娼婦
『驟雨』(吉行淳之介) 大学を出てサラリーマン生活3年目の山村英夫は、当分独身でいるつもりだった。彼は恋愛のわずらわしさを避け、娼婦の町へ通う。それは彼の精神の衛生にかなっていた。しかし、4歳年下の娼婦・道子を知り、山村は彼女に対して恋情に似た思いを抱くようになる。ある夜、道子に先客があって、山村は外で待たねばならなかった。彼は嫉妬心を自覚しつつ食堂で酒を飲むが、無意識のうちに杉箸を折ってしまった。
★2.娼婦と結婚する。
『無限抱擁』(瀧井孝作) 若き俳人であり小説家である竹内信一は、吉原の娼妓松子に結婚を申し込む。しかし松子は他の男に身請けされ、信一は彼女を断念する。ある日、信一は上野で偶然松子と出会う。彼女は身請けした男とすでに切れており、その後に世話になった男とも別れていた。信一はあらためて松子に求婚し、2人は夫婦になる。松子の母も同居する。松子は家計を助けるため、髪結いの学校へ通うが、まもなく健康を損ね、肺結核で死ぬ。信一は松子を偲びつつ、彼女の母の面倒を見る。
『肉体の門』(田村泰次郎) 終戦直後の東京。マヤ、せん、花江、美乃たち、まだ18~19歳の娼婦たちが、焼けビルの地下室に暮らしていた。そこへ伊吹新太郎という青年が、警官に追われて入り込んで来る。女たちは皆、新太郎を意識し、互いに牽制し合う。ある夜、マヤは伊吹を誘って情交し、生まれてはじめて、性の深い歓びを知る。他の女たちが嫉妬して、裸身のマヤの手首を縄で縛って天井から吊り下げる。マヤは「たとえ地獄へ堕ちても、はじめて知ったこの肉体の歓びを離すまい」と心に誓う。
*女子大卒の身で、米兵相手の娼婦となる→〔過去〕6の『ゼロの焦点』(松本清張)。
『夜来香(イエライシャン)』(市川崑) 第2次世界大戦末期の華北。軍医の関は慰安婦の秋子を知り、夜来香の香りにつつまれて2夜をともにした。しかし戦闘が始まり、爆撃を受けて2人は離れ離れになった。終戦から5年後の神戸で、関と秋子は再会する。関は爆撃の折の負傷がもとで、失明寸前になっていた。秋子は、関の治療費を得るために、街に立って身体を売ろうとする。それを察知した関は姿を消す〔*その後、関は、闇ブローカーの男とのトラブルで、列車にひかれて死ぬ〕。
*くじ引きで慰安婦を選出する→〔くじ〕2bの『赤いくじ』(松本清張)。
『あなただけ今晩は』(ワイルダー) パリの裏町。警官ネスターは馘首され、娼婦イルマのヒモになる。ネスターは、イルマが大勢の客に抱かれることに我慢がならない。彼は変装して架空の人物・英国貴族「X卿」となり、イルマに大金を与えて独占する。そのための金を稼がねばならないので、ネスターは、夜イルマが眠っている間にアルバイトに出かけ、疲労困憊する〔*いくつかのトラブルの後(*→〔一人二役〕1c)、ネスターは警官に復職する。イルマは娼婦をやめ、ネスターと結婚して子供が生まれる〕。
『シェリ』(コレット) レアは50歳を目前にしたココット(高級娼婦)だが、まだ魅力的な容姿を保っている。彼女は6年前から、美青年シェリを愛人として同棲していた。25歳になったシェリは、母の勧めにしたがって、19歳の娘エドメと結婚する。しかしシェリは若妻に飽き足りず、半年後にレアのもとへ戻って来る。レアはシェリとともに喜びの一夜を過ごすが、その翌朝、レアはシェリに別れを告げる。
★6.娼婦と僧。
『五番町夕霧楼』(水上勉) 片桐夕子と櫟田正順は、与謝半島の貧しい村で育った。正順は生来どもりで、皆にいじめられた。夕子は正順を憐れみつつ、兄のように慕った。成長後、彼らはそれぞれ京都へ出る。夕子は五番町夕霧楼の娼妓となり、正順は鳳閣寺の小僧になった。正順はしばしば夕霧楼へ来て夕子の客となったが、2人は部屋で話をするだけで、身体の関係は持たなかった〔*正順は鳳閣寺に放火し、留置場で剃刀自殺する。夕子は故郷の村へ帰り、睡眠薬自殺する〕。
