対戦車誘導弾とは? わかりやすく解説

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たいせんしゃ‐ゆうどうだん〔‐イウダウダン〕【対戦車誘導弾】

読み方:たいせんしゃゆうどうだん

対戦車ミサイル


対戦車ミサイル

(対戦車誘導弾 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/02 07:39 UTC 版)

9M133 コルネット

対戦車ミサイル(たいせんしゃミサイル、英語: anti-tank missile, ATM)は、戦車を攻撃するために用いられるミサイルで、対戦車誘導ミサイルanti-tank guided missile, ATGM)、対戦車誘導兵器anti-tank guided weapon, ATGW)などとも呼ばれる。

日本防衛省自衛隊)では対戦車誘導弾(たいせんしゃゆうどうだん)と呼称し、MAT(missile anti-tank)の略号を付けている。令和3年度の総合火力演習では、呼称に「ATM(エーティーエム)」を用いた。

概要

戦車は強固な装甲により防御されているため、少量の火薬による通常の爆発ではダメージをあまり与えられない。また、ミサイルは飛翔速度が砲弾APFSDS弾など)と比べて非常に遅いために、運動エネルギーによる装甲貫通は行えない。そのために、対戦車ミサイルでは爆発の威力を一点に集中させることができるHEAT(成形炸薬弾)を用いて戦車の装甲を貫く。

対戦車ミサイルは、車両や航空機などに装備されるものが多いが、人力で搬送可能なものも多く、歩兵部隊の対戦車の主要装備となっている。戦闘車輌以外にも人間、建物、陣地などに対しても使用可能な事から、ロケットランチャー携帯型地対空ミサイル同様、ゲリラ民兵が好む装備となっている。もっとも、価格は地対空ミサイルよりはずっと安価とはいえ、日本円で一発あたり数百万円もするため、大国から装備を供与されていない民兵組織では、おいそれと自腹で調達できるものではない。

副次的な利用として、対艦ミサイルに比べて廉価かつ高速であることから武装ボートや上陸用舟艇に対する攻撃にも用いられる。イラン・イラク戦争において、イラン革命防衛隊海上部隊の武装ボートおよび突撃艇への対抗手段として、ペルシア湾に展開したアメリカ海軍BGM-71 TOWを使用した。日本79式対舟艇対戦車誘導弾は、舟艇を主目標の一つとして開発されている。

有効射程が短い砲を補完するために、通常砲弾と対戦車ミサイルの双方が発射可能なガンランチャーと呼ばれる大口径主砲を備えたM551シェリダン空挺戦車の様な車輌も存在していた。現在は戦車砲自体の大口径化とミサイルの小型化により、ロシア9M119イスラエルLAHATの様に通常の戦車砲から発射できるタイプが登場している。

歴史

世界で最初に開発された対戦車ミサイルは、第二次世界大戦中の1941年ドイツで開発が始まり、1944年に実物でのテストが行われた「X-7 ロートケップヒェン(Rotkäppchen、赤頭巾ちゃん)」である。

X-7は、終戦までに300発ほどが完成したが、実戦での使用は無かったとされる。また、誘導命令を赤外線で伝える方式や、今で言う第二世代の誘導方式、そして画像認識による誘導など様々な誘導方式の研究がされていた。これらは計画の域を出なかった。また、X-7以外にも様々な対戦車ミサイルが計画されていたがそのほとんどは完成していない。

世界で最初に実戦使用された対戦車ミサイルは、フランスSS.10である。SS.10は、低コストで戦車を駆逐する兵器という前提で開発が行なわれ、軽戦車対戦車砲のような重装備を用いなくとも、トラックジープで軽快に移動する兵士によって大量に戦車を駆逐する装備を持つことが可能になった。

世界で最初に対戦車ミサイルが大規模に用いられたのは第四次中東戦争である。エジプト陸軍イスラエル陸軍戦車部隊に対してAT-3 サガー対戦車ミサイルを集中使用し、大打撃を与えることに成功した。そのため、一時はミサイル万能論戦車不要論)が大きく取りざたされた。しかし、戦車側も対戦車ミサイルに対抗するため、爆発反応装甲(ERA)などのHEATを無効化する手段を有するようになった。その後、本格的な防護力を持つ第三世代主力戦車が登場したため、ATGMもより強力なものを望まれている。

そのため、HEATを2段にし、一段目の弾頭で爆発反応装甲を破壊、2段目が装甲を破るタンデム弾頭を持つタイプや、戦車の装甲が比較的薄い上面を狙ってHEATを打ち込むタイプ(スウェーデン製のBILLなど)、旧来のHEAT弾頭ではなく戦車砲弾であるAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)と同等に運動エネルギー弾を目標に超高速で突入させる事で、反応する猶予を与えず爆発反応装甲ごと撃破することが可能なLOSATの様なタイプもある。

