アスファルト 構造と成分

アスファルト

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/01 18:32 UTC 版)

構造と成分

ストレートアスファルトの化学組成は、アスファルテンとマルテンに大別される[22]。有機媒体であるノルマルペンタンに溶けるかどうかで分類しており、アスファルテンは溶けない成分である[22]。アスファルテンと呼ばれる高分子炭化水素が、マルテンと呼ばれる多環の炭化水素の油やレジンの中にコロイド状に分散している。アスファルテンとは、ヘキサンなどの軽質の炭化水素に溶けない成分で縮合環の芳香族炭化水素が架橋結合して出来た高分子化合物である。マルテンはレジンと油に分けられ[22]、レジンと油分は軽質の炭化水素に溶ける成分である。レジンは比較的融点が高い樹脂状物質で、マルテンのうち、特にレジンが接着性や可塑性を与えて、アスファルトの塑性変形性を左右している[22]

  • 油分
  • レジン - 縮合多環芳香族 (500 - 50,000)
  • アスファルテン - 縮合多環芳香族の層状構造 (1,000 - 100,000)

分類

アスファルトは、大別すると天然アスファルトと石油アスファルトの2種類に分類される[11][4]

天然アスファルト

天然アスファルトは、自然界で産出される瀝青の代表的な材料物質である[23]。種類には、次のようなものがある。

  • レイクアスファルト:地下から湧き出して湖のようになったもの[4]
  • ロックアスファルト:石灰岩や砂岩のような岩石にしみ込んだもの[4]
  • オイルサンド:砂にしみ込んだもの[4]
  • アスファルトタイト:岩石にしみ込んだ石油が熱変成を受けてできたもの[4]

レイクアスファルトの産出地として有名なものは、トリニダード・トバゴのピッチ湖(アスファルトの湖)が知られている[23][4]。オイルサンドの産地では、カナダアルバータ州にあるアサバスカ地域が有名で大規模な露天掘りが行われている[22]。アスファルトタイトでは、アメリカ合衆国ユタ州のユインタ盆地で産出されるユインタ石があり、ギルソナイトという品名で黒ワニス塗料の素材として用いられている[22]

石油アスファルト

石油アスファルトは、原油を精製して石油製品を製造する過程で最後に残った残油で出来ている。石油アスファルトを大別すると、ストレートアスファルトブローンアスファルトに大別される。ストレートアスファルトは、原油中のアスファルト成分が変化しないように製造されたものである[22]。性状は、伸び・付着性・感温性が大きく、軟化点が低い特徴があり、主に道路などの舗装に使用されている[22]。ブローンアスファルトは、製造中に空気を吹き込んで酸化させたものである[22]。性状は、伸び・付着性・感温性が小さく、軟化点が高い特徴があり、主に目地や防水用に使われている[22]

製造過程は、原油を常圧蒸留することでLPGナフサガソリン灯油軽油が留出され、残った常圧重質油からさらに加熱して減圧蒸留することで、重油潤滑油が生成される[24]。そして最後に残った減圧重質油(減圧残油)がストレートアスファルトになる[24][22]。減圧重質油から溶剤脱瀝青装置、二次減圧残留装置、ブローイング装置を通すと、脱瀝青アスファルト、ストレートアスファルト、セミプレーン・アスファルト、ブローン・アスファルトなどが生成される[24]。ブローンアスファルトは、200 - 300℃の高温下で減圧重質油にブローイング(空気を吹き込む)することによって酸化させて抽出したものである[22]

アスファルトの性質は、原油産地や石油精製方法によって異なる。使用目的に適したアスファルトを選別するために、さまざまな性質について試験が行われている[22]

