裁判
★1a.名裁判。
『ダニエル書への付加』(旧約聖書外典) 2人の長老が人妻スザンナに情交を迫り拒絶されたため、逆に、「スザンナが若者と姦淫した」と偽証して告発する。ダニエルが2人の長老を引き離してそれぞれを尋問し、2人の証言が食い違うことから彼らの嘘を知る。
『どんぐりと山猫』(宮沢賢治) 大勢のどんぐりたちが、誰がいちばん偉いかで争い、山猫が一郎少年に裁判を依頼する。一郎は「この中でいちばんばかで、めちゃくちゃで、まるでなってないのがいちばんえらい」と判決を下す。どんぐりたちは黙りこみ、騒ぎは収まる。一郎はお礼に、黄金(きん)のどんぐりを1升もらうが、家に帰る頃には、普通の茶色のどんぐりに変わっていた。
『列王紀』上・第3章 遊女A・Bがそれぞれ子を産むが、1人の子が死んだ。残った子を、遊女A・Bが「自分の子だ」と主張して、ソロモン王に裁きを求める。王は「子供の身体を刀で2つに分けよ」と命ずる。遊女Aは「それなら、子を生きたままBに与えて下さい」と請い、遊女Bは「子を切り分けて欲しい」と言う。王は「子を生きたまま遊女Aに与えよ。遊女Aが、この子の母である」と裁く。
*子供の身体を両側から引っ張る→〔輪〕4の『コーカサスの白墨の輪』(ブレヒト)。
*父の遺骸に平気で矢を射こむ息子と、それができない息子→〔父子関係〕6の『ゲスタ・ロマノルム』45。
*→〔契約〕2の『ヴェニスの商人』(シェイクスピア)第4幕。
*欲深い訴人の言い分をそのまま認めることによって、公正な裁きをする→〔遺産〕3の『棠陰比事』110「斉賢両易」、〔財布〕2。
『S・カルマ氏の犯罪』(安部公房) 突然名前を失った「ぼく」は、眺めていた雑誌の風景写真を、知らずに胸の中に吸い取ってしまう。「ぼく」はそのため裁判にかけられる。裁判では、「名前のない者に法を適用するわけにはいかぬ」「名前を見つけ出し、判決可能となるまで、永遠に裁判は続けられなければならない」という議論がなされる。
『審判』(カフカ) 独身の銀行員ヨーゼフ・Kは、30歳の誕生日の朝、理由がわからないまま逮捕される。被告になっても日常生活は拘束されず、Kは銀行での勤務を続ける。日曜日に、Kは審理のために召喚されるが、法廷は貧民街の一室であり、裁判所事務局は屋根裏部屋だった。裁判の内容は意味不明なもので、弁護士に相談しても要領を得ない。1年後、31歳の誕生日の前夜、Kは2人の男に連れ出され、肉切包丁で処刑される。
『不思議の国のアリス』(キャロル) トランプのハートの王様を判事として、盗まれたパイについての裁判が行われる。陪審員や証人たちがわけのわからない議論をする。アリスも証人として召還され、ハートの女王が「あの娘の首をはねよ」と叫ぶ。アリスが「あんたなんか、ただのトランプじゃないの」と言うと、トランプたちは空に舞い上がり、アリスは目覚める。
*卵の裁判官が、人間に判決を下す→〔卵〕5aの『卵』(三島由紀夫)。
★1c.珍判決。
『カター・サリット・サーガラ』「ムリガーンカダッタ王子の物語」4・挿話4のB 洗濯屋のろばが野菜畑を荒らしたので、バラモンの妻がろばを棒で打ち、蹄を折る。洗濯屋が怒ってバラモンの妻を蹴り、妊娠中の彼女を流産させる。バラモンが都城長官に訴え出ると、長官は、「バラモンは、ろばの代わりに洗濯屋の荷物を運べ。洗濯屋は、流産させた償いにバラモンの妻を妊娠させよ」と、愚かな裁きをする〔*『千一夜物語』「巧みな諧謔と愉しい頓知の集い(抜け目のない法官)」(マルドリュス版第804夜)の類話では、妊婦が喧嘩にまきこまれ、竃焼きの男に蹴られて流産する。妊婦の夫が訴えると、法官は竃焼きの男に有罪を宣告し、「妊婦を再び妊娠させよ」と命ずる。夫は訴訟を取り下げる〕。
『聊斎志異』巻9-373「郭安」 AがBを殺したので、Bの妻bが訴え出た。県知事は、「AはBを殺すことによって、妻bをやもめにした。それなら今度は、Aを妻bと結婚させて、Aの妻aにも、やもめ暮らしをさせてやればよい」との判決を下した。
