SPRINT-Aとは? わかりやすく解説

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スプリント‐エー【SPRINT-A】

読み方:すぷりんとえー

⇒ひさき


ひさき

(SPRINT-A から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/03/13 16:16 UTC 版)

惑星分光観測衛星
「ひさき(SPRINT-A)」
展示模型
所属 東京大学東北大学JAXAなど
主製造業者 日本電気
公式ページ 惑星分光観測衛星(SPRINT-A)
国際標識番号 2013-049A
カタログ番号 39253
状態 運用終了
目的 太陽系内の惑星観測
観測対象 水星金星火星木星土星、およびその衛星
計画の期間 1年以上(運用予定期間)
設計寿命 1年
打上げ場所 内之浦宇宙空間観測所
打上げ機 イプシロンロケット試験機
打上げ日時 2013年9月14日 14:00
停波日 2023年12月8日
物理的特長
衛星バス NEXTAR
本体寸法 1 m x 1 m x 4 m
質量 335 kg
発生電力 900 W
姿勢制御方式 3軸制御
軌道要素
周回対象 地球
軌道 楕円軌道
近点高度 (hp) 950 km
遠点高度 (ha) 1,150 km
軌道傾斜角 (i) 31度
搭載機器
EUVスペクトロメータ 極端紫外線分光計
視野ガイドカメラ 姿勢制御誤差補正信号用カメラ
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ひさきSPRINT-ASpectroscopic Planet Observatory for Recognition of Interaction of Atmosphere[1])は、2013年から2023年まで運用された宇宙航空研究開発機構 (JAXA)の惑星分光観測衛星。太陽系の惑星専用の宇宙望遠鏡人工衛星)としては世界初極端紫外線で惑星磁気圏内のプラズマなどを観測する。

宇宙科学研究所(ISAS)の小型科学衛星 (SPRINT) シリーズの1号機。イプシロンロケットで打ち上げられた。開発・製造のとりまとめは日本電気、ミッション部は住友重機械工業[2]が担当した。

概要

太陽系内の他の惑星水星金星火星木星土星)とその衛星大気プラズマに起こる宇宙空間への大気の流出、磁気圏の変遷等を極端紫外線領域で継続的に観測する。極端紫外線は地球大気によって吸収され地表面まで到達しない光(電磁波)であるため、地上に設置された望遠鏡では基本的に観測が難しい(電波の窓も参照)。

同時期にはNASAハッブル宇宙望遠鏡など、より高性能な宇宙望遠鏡が運用されているが、これらは太陽系外の恒星などさまざまな天体観測に用いられるため、太陽系惑星の時間的変化を継続的に観測することができない。また、特定の惑星近傍に探査機を送り込めば非常に高精度なデータが得られるものの、費用は高額になると同時に複数の惑星を並行して観測することはできない。ひさきでは、観測対象を太陽系惑星の大気・磁気圏の特性調査に限定して写真的な画像ではなく分光スペクトルの観測としたことで、ハッブル宇宙望遠鏡のように高性能で汎用的な観測に使用できるセンサを搭載せず、観測目的に特化して小型で安価な宇宙望遠鏡を実現した。

主な観測対象

  • 木星のオーロラ・衛星イオの大気
  • 水星の大気(地表付近・外気圏、磁気圏)
  • 金星や火星の大気の、宇宙空間への流れ出し
  • 他、金星や土星のオーロラなど

名称

打ち上げ成功後、SPRINT-Aの愛称としてひさき(太陽(ひ)の先(さき)、内之浦のある津代半島の先端の地名の火崎に由来)と命名した[3]

プロジェクト化以前はTOPSTelescope Observatory for Planets on Small-satellite)の名称で紫外線から近赤外まで(121 - 1,100nm)の可視光を中心に観測するミッションとして東京大学東北大学が中心となって提案されていた[4][5]が、小型科学衛星シリーズSPRINTのプロジェクトとして採択[6]された後に衛星名はSPRINT-Aに、観測ミッションはEXCEED計画[7]と呼ばれるようになった。

