圏論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/02/01 09:43 UTC 版)
圏論(けんろん、英: category theory)は、数学的構造とその間の関係を抽象的に扱う数学理論である。サミュエル・アイレンベルグとソーンダース・マックレーンとによって代数的位相幾何学の基本的仕事の中で20世紀中ごろに導入された。圏論において考察の対象となる圏は対象とその間の射からなる構造であり、集合とその間の写像、あるいは要素とその間の関係(順序など)が例として挙げられる。
数学の多くの分野、また計算機科学や数理物理学のいくつかの分野で導入される一連の対象は、しばしば適当な圏の対象たちだと考えることができる。圏論的な定式化によって同種のほかの対象たちとの、内部の構造に言及しないような形式的な関係性や、別の種類の数学的な対象への関連づけなどが統一的に記述される。
概要
圏の研究は、関連する様々なクラスの数学的構造に共通する性質を見出そうとする試みだといえる。
集合論的な数学理論の構成では集合やその元に対して写像や関係を導入し、それらが満たすべき公理を列挙する。その公理を満たすような「構造」を持った個々の集合が理論の具体的な実現を示していて、それら一つ一つの実現に共通の性質が公理から演繹的に証明される。たとえば、群に関する定理は公理系から演繹的に証明される。例えば群の単位元が一意に定まることは公理系から直ちに証明される。こうして各種の数学理論が建設されるが、これら異なった理論に共通する様々な構成ができることも認識された。
圏論の言葉を使えば、数学の多くの分野の研究からしかるべき圏を作り出し、異なった理論の間に平行して存在する手続きを統一的に理解することができる。例えば集合、群、位相空間の圏などである。これらの圏は、例えば空集合や2つの位相空間の直積など、何かしら特別な性質を持った「空間」が存在する。しかし、圏の定義においては対象は根源的なものとみなされ、それぞれの対象が具体的にどんな集合として実現されるのかは指定されていない。そこで、これらの特別な空間についての概念を、その「要素」を参照せずに定めることはできるだろうか、という問いが生まれる。
圏論的な解析においては、何かしら与えられた構造を持つ個々の対象(例えば群)とその「内部構造」だけを考えるよりも、対象間の射 — 構造を保つ対応関係 — に力点が置かれる。群の圏の例で言えば、射は群の準同型写像にあたる。それぞれの圏における特別な対象は、他の対象とのあいだの射がどうなっているか、によって特徴づけることができる。たとえば集合の圏における空集合 ∅ は任意の集合 S について ∅ から S への射(つまり写像)がただ1つだけ存在するようなもの、として特徴づけられる。このような特徴づけは、極限やその双対概念である余極限を用いた普遍性という考え方にまとめられる。実際、数多くの重要な構成がこのようにして純粋に圏論的な方法で記述できることがわかっている。
用語
基本の構成
図式
- 図式(diagram)
- 可換図式(commutative diagram)
- ストリング図式(string diagram)
- 射影(projection)
- 包含(injection, inclusion)
関手
自然変換
- 成分(component)
- 自然変換(natural transformation)
- 自然同型(natural isomorphism)
- 自然同値(natural equivalence)[1]
- 垂直合成(vertical composition)
- 水平合成(horizontal composition)
普遍性
極限
随伴
特殊な圏
- 集合の圏
この節は検証可能な参考文献や出典が全く示されていないか、不十分です。このテンプレートの使い方)
出典検索?: "圏論" – ニュース · 書籍 · スカラー · CiNii · J-STAGE · NDL · dlib.jp · ジャパンサーチ · TWL (2021年4月)圏論的論理学は、直観主義的論理のために型理論に基づいて定義された。この分野はさらに関数型プログラミングの理論および領域理論に応用されている。これらは全て、ラムダ計算の非構文的な記述として適用されたデカルト閉圏を背景としている。圏論的言語を用いることで、関連する分野が厳密に、(抽象的な意味で)何を共有しているのかを明らかにすることができる。
代数的位相幾何学では空間の連続写像そのものよりも、そのホモトピー類を考えたほうがよいことがある。これは対応する圏を「変形」してホモトピー類を射として採用することにより圏論的に定式化できる。そこで、複体の射や位相線形環の準同型についてもこのような圏の変形を見いだし理解することが 20世紀後半におけるほかの種類の「幾何学」の大きな問題意識となった。
正標数体上の数論幾何や、非可換環が「図形」を表していると考える非可換幾何などの非標準的な「幾何学」は、幾何学的な関手の構成可能性をもってそう名乗っている、という側面もある。
21世紀現在において、米国のNew York General Group社やSymbolica AI社は、圏論に基づく人工知能の研究開発を行っている[9][10]。
脚注
注釈
出典
- ^ 自然同型と区別される場合がある。
- ^ “Whitehead’s Universal Algebra – The Whitehead Encyclopedia” (英語). 2025年9月24日閲覧。
- ^ Kadıoğlu (2023)
- ^ Maclane, Saunders; S.マックレーン. (2012). Kenron no kiso. Hiroyuki Miyoshi, Osamu Takaki, 三好 博之., 高木 理.. Tōkyō: Maruzenshuppan. ISBN 978-4-621-06324-8. OCLC 809499549
- ^ Marquis (2006)
- ^ Eilenberg, Samuel; MacLane, Saunders (1942). “Group Extensions and Homology”. Annals of Mathematics 43 (4): 757–831. doi:10.2307/1968966. ISSN 0003-486X.