*僧と遊女→〔僧〕2。
『失われた時を求めて』(プルースト)第1篇「スワン家のほうへ」~第2篇「花咲く乙女たちのかげに」 ブルジョアのシャルル・スワンは高い教養を持つ人物で、貴族や王族とも親交があった。ところが彼はココット(高級娼婦)のオデットを恋し、妻としたために、社交界から冷たい眼で見られるようになった〔*小説全体の語り手である「私」は青年期に達する頃、スワンとオデットの間に生まれた娘ジルベルトを恋した〕。
『椿姫』(デュマ・フィス) 高級娼婦・椿姫マルグリット・ゴーティェは青年アルマン・デュヴァルと、パリ郊外に愛の巣を作る。アルマンの父がマルグリットに、「息子の将来と家族の名誉のために身を引いてくれ」と説く。彼女は、別れることが真に彼を愛する道と悟り、「これを貴方が読むころには、私はもう他の男のものになっているでしょう」との手紙を残して姿を消す〔*『椿姫』(ヴェルディ)では、女の名がヴィオレッタ、男の名がアルフレードとなっているが、筋立ては同じである〕。
『プリティ・ウーマン』(マーシャル) 青年実業家エドワードは、道を尋ねたことがきっかけで、街角の娼婦ビビアンと知り合う。エドワードは大学院修了者、ビビアンは高校中退であることなど、2人のこれまでの生活環境は大きく異なっていたが、互いに相手に新鮮な魅力を感じる。エドワードは1週間の契約でビビアンをアシスタントにする。ビビアンはエドワードに連れられて、はじめてオペラ『椿姫』を見て感動の涙を流す。1週間が過ぎた時、エドワードはビビアンを「アシスタント」ではなく、「伴侶」と考えるようになっていた。
『肉体の冠』(ベッケル) 娼婦マリーは情夫ロランと別れ、大工マンダを新たな愛人とする。酒場での決闘で、マンダはロランをナイフで刺し殺し、身を隠す。やくざの親分ルカは、マンダの親友・パン屋のレイモンを「ロラン殺しの犯人だ」と警察に密告して、捕えさせる。マンダを自首させ、マリーを自分の女にするための計略である。ルカのたくらみを知ったマンダは怒り、レイモンとともに脱走するが、レイモンは警察に射殺される。マンダはルカを追いつめて射殺し、逮捕されて断頭台へ送られる。
『赤線地帯』(溝口健二) 昭和30年(1955)。国会に4度目の売春禁止法案が上程された。法案が通れば、娼館の経営者も娼婦も、廃業せねばならない。国会で議員が「売春業者なんて人間じゃない。明日から食えようと食えまいと、どうでもいい」と発言し、娼館「夢の里」の主人田谷は憤慨する。結局、法案は否決され、田谷はお祝いに娼婦たちに寿司をふるまって、「おれたちは、政治の行き届かない所を補っているんだ。国家に代わって社会事業をやっているんだ」と説く〔*しかし翌年、法案は可決され、昭和33年から施行された〕。
『母』(太宰治) 「私」の小説の読者である小川新太郎君が、彼の実家の旅館へ「私」を招待した。部屋へ入ると、薄化粧をした40前後の、声のきれいな女中が「私」の着換えを手伝った。「私」は小川君に、「君んとこは、宿屋だけではないんじゃないか?」と言ってやりたかったが、さすがにそんな失礼なことは聞けなかった。しかし、「私」の直感は誤っていなかった。夜更けに隣室から、その女中と若い客の性交後の会話が聞こえてきた→〔母子婚〕6。
*日曜日は休む娼婦→〔曜日〕1の『日曜はダメよ』(ダッシン)。
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