オーディオ・楽器用アンプ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/11 03:24 UTC 版)
オーディオマニアの機器や、歪みも音作りの一部として取り入れる楽器用アンプでは、今日でも比較的多く真空管が使用される。オーディオ用真空管は、電蓄(電気式蓄音機)の需要により、1927年に開発された出力管UX-250(´50)に端を発する(ギター・アンプ用真空管も参照)。 真空管を用いたアンプの音を「よい」と感じる原因には諸説ある。その中でかつて最も有力だった説は、真空管が倍音(高調波歪み)の奇数倍の周波数である「奇数次高調波歪み」を低減するという主張である。その主張によると、奇数次高調波歪みが減った結果、相対的に偶数倍の周波数の「偶数次高調波歪み」が増える。偶数次高調波歪みは楽器や自然界の音に多く含まれる周波数で、その偶数次高調波歪みが多いと、音は人の耳には自然に、あるいは生々しく聞こえる。一方、奇数次高調波歪みは人の耳には不快または金属的に聞こえる周波数で、トランジスタアンプの音にはその奇数倍周波数が真空管アンプの音よりも多く含まれている。そのため「真空管アンプはよい音を出す」、というのが愛好家の弁である。ただし、現在[いつ?]のトランジスタアンプやデジタルアンプは歪率の絶対値自体が真空管アンプよりも遥かに小さく、また真空管アンプでもプッシュプル回路とすれば奇数次歪みの方が優勢となるため「真空管式プッシュプルアンプはよい音を出す」ことの説明にはなり得ない。そもそも音の好みは十人十色であり、それは真空管アンプの音に関しても例外ではなく、トランジスタアンプやデジタルアンプの愛好家からは逆に悪い音との評価を受けることも珍しくない。 一般的なアンプの特性評価項目である、矩形波応答特性や歪率、周波数応答特性などで、明らかにトランジスタアンプやデジタルアンプのほうが優れている場合でも、聴き比べると「よい」と感じる愛好家も多い。このようにヒトの持つ聴覚特性と個人の嗜好に拠るところの大きいオーディオ・アンプは、21世紀においてもオーディオ用真空管を用いるほうがトランジスタを用いるよりも簡単な構造で「好みの音」を得られる場合があり、自作オーディオマニアが真空管アンプを自作する例もよく見られる。これらのオーディオ用真空管は、中国や東欧諸国などで2013年現在も製造が続けられているほか、2010年に日本の高槻電器工業が35年ぶりにTA-300B、TA-274Bとして生産が行われており、2015年に日本のコルグとノリタケ伊勢電子が共同開発試作した蛍光表示管技術に基づく新型真空管「Nutube」が発表された。 数段の比較的簡単な構成の増幅回路でも、オーディオ用真空管を用いると、特に直線増幅範囲を超える入力(過大入力)に対し、個性的な歪出力を得られることから、特にギターアンプでは、セミプロ~プロ用の多くの機種が今[いつ?]でも真空管方式を採用している。このため21世紀でも量産を続けているロシア(リフレクターJSCやスベトラーナJSC)、スロヴァキア(JJ-エレクトロニック社)、中国(曙光電子社)などの生産数は増加傾向にある。 これらのオーディオ用真空管の一部には、その型番は同じでもオリジナルのものよりも最大定格(特にプレート損失、プレート電圧など)が改良された製品が供給されている。しかし、例えば長期信頼性や残留ノイズなどの面ではほとんど改善されておらず、むしろオリジナルのものより劣っているものも散見される。オーディオ用真空管は、その全盛期には家庭用オーディオセットから、通信・放送機器用をはじめ軍事・医療用といった高い信頼性を求められる分野まで汎用されていたが、21世紀においては趣味、嗜好品としての用途が大半である。 工業製品である以上真空管は同じ型番であっても特性のばらつきがあるが、半導体製造ほど大きな製品偏差幅ではないため、トランジスタのように製造後に増幅特性によって区分けし出荷するようなランク付けはなされない。したがって使用機器側、すなわち機器設計の段階において、そのばらつきを考慮して回路に余裕を持たせ、必要な調整箇所を設けるのが普通である。