Q熱とは? わかりやすく解説

Q熱

Q 熱は重要な人獣共通感染症一つで、1935年オーストラリア屠畜場従業員の間で流行した原因不明熱性疾患として発見され、のちにリケッチア一種Coxiella burnetii による感染症であることが明らかにされた。Q熱という病名は、「Query fever不明熱」に由来している。

疫 学
オーストラリア発見され以来世界中でQ 熱の患者報告され広く認識されるようになった。本感染動物の尿、糞、乳汁などに排泄され環境汚染するヒトは主にこの汚染され環境中粉塵エアロゾール吸入し感染するウシヒツジの未殺菌乳製品生肉などを摂食感染することもあるが、稀である。
感染源はおもに家畜愛玩動物であるが、自然界では多く動物ダニ保菌しており、感染源となりうる。感染動物症状がない(不顕性感染)ことが多いが、妊娠しているウシヒツジ感染する流産死産をおこすこともある。これは、本胎盤爆発的に増殖するためである。このため大量に含む胎盤羊水原因となったヒト集団感染数多く報告されている。また、ネコ出産流産時のヒト感染も多い。一方でヒトからヒトへの感染はほとんどおこらない
わが国でも、1988 年カナダヒツジの胎仔を扱う研究従事していた医学留学生帰国後に発症し最初のQ 熱の症例として報告された。これを契機国内での調査・研究進みわが国にもQ 熱が存在することが明らかとなり、1999 年4月からは感染症法による届出始まった1999年には12人、2000年には23人、2001 年には40人の患者報告され増加傾向にある。これらの発生をみると、都市部での散発例が多く集団感染極めて少ないという特徴があった。感染源としては、患者飼っている愛玩動物重要視されているが、特定できない症例が多い。また、我々は最近オーストラリア農場視察行った畜産関係者3 人が同時に感染した輸入症例経験している。

病原体

Coxiella burnetii (コクシエラバーネティー)はリケッチア科コクシエラ属の小桿菌で、多型性を示す(写真1)。他のリケッチア同様に細胞内でのみ増殖できる偏性細胞内寄生細菌で、人工培地では増殖できないその大きさ0.2~0.4 ×1.0 μm で、球菌の1/2~1/4 である。増殖時の形態には大型菌体large cell variant, LCV)と小型菌体small cell variant, SCV)とがある。

Q熱

ともに感染性があり、LCV浸透圧対し抵抗性が低いが、SCV芽胞構造示し、熱、乾燥消毒強いた環境中安定である。そのため、他のリケッチアでは伝播ダニなどの媒介ベクター)を必要とするが、Q 熱では必要としないまた、腸内細菌似た相変異をおこし、I相およびIIよばれている。I 相野外病原菌体表面リポ多糖LPS)を保有しIIは、I相発育鶏卵培養細胞用いて長期継代弱毒化したLPS保有しない。このI相およびII血清診断には重要である(後述)。

臨床症状
Q 熱の病態大まかに急性慢性の2 つ分けられる急性型潜伏期一般的には2~3週間で、感染量が多いと短くなる症状発熱頭痛筋肉痛全身倦怠感呼吸器症状などで、インフルエンザ様である。しかし、主症状肺炎肝炎、あるいはその他の症状であったりと、その臨床像多彩である。他のリケッチア症と異なり皮疹みられることは稀である。検査所見では、CRP、肝酵素GOTGPTの上昇、血小板減少貧血などがみられるまた、急性型の2~10%心内膜炎主徴とする慢性型移行するといわれており、適切な治療をしないと致死率高くなる海外では急性Q 熱患者回復後しばらくして倦怠感不眠関節痛などを訴え数ヶ月十数年もの間持続し慢性疲労症候群診断される症例報告されている。
Q熱に特徴的な症状所見がないため、臨床的に他の熱性呼吸器疾患細菌性心内膜炎鑑別することは困難と思われる。したがって上記のような症状があり、動物との接触歴や海外流行地)への渡航歴があり、起因菌やウイルス証明できない場合には、本症を疑ってみる必要がある

病原診断
血清診断は主に間接蛍光抗体法などで行われる急性型では、まずII対す抗体上昇しその後I相対す抗体上昇する一般に、I相よりII対す抗体価高くなる急性型確定診断には、IIあるいは双方用いて急性期回復期ペア血清での抗体価の上昇を証明することによって行われる抗体価最初感染から数ヶ月数年持続する陽性判定は、ペア血清で4 倍以上の抗体価の上昇があったものとする単独血清での判定難しいことが多い。一方慢性型確定診断では、I相およびII対する高い抗体価がみられ、一般にI 相抗体価II抗体価より高いことから判定されるまた、慢性疲労症候群患者では全般的に抗体価が低いといわれている。
また、急性期血液からPCR法により遺伝子検出を行うことも可能である。外膜蛋白質superoxide dismutase 遺伝子などを標的としたPCR法利用されている。我々は、主に全血のバフィーコート分画から検出行っており、急性期に血清中からの検出も可能である。


治療・予防
治療にはテトラサイクリン系抗菌薬第一選択薬であり、クロラムフェニコールなども有効である。急性型場合には、抗菌薬による治療発症から3日以内に行うと一般的に効果が最も高いが、2~3週間続け必要がある。仮に再燃したら、すぐに投薬再開することが重要である。また、慢性型場合予後悪く数年にわたる投薬が行われても十分に効果得られないこともある。急性型発症の際に適切な治療行い慢性型移行させないことが重要である。
海外では家畜出産シーズン感染発生することが多く出産時動物愛玩動物含め)、特に死・流産などをおこした動物取り扱いには要注意である。流産胎盤などは焼却し汚染され環境クレゾール石けん液、5%過酸化水素水消毒するまた、オーストラリアでは屠畜場従業員などハイリスク群にはワクチン使用されているが、わが国では使用できない

感染症法における取り扱い2003年11月施行感染症法改正に伴い更新
Q 熱は4類感染症定められており、診断した医師直ち最寄り保健所届け出る
報告のための基準以下の通りである。
診断した医師の判断により、症状所見から当該疾患疑われ、かつ、以下のいずれか方法によって病原体診断血清学診断なされたもの。
病原体検出
例、血液などからの病原体分離など
病原体遺伝子検出
例、PCR 法など
病原体対す抗体検出
例、間接蛍光抗体法(IF)法で抗体が4倍以上の上昇など


国立感染症研究所ウイルス第一部 小川基彦)





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