給水装置の耐震化・長寿命化 (給水管・給水システムの耐震化・長寿命化)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/29 13:39 UTC 版)
「水道管」の記事における「給水装置の耐震化・長寿命化 (給水管・給水システムの耐震化・長寿命化)」の解説
基幹管路に於いては、ダクタイル鋳鉄管(NS形、GX形)、配水用ポリエチレン管(融着継手)、溶接鋼管など「耐震管」に定義される管種により更新、耐震化が進みつつあるが、現状、給水管路では大地震の毎に大きな被害が発生している。しかし、その耐震化と具体策に関しては、東日本大震災後までは、あまり言及されて来なかった。 給水管で現状使用されている、塩ビ管(TS継手)、鉛管、ポリエチレン二層管(冷間継手)は、ともに配水管分野では、H18年度検討会の報告書および、「管路の耐震化に関する検討報告書(案)2014.3」で「耐震適合性はなし」と評価されている。給水分野で一部採用されている管種としては、水道用高密度ポリエチレン管-融着継手-(青ポリ)のみが「耐震管」の扱いである。東京都など大都市部で採用されている給水用のステンレス管についても東京都の資料では漏水の改善が確認されており(従来管種との比較)、耐震適合性にも優れていると言われているが、耐震管である「溶接鋼管」ではない。※ステンレス鋼管の継手はプレス継手などの耐震性のないものもあり、伸縮継手も抜け止め構造ではない。また、本報告書において、あまり詳しい記載はない(データは一部は鋼管に含まれている)。 H18年度検討会の報告書では、比較的新しい管種についての扱いに苦慮しており、「被災経験が十分ではないことから、十分に耐震性能が検証されるには未だ時間を要すると考えられる」等の付記を付けられるケースがあった(前回の検証でのポリエチレン管(融着継手)の場合)が、 東日本大震災の被災地においては「各水道事業者の判断により」採用されていたポリエチレン管(融着継手)の採用地区における被災事例が多数出来、今回の震災において事故が発生していない。 新水道ビジョンやH25年度の報告書「管路の技術開発とその利用」においては、前記の通り「高い耐震性能などを有する新たな管製品」の採用検討を促している。 また厚生労働省では、「平成26年度 水道の耐震化計画等策定指針検討会」で、新水道ビジョン・平成25年度管路の耐震化に関する検討報告書を踏まえ、水道の耐震化計画等策定指針の改定作業を進め、「水道の耐震化計画等策定指針」(H27.6)を策定した。 この中で給水装置の耐震化に関しては、旧指針(平成20年発行)と比べ大幅な記載事項の修正が行われている。新指針では配水本管と同様の表記で「管種、継手の耐震化」について記載しており、 「耐震性の低い管種・継手」を耐震性の高いものに更新する 公道下等の給水装置は配水管更新工事に合わせて、耐震性の高いものに更新する(解説文中) ことについて検討する、としている。 過去の大地震において給水装置は毎回多くの被災が確認されており、公益財団法人給水工事技術振興財団より「東日本大震災水道施設被害状況調最終報告書 平成25年3月」および、「熊本地震 給水装置被害状況調査報告書 平成30年8月」では、塩ビ管(TS継手)、鉛管、古いタイプの低密度ポリエチレン一層管(黒ポリ)、低密度ポリエチレン二層管の冷間継手部位などに多くの被害が報告されている。また、黒ポリには年代毎に色々な改良を経ているが同じ「黒色」のために被災時に新旧見分けがつきにくい事を問題視している。 サドル分水栓の被害も極めて高く、構造上の問題と材料の劣化(腐食)が事故の主な要因として指摘されており、地震時には腐食した部位に応力が集中することで破損が発生しやすいとしている。また、サドル分水栓部は「配水管」の耐震性能に因らず単体として事故が発生している。本管がたとえ耐震管であっても「分岐部」を含めた給水管路まで安心とは言えない。 熊本地震のエリアでは、東日本大震災の調査結果と比較すると、給水管部の鋼管と水道メーター部の被害の増加、塩ビ管の被害件数の減少(塩ビ管の使用割合が低いため)が挙げられている。これについては2021年3月、「埋設給水用ポリエチレン管の経時変化と健全性評価に関する検討報告書について」が同財団から刊行されている。ここでは熊本市の給水管堀上試験結果から、漏水した管が破損した原因は、下記の2点の複合要因によるものとの推定されている。 ①製造時点の樹脂長期性能及び管設計により、使用限界に近い管が存在すること。 ②埋設環境により使用限界を早める影響があること。 さらにこのことを踏まえ、「今回提供された供試体を試験した結果によれば、経年給水PE管の更新対象としては、PE管の長期性能規定をJISで定めた1998年より以前の規格で生産された製品とすることが望ましいと考えられました。」とし、1998年以前のPE材料を使用した管路については更新を促すとともに、今回の結果の精度を上げるための追加研究を行うとし、継続した調査研究を続ける意向とみられる。 また、塩化ビニル管に比べて、新しいタイプの低密度ポリエチレン二層管の比率が高く、この二層管にも被害(17件)が確認されており、管体破損被害(14件)も確認された事から、被害原因の究明を求めている。 