アプロディーテとは? わかりやすく解説

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アプロディーテー

(アプロディーテ から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/08/27 18:08 UTC 版)

アプロディーテー
Ἀφροδίτη
愛と美と性の女神, 生殖と豊穣の女神
紀元前4世紀のギリシアの原物を紀元2世紀にローマが複製したアプロディーテー像。
アテネ国立考古学博物館所蔵。
信仰の中心地 パポス, キュプロス島, キュテーラ島
住処 オリュムポス
シンボル , 白鳥, 薔薇, 林檎, 罌粟
配偶神 ヘーパイストス, アレース, アドーニス
ホメーロスイーリアス』:ゼウス, ディオーネー
ヘーシオドス神統記』:ウーラノスの男性器から生まれた。
兄弟 アテーナー, アポローン, アルテミス, アレース, ヘーパイストス, ヘルメース, ディオニューソス, エイレイテュイア, ヘーベー, メリアス, エリーニュス
子供 アレースとの間:エロース, ポボス, デイモス, ハルモニアー, アンテロース
ヘルメースとの間:ヘルマプロディートス
ポセイドーンとの間:エリュクス、ロードス
ディオニューソスとの間:プリアーポスペイトーカリスたち
アンキーセースとの間:アイネイアース
ローマ神話 ウェヌス
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アプロディーテー[1]古代ギリシア語アッティカ方言: ΑΦΡΟΔΙΤΗἈφροδίτη〉、ラテン翻字: Aphrodī́tē)は、を司るギリシア神話女神で、オリュンポス十二神の一柱である[2]。美において誇り高く、パリスによる三美神の審判で、最高の美神として選ばれている[2]。また、戦の女神としての側面も持つ。

日本語では、アプロディテ[2]アフロディテ[3]アフロディーテ[4]アフロディーテー[5]アフロダイティ[6]: Aphrodite)、アプロディーター[7]アイオリス方言ドーリス方言: Ἀφροδίτα)などとも表記される。

元来は、古代オリエントの豊穣を司る地母神であったと考えられる[8]。アプロディーテーは、生殖と豊穣、すなわち春の女神でもあった。

ホメーロスの『イーリアス』では「黄金のアプロディーテー」や「笑いを喜ぶアプロディーテー」など特有の形容語句を持っている。プラトーンの『饗宴』では純粋な愛情を象徴する天上の「アプロディーテー・ウーラニアー英語版」と凡俗な肉欲を象徴する大衆の「アプロディーテー・ウーラニアー英語版」という二種類の神性が存在すると考えられている[9]

概説

ヘーシオドスの『神統記』によれば、クロノスによって切り落とされたウーラノスの男性器にまとわりついた泡(アプロス、aphros)から生まれ、生まれて間もない彼女に魅せられた西風が彼女を運び、キュテーラ島に運んだ後、キュプロス島に行き着いたという[8]。彼女が島に上陸すると愛と美が生まれ、それを見つけた季節の女神ホーラーたちが彼女を飾って服を着せ、オリュンポス山に連れて行った[8]。オリュンポスの神々は出自の分からない彼女に対し、美しさを称賛して仲間に加え、ゼウスが養女にした。これは、Ἀφροδίτη が「泡の女神」とも解釈可能なことより生じた通俗語源説ともされるが[2]、アプロディーテーが男性器から生まれるという猥雑な誕生の仕方をしているのはヘーシオドスが極度の女嫌いであったためといわれ[10]、また、彼女が男性器をも備えた両性具有の女神だからだとも考えられる[11][注 1]。ホメーロスはゼウスとディオーネーの娘だと述べている[2]。一説にはクロノスとエウオニュメー (Euonyme)、またはウーラノスとヘーメラーの間に生まれたともいわれる[14]

美と優雅を司る三美神カリスたちは彼女の侍女として従っている。また、アプロディーテーのつけた帯紐(ケストス、Kestos)はそれを身に付ける者に誰も抗えぬ程の魅力を与えることが出来た[14]