誘導方式

地対空ミサイルなどと異なり、対戦車ミサイルは電気信号を送るワイヤーによる有線誘導方式が多いが、近年では光ファイバーを用いたものや、ワイヤーを用いないアクティブ誘導でより高速のタイプも登場している。また、以下のように機能により各世代に分類される。

第1世代

AT-3 サガーのペリスコープと操縦桿

照準器または双眼鏡で目標を照準し、飛行中のミサイル後部の噴射炎や発光マーカーでその位置を確認しつつ、ジョイスティックで誘導する遠隔操作誘導方式。目標と自分のミサイルを同時に目で追う必要があり、ミサイルも低速で横風の影響を受けやすい。当然、照準手によるミサイルの操縦が必要となり、照準手が無力化されてしまえば誘導も不可能となる。

代表例として、世界初の実用対戦車ミサイルとなったSS.11や、AT-3 サガー64式対戦車誘導弾などがあげられる。

第2世代

ミランの発射機。発射筒の横にあるのが照準器

前記第1世代を改良した誘導方式を採用。飛行中のミサイルの位置は人間のオペレーターでなく誘導装置がセンサで検出する。オペレーターが照準器の中心に目標を捕らえ続けていれば、照準線とミサイルの位置の差を誘導装置が計算して誘導信号をミサイルへ送信する。照準手は目標だけを追えばよくなり、特別な操作能力が無くとも誘導が可能になったが、やはり目標に命中するまでは誘導(操縦)し続ける必要がある。

代表的な例として、西側諸国BGM-71 TOWHOTミラン79式対舟艇対戦車誘導弾東側諸国AT-4AT-5などがあげられる。

第2.5世代

AGM-114A ヘルファイア。弾頭部にあるのが赤外線シーカー

Nd-YAGなどの照準レーザーを目標に照射し続けることで、ミサイル弾頭が目標から反射したレーザーを検出して飛行するセミアクティブ誘導方式。誘導ワイヤーが廃されたことでミサイルが高速になり、また、発射地点から離れた場所から、さらに発射手とは別の照準手でも誘導が可能になった一方で、照準レーザーを感知される、有線誘導でないために敵のジャミングに弱くなるといった欠点も登場した。

代表的な例としてヘルファイア87式対戦車誘導弾などがあげられる。

第3世代

目標の発する赤外線を映像としてとらえ、これをミサイル先端部のシーカーが感知して飛行するパッシブ誘導方式。発射直後に照準作業を終了して、射手が退避することが容易になった、完全な「撃ちっ放し」だが、フレアなどの赤外線ジャミングに弱い。

代表的な例としてFGM-148 ジャベリン01式軽対戦車誘導弾などがあげられる。

主な対戦車ミサイル

開発国 名称 弾体重量
kg
有効射程
m
誘導方式 プラットフォーム
歩兵 車両 航空機 戦車砲
アメリカ合衆国 SSM-A-23 ダート 45 3,000 手動操縦
FGM-77B ドラゴン 12.2 1,000 SACLOS
BGM-71D TOW2 21.5 3,750
MGM-51A シレイラ 26.8 2,000
MGM-166 LOSAT 79 4,000
AGM-114K ヘルファイア-II 45 9,000 SALH
AGM-65H マーベリック 210 20,000 TV
FGM-148 ジャベリン 11.8 2,500 IIR
FGM-172 SRAW 9.7 200 INS
フランス ENTAC 12.2 2,000 MCLOS
SS.10 15 1,600
SS.11 30 3,000
フランス
カナダ
ERYX 10.2 600 SACLOS
フランス
西ドイツ
ミラン3 7.1 2,000
HOT 3 24 4,000
ドイツ PARS 3 LR 49 7,000 IR+TV
 スウェーデン BILL-1 36 2,200 SACLOS
 スウェーデン
イギリス
NLAW 12.5 800 PLOS
イギリス ヴィジラント 14 1,375 MCLOS
スウィングファイア 27 4,000 MCLOS
後にSACLOS
ブリムストーン 48.5 20,000 MMW ARH
日本 64式対戦車誘導弾 15.7 1,800? MCLOS
79式対舟艇対戦車誘導弾 33 4,000 SACLOS
87式対戦車誘導弾 12 2,000 SALH
96式多目的誘導弾 60 10,000+? TVM画像
01式軽対戦車誘導弾 11.4 2,000+ IIR
中距離多目的誘導弾 26 2,500-3,500? IIR + SALH
イスラエル スパイク-SR 9 800 IIR+TV
スパイク-MR 13 2,500
スパイク-LR 4,000
スパイク-ER 34 8,000
スパイク-NLOS 71 25,000
ニムロッド 96 26,000 SALH
LAHAT 13.5 6,000
中国 HJ-8E 25 4,000 SACLOS
HJ-9 37 5,500 レーザーBR
HJ-10 50 10,000+ IIR
SALH
TV
MMW ARH
ソビエト連邦 3M6 シュメル
(AT-1 スナッパー)
22.5 2,300 MCLOS
3M11 ファラーンガ
(AT-2 スワッターA)
27 2,500
9M14M マリュートカ
(AT-3 サガー)
10.9 3,000
9M111 ファゴット
(AT-4 スピガット)
11.5 2,500 SACLOS
9M113 コンクールス
(AT-5 スパンドレル)
14.6 4,000
9M114 ココン
(AT-6A スパイラル)
31.4 5,000
9K115 メチス
(AT-7 サクルソン)
5.5 1,000
9M112 コブラ
(AT-8 ソングスター)
37.2 4,000
9M120M アターカ-V

