死刑執行が多い国
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/11 03:43 UTC 版)
アムネスティ・インターナショナルによると、2020年の死刑執行数において、イラン、エジプト、サウジアラビア、イラクを合わせた執行数は世界の全執行数の約88%を占めるという。ただし、この数値は正確な数が不明である中国、北朝鮮、ベトナムとシリアを含まない。 2020年では2018年の推定であり年は違うが、推定数を全世界における死刑執行推定数に含めた場合、全世界で執行された死刑囚の数の約81%が中国となる。また、中米対話基金の報告によると、2018年には推計数値であるが2000人について執行されたという。中国では死刑の執行方法は銃殺と薬殺の2つである。前者は主に殺人や薬物犯罪等の一般犯罪に対して、後者は主に汚職等の経済犯罪を犯した場合に執行されており、現在も銃殺刑が主流である。但し、2020年12月時点で、昆明・長沙・成都・北京・深セン・上海・広州・南京・重慶・杭州・瀋陽・大連・鞍山・平頂山・焦作市・武漢・黒竜江省・ウルムチでは罪種を問わず薬殺刑となっている。また公開処刑は、北京オリンピックを前にして、国際世論、特に死刑制度を廃止している欧州諸国からの批判をかわすため、オリンピック直前に廃止され、行わなわれていない。但し、刑執行直前の死刑囚の様子をテレビで放映したり、公開裁判をスタジアムで行ったりしている。 近年では汚職で死刑になることは稀であるが、汚職によって得られた金額の大きさや社会的影響、2012年の第18回共産党大会以降に行われたものも含まれているか(この大会の一中全会で習近平が中国共産党中央委員会総書記に選出された。更に、習近平は「大トラもハエも一緒にたたけ」とのスローガンを掲げ、権力闘争の一面があると指摘を受けながらも反腐敗運動を展開している)によって、死刑判決が下されることがある。新型コロナウイルス感染症が流行した2020年には、新型コロナウイルス感染対策として実施が予定されていた移動制限の実務担当者2人を殺害した男性に対して、事件発生から半年足らずで死刑を執行させた。 イランは執行件数が第2位であると同時に、人口に対する死刑執行数が第1位であり、執行人数は246人である。なお、日本(人口:約1億2400万人)では、2017年には4人、2018年には15人、2019年には3人に対して死刑が執行されており、1972年以降、稲葉修が法務大臣就任期間中の1975年・1976年、2008年と2018年のオウム真理教事件加害者13人の執行を除けば、1桁台で推移している。 イランや他のイスラーム国家の場合は、イスラム教の戒律を名目として離教や同性愛や不倫にも死刑が適用される。またレイプ被害者の女性が強姦の事実を認めた後、イスラーム法で定められた4人の証人による立証をしそこなったため死刑になる事例も存在する。一方加害者は死刑ではなく鞭打ち刑で済むこともある。 死刑の方法に関しても、イスラーム法に依拠した投石や生き埋めなどの死刑方法は、他国から残虐であると非難されている。 これに対しイスラーム国家の擁護者からの反論として、不倫、同性愛は汚らわしい性的倒錯であり、死刑になって当然であるという意見、投石や生き埋めなどの刑罰は慈悲深く慈愛遍きアッラーフのお定めになった神法であるという意見、離教は真実の教えイスラームを受け入れた後そこから離れるという許されざる犯罪であるという意見などが出されている。(イランやサウジアラビアの場合は死刑以外の刑についても、窃盗常習犯には断手などの身体刑、障害の残る暴行においては手術によって同じ障害を与えるなどの徹底した応報主義に則っており、死刑以外の刑への非難も多い)。 ちなみにレイプ被害者が死刑にされた事例として、イランでは2004年8月14日に16歳の少女に死刑判決が下り翌朝執行された。この少女は13歳の頃に少年と2人きりでいたという理由で鞭打ち刑を受けた経験がある少女で、51歳の既婚の男性からレイプされたことを黙っていた罪で逮捕された。近隣住民からの不道徳であるという訴えに加え、裁判でレイプされたことを実証できず、更に着ていたベールを裁判中に投げた結果、死刑判決が下ることとなった。裁判では見た目から年齢を22歳ということにさせられ、また執行の際には家族に死刑執行することが伝えられなかった。一方、加害者の男性は95回の鞭打ち刑で済んだ。この内容を2006年になりBBCが伝えた。 第3位はエジプトで少なくとも107人が執行されている。前年の推定32人から107人と前年に比べ3倍以上に増加しており、死刑を執行された23件は政治的暴力に関連した事件で有罪とされた人々に対するものであり、拷問や自白の強要がされていたと指摘されている。エジプトら2016年以降アフリカ諸国で最も死刑執行している国でもある。 同じくイスラーム国家であり、2019年に3位であったサウジアラビアは2020年に27人に死刑が執行された。この年は、薬物関連の犯罪での死刑執行が一時停止された影響により、前年の184人から21人と9割近く減少している。 サウジアラビアの死刑囚の大半は外国人労働者であり、麻薬の密売、売春、国王又はイスラム教(特にワッハーブ派)に対する冒涜といった人命を奪わない犯罪に対しても死刑が適用されている。また、メッカで働いていた家政婦が雇用主からの暴行に反撃して雇用主を刺殺した事件において、インドネシア人家政婦を斬首刑にしたことで、インドネシアとの間で外交問題に発展したこともある。 米国では2020年に17件の執行があった。1999年の執行件数は98件と100件近かったが、2000年以降は減少傾向にある。2011年以降の執行は主に薬殺で行われており、2013年1月16日に行われたバージニア州でのロバート・グリーソンへの執行を除き全てテネシー州で電気椅子による死刑が行われる。また、1977年から2020年までに全米で1,529人に死刑が執行され、約88%に当たる1,349人が薬殺刑によって執行されており、薬殺刑以外では約91%が電気椅子である。死刑囚の人種については、2020年10月1日時点において、42.15%が白人、13.44%がラテン系、41.60%が黒人、2.81%がその他の人種であった。 多くの国では未成年者を処刑することを禁止しているが、犯行時18歳未満であった者を処刑した国が、1990年以降に8ヶ国存在した。このうち、米国は1990年から、連邦最高裁により違憲判決が出された2005年5月までの間に、犯行時に16歳だった者を含む19人を処刑し、世界一の執行数を記録した。また、2020年にはイランで少なくとも3人が、犯行時18才未満であった犯罪によって処刑された。また、モルディブもこの要件に相当する死刑囚がいる可能性がある。最多であるイランでは1990~2020年の間に、18歳未満の少年104人への死刑執行が報告されている
※この「死刑執行が多い国」の解説は、「死刑の歴史」の解説の一部です。
「死刑執行が多い国」を含む「死刑の歴史」の記事については、「死刑の歴史」の概要を参照ください。
- 死刑執行が多い国のページへのリンク