  • 針入度
    アスファルトの堅さを表す尺度。25℃のアスファルトの表面に、100gの重りをつけた規定の針を5秒間貫入させたときの貫入量を、0.1 mmあたり1単位で表したもの[25]
  • 軟化点
    軟らかくなりやすさを表す尺度で、温度上昇とともにアスファルトがある程度軟らかくなる時の温度。規定寸法のアスファルト供試体の上に鋼球を載せて、周囲温度を一定速度で高めたときに、アスファルトが軟化して鋼球が1インチ(25.4 mm)沈み込んだ時の温度を測定する[25]
  • 伸度
    アスファルトの伸びやすさを表す尺度。規定寸法のアスファルト供試体を、所定温度の水中で一定速度で引き延ばしていき、破断したときの伸び長さをcm単位で表す[25]
  • 引火点
    アスファルトの引火しやすさを表す尺度。規定量入ったアスファルト容器を一定割合で加熱したとき、アスファルト表面から発生した蒸気に引火する時の温度を℃単位で表す[25]
  • 粘度
    アスファルトの粘りの度合いを表す尺度。高温(120 - 200℃)状態の粘度や、60℃での粘度を求める場合がある。アスファルトが規定の毛細管を流れるのに要する時間を計測できる計器を通して求められる[25]
  • タフネス・テナシティ
    アスファルトが骨材を把握する強さを表す尺度(タフネス)と、大きな変形に対するアスファルトの抵抗の大きさ(テナシティ)を表す尺度。アスファルト表面に規定サイズの半鋼球を埋め込んで一定速度で引き抜いたときに得られる、引抜力と変位量の関係を曲線図で表したもの。改質アスファルトの品質検査で用いられる[26]

改質方法などの違いによる分類

ストレートアスファルト

ストレート・アスファルト(straight asphalt)は、減圧蒸留装置からの分留された減圧残油をそのまま使用したもの[24]。アスファルトのほとんどを占める(1995年で96%)。

JIS規格では、針入度0 - 300の範囲で10段階に分類されている[26]。そのうち、道路舗装用石油アスファルトとしてよく用いられるのは、針入度40 - 60(一般地域で交通量が多いところ)、60 - 80(一般地域)、80 - 100(寒冷地域)、100 - 120(寒冷地域で低温度ひび割れの懸念があるところ)の4種類に使用される[26]

ブローンアスファルト

ブローン・アスファルト(blown asphalt)は、軽質の減圧残油もしくは重質減圧残油に減圧留出油、潤滑油留分等を配合したものを原料に高温の空気を吹き込み軟化点を高くしたもの[26]。感温性にも優れ、耐候性と耐水性が高い。屋根や建築材料の防水、道路用の目地や電気絶縁用の材料に使用される[26]

改質アスファルト

改質アスファルトは、舗装道路の流動・わだち・ひび割れなどの破損を防ぐために、ストレートアスファルトを改質して、耐久性や接着性などの特性を高めたアスファルトである[24][26]。ゴム、ポリマー[注釈 2]など高分子材料を改質材として、単独あるいは併用して混合してできるポリマー改質アスファルト[11]、あるいは比較的低い温度下で空気を吹き込むこと(ブローイング)によってつくられるセミブローンアスファルトがある[26]

ポリマー改質アスファルトは、添加物を加えて改質したアスファルトで、性質が異なるI型・II型・III型・H型の4種類がある。I型からIII型、H型に行くに従って、主に軟化点とタフネスが向上されており、これらはアスファルト混合物の塑性変形や摩耗に対する抵抗性の改善につながっている[27]。I型・II型・III型はポリマーの添加量の違いで区分されていて、密粒度・細粒度・細粒度などの混合物に用いられている。III型の中には、耐水性を向上させたIII型-W、耐水性とたわみ性を向上させたIII型-WFがあり、前者はコンクリート床版の橋面舗装用、後者は鋼床版の橋面舗装用で使用されている[27]。H型は、ポリマー添加量が多く、ポーラスアスファルト混合物に用いられる高弾性の改質アスファルトであり、中でもH型-Fは寒冷地用にたわみ性を向上させたものである[27]

