温泉
★1.温泉発見。鳥獣に教えられたり、夢告を得たりして温泉を見出す。
小野川温泉の伝説 小野小町が、行方不明の父を捜して旅に出るが、途中で病気になる。夢に薬師如来が現れて「吾妻川の岸に温泉が湧き出ており、そこに浴すれば病気が治り、父にも会えるだろう」と告げる。小町は夢告にしたがって病気を治し、父と再会する(山形県米沢市三沢)。
鹿教湯(かけゆ)温泉の伝説 矢傷を受けた鹿が山中の水たまりに入り、たちまち回復して走り去る。猟師が行って見るとそれは温泉であり、鹿が教えてくれた湯なので、鹿教湯(かけゆ)と称するようになった。この鹿は、文殊菩薩の化身だったという(長野県小県郡丸子町西内)。
四万温泉縁起 碓井定光が日向見のあたりを通る時、夜になったので石に腰かけて眠った。すると夢に童子が現れて、「4万の病を治す湯を授ける」と告げる。目覚めると、傍らに湯が湧いていた(群馬県吾妻郡中之条町四万)。
白鷺と山中温泉の伝説 後白河院の代のこと。能登の地頭長谷部信連が狩りに出かけ、白鷺が芦のしげみに入り、傷ついた足を洗うのを見て、温泉が湧き出ているのを知った。この白鷺にちなんで、山中温泉を別名「白鷺の湯」ともよぶ(石川県江沼郡山中町)。
★2a.温泉の功徳。温泉に入って死者が蘇生する・病者が回復する。
足立山の伝説 道鏡のために足を傷つけられ歩けなくなった和気清麿は、宇佐八幡宮で「ここより20里北の山裾の湯に21日浸れば足が治る」とのお告げを得る。神の使いの猪に乗って、清麿は山の麓の湯に行き、21日目に自分の足で立てるようになった。以来、そこを足立山と呼ぶ(福岡県北九州市小倉北区)。
『伊予国風土記』湯の郡(逸文) オホナモチは、死んだスクナヒコナを活かすために、大分の速見の湯を地下樋で引いて、スクナヒコナに浴びさせた。スクナヒコナは蘇生して起き上がり、長大息して「ほんの少し寝た」と言った。
『小栗(をぐり)』(説経) 小栗判官は土葬にされて、3年後に蘇生したが、足腰立たず、餓鬼道の亡者のごとき有様だった。彼は熊野本宮湯の峰に入湯して、7日で両眼、14日で両耳、21日で言語が通じ、49日で6尺豊かな姿に回復した。
『大菩薩峠』(中里介山)第21巻「無明の巻」 「信州白骨の湯に一冬籠もれば、どんな難病も治る」といわれるので、甲州上野原・月見寺の娘お雪ちゃんは、盲目の机龍之助を白骨へ連れて行き、彼の眼を治そうとする。しかし龍之助の眼は治らず、お雪ちゃんは彼とともに白骨を出て、平湯・高山へと旅を続ける〔*龍之助は一室にこもって人目を避けていたが、炉辺や浴場では、客たちが集まって、文芸や思想をさまざまに論じ合った→〔物語〕3の第32巻「弁信の巻」〕。
『城の崎にて』(志賀直哉) 山の手線にはねられて怪我をした「自分」は、傷が脊椎カリエスになれば致命傷ゆえ、用心のため、城の崎温泉で養生をする。3週間滞在する間に、「自分」は蜂・鼠・いもりの死を見、生きている「自分」をかえりみて、生と死は両極ではなく、それほどに差はないと感ずる。さいわい「自分」は、脊椎カリエスには、ならずにすんだ。
『8 2/1』(フェリーニ) 43歳の映画監督グイドは、新作映画のアイデアが浮かばず、医者の勧めで温泉治療に出かける。大勢の湯治客たちとともに、グイドは鉱泉水を飲み、蒸し風呂に入り、マッサージを受ける。しかしシナリオは、まったく書けない。グイドは、映画の制作中止を記者団に発表する。その時、不意にグイドは幸せな気分を感じる。撮影現場を去ろうとするキャストやスタッフたちを、グイドは呼び戻す。皆は音楽を演奏し、輪になって踊り出す。そのありさまを映画にしようと、グイドは考える。
★2e.温泉の楽しみ。