(英語版ロシア語版)

AT-9 スパイラル-2)

48.5 8,000
9M117 バスティオン
(AT-10 スタッバー)
17.6 5,000
9M119 レフレークス
(AT-11 スナイパー)
24.3 4,000 レーザーBR
9K118 シェクスナ
(AT-12 スウィンガー)
30.4
ロシア 9M115-2 メチス-M
(AT-13 サクルソン-2)
13.8 1,500 SACLOS
9M133 コルネット
(AT-14 スプリガン)
27 5,500
9M123 フリザンテーマ

(AT-15 スプリンガー)

46 6,000
9K121 ヴィーフリ

(英語版ロシア語版)

(AT-16 スカリオン)

45 10,000 レーザーBR

関連項目


対戦車誘導弾

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/15 15:52 UTC 版)

陸上自衛隊の装備品一覧」の記事における「対戦車誘導弾」の解説

名称愛称(※は部隊内通称)画像調達数注釈79式対舟艇対戦車誘導弾 ※ATM-2、HMAT、重MAT 戦後2代目開発され大型の対戦車誘導弾。装甲目標の他、近接信管用いて舟艇への攻撃も可能。発射機照準器送信器他で構成され発射機には1型および2型車載型がある。車載型89式装甲戦闘車搭載武装として使用されている(画像3段目)。有線式の半自動指令照準線一致SACLOS誘導方式87式対戦車誘導弾 タンクバスター※ATM-3、MMAT中MAT 発射機レーザー照射機より構成される64式対戦車誘導弾後継として開発ターゲット温度依存しないため,何時でも使用できる。セミアクティブ・レーザー・ホーミング(SALH)誘導方式 01式軽対戦車誘導弾 ラット※ATM-5、LMAT軽MAT01ATM01(まるひと) 1,073(2010年度時点赤外線画像誘導方式用いた"撃ち放し式"の誘導弾小銃小隊対戦車任務用として当初84mm無反動砲後継装備とされていたが、84mm無反動砲(B)の導入決定により、別系統装備となった見做されるが,調達中。 96式多目的誘導弾システム 96マルチMPMSATM-4 37セット最終調達年度までの調達数野砲のように曲射弾道描いて飛翔する長射程大型誘導弾。1システム発射機および地上誘導装置射撃指揮装置情報処理装置装填機、観測機材で構成される赤外線画像誘導光ファイバー有線式中距離多目的誘導弾ちゅうた、MMPS、XATM-6、新中MAT開発時名称) 113セット2018年度時点87式対戦車誘導弾後継として開発され、後に79式対舟艇対戦車誘導弾と87式対戦車誘導弾統合する装備として開発計画整備高機動車発射機照準誘導装置一式搭載して運用される誘導方式光波ホーミング誘導電波ホーミング誘導併用でき、同時多目標への“撃ち放し式”射撃が可能。普通科連隊直轄対戦車中隊およびナンバー中隊対戦車小隊更新予定で、平成21年度2009年)より調達開始BGM-71 TOWBGM-71700 1982年よりAH-1Sと共に導入有線レーザー誘導方式AH-1Sの主対戦車兵装。 ヘルファイアAGM-11480 2001年AH-64Dと共に採用AH-64Dの主対戦車兵装。海上自衛隊でSH-60K搭載する対艦兵装として使用中退役 名称愛称(※は部隊内通称)画像調達数注釈64式対戦車誘導弾MAT、ATM-1 戦後初の国産対戦車誘導弾。有線による手動誘導方式地上設置の他73式小型トラック装甲車搭載して運用も可能。2009年退役済。

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