大統領選挙とホワイトハウス表敬訪問
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/23 10:15 UTC 版)
「2016年のワールドシリーズ」の記事における「大統領選挙とホワイトハウス表敬訪問」の解説
「2016年アメリカ合衆国大統領選挙」も参照 ワールドシリーズが最終第7戦までもつれたときのシリーズと大統領選挙の勝者年ワールドシリーズ勝者大統領選挙当選者1924年 ワシントン・セネターズ (AL) カルビン・クーリッジ (共和党) 1940年 シンシナティ・レッズ (NL) フランクリン・ルーズベルト (民主党) 1952年 ニューヨーク・ヤンキース (AL) ドワイト・D・アイゼンハワー (共和党) 1956年 ニューヨーク・ヤンキース (AL) ドワイト・D・アイゼンハワー (共和党) 1960年 ピッツバーグ・パイレーツ (NL) ジョン・F・ケネディ (民主党) 1964年 セントルイス・カージナルス (NL) リンドン・ジョンソン (民主党) 1968年 デトロイト・タイガース (AL) リチャード・ニクソン (共和党) 1972年 オークランド・アスレチックス (AL) リチャード・ニクソン (共和党) 2016年 シカゴ・カブス (NL) ? (?) シリーズ最終戦から6日後の11月8日は、第58回アメリカ合衆国大統領選挙の投票日だった。現職のバラク・オバマ(民主党)は憲法の任期制限規定により出馬できず、与党・民主党からは元大統領夫人で前国務長官のヒラリー・クリントンが、野党・共和党からは不動産開発業者でタレントのドナルド・トランプが、それぞれ候補者となり選挙戦を繰り広げた。政治ジャーナリストのケン・ルーディンは、シリーズと選挙に関する一種の法則を指摘している。それによると、選挙の年にシリーズが最終第7戦までもつれ込んだ場合、アメリカンリーグの球団が優勝すると共和党候補が、逆にナショナルリーグ球団が優勝すると民主党候補が選挙で当選しているという。この法則に従えば、今シリーズはナショナルリーグのカブスが制したため、選挙ではクリントンが勝つことになる。実際、世論調査ではクリントンが上位という結果が多く、今回も法則通りになりそうな情勢だった。トランプは "ラストベルト" と呼ばれる地域で支持を集めていたものの、選挙期間中はポリティカル・コレクトネスを無視した暴言を連発していたため、支持者でもそのことを公言しづらい状況にあった。 カブスの地元イリノイ州は民主党支持者が多い "青い州" とされ、1992年にクリントンの夫ビルが勝ったときから民主党候補が6連勝中である。オバマとクリントンはともにシカゴ居住経験があり、今シリーズではカブスを応援していた。とはいうものの、オバマのほうは元来シカゴ・ホワイトソックスのファンであり、2008年には同市内のライバルであるカブスのファンを、球場では酒を飲むばかりで試合をろくに観もしない連中だとこき下ろしたこともある。2016年のポストシーズンでは、ホワイトソックスが出場していなかったこともあって、一時的にカブスのファンになっていた。これに対してクリントンは、幼少期からカブスのファンだった。ニューヨーク州選出の連邦議会上院議員時代にはニューヨーク・ヤンキースを応援していたこともあるが、その理由は「アメリカンリーグに贔屓球団を持とうにも、私の地元でホワイトソックスを応援するのは神への冒涜みたいなものだから」だという。またクリントンは、カブス応援ソング『ゴー、カブス、ゴー』の歌手スティーブ・グッドマンとメイン東高校で同級生だったという縁もある。シリーズ最終戦から一夜明けた11月3日、クリントンはノースカロライナ州での演説で「昨晩はとても特別な一夜でしたが、数日後にはもっとすごいことが起こるかもしれません。カブスが前回(1908年)優勝したとき、女性には大統領選挙の投票権すらなかった――女性たちは今回の選挙でその遅れを挽回しようとしているのです」と、カブスを引き合いに出しながら史上初の女性大統領誕生へ意欲を見せた。ただ、カブス球団オーナーのリケッツ家は、球団会長のトムをはじめ多くが共和党支持者である。一家の資金提供を受けた特別政治活動委員会(スーパーPAC)は、ナショナルリーグ優勝決定戦のテレビ中継でクリントンを中傷する内容のCMを流し、物議を醸した。 インディアンスの地元オハイオ州は両党支持勢力が拮抗する "スイング・ステート" として知られ、1964年以来この州を制した者がそのまま選挙でも当選している。共和党は同州を重視し、7月の党全国大会開催地をクリーブランドにしたほか、選挙戦でもトランプ本人だけでなく彼の娘イヴァンカや副大統領候補マイク・ペンスなど、大物の人物を民主党陣営よりも重点的に同州へ動員していた。ただシリーズに関しては、共和党陣営にインディアンス応援の動きは見られなかった。トランプはどちらのチームを応援するかシリーズ開幕後も表明していない。最終第7戦に対する関心の度合いも、クリントンとは対照的である。クリントンは遊説終了後にiPadで延長戦の模様を見守り、決着後にはカブスの勝利を祝う旗を広げて喜びをあらわにした。