『論語』巻6「先進」第11 孔子から「自由に思うところを述べてみよ」と勧められて、弟子の曾晳(そうせき)が言った。「春の終り頃、新しい服を着て、5~6人の若者と6~7人の少年を連れ、沂水(きすい)のほとりの温泉に浴し、雨乞いの舞台で涼んで、歌をうたいながら帰って来たいものです」。孔子は感嘆して、「私もそう思うよ」と言った。
★3.温泉に入って死ぬ。
『温泉だより』(芥川龍之介) 明治30年代。大工で巨体の萩野半之丞は、「死後に解剖を許す」との条件で、大金5百円を得る。彼はまもなく放蕩で金を使い尽くして自殺するが、それは、修善寺温泉の独鈷の湯に一晩中つかって心臓麻痺を起こす、という死に方だった。解剖用の身体に傷をつけてはすまない、と思ってのことらしかった。
★4.温泉と男女。
『伊豆の踊子』(川端康成) 20歳の高校生である「私」と旅芸人一行の1人栄吉が、宿の湯に入っていると、近くの共同浴場に旅芸人の女たちも来ており、「私」たちに気づいた踊子が全裸のまま走り出て手を振る。それを見た「私」は、踊子がまだまったく子供の身体であることを知った〔*踊子は17~18歳に見えたが、実際は14歳だった〕。
*大学生の「彼」と11~12歳の少女→〔指輪〕6の『指環』(川端康成)。
『草枕』(夏目漱石)7 春の夜。画工の「余」が那古井の宿で1人温泉につかっている。その家の出戻り娘・那美さんが、裸身を現して浴室の階段を下りて来るが、湯烟の中、たちまち身をひるがえして階段を駈け上がり、あとには、「ホホホホ」という鋭い笑い声が残った。
『美少女』(太宰治) 甲府に住んでいた「私」は、家内と一緒に近くの温泉部落へ行った。浴場には10代後半の長身の少女がいて、豊かな乳房と固くしまった四肢を持ち、「私」に見られても平然としていた。後日、散髪屋に行くと、少女はそこの娘らしく、鏡に映る「私」をちらちら見た。「私」が笑いかけると、少女は無表情に奥の部屋へ歩いて行った。
『明暗』(夏目漱石) 津田由雄は、清子(*→〔夫〕6b)が流産後の身体の回復のため、或る温泉地に逗留していることを聞く。津田は自身の痔の手術後の保養を名目に、清子の滞在する宿へ行き、なぜ清子が自分と別れたか、彼女の心を知りたいと思う。津田は清子の部屋を訪れ、2人は対面する〔*作者漱石死去のため、『明暗』はここまでで終わっている〕。
『白狐の湯』(谷崎潤一郎) 初秋の月夜。山奥の渓流のほとりの温泉。狐に憑かれた角太郎が温泉小屋の窓をのぞいて、「神戸の西洋館にいたローザさんが、お湯に入っている」と言う。角太郎を心配するお小夜が窓をのぞくと、白狐が湯浴みをしていた。ローザに化けた白狐は、「巴里の私の家へ一緒に行きましょう」と言って、角太郎を連れて行く。やがて、角太郎の死体が淵に浮かぶ〔*西洋女性の肌の白さを、月光を浴びた白狐に見立てた作品〕。
『出現』(星新一『どんぐり民話館』) 老齢ゆえ山に棄てられたボンジに、山の主が「温泉はなぜあたたかいか?」と問う。ボンジは「お日さまは夕方に西の穴へ沈み、朝になると遠い東の穴から出てくる。夜の間、お日さまは地下を通るので、その熱であたためられたのが温泉です」と答える〔*山の主は感心し、「老人の智恵は大事にせねばならぬ。お前は山を降りるがいい。良いことがあるはずじゃ」と言う〕。
『パンタグリュエル物語』第二之書(ラブレー)第33章 巨人パンタグリュエルが病臥し、侍医が利尿剤を飲ませたため、パンタグリュエルは多量の尿を排泄する。尿の熱度は高く、尿が流れて行ったフランスやイタリアの諸地方では、現在でもなお冷たくならずにあり、人々はそれを温泉と呼んでいる。
Weblioに収録されているすべての辞書から温泉を検索する場合は、下記のリンクをクリックしてください。
全ての辞書から温泉 を検索
- >> 「温泉」を含む用語の索引
- 温泉のページへのリンク