歴史

  • 2009年1月 - 小型科学衛星プロジェクト移行[8]
  • 2012年10月 - 惑星分光観測衛星プロジェクト発足[8]
  • 2013年
    • 9月14日14:00 - 打ち上げ。61分39秒後に軌道投入された[9]。8月22日の打上げ予定はロケットの地上設備の配線誤りの修正のため延期[10]、8月27日は打上げ19秒前に姿勢監視開始と同時にロール姿勢異常を検知して打上げシーケンスを自動停止し延期[11]していた。
    • 11月19日 - 極端紫外線分光装置(EUV)の機能が正常であることを確認[12]
  • 2023年12月8日 - スタートラッカの経年劣化により観測のための姿勢制御が困難となったことから停波され、運用が終了された[13][14]
  • 2024年5月 - プロジェクト解散[8]

衛星諸元

ひさきミッション部の模型

衛星のサイズは1m × 1m × 4m(展開後:1m × 約7m × 4m)、重さは 335kg 。高度約 950 × 1,150kmの地球周回楕円軌道上から観測を行う。観測対象を紫外線領域を中心とした理由としては、これまでの惑星探査機の観測結果によれば、対象となる惑星の下層大気を観測するにあたり、UV領域における反射が観測できるという点である(マリナー探査機による金星探査などによる)。このことによって、金星などの惑星における大気運動観測や大気成分分析が精密に行えることになる。

開発費は数十億円程度の見込みで、研究段階においては無人宇宙実験システム研究開発機構(USEF)の小型地球観測衛星ASNAROシリーズと共同で研究が行われており、この結果、両シリーズ共にNEC製の標準衛星バスNEXTAR」が採用されている。

運用条件 (概要)
衛星寿命 1年以上
軌道・姿勢 低軌道・三軸制御
指向精度 ±1.5分角(STTのみ)/±5秒角(スリットカメラ併用)
姿勢安定度 ±5秒角/120秒
内惑星観測条件 太陽からの角度が±10度以上時

EXCEED

極端紫外線分光器EXCEED(Extreme Ultraviolet Spectroscope for Exospheric Dynamics[15])のバッフル部から入射した光はミッション部底面にある反射鏡で5.4°軸をずらして反射し、焦点でスリットを通過して、バッフルの隣の箱状の分光計装置天面の回折格子で反射・分光され、検出器(MCP、Micro Channel Plate)で輝線スペクトルが観測される[2]。光学系全体での総合効率は1%[16]から2%[17](有効面積で1cm2から2cm2程度)[注釈 1]。検出器のヨウ化セシウムは潮解性があるため真空状態に保つ必要があり[18]、打ち上げ後衛星機体から放出されるアウトガスの影響がなくなるまでフッ化マグネシウム(MgF2)製のフィルタで保護され、軌道上でフィルタが開かなくても1150Å以上の波長が観測可能なように設計されていた[19]。ガイドカメラはスリットの溝を通過せず板面で反射した惑星の像を利用して機体の撮影姿勢を制御するために利用される[19]。ガイドカメラは放射線による劣化で2016年9月に機能停止した[20]

  • 望遠鏡[19]
    • 主鏡
    • スリット(9種類)
      • 視野角
        • 長さ:360"(秒角)(=実寸3.3mm)
        • 幅:10"、60"、ダンベル型(中央部20"・両端側140"[17]、木星本体を遮光して極域と周囲のオーロラ等を撮影する際に使用)
      • フィルター
    • 回折格子
      • ラミナー型(トロイダル曲面、島津製作所製)
      • 有効径:50mm、線密度:1,800本/mm
  • MCP(検出器)
    • 観測波長:52 - 148nm(520 - 1480Å)
    • 画素数:1,024×1,024ピクセル(解像度は1ピクセルあたり約1Å)
    • 分解能:3Å(FWHM:半値全幅)
    • 光電物質:ヨウ化セシウム(CsI)
  • FOVGC(Field-Of-View Guide Camera、ガイドカメラ)
    • 32bit CCDカメラ[17]
    • 観測波長:553nm(±35nm)[21]
    • 視野角:240"×240"
    • 画素数:256×256ピクセル[17]
    • 絞り:F/16
    • 衛星バスの指向精度が±120"のところ、FOVGCを使用することで±5"の精度で姿勢制御される[16]
  • 重量:80 kg 以下
  • 電力:200 W
  • データレート:0.1 GB/日(最大)[要出典]