塩ビ管の被害では、材料劣化による被害は発生しておらず、TS継手の接続における「施工の確実性が確認できない」ものと、「地震動に追従できなかった」もの、特にエルボなどの異形管部に集中する応力とひずみに対し、塩ビ管の可撓性不足が被害原因とされている。 厚生労働省による「重要給水施設管路の耐震化計画策定の手引」(H29.5)では、重要給水装置における給水装置などについて、この水道の耐震化計画等策定指針に従って耐震化計画を策定するものとしている。 また、給水工事技術振興財団からH28年度に発行された「東日本大震災給水装置被害状況調査報告書」によれば、東日本震災での事故の多くは硬質塩化ビニル管のTS接合方式のものであるとされている。こちらは前述した水道の耐震化計画等策定指針の改定においても既に更新対象とされている。 次にサドル分岐部の事故について、それぞれの報告書では次のように報告されている。 ボルトをはじめとする本体部の破損と給水管接続部の被害を報告。(東日本大震災) 金属部の腐食が事故原因の多くを占め、サドル分水栓本体の損壊は、この部分に応力と歪みが集中し被害につながった。 これに対し、「求められる性能」として次のような提言がなされている。 材料劣化対策としては、ボルトをはじめ本体腐食対策が重要 (東日本大震災) サドル分水栓を新たに使用する際には耐久性の高い構造・材質を選択する事が重要 また、地震対策としては、 配水管とサドル分水栓の接合部のずれ防止対策 (熊本地震) 地震動に追従出来る柔軟な管材の採用 給水管接合部の可撓性の向上が重要 としている。 こうした報告内容をふまえ、給水装置の耐震性向上と望ましい維持管理として、次のようにまとめられている。 水道事業者におかれては、先回の東日本大震災の被害調査結果および今回の熊本地震の被害調査結果を踏まえ、長期寿命、高耐震性、施工の確実性、経済性発揮の観点から適切な構造・材質を選択し、また、新たな技術開発を積極的に評価し、耐震性の向上と漏水事故の縮減、有収率の向上を目指していただきたいと考える。 「水道配水用ポリエチレン管の耐震設計の手引き」H30.8ではレベル2地震動に対する配水用ポリエチレン管の高い耐震性を報告しているほか、異形管や給水分岐も含めた管路全体の耐震性を検証している。特に、十分に耐震性が現地検証されつつも、強靭性のある管種(ダクタイル鋳鉄管)と可とう性のある管種(配水用ポリエチレン管)という「全く異なる」特性により地震に耐える事が示されているパイプラインの挙動をそれぞれに解析している。配水用ポリエチレン管の場合、地盤変状時において、地盤と境界での「すべり」が発生しない(地震時の地盤のひずみを直管部で受け持つ)事により、異形管や付帯設備への応力集中が軽減し、管路全体として耐震性を有するに至る事が報告されている。 また、下記【参考】のガス分野においては宅地内までの一体管路構造が地震、「液状化に対する設備対策として有効である」ことが確認、報告されている。 このように、今後は本管の耐震性だけではなく、給水管やサドル分水栓も含めた給水装置システム全体の「耐震性向上」と「さらなる長寿命化」が望まれる時代になってくる。水道での参考事例は、埼玉県、坂戸、鶴ヶ島水道企業団の広報に紹介されているような事例がある。 【参考】ガス管の場合(給水装置耐震化の参考となる前例) 「東日本大震災を踏まえた都市ガス供給の災害対策検討報告書 H24.3」によれば、都市ガスの管路においても、阪神・淡路大震災以降、耐震化が進んでおり、東日本大震災においてはその「管路の耐震化促進等」の設備投資効果により過去の地震被害と比較して「相当程度」被害率が低くなっていることが報告されている。一方で、東日本大震災の「液状化地区」では、中低圧ガス導管耐震設計指針に規定する標準設計地盤変位の5cmを超える大きな地盤変位が生じたものと推測され、耐震性の高い機械的接合・抜け出し防止有りの継手に相当数の被害が生じた。「従って、今後、液状化による著しい地盤変位が生じる可能性の高い地区に導管を新設する際には、継手部において耐震性の高いPE管および溶接鋼管を使用することが液状化に対する設備対策として有効である。」との記載がある。ガス用管材において、水道における給水管に相当する「供給管」は、サドル分岐を含めポリエチレン管による一体化構造による耐震化を行っており、一体構造のPE管および溶接鋼管は、阪神・淡路大震災以降の震災において、製品起因による被災は発生していない。因みに、本報告書における東日本大震災において、供給区域内に震度5弱以上の震度を記録した事業者の低圧ガス導管(本支管)の総延長は約83,000kmであるが、地震による被害は773箇所であった。また、供内管本支管の被害において、液状化を除く地震による被害は670箇所であり、このうち、地盤変状によるものが45箇所、斜面崩壊によるものが7箇所であった。液状化の被害は103箇所であった。PE管および溶接鋼管は、製品起因による被災は発生していない。また、熊本地震でも「平成 28 年熊本地震を踏まえた都市ガス供給の地震対策検討報告 H29.3」にて同様の報告がなされている。
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