研究の推移
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従来、磁性元素における電子スピン間の強い相互作用はクーパー対の形成を阻害すると考えられてきた。このため、典型的な磁性元素である鉄を含む物質は超伝導の研究において非主流の存在であった。 一方、東京工業大学の細野秀雄らは磁性半導体を探索する研究の一環として、LaTMPnO(TMは+2価の遷移金属イオン、PnはP(リン)またはAs(ヒ素))で表される組成の物質を系統的に合成し、低温における電気抵抗をルーチンワークで測定していた。遷移金属にはMn(マンガン)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Zn(亜鉛)、Feなどが用いられた。これらの物質の中で、LaFePOやLaNiPO、LaNiAsOが超伝導性を示すことが2006年から2007年にかけて発見されたが、超伝導転移温度(Tc)が6K(約マイナス267℃)と低いことから、それほど大きな注目は集めていなかった。 さらに高温で超伝導性を発現させるために正孔や電子のドープが行なわれた結果、F-(フッ素イオン)を4%以上ドープするとLaFeAsO1-XFXが超伝導体となり、10%のドープでTcが26Kに達することがわかった。また、高圧を印加することでTcは43Kになることを日本大学の高橋博樹らが発見し、これは二ホウ化マグネシウムなどの値を超えて銅酸化物以外では最高温度の新記録となった。さらに、サマリウムなどイオン半径の小さい希土類イオンでLaを置換する事により、4月には中国科学院などのグループがTcを55Kまで引き上げている。 2010年4月23日、理化学研究所が、鉄系高温超伝導体の超伝導発現機構解明のために決定的な手掛かりとなる、クーパー対の構造決定に実験的に初めて成功。 2010年10月22日、東北大学と科学技術振興機構の共同グループが、鉄系超伝導体の電子対の構造が物質によって共通であることを発見したと発表し、米国物理学会誌「Physical Reveiw Letters」に掲載された。 2011年7月13日、東北大学と科学技術振興機構の共同グループが、鉄系高温超伝導体の超伝導阻害因子を発見したと発表。 2012年9月14日、東京大学物性研究所、科学技術振興機構の共同グループが、「鉄系超伝導体において競合しあう2種類の超伝導の“のり”」を発見したと発表し、米国科学雑誌サイエンスに論文を掲載。 2013年11月14日、名古屋大学と岡山大学のグループが、最高Tc45Kながら従来の1111系がレアアースを25%含んでいたのに対し、レアアース含有量を2~2.5%に程度に低減させ、低コスト化につながる112系の開発に成功したと発表した。 2014年3月16日、東工大の細野秀雄教授、松石聡准教授らのグループが、「鉄系超伝導物質で、構造変化を伴う第二の磁気秩序相を発見」を英国科学誌「Nature Physics」のオンライン版に公開。 2014年8月27日、東京工業大学フロンティア研究機構の細野秀雄、郭建剛、雷和暢らのグループが、液体アンモニアを溶媒とする低温合成法(アンモノサーマル法)により、鉄系超伝導体の一つである鉄セレン化合物にナトリウムとアンモニアを層間挿入してTc37K~45Kの新しい鉄系超伝導体を3種を発見し、その組成、構造を決定したと発表。 2014年12月22日、東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻の三澤貴宏、今田正俊らのグループが、スパコン「京」を用い、計算機の中で鉄系高温超伝導体の超伝導を再現することに成功し、さらに超伝導が起きる仕組みも明らかにしたと「Nature Communications」に発表。 2015年2月3日、東京大学が、鉄系超電導体の一種である鉄カルコゲナイドが超伝導状態へと変化する温度(臨界温度)を、従来の15K(-258℃)と比較して1.5倍の23K(-250℃)に上昇させることに成功したと発表。 2015年7月3日、物質・材料研究機構が、鉄系超伝導体に添加した3%の亜鉛元素が超伝導対を破壊することを確認。この成果は、鉄系超伝導体のメカニズムの解明につながることが期待される。2015年7月3日、Nature Communicationsに掲載された。 2015年9月30日、東京農工大学と 科学技術振興機構が、鉄系高温超伝導の磁石化に成功。本研究成果は、2015年9月30日(英国時間)に英国物理学会発行の科学誌「Superconductor Science and Technology」のオンライン版に掲載された。 