狼
『ギュルヴィたぶらかし(ギュルヴィの惑わし)』(スノリ)第51章 神々の黄昏(ラグナレク)の時、狼たちが太陽と月を呑み、フェンリル狼が大きな口を開けて進んで来る。その上顎は天に、下顎は大地につく。オーディンが立ち向かうが、フェンリル狼に呑みこまれる。
『ピーターと狼』(プロコフィエフ) 森から灰色の狼が出て来て、牧場の池のアヒルを呑みこむ。ピーターが木の上から、輪にしたロープを垂らして狼の尻尾を縛り、捕らえる。狼の腹の中で、アヒルはまだ生きていて泳いでいる。
『赤ずきんちゃん』(ペロー) 狼がおばあさんの家の戸をノックし、赤ずきんの声色で「お母さんのお使いで来た」と言う。おばあさんが戸の開け方を教えると、狼は家に入っておばあさんを食べる〔*その後、狼は赤ずきんも食べてペローの物語は終わるが、『赤ずきん』(グリム)KHM26では、赤ずきんもおばあさんも、狩人によって救い出される〕。
『狼と七匹の子山羊』(グリム)KHM5 狼が白墨を食べて声を変え、足に粉をぬって白くして、7匹の子山羊が留守番する家の戸をたたく。子山羊たちは、母親が帰って来たと思って戸を開け、7匹のうち6匹まで喰われてしまう→〔末子〕2。
★2a.狼男。
『サテュリコン』(ペトロニウス)「トリマルキオンの饗宴」 月の輝く夜明け前に、ニケロスが知り合いの兵士を連れて愛人宅へ出かける。墓地を通る時、兵士が裸になって狼に変身し(脱いだ着物の周りに小便をして、着物を石に変える)、森の中へ去る。ニケロスは1人で愛人宅へ行き、「狼が家畜を襲ったが、首に槍を突き刺した」と聞く。帰宅すると、兵士が医者に首の傷の手当てを受けて、寝ていた。
『ドラえもん』(藤子・F・不二雄)「おおかみ男クリーム」 のび太のママが、知らずに狼男クリームをぬって出かける。満月を思わせる丸いものを見るだけで狼に変身してしまうので、ドラえもんが追いかけて、茶碗やせんべいなど丸いものをママに見せないようにする。夜の帰り道、強盗が「金を出せ」と言って懐中電灯を突きつけるが、それを見たママは狼になり、強盗は悲鳴をあげて逃げる。帰宅したママは「私ってそんなに恐い顔かしら」と考えこむ。
『バンパイヤ』(手塚治虫) 木曽の夜泣き谷に、バンパイヤ族の人々が隠れ住んでいた。彼らは五官に特定の刺激を受けて、熊や蝙蝠その他いろいろな動物に変わる。少年トッペイは、満月を見ると狼に変身する。弟のチッペイは、満月に似たものを見るだけで、狼になってしまう。チッペイは、ハゲチャビンのじいさんの頭・丸い塩せんべい・日の丸の旗・電球・丸い鏡などを見て、所かまわず小さな狼に変身した。
*満月の晩に、狼だけでなく他のいろいろなものに変身する→〔地球〕7の『オオカミそのほか』(星新一)。
『イソップ寓話集』(岩波文庫版)419「泥棒と宿屋の主人」 泥棒が「私は3度欠伸(あくび)をすると人食い狼に変身するから、ここに脱ぎ捨てて置く服を見張っていてほしい」と、宿屋の主人に言う。泥棒は2度欠伸をして狼のように吠える。3度目に泥棒が大口を開けると、主人は恐れて奥へ逃げこむ。泥棒は主人の晴着を盗んで去る。
『変身物語』(オヴィディウス)巻1 ユピテル(=ゼウス)が人間に身をやつして、下界を見回る。凶暴なアルカディア王リュカオンは、客として訪れたユピテルを就寝中に殺そうとしたり、人肉を料理して食卓に出したりする。ユピテルは怒り、雷電を放ってリュカオンの屋敷を破壊するが、彼は逃げ出す。リュカオンは田園までやって来て、そこで狼になってしまった。
★2d.狼頭人身。
『火の鳥』(手塚治虫)「太陽編」 7世紀。百済の王族の少年ハリマは敵軍の捕虜になり、顔の皮を剣で剥ぎ取られる。その上に狼の頭部の皮をかぶせられ、ハリマは狼頭人身の奇怪な姿になる。彼は日本へ渡り、壬申の乱にまきこまれて、顔面に傷を負う。狼の皮は腐ってめくれ、ハリマはもとの人間の顔に戻る→〔冥婚〕4。
★2e.狼娘。