全盛時代には、信頼性(寿命・耐震性など)や残留ノイズ・ヒータの立ち上がり時間の規定などによって、同じ型番の真空管でも枝番を付けたり用途記載して販売が行われていた(例えば「通信用」はロット管理やライン管理で信頼性を向上させたもの、「Hi-Fi(ハイファイ)」は主にローノイズ管であった)。また真空管は使用に伴って、ヒーターは白熱電球と同じく消耗、カソードのエミッション(電子放出量)特性は徐々に減少、管内の真空度は低下、電極封止部の絶縁は低下するというように特性が変化(劣化)するため、多くの真空管が実用に供されていた頃、業務用途ではチューブ・テスター(チューブ・チェッカー、真空管試験機)と呼ばれる専用の測定器を備え付けて、定期的にその特性(消耗度)を確認しながら用いていた。2013年現在でも同じ型番の真空管で、製造社の違いなどによってその良し悪しを言われることがあるが、これは製造社や供給社の選別基準(個体差をどこまで許すか)のほか、もともとの真空管の使用材料などに起因する特性変化の程度や寿命の長短を指しての評価も含まれている。 真空管の製造工場では、全数特性検査を行い合格品のみを出荷している。しかし21世紀以降のオーディオ用真空管は高級志向となり、その合格品を更にセットメーカーや商社が特性検査で選別したものを販売している場合も少なくない(特にギターアンプ用真空管で顕著)。これらの供給社はアメリカを中心に多数存在しており、代表的なのはグルーブ・チューブズ社やルビー社などである。これらの供給社独自の規格に基づき再検査(選別)がなされ、合格品はその供給社のブランドで主に楽器店で販売されている(インターネットなどでの通信販売も行われている)。一般に供給社の規格は非常に厳しく設定されており、選別漏れした製品についても十分実用となるため(もともと製造工場での合格品であるから当然である)、秋葉原の他の店などで販売されていることがある。しかし選別漏れしたオーディオ用真空管と合格品と比べると、微妙な音質の違いが聴感上でも感じられることもある。 プッシュプル増幅回路では、特性が概ね揃っているものを2個用いるのが望ましく、製造工場・商社・販売店のいずれかで特性が近いものを選別して2個1セットとして販売されている。これをペア・チューブ(ペア・トロン)などと呼ぶ。 真空管は強い振動、衝撃により、内部電極の位置が変わり、特性が変わってしまうことがある。特に旧型の真空管や精密な内部構造を持つものなどの場合、内部で電極やヒーターがタッチして使えなくなることもある。例えば大型の送信管、光電子増倍管などはその輸送時の梱包は特に厳重にされる。 輸送中のみでなく、一般的にその通電使用中はさらに振動・衝撃に弱い。 また、一般的に小型のガラス製オーディオ用真空管は電球と同じく、鉛ガラスまたは石灰ガラスによって作られているものが多く、また概ね1950年代を境にしてガラス管のつくり(特にガラスの厚さ)の管理と検査が徹底されるようになったことから、今日[いつ?]のオーディオ用真空管ではまず心配はないが、これ以前[いつ?]に製造された古い真空管を使用する場合、ガラスの厚みにばらつきのあるものがあり、素手でガラス面を触るなどして油脂汚れを付着させた状態で使用すると、割れることがある(参考文献:日本放送協会編 ラジオ技術教科書(1946~1947年)、電気学会編 電気材料(1960年))。 真空管の特性が安定するまでには、ある程度の使用が必要なので、直流増幅器などの精密な調整の必要な回路に新品の真空管を使用する場合では、しばらく使用して特性が安定した後、使用者側で回路の再調整を行う必要がある。真空管の特性を安定させるために真空管を一定の条件で使用状態に置くことを「エージング」という。ほぼ全ての真空管はその工場出荷時に規定のエージングを完了させ、すぐにその性能がほぼ発揮できるようにしてあるが、精密、繊細な性能を要求するものについては、加えて使用者の機器に実装して短時間のエージングを行い、特性が安定した後、回路の微調整を行う。ただし通常の真空管アンプにおいてこれを要求するものは少ない。
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