改質剤として用いられる添加物には、次のようなものがある。

  • ゴム(スチレン・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、天然ゴム) - 改質アスファルトI型とII型の主流
  • 熱可塑性エラストマー(スチレン・イソブチレン・スチレンブロック共重合体、スチレン・ブタジエンブロック共重合体、スチレン・エチレン・ブテン共重合体) - 改質アスファルトのほとんどに使用
  • 熱可塑性樹脂(エチレン、酢酸ビニル共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン) - 耐流動用材料

セミブローンアスファルトは、感温性を改善して60℃における粘度をストレートアスファルトよりも大きくした改質アスファルトで、耐流動性に優れる特性を持っている[27]。わだち掘れ対策用に、社団法人日本アスファルト協会によって開発された。大型車の交通量が多い交通路線で用いられる[27]

道路舗装の施工法による分類

アスファルト混合プラント

道路舗装の施工法の違いによってアスファルトと骨材の混合方法が変わり、以下に分類される。

加熱アスファルト混合物

最も一般に使用されているアスファルト混合物で、「アスファルト・プラント」と呼ばれる加熱装置内でアスファルトと骨材を加熱・混合して熱いうちに輸送及び施工を行い、冷えれば道路としての強度が得られるもの。

  • アスファルト溶解温度:140 - 150℃
  • 骨材加熱温度:130 - 190℃
  • 混合時間:45 - 60秒
  • 混合物の温度:145 - 175℃

アスファルト乳剤

アスファルト乳剤は、アスファルトと水に乳化剤を混ぜてアスファルト微粒子を水中に分散(乳化)させ、含まれている水分が蒸発することでアスファルトとしての粘度性能を発揮する液状材料のこと[23][27]。ストレートアスファルトやブローンアスファルトは常温では半固形物質であるが、アスファルト乳剤は常温においてもアスファルトの粘度を低下させて液状にしたものである[27]。骨材同士の接着剤として、また他の構造物とアスファルト混合物の付着を良くする役割で利用され、道路舗装の施工において路盤表面散布(プライムコート)、アスファルト混合物層と他の構造物間の散布(タックコート)に用いられる[23]。乳化させる材料によって、水中にあるアスファルト粒子の表面の電荷が異なり、電荷の違いによりカチオン系(正電荷)、アニオン系(負電荷)、ノニオン系(帯電なし)に分けられる[23][27]。カチオン系は、接着性に優れることから道路舗装によく用いられており[23]、日本で道路用に使用されているアスファルト乳剤のほとんどがカチオン系で、アニオン系乳剤が使われることは少ない[27]。ノニオン系乳剤は、セメント・アスファルト乳剤安定処理混合用として、既設アスファルト舗装を修繕する際、その場で舗装を粉砕して既設の路盤材とともに混合し、路盤を再構築する路上再生工法に使用される[27]

乳化剤は以下のものが使われる。

  • カチオン系:牛脂やヤシ油の脂肪酸誘導体のアミンの塩酸または酢酸塩 pH2 - 5
  • アニオン系:高級アルコール硫酸塩 pH12 - 13
  • ノニオン系:アルキル基(ノニルフェニルなど)にエチレンオキサイドを付加したもの。中性付近となる。

アスファルト乳剤の種類は、使用法や乳化剤の種類でPK、MK、MNの記号で表されており、Pは表面に散布してしみ込ませる浸透式、Mが骨材と混合して使用する混合式を区分で表し、Kはカチオン系、Nはノニオン系を意味している[17]。また、浸透性を向上させてプライムコートに用いる高浸透性アスファルト乳剤や、アスファルト分を多くした高濃度アスファルト乳剤もある[17]。これ以外に、アスファルトの性質を改質したものがあり、改質アスファルト乳剤と呼んでいる[17]。改質アスファルト乳剤の種類では、接着性の改善を目的に天然ゴムや合成ゴムを混入したゴム入りアスファルト乳剤(記号:PKR)と、骨材・水・セメントなどと混合したスラリー状混合物を既設の路面に薄敷するマイクロサーフェシングで用いる速硬化型の改質アスファルト乳剤(記号:MS)がある[17]