気が強く、ヘーラーアテーナーと器量比べをしてトロイア戦争の発端となったり、アドーニスの養育権をペルセポネーと奪い合ったりすることもある。

結婚相手・愛人を含め関係があったものは多々いるが主なものは、ヘーパイストスアレース、アドーニスである[2]

聖獣は牡羊雄山羊で、聖鳥は白鳥で、聖樹は薔薇罌粟銀梅花林檎[14]花梨[15]鵞鳥に乗った姿でも描かれる[14]。また、真珠もその象徴である[16]

物語

アドーニス

アドーニス (Adonis) は、アッシリア王テイアースの娘[注 2]スミュルナの生んだ子であるとされる[2]。スミュルナは、アプロディーテーへの祭祀を怠ったため父親に対して愛情を抱く呪をかけられ、策を弄してその想いを遂げた[2]。しかし、これが露見したため父に追われ、殺される所を神に祈って没薬の木(スミュルナ)に変じた[2]。その幹の中で育ち、生まれ落ちたのがアドーニスといわれる[2]。また、アドーニスの出生についてはまったく別の説話も多い。例えば、アポロドーロスの述べるところでは、エーオースの子孫で、キュプロスにパポス市を建設したキニュラースの息子がアドーニスである。

アプロディーテーはこのアドーニスの美しさに惹かれ、彼を自らの庇護下においた[2]。だがアドーニスは狩猟の最中に野猪の牙にかかって死んだ。女神は嘆き悲しみ、自らの血をアドーニスの倒れた大地に注いだ(アドーニス本人の血とする説も)。その地から芽生えたのがアネモーネーといわれる[2]。アプロディーテーはアドーニスの死後、彼を祀ることを誓ったが、このアドーニス祭は、アテーナイ、キュプロス、そして特にシュリアで執り行われた。この説話は、地母神と死んで蘇る植物神としての少年というオリエント起源の宗教の特色を色濃く残したものである。

アイネイアース

ゼウスはたびたびアプロディーテーによって人間の女を愛したので、この女神にも人間へ愛情を抱くよう画策し、アンキーセースをその相手に選んだ[2]。女神はアンキーセースを見るとたちまち恋に落ち、彼と臥所を共にした[2]。こうして生まれたのがアイネイアースであり、彼はトロイア戦争の後ローマに逃れ、その子ユールス(イーロス)が、ユーリウス家の祖とされたため、非常によく崇拝された[17]

信仰

東方起源の性格

古くは東方の豊穣・多産の女神アスタルテーイシュタルなどと起源を同じくする外来の女神で、『神統記』に記されているとおり、キュプロスを聖地とする[8]。オリエント的な地母神且つ金星神としての性格は、繁殖と豊穣を司る神として、庭園や公園に祀られる点にその名残を留めている。そして愛の女神としての性格を強め、自ら恋愛をする傍ら神々や人々の情欲を掻き立てて、恋愛をさせることに精を出している。同じく愛の神エロースと共にいる事もしばしばである。また、これとは別に航海の安全を司る神として崇拝されたが、これはポイニーケーとの関連を示唆するものと考えられる。

スパルタコリントスでは、アテーナーのように、甲冑を着けた軍神として祀られていた[8]。特にコリントスはギリシア本土の信仰中心地とされ、コリントスのアクロポリス(アクロコリントス)のアプロディーテー神殿には、女神の庇護下の神殿娼婦[注 3]が存在した。この所作もまた東方起源のものとされる。

古くから崇拝されていた神ではないために伝えられる説話は様々である。ヘーパイストスの妻とされるが、アレースと情を交わしてエロースなどを生んだという伝承もある[2]。アプロディーテーとエロースを結び付ける試みは、紀元前5世紀の古典期以降に盛んとなった。

金星の女神

本来、豊穣多産の植物神としてイシュタルやアスタルテー同様に金星の女神であったが、このことはホメーロスやヘーシオドスでは明言されていない。しかし古典期以降、再び金星と結び付けられ、ギリシアでは金星を「アプロディーテーの星」と呼ぶようになった。現代のヨーロッパ諸言語で、ラテン語の「ウェヌス」に相当する語で金星を呼ぶのはこれに由来する。

