力学系とは? わかりやすく解説

力学系

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/08/07 19:52 UTC 版)

力学系(りきがくけい、英語: dynamical system)とは、一定の規則に従って時間の経過とともに状態が変化するシステム)、あるいはそのシステムを記述するための数学的なモデルのことである。一般には状態の変化に影響を与える数個の要素を変数として取り出し、要素間の相互作用を微分方程式または差分方程式として記述することによってモデル化される。ゲーム理論など経済学に背景を持つ分野では動学系(どうがくけい)とも呼ばれる[1][2]

力学系では、システムの状態を実数集合によって定義している。各々の状態の違いは、その状態を代表する変数の差のみによって表現される。システムの状態の変化は関数によって与えられ、現在の状態から将来の状態を一意に決定することができる。この関数は、状態の発展規則と呼ばれる。

力学系の例としては、振り子の振動や自然界に存在する生物の個体数の変動、惑星の軌道などが挙げられるが、この世界の現象すべてを力学系と見なすこともできる。システムの振る舞いは、対象とする現象や記述のレベルによって多種多様である。

力学系の具体例

概要

力学系の考え方は、ニュートン力学に端を発する。力学系では、他の自然科学工学の分野と同様に、状態の変化に影響を与える数個の要素を変数として取り出し、要素間の相互作用を記述することによってモデル化される。そして現在の直後の状態を、微分方程式または差分方程式を用いて与えている。将来のある時点における状態は、現在の直後の状態を求める計算を複数回繰り返すことによって求めることができる。そのため力学系では、現在の状態を与えることで、将来のすべての状態を決定することができる。

しかしながら、解析的に求められる力学系はごく一部だけであり、さらに力学系を解くためには高度な数学が必要とされる。そのため、コンピュータの登場以前では、ごく単純なシステムのみが研究の対象として扱われた。

単純な力学系ならば、その振る舞いも容易に理解することができる。しかしながら複雑なシステムになると、その挙動も複雑さを増し、詳しく解析しなければ将来の状態を予想することができなくなる。

よく知られたシステムであっても、その挙動に影響を与える変数をすべて記述できているとは限らない。また、求められた数値解がシステムの近似解として本当に適切かどうかについても検証しなければならない。これらの問題を解決するため、力学系の研究ではリアプノフ安定構造安定など、「安定性」の概念が用いられている。安定性の概念を用いることにより、たとえモデルが同じであっても、初期条件の違いによってシステムの挙動に大きな違いが出る理由を容易に説明することができる。

システムの挙動は初期条件によって異なるため、ある 1 つの初期条件の下での挙動を調べることに大きな意味はない。ある条件では周期的な振る舞いをするかもしれないし、ある状態に落ち着くかもしれない。どのような条件でどのような挙動を呈するかが重要である。力学系では、システムの挙動の種類を数学的に分類している。起こりうる挙動の種類が完全に知られている力学系の例としては、状態を 2 変数で記述できるシステムや、線形力学系などがある。

システムの状態に影響を与える変数が多様な場合、ある変数の値が臨界値と呼ばれるある一定の値を超えると、システムの挙動が大きく変化する分岐現象が起こる。分岐現象の例としては、割り箸の両端にある一定以上の力を加えると折れる現象、道路を通過する自動車の台数がある一定の台数を超えると渋滞が発生する現象、鉛をある一定以上の温度に加熱すると溶融する現象などが挙げられる。

力学系の理論はアンリ・ポアンカレの研究によって飛躍的に発展し、力学系の概念は統計力学カオス理論の基礎の構築に対して大きな影響を与えた。

基本定義

一般に力学系とは、以下の条件を満たす、時間 T位相空間である多様体 M、写像 f によるタプルである。

出典は列挙するだけでなく、脚注などを用いてどの記述の情報源であるかを明記してください。 記事の信頼性向上にご協力をお願いいたします。2023年12月

和書

  • 力学系カオス, 松葉育雄 森北出版 2011-06
  • Kathleen T. Alligood, Tim Sauer, James A. Yorke,津田 一郎 訳 :カオス 第1巻 – 力学系入門,カオス 第2巻 – 力学系入門,カオス 第3巻 – 力学系入門 (原書:Chaos: An Introduction to Dynamical Systems)
  • Hirsch・Smale・Devaney 力学系入門―微分方程式からカオスまで― 原著第3版 Morris W. Hirsch・Stephen Smale・Robert L. Devaney 著・桐木紳・三波篤郎・谷川清隆・辻井正人 訳 (2017) 共立出版
  • 力学系入門 (復刊)、齋藤利弥 著 (2004) 朝倉書店
  • 村井信行:「拘束系の力学」、日本評論社、ISBN 978-4-535-78249-5 (1998年6月10日).

洋書

外部リンク


力学系

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/05/06 07:52 UTC 版)

区間演算」の記事における「力学系」の解説

ウォリック・タッカー区間演算活用して14番目のスメイルの問題解決した

※この「力学系」の解説は、「区間演算」の解説の一部です。
「力学系」を含む「区間演算」の記事については、「区間演算」の概要を参照ください。

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力学系

出典:『Wiktionary』 (2021/08/21 14:07 UTC 版)

名詞

力学りきがくけい)

  1. 物理学ニュートン力学量子力学流体力学熱力学などの力学概念あるいは理論捉えられる一つ
  2. 数学数理科学状態時間発展記述する空間上の一つの状態を与え状態空間あるいは相空間独立変数としての時間微分方程式漸化式などの形で与えられる状態の時間発展記述する規則、これら3つから成るのこと。または、そのような系を扱う分野

翻訳

語義1

語義2


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