平衡点
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/05/24 03:17 UTC 版)
微分方程式における平衡点(へいこうてん)とは、独立変数に依らず一定の値となる常微分方程式の解である。同じものは不動点、固定点、臨界点、休止点、特異点、停留点、静止点、危点、平衡解、定常解、定数解、静止解などの名でも呼ばれる[2]。英語では equilibrium point, fixed point, stationary solution, critical point, rest point などと呼ばれる[3]。力学系的視点では、平衡点とは時間が変化しても動かない相空間上の点を意味する。
平衡点は、微分方程式の解を理解する上で重要で、平衡点を調べることは、微分方程式の解の定性的な振る舞いを知りたいときの最初の手段である。問題の微分方程式が非線形系の場合、解析的な解が得られることはまれだが、非線形系であっても平衡点を求めることなら可能である。
数式では、微分方程式 dx/dt = f(x) において f(xe) = 0 を満たす xe が平衡点である。線形系あるいは線形近似された系の平衡点は、係数行列の固有値によって、平衡点近傍の解軌道が近づくか離れるかといった安定性の問題を判別できる。ハートマン・グロブマンの定理により、平衡点が双曲型平衡点であれば、非線形系の平衡点近傍の振る舞いと線形近似した系の平衡点近傍の振る舞いが、定性的に同じであることが保証されている。
定義と一般的性質
微分方程式の独立変数を t ∈ R とし、従属変数を x ∈ Rn とする。このとき、dx/dt が次のような t を陽に含まない自励的な常微分方程式で与えられているとする[4]。
f(xe) = 0 が代数的に解けるときは、平衡点 xe を式で書き表すことができる[16]。例えば、
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平衡点 xe の十分近くの初期値を取る解が、全ての時刻 t において xe の近くに留まり続けるようなとき、その平衡点をリアプノフ安定であるという[25]。厳密に言うと、平衡点 xe がリアプノフ安定であるとは、 任意の定数 ε が与えられたときにある定数 δ が存在し、 ‖ x(0) − xe ‖ < δ を満たすような任意の解 x(t) ≠ xe が、全ての t で ‖ x(t) − xe ‖ < ε を満たすことをいう[26]。ここで、 ‖ · ‖ は相空間に定義されたノルムを表す。リアプノフ安定であるとき、単に安定であるともいう[27]。
一方、リアプノフ安定とは別の安定性の概念もある[26]。平衡点の近くにある初期点を取る解がその平衡点へ収束するとき、そのような平衡点を吸引的であるという[28]。厳密な定義では、平衡点 xe に対してある定数 δ が存在し、 ‖ x(0) − xe ‖ < δ を満たすような任意の解 x(t) ≠ xe が、t → ∞ のときにx(t) → xe を満たすことを吸引的という[26]。吸引的な平衡点は沈点とも呼ばれる[29]。
さらに、平衡点がリアプノフ安定なおかつ吸引的であるとき、漸近安定であるという[30]。誤解や混乱を生まないようであれば、漸近安定な平衡点を単に「安定な平衡点」と呼ぶこともある[31]。平衡点がリアプノフ安定であるが吸引的ではないときは、とくに中立安定な平衡点という[32]。
平衡点がリアプノフ安定ではないとき、あるいは平衡点がリアプノフ安定でも吸引的でもないとき、不安定であるという[33]。吸引的とは逆に、平衡点近傍の全ての初期値の解が時間経過に従って平衡点から離れるとき、そのような平衡点を反発的であるという[34]。反発的な平衡点は源点とも呼ばれる[29]。
線形系
問題が次のような定数係数の線形微分方程式であれば、全ての解を厳密に解くことができる[35]。
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結節点(安定結節点)
- 結節点、あるいはノード(英語: node)
- λ1 と λ2 が同符号の実数である(λ1, λ2 < 0 または λ1, λ2 > 0)場合の平衡点[44]。平衡点が結節点のとき、平衡点の周囲の解軌道は、平衡点に向かって回転せずに単調に近づいていくか離れていくかのいずれかである[45]。λ1 と λ2 の符号が負であれば解軌道は平衡点へ近づいていき、結節点は漸近安定な沈点でもある[46]。この場合は安定結節点や安定ノードと呼ばれる[47]。λ1 と λ2 の符号が正であれば解軌道は平衡点から離れていき、結節点は不安定な源点でもある[46]。この場合は不安定結節点や不安定ノードと呼ばれる[47]。とくに、λ1 = λ2 かつ b = c = 0 であるときは、結節点の周囲の解軌道は結節点を通る放射状の直線群となり、スターノードなどと呼ばれる[48]
- 鞍状点、鞍点、あるいはサドル(英語: saddle)
- λ1 と λ2 が互いに異符号の実数である(λ1 > 0, λ2 < 0 または λ1 < 0, λ2 > 0)場合の平衡点[49]。平衡点が鞍状点のとき、周囲の解軌道には平衡点に向かって近づいていく方向と離れていく方向が同居している[46]。鞍状点の場合、4本の半直線の解軌道が平衡点へ到達する[50]。2本は t → ∞ で鞍状点へ収束し、もう2本は t → −∞ で鞍状点へ収束する[51]。
- 渦状点、スパイラル(英語: spiral)、焦点、あるいはフォーカス(英語: focus)
- λ1 と λ2 が互いに共役な実部非零の複素数である(λ1 = α + βi, λ2 = α − βi かつ α ≠ 0)場合の平衡点[52]。平衡点が鞍状点のとき、周囲の解軌道は対数螺旋群となり、平衡点へ回転しながら近づいていくか離れていくかのいずれかである[53]。固有値実部 (α) の符号が負であれば解軌道は平衡点へ近づいていき、渦状点は漸近安定な沈点でもある[54]。この場合は渦状沈点、安定スパイラル、安定焦点と呼ばれる[55]。固有値実部 (α) の符号が正であれば解軌道は平衡点から離れていき、渦状点は不安定な源点でもある[54]。この場合は渦状源点、不安定スパイラル、不安定焦点と呼ばれる[55]。
- 渦心点、あるいはセンター(英語: center)
- λ1 と λ2 が互いに共役な純虚数である(λ1 = βi, λ2 = −βi)場合の平衡点[56]。平衡点が渦心点のとき、周囲の解軌道は平衡点を中心とする円(閉曲線)群である[57]。周囲の解軌道は吸引されることも反発することもなく、渦心点は中立安定な平衡点である[58]。
また、A の行列式を q = det A とし、A のトレースを p = tr A とする。これらは
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ウィキメディア・コモンズには、平衡点に関連するカテゴリがあります。
- Eugene M. Izhikevich (ed.). "Equilibrium". Scholarpedia.
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平衡点 (equilibrium)
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「線形システム論」の記事における「平衡点 (equilibrium)」の解説
全ての入力を零としたときに、状態が変化しないような点。線形システムにおいては、原点または原点を含む線形空間である。
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