NESSIE

次世代電源系要素技術実証機NESSIE(Next-generation Small Satellite Instrument for EPS(Electric Power System))は、EXCEEDの側面に取り付けられた次世代電源系機器を検証するオプション実験機。主ミッションには直接関係せず、高効率薄膜太陽電池セル(KKM-PNL)とリチウムイオンキャパシタ(LIC)の宇宙実証実験を行う[22]。大きさは550×463×205mm、質量10.03kg[23]

  • 薄膜太陽電池セルには薄膜3接合タイプ(IMM3J)、薄膜2接合タイプ(TF2J)、比較用に従来型のシリコン太陽電池が搭載され、電力効率や宇宙環境による影響が検証された[24]。軽量なため従来型太陽電池パドルと比べて出力重量比が4倍と高効率で、基材がカーボン繊維強化プラスチック(CFRP)のシートであるため柔軟性を有する[25]。この実証成果を受けて、2024年に月面着陸に成功した小型月着陸技術実証機SLIMに採用され、深宇宙探査技術実証機DESTINY+に搭載予定である。シャープ製。
  • リチウムイオンキャパシタ(LIC)は安全性に注意が必要なリチウムイオン二次電池とは異なり、酸化物を使用しないコンデンサタイプであり自己放電が少なく動作温度範囲や充放電サイクルに優れると期待されている[23]。運用では計画通り1年間の自然放電特性は測定された[8]が、2013年11月2日にLICへの補充電が出来ないことが確認され[26]、延長ミッション時に予定していた繰り返し充放電特性は測定されなかった。キャパシタ単体で303g、125×165×15mm、1,171mAh[23]。旭化成FDKエナジーデバイス(AFEC、現FDK[27])製[28]

