嫁
★1.嫁くらべ。
『岩屋の草子』(御伽草子) 海士の岩屋に住む対の屋の姫君は、二位中将に見出されてその妻となる。中将の母がこれをきらい、他家に嫁いでいる4人の娘と対面させて恥をかかせ、追い出そうとする。しかし、美貌も教養も姫がいちばん優れていた。
『じゃじゃ馬ならし』(シェイクスピア)第5幕 ペトルーキオ、ルーセンシオ、ホーテンシオという新婚の3人が、誰の妻がもっとも従順かの賭をする。「すぐここへ来い」との夫の命令に従ったのは、意外なことに、かつてのじゃじゃ馬娘、今ではペトルーキオの妻であるキャサリンただ1人で、彼女は他の2人の妻に、従順の美徳を説教するのだった。
『鉢かづき』(御伽草子) 山蔭三位中将家では、四男宰相の妻になった娘が、鉢をかぶった異様な姿なのでこれを嫌い、彼女に恥をかかせて追い出そうと、4人の息子たちの嫁くらべをする。しかし当日、鉢が割れて娘は天人のごとき美貌をあらわし、和琴・和歌などあらゆる点で3人の兄嫁を圧倒する。
★2a.嫁いじめ。
『黄金のろば』(アプレイウス)第4~6巻 プシュケは人間の身でありながら、「女神ヴェヌスに劣らぬ美しさ」と言われ、人々は女神同様にプシュケをあがめた。そのプシュケが息子エロス(=クピード)の嫁となったことに母女神ヴェヌスは立腹して、プシュケを打擲(ちょうちゃく)し、さまざまな難題を課していじめる→〔難題〕2b。
『捜神記』巻5-6(通巻97話) 丁氏は16歳で謝家へ嫁いだが、姑が彼女をこきつかい、笞で叩くのでたえきれず、9月9日に首をくくった。死後、丁氏は神となり、「家々の嫁の労苦を哀れに思うゆえ、9月9日は嫁に仕事をさせるな」と託宣する。以来、この日は安息日となった。
『不如帰』(徳冨蘆花) 浪子は18歳で海軍少尉川島武男に嫁ぎ、仲睦まじく暮らす。ところが姑お慶にとっては、若夫婦の睦まじさが不快であった。お慶の夫はすでに亡く、武男は一人息子だったため、お慶は息子を嫁に奪われたように感じ、何かにつけて、浪子に辛くあたる。やがて浪子が喀血したので、お慶は「川島家のためには、死病にかかった浪子を離別し、健康な女を武男の妻として迎えるべき」と考える。武男が軍務で不在中に、お慶は浪子を離縁してしまう。
嫁殺し田の伝説 意地悪な姑が嫁に、「今日中に1人で田を植えよ」と命じる。嫁は懸命に植え、広い田も残り少なくなる。その時嫁は、太陽がどのあたりにあるか気になり、立ち上がって見る暇も惜しいので、田植えの姿勢のまま股の間からのぞく。その途端に嫁は目をまわし、死んでしまった(長野県北安曇郡松川村)。
*→〔書き換え〕4の『カンタベリー物語』「法律家の話」・〔濡れ衣〕1cの『六羽の白鳥』(グリム)KHM49。
『近世姑気質』(三島由紀夫) 律子は、1人息子が嫁をもらった時、「理想的な姑になろう」と決意した。律子は、一家の炊事も洗濯も掃除もすべて自分でやってしまい、嫁にはまったく家事の苦労をさせなかった。さらに、自分の居室を若夫婦に明け渡して、女中用の3畳の小部屋に移ろうとさえした。嫁はいたたまれず、里へ帰ってしまった。律子はこうして無意識のうちに、気に入らない嫁を追い出すことに成功した。
★3.嫁と姑の対立。
『ジャータカ』第432話 嫁が姑を嫌い、夫をそそのかして、姑を墓場で焼き殺そうとはかる。姑は死体を身代わりにして逃れ、墓場で出会った盗賊の持つ宝石類を手に入れて、家へ帰る。姑は「墓場で火葬された者は、その功徳で宝石が得られる」と嫁に教え、嫁は宝石欲しさに、火の中に入って死ぬ〔*少年が王に語る挿話〕。
『半日』(森鴎外) 高山博士の妻は結婚当初から姑を嫌い、同席を拒んだ。1月30日の朝、宮中賢所の孝明天皇祭に博士が出席しようとすると、妻が、「姑の声を聞くのがいやだから娘を連れてどこかへ行く」と言う。博士は御所への参内を取りやめ、妻の話し相手をする。やがて台所で下女が昼食の支度を始める。