グレーゴリウス聖歌でも歌われる中世の聖歌『アヴェ・マリス・ステラ』の「マリス・ステラ (Maris stella)」は、「海の星」の意味であるが、この星は金星であるとする説がある。聖母マリアがオリエントの豊穣の女神、すなわちイシュタルやアスタルテーの系譜にあり、ギリシアのアプロディーテーや、ローマ神話のウェヌスの後継であることを示しているとされる。

ローマ神話での対応と別名

ローマ神話ではウェヌスラテン語: Venus)をアプロディーテーに対応させる[2]。この名の英語形は「ヴィーナス」で、金星を意味すると共に「愛と美の女神」である。

別名として、レスボス島の詩人サッポーアプロディーター古希: Ἀφροδιτα古代ギリシア語ラテン翻字: Aphrodita)と呼んでいる。また、キュプリス(「キュプロスの女神」の意)という別名もある[2]

その海からの生誕と関係して「キュテレイア(キュテーラの女神)」と呼ばれるほか、キュプロスの都市パポスにちなみ「パピアー(パポスの女神)」とも称される。ヘーラーは、毎年1回沐浴して、元の純潔な処女に戻ったが、アプロディーテーもパポスで同じ沐浴を行っている[18]

ギャラリー

脚注

注釈

  1. ^ キュプロス島のアプロディーテー像には口髭があったといわれる[8][12]。また、貝殻(帆立貝、女性器の象徴)の中で手に男性器を握った像があり、これは男女両方の性器を支配する女神であることを表すと考えられる[13]
  2. ^ オウィディウスによると、ピュグマリオーンの孫キニュラースの娘。
  3. ^ ヒエロドゥーライ(hierodoulai、「神聖奴隷」「神婢」)。ただし、娼婦男娼の場合があるため、男娼のみの場合、または両性をまとめて呼ぶ場合は、ヒエロドゥーロイ (hierodouloi) と称する。

出典

  1. ^ 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店、1960年。ISBN 9784000800136 25頁。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q マイケル・グラント;ジョン・ヘイゼル 著、西田実 ほか訳『ギリシア・ローマ神話事典』大修館書店、1988年。 ISBN 9784469012217https://dl.ndl.go.jp/pid/13154590 46-48,55-58,97,130頁。
  3. ^ 小川正広、小学館、日本大百科全書(ニッポニカ)『アフロディテ』 - コトバンク
  4. ^ 井手則雄オリンポスの神話』筑摩書房、1989年。NDLJP:13284756。vi頁。
  5. ^ 逸身喜一郎『ギリシャ・ラテン文学 韻文の系譜をたどる15章』研究社、2018年。 ISBN 9784327510015 429頁。
  6. ^ 小田原克行「『想像の肖像』について」『人文研究』38 (2)、大阪市立大学文学部、1986年。171頁。
  7. ^ 高津春繁ギリシアの詩』岩波書店〈岩波新書〉、1956年。NDLJP:1694145。117頁。
  8. ^ a b c d e f フェリックス・ギラン『ギリシア神話』131-147頁。
  9. ^ 戸塚七郎訳『饗宴』グーテンベルク21、2012年。
  10. ^ 芝崎みゆき『古代ギリシアがんちく図鑑』バジリコ、2006年、38頁。
  11. ^ 『魔女論』36頁。
  12. ^ 『魔女論』24頁。
  13. ^ 『魔女論』32-35頁。
  14. ^ a b c d 『西洋古典学事典』105頁。
  15. ^ 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』25頁。
  16. ^ ハンス・ビーダーマン『図説 世界シンボル事典』八坂書房、2000年、212頁。
  17. ^ 『西洋古典学事典』15,63,285頁。
  18. ^ ロバート・グレーヴス『ギリシア神話 上巻』12章6。

参考文献

関連項目


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