カットバック・アスファルト

アスファルトと溶剤を混合して骨材と常温で混合する。道路作業後、溶剤が気化することで強度が得られる。大気汚染防止や危険防止のためにこれが使用されることは少ない[28]

語源

  • イングランドの言語: Asphalt
  • フランスの言語: Asphalte
  • ラテンの言語: Asphalton, asphaltum
  • ギリシアの言語: Asphalton, asphaltos (άσφαλτος)

注釈

  1. ^ 粗骨材・細骨材・フィラーと石油アスファルトにトリニダードレイクアスファルトまたは改質剤を混合したアスファルトを使用したグースアスファルト混合物による舗装で、高温時に流し込み施工できるほど流動性が高く、不透水性とたわみ性に富むという特長がある[16]
  2. ^ 熱可塑性エラストマーや熱可塑性樹脂など。

出典

  1. ^ 落合直文「あすふあると」『言泉:日本大辞典』 第一、芳賀矢一改修、大倉書店、1921年、67頁。 
  2. ^ 松村明 編「じれきせい」『大辞林 4.0三省堂、2019年。 
  3. ^ 松村明 編「アスファルト」『大辞林 4.0三省堂、2019年。 
  4. ^ a b c d e f g h i j k 宮川豊章・岡本亨久・熊野知司 2015, p. 126.
  5. ^ ストレートアスファルト”. weblio. 2019年5月12日閲覧。
  6. ^ 溶剤抽出(法)”. weblio. 2019年5月12日閲覧。
  7. ^ 溶剤脱れき法”. Weblio. 2019年5月12日閲覧。
  8. ^ 空気酸化”. コトバンク. 2019年5月12日閲覧。
  9. ^ カットバックアスファルト”. weblio. 2019年5月12日閲覧。
  10. ^ アスファルト利用の歴史,日本アスファルト協会
  11. ^ a b c d e f g h 峯岸邦夫 2018, p. 104.
  12. ^ 創世記11章3節
  13. ^ 田井中洋介「石錘による網漁」『縄文時代の考古学5 なりわい 食料生産の技術』(同成社、2007年)、pp.159 - 160
  14. ^ “アスファルトの歴史 浮上する謎も”. NHK. (2013年11月8日). オリジナルの2013年11月9日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20131109050151/http://www3.nhk.or.jp/news/html/20131108/k10015891731000.html 2013年11月8日閲覧。 
  15. ^ 佐々木榮一「天然アスファルトの道◇秋田・豊川でかつて採掘 油田の歴史伝える◇」『日本経済新聞』朝刊2018年4月3日(文化面)
  16. ^ a b c d e f 宮川豊章・岡本亨久・熊野知司 2015, p. 140.
  17. ^ a b c d e f 宮川豊章・岡本亨久・熊野知司 2015, p. 131.
  18. ^ a b 宮川豊章・岡本亨久・熊野知司 2015, p. 142.
  19. ^ a b 宮川豊章・岡本亨久・熊野知司 2015, p. 143.
  20. ^ a b 宮川豊章・岡本亨久・熊野知司 2015, p. 141.
  21. ^ 大阪製油所の精製停止へ JXTG、発電事業に転換”. 共同通信 (2019年7月23日). 2019年7月23日閲覧。
  22. ^ a b c d e f g h i j k l m 宮川豊章・岡本亨久・熊野知司 2015, p. 127.
  23. ^ a b c d e f 峯岸邦夫 2018, p. 106.
  24. ^ a b c d e 峯岸邦夫 2018, p. 105.
  25. ^ a b c d e 宮川豊章・岡本亨久・熊野知司 2015, p. 128.
  26. ^ a b c d e f g 宮川豊章・岡本亨久・熊野知司 2015, p. 129.
  27. ^ a b c d e f g h i j 宮川豊章・岡本亨久・熊野知司 2015, p. 130.
  28. ^ 小西誠一著 『石油のおはなし』 日本規格協会 第1版第1刷 ISBN 4-542-90229-3


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