自動車税をめぐる攻防
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/02 00:20 UTC 版)
2009年、総務省は「環境自動車税」の創設を提案。二酸化炭素排出量と自動車排気量を基準に課税する「環境自動車税」を新たに地方税として創設すべきだとする報告書をまとめた。 2011年、「政府税制調査会は、自動車を買ったときに納める自動車取得税を廃止する方向で調整に入った。東日本大震災や円高などで消費者心理が冷え込んでおり、減税で車の購入を促す。」とされ、経済産業省や経済界が、消費者の負担軽減を要望した。しかし、二か月後の最終調整では「重量税は、本来の税額に上乗せしている3,000億円の半分、1,500億円を減税する。取得税は変えない。エコカー減税は対象車種を絞ったうえで、来春から3年間延長する。さらにエコカー補助金を復活させ、今年度第4次補正予算に3,000億円を計上する」ということになった。 2013年、「総務省は具体的な計算方法や税額をまだ示していないが、改革案では「自動車税と軽自動車税に2万円以上の格差があるのはバランスを欠いている」と、軽自動車税の増税方針を示した。高級車など燃費が比較的悪い車も増税の方向だ。」とされ、「軽自動車税の増税で一部を補いたい考え」が示され、かえって増税ということになった。2013年、自動車業界は円高、震災、増税の三重苦を受けていた。同年末、「地方税収を維持したい自治体・総務省と、減税を勝ち取りたい自動車業界との攻防があった。公明党は増税に反発したが、自民党は、輸出競争力のある普通車の優遇と地方財源の確保に軍配を上げた」とされ、戦略産業の一つとしての自動車は助けるが、あくまで自民党は地方財源の確保を優先させた。 2014年、「自動車業界は今年、消費税の再増税を前提に「取得税の廃止」を一致して働きかけてきた」とある。ここから自動車業界の巻き返しが起こる。同年、茂木敏充経済産業大臣が「自動車産業を取り巻くグローバル化の波の中で、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)、日EU EPA(経済連携協定)を始めとし包括的レベルの高い経済連携の網を世界に張り巡らせていく努力を続けて参りたいと考えている」と話した。 さらに「省エネ、そして電気自動車、自動走行、様々な分野でイノベーションが生まれ、その相乗効果で好循環が生まれるような年をつくって参りたい」と述べた。 2015年、「消費税率10%で車の販売が67万台、雇用は26万人減る」。2015年10月、「日本自動車工業会(自工会)の永塚誠一副会長は、総務省で開かれた自動車税制に関する有識者会議でそんな試算を示した。かつて経済産業省で自動車課長を務めた永塚氏に続き、現役の伊吹英明・自動車課長も「自動車税の引き下げを」とたたみかけ、業界と経産省の連係プレーを見せつけた[要出典]。 2015年12月9日、青木信之・総務省自治税務局長の電話の声には焦りがにじんだ。「先生の考えを踏まえてもう少し考え、文案も含めて打ち返したい」。「先生」とは、自民党税制調査会(党税調)の額賀福志郎・小委員長。自動車に関する今後の課税の方針を「与党税制改正大綱」にどう書き込むかで調整がつかず、青木氏と額賀氏の秘書の間で押し問答が数分続いた。額賀氏は、税制の決定権限を持つ党税調の中枢メンバーでありながら、自動車業界を応援する国会議員でつくる「自民党自動車議員連盟(議連)」の会長でもある。自動車に関わる税制改正では与党内で最大の影響力を持つ人物だ。額賀氏が自動車税の減税を強く要望。「政府・与党は9日、消費税率が10%に上がる2017年4月から始める新たな自動車税の枠組みを固めた。主に国が2020年度に達成すべき環境性能として定めた「20年度燃費基準」をもとに税率を決め、燃費のいい車を買えば税負担を軽く、燃費が悪い車は重くする。全体の減税規模は約200億円となる見通しだ」とされ、200億円規模の減税が当初は予定された。 2016年、自動車業界は再び劣勢に陥る。「自動車を買う際に払う取得税や重量税が、来年4月から多くの車で高くなりそうだ。