*姑の死後、仏壇に蛇が現れる→〔蛇〕5bの『蛇』(森鴎外)。
『本朝二十不孝』巻4-2「枕に残す筆の先」 鰹屋助八夫婦は、1人息子助太郎に嫁を持たせて隠居する。ところが嫁が姑を嫌って尼寺に駆けこみ、助太郎も妻恋しさに家を出る。姑は、「自分が命を捨てればよい」と思いつめて、絶食死する。1年後に、嫁を恨む姑の書き置きが発見される。世人は助太郎夫婦との交際を絶ち、助太郎夫婦は刺し違えて死ぬ。
『二十四孝』(御伽草子)「唐夫人」 唐夫人は、姑長孫夫人が年老いて食事を歯で噛めないので、自らの乳を含ませたり、毎朝髪をとかしたりなどして、数年間姑によく仕えた。長孫夫人は臨終時に一族を集め、唐夫人への感謝の言葉を述べた。
『ルツ記』 ナオミは夫エリメレクと死別した後、2人の息子に嫁を取るが、10年ほどして、息子たちは子を残さぬまま死んだ。2人の嫁のうち1人は去った。しかし、もう1人の嫁ルツは、姑ナオミのそばを離れなかった。ルツは落ち穂を拾って働き、富裕な男ボアズが彼女の働く姿を見て、好意を持つ。ボアズはエリメレクの親類だったので、ルツはボアズの妻となって子を産み、エリメレクの家系が絶えないようにした。ルツの曾孫にあたるのがダビデである。
『灰かぶり』(グリム)KHM21 国王が王子の花嫁を決めるため、3日間の饗宴をもよおし、国中の娘たちを城に招く。継母からいじめられている「灰かぶり(シンデレラ)」が、美しい装いで城へ出かけ、王子の心をとらえて、その花嫁となる〔*『サンドリヨン』(ペロー)では、「嫁選び」とは明示されない〕。
『婦系図』(泉鏡花)前篇「縁談」 文学士河野英吉とその母親が、嫁選びの目的で女学校の授業参観をする。ドイツ文学者酒井俊蔵の1人娘で5年生の妙子が、首席であり、優美で上品で愛嬌もあるので、河野母子は妙子を嫁の第1候補として、健康状態や家の財産など、身元調査を始める〔*後に河野家は、妙子が芸者の子である(*→〔秘密〕2a)ことを知って、破談にする〕。
『若い人』(石坂洋次郎)39 間崎慎太郎の勤める女学校では、3学期になると、中年過ぎの女たちが何人か連れ立って、息子の嫁選びのためにやって来る。学校側は、訪問者の家庭の事情や希望条件を聞き、候補者2~3人の写真や成績表を示した上で、授業参観をさせる。5年生たちは「来たわ来たわ、私たちのマザー・イン・ローが」と言って騒ぐ。
『窓の教(おしえ)』(御伽草子) 独身の三位中将が理想の妻を求めて、1月から12月まで、1ヵ月に1人ずつ、合計12人の女と逢う。どの女にもどこか欠点があったので、三位中将は失望し、「出家してしまおう」と吉野の奥へこもる。帝や院が三位中将を惜しみ、都へ呼び返して昇進させる。院は自分の娘・美貌の四の宮を、三位中将の妻として与える。やがて三位中将は関白になり、子宝にも恵まれて、一家は栄えた。
『わが青春に悔なし』(黒澤明) 太平洋戦争前夜。京都帝大の八木原教授は、自由主義思想ゆえに罷免された。彼の教え子である野毛は大学を去り、東京へ出て反戦運動に従事する。八木原の1人娘幸枝は、野毛を愛し彼と同棲する。しかし野毛はスパイの嫌疑で逮捕され、獄中で病死する。幸枝は、亡き野毛の妻として生きたいと願い、田舎の野毛の両親のもとを訪れ、「この家に置いて下さい」と頼み込む。彼女は、かつてピアノを弾いていた手で苗を植え鍬を握り、農家の嫁として懸命に働く。終戦になり、八木原教授は教壇に復帰する。幸枝は京都へ赴き祝いを述べるが、すぐまた、自分の生きる場である野毛の両親の家へ帰って行く。
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