これに対してトランプは、移動中の自家用ジェット機内で党全国委員長ラインス・プリーバスから中継を観ないかと提案されたが拒否し、しかもその代わりにテレビ画面には自身の肖像写真を大写しにしたという。トランプ以外の陣営関係者でも、ペンスはカブスのファンであると公言している。また、世論調査ではクリントンが終始優勢だったことから、選挙対策委員長ケリーアン・コンウェイはTwitterで、一時は1勝3敗と崖っぷちに追い込まれたカブスの逆転優勝を暗に自陣営と重ね合わせるかのような投稿を行った。選挙直前に地元のスポーツチームが勝つと与党の得票が増える、という社会科学の研究報告もあり、共和党としてはインディアンスに負けてもらったほうが都合がよかったのかもしれない。インディアンス球団オーナーのラリー・ドーランもまた共和党支持者であるが、政治活動にはあまり積極的でない。2010年以降の政治献金額を比較すると、リケッツ家が3000万ドル以上を投入しているのに対し、ドーラン家は20万ドル未満にとどまっている。 コンウェイがほのめかしたようにトランプ当選の可能性は日増しに高まり、11月に入ると支持率がクリントンを超えた、などの報道も一部で出るようになった。しかし11月3日、各メディアのトップニュースは、大統領選挙ではなくカブス優勝だった。このことは、逆転の可能性が現実的なものとしてはとらえられていなかったことを意味する。こうした状況下で投票は8日に行われ、翌9日未明にかけて開票作業が進められた。その結果、イリノイ州ではクリントンが、オハイオ州ではトランプが、それぞれ勝利を収めた。そして合衆国全体では、単純な得票数ではクリントンのほうが多かったものの、選挙人獲得数ではトランプが上回ったため、トランプが当選した。この選挙結果、そしてトランプの大統領への適格性に対する懸念から、全米各地で反トランプの抗議デモが発生した。シカゴでも数千人がデモに参加し、トランプ・インターナショナル・ホテル・アンド・タワーの前で "Not my president!" (「こんな大統領は選んでない!」)と叫び声をあげた。またスポーツ界でも、アメリカンフットボールのNFLやバスケットボールのNBAではトランプ政権への不安を公言する選手が出てきたほか、複数のNBAチームがニューヨーク州ニューヨークやシカゴへの遠征時にトランプの名を冠したホテルの利用をとりやめることにするなど、トランプ当選の余波が広がった。こうしたなか、ワールドシリーズ優勝球団恒例のホワイトハウス表敬訪問をカブスはどうするのか、注目が集まった。カブスはオバマから招待を受けている。そのオバマの退任およびトランプの就任は翌年1月20日である。カブスがオバマを訪問するなら、日付はそれより前となる。しかしその時期だと、オバマは次期政権への引継作業を優先させなければならないし、カブスもオフで選手各々がプライベートの予定を抱えているため、どれだけ揃うかは不透明だった。 結局カブスは、オバマかトランプかの二者択一とはせず、1月にオバマを、6月にトランプを、それぞれ表敬訪問した。1度の優勝で表敬訪問を複数回行うのは異例である。まず1月16日、カブスは最初の訪問でオバマと面会した。ジェイク・アリエータやジョン・レスターら4選手が家庭の事情などで欠席する一方、FAで他球団への移籍を決めたデクスター・ファウラーやアロルディス・チャップマンらは出席した。オバマは演説のなかで「スポーツには我々をひとつにする力がある。たとえ国が分断されているときでも」と訴えた。編成本部長セオ・エプスタインは「これまでのあなたの(ホワイトソックスを応援してきたという)過ちに駆け込み恩赦を与えましょう」と笑わせ、オバマは「ホワイトソックスのファンのなかで、カブスを最も熱く応援していたのはこの私だ」と弁明した。続いてシーズン開幕後の6月28日、カブスはワシントンD.C.遠征を利用してトランプとも面会した。1月の訪問が球団の公式行事だったのに対し、今回の訪問は非公式扱いで選手の参加も任意とされた。そのため不参加を表明した選手は10名と1月の倍以上にのぼり、その理由も「試合への準備を優先したい」「もう1月に行ってるし」「恐竜博物館にでも行こうかな」など様々であった。トランプは面会中にも記者団に、前政権が導入した医療保険制度(オバマケア)の撤廃について「すごい、すごいサプライズがあるからな。すごいことになるぞ」と進展を示唆するなど、自身の政治的宣伝を忘れなかった。またトランプは、ダン・ギルバートをカブス一行と引き合わせた。ギルバートはNBAクリーブランド・キャバリアーズのオーナーで、この日は別件でホワイトハウスに来ていた。ただ、カブスにとってキャバリアーズは、ワールドシリーズの対戦相手インディアンスと同じ街を本拠地とする存在なだけに、この対面は気まずい空気に包まれたという。
※この「大統領選挙とホワイトハウス表敬訪問」の解説は、「2016年のワールドシリーズ」の解説の一部です。
「大統領選挙とホワイトハウス表敬訪問」を含む「2016年のワールドシリーズ」の記事については、「2016年のワールドシリーズ」の概要を参照ください。
- 大統領選挙とホワイトハウス表敬訪問のページへのリンク