2016年1月29日、理化学研究所、大阪大学、高輝度光科学研究センターの共同研究チームが、超伝導を示さない鉄系超伝導体母物質のフォノン(物質の結晶格子の振動)の精密測定に成功と発表。1月25日付けのアメリカの科学雑誌「フィジカル・レビュー」に掲載された。共同研究グループは磁気秩序状態にした鉄系超伝導体母物質「SrFe2As2」のフォノンの異方的な振る舞いの観測を試み、その結果、磁気秩序状態でのフォノンエネルギーの分裂の観測に成功し、エネルギー分裂の大きさは理論計算よりも小さく、磁気揺らぎの効果として説明できることを発見した。本成果は、鉄系超伝導体母物質のフォノン測定により磁性情報に対する知見を得た初めての例であると同時に、超伝導の発現に不可欠な要素であるフォノンと磁性がお互いにどのように関係しているのかという重要な問題提起している。 2016年4月7日、東京工業大学のグループが鉄系超伝導体のひとつである鉄セレン化物「FeSe」のごく薄い膜を作製し、35Kで超伝導転移させることに成功したと発表。3月28日付けの米科学誌「米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)」のオンライン速報版に掲載された。 2016年7月12日、東京大学と京都大学の共同グループが鉄系超電導体の一種において、ある組成を境に電子状態が大きく変わる臨界点(特異点)が存在することを明らかにした。電子がある一方向にそろおうとする液晶のような性質を示しており、超電導が現れる機構を解明する上で重要な手がかりになる。成果は米科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載された。 2017年5月29日、東京工業大学の研究グループが、ヒ酸水素化鉄サマリウムに過剰に電子を注入すると、磁気モーメントを持つ「反強磁性相」が現れることを発見したと発表した。同研究結果は米科学アカデミー紀要電子版に掲載された。 2018年1月10日、東北大学のグループが、鉄系超伝導体の1種の鉄セレン(FeSe)で質量ゼロのディラック電子が存在することを明らかにしたと発表した。米国物理学会誌「Physical Review B」(オンライン速報版)に掲載され、Editor's Suggestion(注目論文)に選ばれた。 2020年3月10日、東京大学、産業技術総合研究所、ドイツカールスルーエ工科大学、アメリカミネソタ大学の共同研究グループが鉄系超電導で電子の集団がどの方向にも揃う新しいタイプの量子液晶状態が実現できることを発見したと発表。同研究は、2020年3月9日週の米国科学誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)」に掲載された。
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研究の推移
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各国の研究者がそれぞれの国へ敦煌文献を持ち帰った。スタインが持ち帰った文献は大英図書館に、ペリオのものはフランス国立図書館に、清政府のものは北京京師図書館に収蔵された。大谷探検隊のものは大谷光瑞の失脚の影響で龍谷大学・東京国立博物館・中国の旅順博物館に分蔵されている(日本には大谷探検隊の大谷コレクションとして頻繁に混同される大谷大学などの大学所蔵や個人所蔵のものもかなりあるが、それらは全て他国のコレクションが流出したものを、後になって購入したものである)。ロシアではサンクトペテルブルクの科学アカデミー東洋学研究所に収蔵されている。他にはフランスのギメ美術館、ロシアのエルミタージュ美術館、アメリカのハーヴァード大学付属フォッグ美術館などが収蔵している。 このため、敦煌研究が始められた当初は各研究機関がバラバラに研究を進めていった。のちにマイクロフィルムによる相互の貸し出しが可能となり、国際的な研究が進むようになった。各国の代表たちが集まって行われる国際シンポジウムも多数開かれており、その学問としての多彩さは「敦煌学」と言う言葉を生み出した。敦煌学の第一人者は藤枝晃である。 さらに西のトルファンでも多量の文書が発掘されるようになり、立体的な研究が進められるようになった。現在では敦煌・吐魯番(トルファン)と併称されることも多い。 近年では森安孝夫や李正宇らの研究によって、821年の長慶会盟の際に唐とチベット帝国とウイグル帝国による「三国会盟」が締結されたことが分かってきている。
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