 4001 鉄道車両-用語』2011年、7頁。 
  2. ^ 『鉄道のテクノロジー』Vol.4、p.27
  3. ^ 『世界の高速鉄道』、p.287
  4. ^ 風戸2011、p.15
  5. ^ 風戸2011、p.3
  6. ^ 『電車基礎講座』、p.150
  7. ^ a b 『新世代鉄道の技術』、p.137
  8. ^ “振子台車”. 特許公開 昭59-143760. 
  9. ^ “ボルスタレス振子台車”. 特許公開 昭60-163760. 
  10. ^ 『鉄道ファン』通巻714号、p.24
  11. ^ 風戸2011、p.16
  12. ^ 『鉄道車両のダイナミクス』、p.60
  13. ^ a b 『新世代鉄道の技術』、p.138
  14. ^ カーブ克服して速度アップ「振り子式車両」の進化 新技術搭載の「やくも」は従来車とどう違う?”. 東洋経済オンライン. p. 6 (2023年11月24日). 2024年4月9日閲覧。
  15. ^ a b 「やくも」用の新型「273系」公開 乗り物酔いを23%改善する新「振り子」システムとは?”. Tetsudo.com. p. 2 (2023年10月27日). 2024年4月9日閲覧。
  16. ^ a b 岡本勲・榎本衛・下村隆行、1993、「振子車の性能向上に挑む ベアリングガイド式車体傾斜装置の開発」、『RRR』50巻5号、鉄道総合技術研究所、ISSN 0913-7009 pp. 17-22
  17. ^ “JR四国の新型特急、12月に定期列車デビュー…「空気バネ傾斜」は取りやめへ”. Response. (イード). (2017年9月25日). https://response.jp/article/2017/09/25/300209.html 2017年9月26日閲覧。 
  18. ^ 新型特急気動車「2700系」の営業運転について』(プレスリリース)四国旅客鉄道、2019年7月29日http://www.jr-shikoku.co.jp/03_news/press/2019%2007%2029%2002.pdf2019年8月22日閲覧 
  19. ^ a b c 特急「やくも」への新型車両の投入について』(PDF)(プレスリリース)西日本旅客鉄道、2022年2月16日https://www.westjr.co.jp/press/article/items/220216_03_yakumo.pdf2022年2月16日閲覧 
  20. ^ “特急「しなの」新型385系に置き換え決定 次世代の「振子式」 乗り心地改善へ JR東海”. 乗りものニュース. (2023年7月20日). https://trafficnews.jp/post/127057 2023年7月20日閲覧。 
  21. ^ a b c 風戸2011、p.19
  22. ^ a b CAF - Construcciones y Auxiliar de Ferrocarriles” (英語). www.caf.net. 2023年11月11日閲覧。
  23. ^ TILTRONIX (PDF) 』、Alstom
  24. ^ 『プロが教える電車のメカニズム』、p.143
  25. ^ 『鉄道のテクノロジー』Vol.4、p.37
  26. ^ 『鉄道のテクノロジー』Vol.4、p.40
  27. ^ 新型特急気動車「2600 系」の営業運転開始について” (PDF). 四国旅客鉄道 (2017年9月25日). 2017年9月26日閲覧。
  28. ^ a b c 世界初の「ハイブリッド車体傾斜システム」の開発に成功!』(pdf)(プレスリリース)JR北海道、2006年3月8日http://www.jrhokkaido.co.jp/press/2005/060308-2.pdf2014年3月31日閲覧 
  29. ^ 上村, 哲也「キハ283系によるハイブリッド車体傾斜システム台車,走行試験,行なわれる」『鉄道ファン』第46巻第7号(通巻543号)、交友社、2006年7月1日、p.67。 
  30. ^ 新型特急車両の開発中止について』(PDF)(プレスリリース)北海道旅客鉄道、2014年9月10日。 オリジナルの2014年9月10日時点におけるアーカイブhttps://web.archive.org/web/20140910093118/http://www.jrhokkaido.co.jp/press/2014/140910-1.pdf2016年9月10日閲覧 
  31. ^ a b c 『電車基礎講座』、p.156
  32. ^ 『電車基礎講座』、p.157
  33. ^ 『新世代鉄道の技術』、pp.140-141
  34. ^ 『鉄道ジャーナル』 No.328、pp.50-51
  35. ^ 『電車基礎講座』、p.152
  36. ^ a b 『世界の高速鉄道』、p.291
  37. ^ a b c 『世界の高速鉄道』、p.292
  38. ^ a b c d e 『世界の高速鉄道』、p.297
  39. ^ a b 『世界の高速鉄道』、p.294
  40. ^ FLEXX Tronic WAKO』、BOMBARIDIER
  41. ^ a b 『鉄道のテクノロジー』Vol.4、pp.28-29
  42. ^ 381系車両の乗り心地 - JR西日本 > トレナビ(2014年11月28日のウェブアーカイブ版 / 2015年10月30日閲覧)
  43. ^ 智頭急行の特急「スーパーはくと」に新型導入 2024年めど 年間63万人利用、京阪神~鳥取結ぶ”. 乗りものニュース (2018年3月1日). 2023年11月11日閲覧。
  44. ^ 関西~鳥取「スーパーはくと 新型車両導入」結局どうなった? "30年選手"置き換え計画のゆくえ 智頭急行”. 乗りものニュース (2023年5月15日). 2023年11月11日閲覧。
  45. ^ 風戸2011、p.20
  46. ^ 新型特急E353系、「空気ばね式車体傾斜」採用で変化は…外観と技術を見る”. レスポンス (2015年8月4日). 2015年11月22日閲覧。
  47. ^ 中央線新型特急電車(E353系)量産先行車新造について (PDF) 、JR東日本
  48. ^ JR四国2600系アンベール…2000系を置き換えレスポンス 2017年2月21日
  49. ^ SJ Motorvagnar |”. web.archive.org (2018年1月30日). 2023年11月11日閲覧。





英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「車体傾斜式車両」の関連用語

車体傾斜式車両のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



車体傾斜式車両のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの車体傾斜式車両 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS