高等教育への公的給付と奨学金
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/24 10:07 UTC 版)
「子どもの貧困」の記事における「高等教育への公的給付と奨学金」の解説
高校教育無償化前の数値ではあるが、2006年における日本の教育支出の公費負担割合は、諸外国に比べ低い。平成21年度文部科学省資料学部学生への経済的支援の欧米との比較では、大学・大学院の高等教育について「主要国では、奨学金(とりわけ給付型)が充実している(米英)、または授業料が無償または低廉(独仏)のいずれかの傾向にある」としている。一方、授業料が高く、学生支援が比較的整備されていない国として例に日本と韓国を掲げている。OECDによると、国立・私立の年間授業料は「データのあるOECD加盟国で最も高額な国の一つである。日本の高等教育機関に対する支出の約52%は、家計からの支出である。」とされる。なお、ここでは「日本の高等教育機関の学生は民間ローンより低利の公的貸与補助の恩恵を受けることができるが、卒業時に多額の債務を課すこれらの貸与補助を利用している学生は38%のみである。」とされており、後述の日本学生支援機構の統計とは異なる率となっている。 給与所得者の平均給与推移は平成9年以降、平均給給与は年々減少傾向にあるため、奨学金を必要とする家庭は増加している可能性がある。しかし学生が卒業して就職しても、非正規型雇用就労等のため、返済型の奨学金を返済できない者も増えているとされている。奨学金を利用することはもはや特別なことではなく、大学学部生では半数を超え、平成22年度現在で利用割合は52.5%となっている。貸付型奨学金に対し、最近は多くの大学が、各大学独自の給付奨学金制度を用意しているとも報道されている。また、地方に就職する大学生を対象とした奨学金も創設されている。奨学金の返還を肩代わりして人材確保につなげる動きが企業や自治体に広がっており、徳島県などが地元企業への就職を条件に肩代わりする制度を新設している。なお、就職した生涯賃金は、基本的には高卒より大卒の方が高いが、就職する企業規模によって、事情が大きく異なっており、大学・大学院卒で社員数10-99人の中小企業に就職した人は、2割ほども高卒者の方が高い、という逆転現象が起こっているため、必ずしも大学進学だけが有利な道とも言えない。日本学生支援機構の理事長は「貸与を受けている学生が多いところほど、延滞率も高かったりする。」「高専の延滞率がいちばん低いんです。まさに高専の学生たちは専門教育をしっかり受けている。」と問題提起し、また子供たちに、「奨学金さえ受けて、大学に行きさえすればなんとかなるんだ」といった甘い考えはやめて欲しいと提言している。 東京都足立区では、平成28年度からこれまでの足立区育英資金に加え、一定の条件を満たす者を対象に、貸付金額の半額を償還免除とする償還免除型育英資金貸付事業を開始する(年間、高校・大学各10名)。東京都世田谷区でも、平成28年度当初予算より「給付型奨学金の交付」を準備し、返済不要の給付型奨学金制度を新設し、年間、一月最大3万円×12か月で36万円の支援をする。世田谷区長は基金を区の一般会計から拠出したお金に、一般の区民や民間事業者からの寄付も重ねていって持続可能な体制を築いていきたいと語っている。企業が児童養護施設の子供を対象に返還不要の奨学金を支給することもある。法政大学では大学教授が個人で設立した給付型奨学金制度などもある。奨学金ではないが、国立青少年教育振興機構は、児童養護施設や母子生活支援施設に在所する、またはしていた高校3年生や大学生らを対象に、国立青少年教育施設で働きながら大学や専門学校に進学する、年間800時間の勤務で年間120万円が支給される「学生サポーター」制度を行っている。施設の運営業務などを担当する。国立大学への個人の寄付を促すため、政府は2016年度から税制を改正し、現行の所得控除に加え、税額控除制度を新たに導入すると報道されている。通信制高校代々木高校では、提携している企業やお店で働く代わりに、その会社が学費を負担してくれるシステムを採用している。 アメリカにおいては、連邦ペル給付奨学金は、1980年代後半までは、最高額は、公立4年制大学で学生生活費(学費と生活費の合計)の半分をカバーしていたが、現在では約3分の1をカバーするにすぎない。私立ではそれぞれ約2割と13%となっている。また、家計所得2万ドル以下の低所得層では約4割が受給しているが、5万ドル以上では5%が受給しているに過ぎない。このほか、連邦補助教育機会給付奨学金や連邦貸与奨学金もある。連邦奨学金は当初は給付奨学金が大きな割合を占めていたが、連邦と連邦以外のローンが大幅に増加したために、1990年代半ばに給付と貸与の比率は逆転した。このローンの増加は、連邦ローンだけでなく、民間ローンも大幅に拡大したことによるもので、この結果として、ローン負債の重さや返済が大きな問題となっている。ローンの返済のため、卒業しても家や家庭や車を持てない。さらに卒業できない場合、重い負債のため問題が重大であるという、ローン負担が問題となっている。また、ペル給付奨学金は大学へのアクセスのために創設されたものであり、修了のために設計されていない。このため、ペル給付奨学金が、大学等の修了に効果があるかが問われているという問題も生じている。消費者保護の観点からも連邦政府のローンは取り立てを厳しくしていない。これに対して民間金融機関のローン(private loan)の貸し出し市場では、取り立ては厳しい。なお、連邦ローンは破産しても免責(discharge)にならないという面もある。Selective Service System(選抜徴兵局/義務兵役サービス)は18歳-26歳までのアメリカ市民、永住権保持者、米国に不法滞在している全ての男児は、SSSに登録する義務があるが、登録しなかった場合、大学入学時などの奨学金(Pell Grants, College Work Study, Guaranteed Student/Plus Loans, and National Direct Student Loans.)を受けることができず、連邦政府関係への就職も許されない。アメリカでは学生によって学費が一律ではない。ペンシルバニア州の例では、私立研究大学だったピッツバーグ大学が財政難より州立化したときに、州交付金の助成を受けて財政健全化を図る代わりに、州内出身学生に対して低い学費の設定を行っている。アメリカでは、学生の家計状況や成績等に応じて連邦政府、州政府、大学等から給付奨学金、ローン、労働への対価であるワークスタディ等の奨学金が支給される。一方日本では、首都大学東京などの公立大学では、都民とそれ以外で入学金は半額になっており異なるが、学費は同一となっている。沖縄大学では、児童養護施設の利用者や里子ら社会的養護が必要な若年者を対象にした「沖縄大学児童福祉特別奨学生制度」がある。同大学の推薦入試に合格した若干名に対して、授業料を4年間全額免除している。また、沖縄大学同窓会は2015年、創立50周年記念事業の一環として児童養護施設出身者や里親家庭で育てられた里子を対象に、入学金相当額(12万5千円)を贈る奨学金制度を創設している。京都大学は2017年2月24日、民間企業からの寄附で学生を経済的に支援する企業寄附奨学金制度「CES」を創設したと発表した。 なお、文部科学省の平成24年度調査では、学生の中途退学や休学等の状況については、その理由に「経済的理由」が中途退学及び休学の最大の要因であり、平成19年度14.0% が平成24年度20.4%に上昇したと公表している。文部科学省による委託調査では「経済的理由による学生等の中途退学の状況に関する実態把握・分析等及び学生等に対する経済的支援の在り方に関する調査研究」がある。国立大学の授業料、私立大学の授業料平均額、消費者物価指数のそれぞれを、昭和50年時点を100とした場合、消費者物価指数はこの30年間で約2倍の伸びに留まるのに対して、平成20年現在では大学の授業料はこれを大きく上回り、国立大学で約15倍、私立大学で約4倍になっている。2010年度から高校授業料無償化・就学支援金支給制度から実施されている。また、2020年度から私立高校授業料実質無償化され、授業料・入学金の免除または減額と、返還を要しない給付型奨学金の大幅拡充により、大学、短期大学、高等専門学校、専門学校についても無償化が進む。
※この「高等教育への公的給付と奨学金」の解説は、「子どもの貧困」の解説の一部です。
「高等教育への公的給付と奨学金」を含む「子どもの貧困」の記事については、「子どもの貧困」の概要を参照ください。
- 高等教育への公的給付と奨学金のページへのリンク