★2.かつて関わりのあった男女の一方が裁く人、他方が被告となって、法廷で再会する。
『義血侠血』(泉鏡花) 北陸地方を旅興行する水芸の太夫・滝の白糸は、乗合馬車の御者・村越欣弥(きんや)を見込んで東京に遊学させ、学資の援助をする。それから3年後に、欣弥は新任の検事代理、白糸は強盗殺人の被告として、金沢の裁判所で再会する。白糸は欣弥に仕送りする金を得ようと、罪を犯したのだった。欣弥は私情を捨て、白糸を殺人犯として起訴する。死刑判決が出た日の夕方、欣弥は自殺する。
*同じ泉鏡花の『外科室』では、慕い合う男女が、外科医と患者として再会する。女は手術中に自ら命を絶ち、男もその日のうちに自死する→〔心中〕6。
『復活』(トルストイ) ネフリュードフ公爵は青年時代に、小間使いカチューシャを妊娠させ、捨てた。それから10年後、ネフリュードフは陪審員として、カチューシャは強盗殺人容疑の売春婦として、思いがけず法廷で再会する。カチューシャの堕落に責任を感じるネフリュードフは、彼女の無実を訴えて奔走し、彼女と結婚することで自分の罪をつぐなおうとする〔*しかしカチューシャはシベリアへ流刑となる。彼女は、移送中に知り合った政治犯シモンソンと結婚する〕。
『ブラック・ジャック』(手塚治虫)「再会」 トラック運転手アキラが若い女をはねる。女はブラック・ジャックの手術で回復するが、記憶を失う。アキラは女の世話をし、2人の間に恋愛感情が生まれる。しかし1年後、女は記憶が戻るとともにアキラを忘れ、姿を消す。アキラの心はすさみ、彼は犯罪者となって5年後に逮捕される。彼を裁く法廷の裁判長こそ、その女だった〔*ブラック・ジャックが女に、アキラのことを思い出させる〕。
『モンテ・クリスト伯』(デュマ)110 モンテ・クリスト伯(エドモン・ダンテス)は、彼を牢獄へ送った検事総長ヴィルフォールに復讐するため、ヴィルフォールの私生児である殺人犯ベネデットを探し出し、ヴィルフォールに裁かせる。ヴィルフォールが公判で起訴状を朗読すると、それに対してベネデットは、自分がヴィルフォールの私生児で、父によって生き埋めにされた(*→〔仮死〕6)ことを陳述する。ヴィルフォールは驚愕しつつも、人々の前ですべてを認めて退廷する〔*彼はやがて発狂する〕。
★4.魔女裁判。
『アイヴァンホー』(スコット)第37・43章 ユダヤ商人アイザックの娘レベッカは、聖堂騎士団によって魔女裁判にかけられ、火刑の宣告を受ける。アイヴァンホーがレベッカの代戦士となり、聖堂騎士ボア・ギルベールと決闘してこれを倒し、彼女の無罪を勝ち取る。
★5.陪審員たち。
『アンタッチャブル』(デ・パルマ) エリオット・ネスは、アル・カポネの脱税の証拠をつかみ、彼を法廷で裁こうとする。しかし陪審員たちは、全員カポネに買収されていた。ネスの要求により裁判長は、カポネの裁判の陪審員と、隣の法廷で開かれている離婚裁判の陪審員を、交替させる。カポネは有罪が確定し、懲役11年の判決が下される。
『十二人の怒れる男』(ルメット) スラム街の不良少年が、父親をナイフで刺し殺した容疑で裁判にかけられる。12人の陪審員たちは、ほぼ全員が「少年は有罪で、電気椅子に送るべき」との意見だった。しかしただ1人、少年が犯人ではない可能性を示唆する陪審員がいた。12人の男たちは、激しい議論を始める。しだいに、目撃者証言の曖昧さや、ナイフによる傷口の向きの疑問点などが、明らかになる。陪審員たちは1人また1人と、「有罪」から「無罪」へ見解を変え、ついに全員が、少年を無罪と認める。
『ギリシア哲学者列伝』(ラエルティオス)第1巻第5章「ビアス」 ビアスは、ギリシアの七賢人の1人と言われる。彼は、「友人たちの間の紛争を裁くよりも、敵どうしの間の争いを裁く方が好ましい」と言った。友人たちの場合には、いずれにしても一方の人を敵にする結果になるが、敵同士の場合には、一方の者を味方にすることになるからである。
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