『ブラック・ジャック』(手塚治虫)「オオカミ少女」 北ヨーロッパ某国の山奥に狼娘が住み、山越えする人を襲うという。ブラック・ジャックが山を越えようとして、狼娘に出会う。彼女は口蓋裂の状態で生まれたため、口が耳近くまで裂けていた。ブラック・ジャックは狼娘の顔を手術し、彼女は美少女に生まれ変わる。彼女は自分の美しさを皆に見てもらおうと、山を降りる。国境警備隊が、彼女を他国への亡命者と見なして、射殺する。
★2f.狼女房。
『聊斎志異』巻5-197「黎氏」 妻に死なれた男が、幼い3人の子供をかかえて困っていた。男は、山道で出会った美女・黎氏を口説いて家へ連れ帰り、妻とする。夫婦仲はむつまじく、黎氏は家事も子供の世話も立派にこなした。1ヵ月余りたったある日、男が外出先から帰ると、1匹の狼が戸口から躍り出て走り去ったので、男は仰天した。寝室に血がおびただしく流れ、3人の子供の頭だけが残っていた。
*広野で出会った美女を妻にしたら狐だった、という物語もある→〔狐女房〕1aの『日本霊異記』上-2。
★3.狼に育てられる子。
『ジャングル・ブック』(キプリング) よちよち歩きの赤ん坊がジャングルに迷いこみ、狼の洞穴までやって来る。狼夫婦と仲間たちが、赤ん坊をモーグルと名づけて育てる。10年余りを経てモーグルは村へ降り、人間の養父母のもとで暮らすが、人喰い虎シーア・カーンを殺したことから、魔法使いと見なされ村人から排斥されて、再びジャングルへ戻る。
★4a.狼の恩返し。
『聊斎志異』巻12-459「毛大福」 医師・毛大福が山の狼のできものを治療し、礼に金細工の包みをもらう。ところが、そのために毛大福は、最近あった細工師殺しの犯人と疑われ、捕らわれてしまった。毛大福は役人に請うて山へ行き、狼に窮状を訴える。数日後、狼が県知事の所へ、破れ靴をくわえてやって来る。靴の主を探索すると某村の男で、彼が細工師殺しの真犯人とわかった。
★4b.狼の恩知らず。
『狼』(中国の昔話) じいさんが、岩の割れ目に落ちた子狼を助け、家で育てる。じいさんは狼を「黒や、黒や」と呼んでかわいがる。狼は成長して牙が生え、ある日、肉を与えるじいさんの手に噛みつく。じいさんは「お前の体を育てたが、心を育ててやることはできなかった」と言って、狼を放す。2日後、じいさんは夜道で狼に出会い、「黒じゃないか」と声をかける。しかし狼はじいさんに飛びかかり、食い殺してしまった(山東省)。
★5.狼の口に腕を入れて噛み切られる、あるいは噛み砕かれる。
『ギュルヴィたぶらかし(ギュルヴィの惑わし)』(スノリ)第34章 神々たちが「力試し」と称して、特殊な絹紐で怪物フェンリル狼を縛る。欺くのではない保証として、テュール神が右手を狼の口の中に入れておく。ところが、どうしても紐は切れない。だまされたと知って怒ったフェンリル狼は、テュール神の腕を噛み切った。
『遠野物語』(柳田国男)42 村人たちが狼狩りをした時、1頭の雌狼が鉄という男に飛びかかった。鉄はワッポロ(=上羽織)を腕に巻き、狼の口の中へ突っ込む。狼はこれを噛む。鉄は腕をさらに奥まで突き入れ、狼の腹まで入る。狼は苦しまぎれに、鉄の腕骨を噛み砕く。狼はその場で死んだ。鉄も、家までかつがれて帰り、まもなく死んだ。
*狼と違い、犬ならば口に手を入れても平気である→〔犬〕10。
『ほらふき男爵の冒険』(ビュルガー)「ミュンヒハウゼン男爵自身の話」 狼が襲いかかって来て、身をかわす間もなかったので、「ワガハイ(ミュンヒハウゼン男爵)」はこぶしを突き出した。こぶしは狼の口の奥まで入り込み、「ワガハイ」の腕は、ほとんど肩まで入ってしまった。そこで「ワガハイ」は狼の内蔵をつかみ、手袋のごとく表と裏を引っ繰り返して、地面にたたきつけてやった。
★7.狼の筋。物が盗まれた時、これを焼くと、犯人が誰かわかる。
『酉陽雑俎』続集巻8-1126 節度使・段祐の屋敷で、銀器が10余点、紛失した。段祐は、胡人から銭1千で狼の筋を買い、男女の奴隷たちの前で、これを焼いた。1人の女奴隷の顔と唇がピクピク動いたので、問いただすと、案の定、銀器を盗んで逃げようとしている者だった。
*狼の筋を焼いたら、意外な犯人が明らかになった→〔泥棒〕4の『子不語』巻12-291。
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