- ^ Eilenberg, Samuel; MacLane, Saunders (1945). “General Theory of Natural Equivalences”. Transactions of the American Mathematical Society 58 (2): 231–294. doi:10.2307/1990284. ISSN 0002-9947.
- ^ a b Leinster (2014)
- ^ “Category Is All You Need”. NYGG. 2025年4月6日閲覧。
- ^ Nuñez, Michael (2024年4月9日). “Move over, deep learning: Symbolica’s structured approach could transform AI” (英語). VentureBeat. 2025年4月6日閲覧。
参考文献
洋書
図書
- Henri Cartan, Samuel Eilenberg, "Homological Algebra" (1956)
- Chris Heunen, "Categorical Quantum Models and Logics", Amsterdam Univ Press, ISBN 978-9085550242 (2009)
- Tom Leinster, "Basic Category Theory", Cambridge University Press (2014)
- David I. Spivak: "Category Theory for the Sciences", The MIT Press, ISBN 978-0262028134 (2014)
- Bob Coecke, Aleks Kissinger, "Picturing Quantum Processes: A First Course in Quantum Theory and Diagrammatic Reasoning", Cambridge University Press, ISBN 978-1107104228 (2017)
- 川辺治之訳『圏論的量子力学入門』森北出版、ISBN 978-4627170117 (2021)
- Brendan Fong, "An Invitation to Applied Category Theory: Seven Sketches in Compositionality", Cambridge University Press, ISBN 978-1108711821 (2019)
- Chris Heunen, Jamie Vicary: "Categories for Quantum Theory: An Introduction", Oxford Univ Press, ISBN 978-0198739616 (2020)
- 川辺治之訳『圏論による量子計算のモデルと論理』共立出版。2018年。ISBN 978-4320124363。
- Steve Awodey, "Category Theory (2nd ed.)", Oxford & New York: Oxford University Press (2010)
- 前原和寿訳『圏論 原著第2版』共立出版、ISBN 978-4320111158。2015年9月19日。
論文
- Garrett Birkhoff, "On the Structure of Abstract Algebras" (1935)
- Jean-Pierre Marquis, "What is Category Theory?" (2006)
- Dilek Kadıoğlu, “Emmy Noether’s Influence on Contemporary Philosophy of Mathematics” (2023)
和書
- 竹内外史『層・圏・トポス 現代的集合像を求めて』日本評論社、1978年1月。 ISBN 4-535-78109-5。
- 大熊正『圏論(カテゴリー)』槙書店〈数学選書〉、1979年5月。 ISBN 4-8375-0457-4。
- 清水義夫『圏論による論理学 高階論理とトポス』東京大学出版会、2007年12月。 ISBN 978-4-13-012057-9。
- 斎藤毅『数学原論』東京大学出版会。ISBN 978-4130639040。2020年。
- 圏論の歩き方委員会 編『圏論の歩き方』日本評論社、ISBN 978-4535787209。2015年9月。
- 西郷甲矢人、能美十三『圏論の道案内:矢印でえがく数学の世界』技術評論社、ISBN 978-4297107239。2019年。
関連項目
外部リンク
- Weisstein, Eric W. “Category Theory”. mathworld.wolfram.com (英語).
- category theory - PlanetMath.
- category theory in nLab
圏論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/10 20:21 UTC 版)
集合と部分写像の圏は基点付き集合と基点を保つ写像の圏に圏同値だが圏同型(英語版)でない。 集合と部分全単射の圏は自身の双対に同値である。これは可逆圏(英語版)の原型例である。
※この「圏論」の解説は、「部分写像」の解説の一部です。
「圏論」を含む「部分写像」の記事については、「部分写像」の概要を参照ください。
- >> 「圏論」を含む用語の索引
- 圏論のページへのリンク