脚注

注釈

  1. ^ 観測対象とする極端紫外線は可視光等と比較して鏡による反射率が極めて悪く、レンズによる集光も難しい

出典

  1. ^ ISASニュース 2013.5 No.386”. JAXA. 2025年3月10日閲覧。
  2. ^ a b 住友重機械技報|No.185 Aug.2014”. 住友重機械工業. pp. 29-32. 2025年3月8日閲覧。
  3. ^ JAXA | 惑星分光観測衛星(SPRINT-A)の太陽電池パドル展開および衛星の愛称について”. JAXA | 宇宙航空研究開発機構. 2025年3月9日閲覧。
  4. ^ ISASニュース 2006.10 No.307”. JAXA. 2025年3月9日閲覧。
  5. ^ ISAS | 雷放電観測の展開 対流圏から超高層大気,そして惑星へ / 宇宙科学の最前線”. www.isas.jaxa.jp. 2025年3月9日閲覧。
  6. ^ ISASニュース 2008.5 No.326”. JAXA. 2025年3月9日閲覧。
  7. ^ 吉川, 一朗; 土屋, 史紀; 寺田, 直樹 (2012). “小型科学衛星1号機Sprint-A/EXCEED計画の概要(特集「将来木星圏・土星圏探査計画へのサイエンス:その2」)”. 日本惑星科学会誌遊星人 21 (1): 16–21. doi:10.14909/yuseijin.21.1_16. https://www.jstage.jst.go.jp/article/yuseijin/21/1/21_KJ00007980067/_article/-char/ja/. 
  8. ^ a b c d 惑星分光観測衛星 「ひさき」(SPRINT-A)の成果について|2024年8月23日 宇宙科学研究所”. 文部科学省. 2025年3月8日閲覧。
  9. ^ JAXA | イプシロンロケット試験機による惑星分光観測衛星(SPRINT-A)の打上げ結果について”. JAXA | 宇宙航空研究開発機構. 2025年3月9日閲覧。
  10. ^ JAXA | イプシロンロケット試験機による惑星分光観測衛星(SPRINT-A)の打上げ延期および打上げ予定時間帯の変更について”. JAXA | 宇宙航空研究開発機構. 2025年3月9日閲覧。
  11. ^ JAXA | イプシロンロケット試験機打上げ中止の原因究明状況について”. JAXA | 宇宙航空研究開発機構. 2025年3月9日閲覧。
  12. ^ JAXA | 惑星分光観測衛星「ひさき」(SPRINT-A)の初観測データの取得及び定常観測運用開始について”. JAXA | 宇宙航空研究開発機構. 2025年3月9日閲覧。
  13. ^ https://www.isas.jaxa.jp/home/sprint-a/index.html#section04
  14. ^ 研究情報委員会, 宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所(jaxa)(isas)、Research and Information Committee, Institute of Space and Astronautical Science「宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所年次要覧2023年度」『宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所年次要覧』2023年度、2024年12月、16,60-61,66。 
  15. ^ HISAKI/EXCEED” (英語). 吉川・吉岡研究室 | 東京大学. 2025年3月10日閲覧。
  16. ^ a b 吉川, 一朗; 土屋, 史紀; 寺田, 直樹 (2012). “小型科学衛星1号機Sprint-A/EXCEED計画の概要(特集「将来木星圏・土星圏探査計画へのサイエンス:その2」)”. 日本惑星科学会誌遊星人 21 (1): 16–21. doi:10.14909/yuseijin.21.1_16. https://www.jstage.jst.go.jp/article/yuseijin/21/1/21_KJ00007980067/_article/-char/ja/. 
  17. ^ a b c d 惑星分光観測衛星「ひさき」の科学データ|宇宙航空研究開発機構リポジトリ”. jaxa.repo.nii.ac.jp. JAXA (2017年10月4日). 2025年3月13日閲覧。
  18. ^ SPRINT-A/EXCEEDの感度絶対値較正”. JAXA. 2025年3月14日閲覧。
  19. ^ a b c Yoshikawa, Ichiro; Yoshioka, Kazuo; Murakami, Go; Yamazaki, Atsushi; Tsuchiya, Fuminori; Kagitani, Masato; Sakanoi, Takeshi; Terada, Naoki et al. (2014-11-01). “Extreme Ultraviolet Radiation Measurement for Planetary Atmospheres/Magnetospheres from the Earth-Orbiting Spacecraft (Extreme Ultraviolet Spectroscope for Exospheric Dynamics: EXCEED)” (英語). Space Science Reviews 184 (1): 237–258. doi:10.1007/s11214-014-0077-z. ISSN 1572-9672. https://link.springer.com/article/10.1007/s11214-014-0077-z. 
  20. ^ ひさき衛星3年間の科学成果と今後の観測計画|宇宙航空研究開発機構リポジトリ”. jaxa.repo.nii.ac.jp. JAXA (2017年3月22日). 2025年3月9日閲覧。
  21. ^ Yamazaki, A.; Tsuchiya, F.; Sakanoi, T.; Uemizu, K.; Yoshioka, K.; Murakami, G.; Kagitani, M.; Kasaba, Y. et al. (2014-11-01). “Field-of-View Guiding Camera on the HISAKI (SPRINT-A) Satellite” (英語). Space Science Reviews 184 (1): 259–274. doi:10.1007/s11214-014-0106-y. ISSN 1572-9672. https://link.springer.com/article/10.1007/s11214-014-0106-y. 
  22. ^ “小さな衛星の大きな挑戦 惑星分光観測衛星の世界 第3回:NESSIE宇宙の旅”. ISAS. (2013年6月). https://www.isas.jaxa.jp/j/column/sprint-a/03.shtml 2013年8月28日閲覧。 
  23. ^ a b c 久木田, 明夫、高橋, 真人、島崎, 一紀、小林, 裕希、豊田, 裕之、宮澤, 優、坂井, 智彦、柴田, 優一 ほか「NESSIEによる薄膜太陽電池とリチウムイオンキャパシタの軌道上評価」『第35回宇宙エネルギーシンポジウム』2016年3月。 
  24. ^ 宇宙開発最前線!Vol.1 2014 Winter”. JAXA. 2025年3月8日閲覧。
  25. ^ 化合物多接合太陽電池の高効率化と応用|シャープ技報 第107号 2014年7月”. シャープ. 2025年3月9日閲覧。
  26. ^ 惑星分光観測衛星「ひさき」搭載の次世代電源系要素技術実証システム(NESSIE)の状況について”. ISAS (2013年12月20日). 2014年1月12日閲覧。
  27. ^ リチウムイオンキャパシタ事業の合弁解消について | プレスリリース | 旭化成株式会社”. www.asahi-kasei.co.jp. 2025年3月10日閲覧。
  28. ^ NESSIE による次世代電源系技術の軌道上実証|宇宙航空研究開発機構リポジトリ”. jaxa.repo.nii.ac.jp. JAXA (2015年6月15日). 2025年3月10日閲覧。

関連項目

外部リンク



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