いまは新車販売台数の9割が対象となっている「エコカー減税」の基準を厳しくし、対象を2017年度は8割、2018年度は7割に減らす。対象に残る自動車も、減税幅が小さくなる可能性がある」とされた。 2018年6月、自動車業界への重税に痺れを切らした国民民主党古本伸一郎が、自動車関係諸税に関する質問主意書を第4次安倍内閣に提出した。ここで安倍晋三から「車体課税等の見直しについては、社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律(平成二十四年法律第六十八号)に基づき、平成二十八年十二月八日に与党が取りまとめた「平成二十九年度税制改正大綱」を踏まえ、検討を行ってまいりたい」という答弁を引き出すことに成功。さらに、平成二十四年度の野田内閣の時において行われた、自動車重量税の税率の見直しを通じた税負担の軽減については「新成長戦略の実現並びに税制の公平性の確保、及び課税の適正化の観点から要請される、特に喫緊の課題に対応するため、自動車重量税に係る税率の見直し及び環境性能に優れた自動車に対する軽減措置の拡充、延長等を行うこととしたものである」という新しい解釈を引き出すことで、自動車業界が戦略産業であることの認識を確認させた。ここで自動車税と直接的に関係はないが、古本は、2015年度の成長志向の法人税改革において、地方税収の確保を布石として打っていたことがあり、自民党がこれ以上地方税収の落ち込みを口実として、自動車税の減税から逃げるといった回路を塞いでいた。これにより、自民党は自動車税の減税に踏み込まざるを得なくなった。 2018年、自民党の宮沢洋一・税制調査会長が、消費増税に備えた対策として、自動車や住宅の減税を検討する考えを示した。「宮沢氏は、消費増税後の消費の落ち込みを防ぐ必要性に触れ、「地方税の自動車税をある程度低くしたとしても、(地方の税収減の)財政的な穴埋めをすることは理屈としてあり、この1、2年の対策は難しくない」と表明。消費増税対策を当初予算に盛り込む2019年度と2020年度については、自動車減税による地方税収の落ち込みを、地方に配る予算を増やして補うことなどで対策が実施可能だ、という認識を示した。一方、自動車業界が求める恒久的な自動車減税については、「(自治体が)道路の維持補修などに相当多額の負担をしているのも事実」として、「両方の意見を聞きながらやっていかなければならない」と述べるにとどめた」とある。 2018年、日本自動車工業会(自工会)は9月20日、2019年10月1日の消費増税を控え、大幅な減税要望を発表した。ただ、財務省や総務省は税収減につながる改正に消極的で、調整は難航した。「消費税増税が来年に迫っている。市場影響見通しで約30万台減、経済効果で約2兆円のマイナス、雇用で9万人減と予想される」。自工会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は同日の記者会見で危機感をにじませ、「車を普及させるには今の税金はあまりにも高すぎる」と訴え、自動車業界と財務省、総務省とが衝突。「財務省幹部は「道路の老朽化の原因をつくるのは車。利用者が負担するのは当然だ」、総務省幹部も「代わりの財源を探してから要求するべきだ」と、いずれも恒久減税には消極的だ。」とした。他方で、自民党の経済産業部会で経産省の担当者は、自動車減税の必要性を訴えた。 2018年12月7日、「自動車を持っているだけで毎年かかる自動車税をめぐり、政府・自民党は1台あたりの税負担を最大で年4,500円引き下げる方向で最終調整に入った。全体で1,300億円規模の減税となる見込みだ。その一方で、燃費のいい車の税負担を減免する「エコカー減税」の対象を絞り込むなどの増税も実施し、減税分の財源にする方針」を固めた。自民党と国民民主党の利害が一致し、最終的に自動車税は減税された。
※この「自動車税をめぐる攻防」の解説は、「自動車税」の解説の一部です。
「自動車税をめぐる攻防」を含む「自動車税」の記事については、「自動車税」の概要を参照ください。
- 自動車税をめぐる攻防のページへのリンク