小乗仏教とは? わかりやすく解説

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しょうじょう‐ぶっきょう〔セウジヨウブツケウ〕【小乗仏教】

読み方:しょうじょうぶっきょう

小乗のこと。呼称としては明治以後用いられるようになった

「小乗仏教」に似た言葉

小乗

(小乗仏教 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/11/16 03:46 UTC 版)

小乗(しょうじょう、हीनयानHīnayāna)とは仏教用語で[1]、小さい(ヒーナ)乗り物(ヤーナ)を意味する語[2]。個人の解脱を目的とする教義を大乗側が劣った乗り物として貶めて呼んだものであり[1]、否定的な呼び名である[3]

概説

衆生の救済を目的とする教義(大乗、大乗仏教、偉大な乗り物)と対比的に用いる。

語の成立と用法

小乗の語は、大乗経典の発展史のなかでは大乗の語よりも遅れて成立しており[4]、大乗の興起した時代の最初期には、大乗が対立する既存の伝統仏教を小乗(hīnayāna)と名指すことはなかった[5]。小乗の語は、大乗経典が成立する過程において、その一部に考案されて用いられ、その指示対象も限定されていた[4]。すなわち説一切有部のみを、もしくはその中の一派のみを小乗と呼んだことが、ほぼ論証されている[4]。小乗の語が出現した時代に小乗と名指された部派仏教がこれを自称したわけではない[6]三枝充悳は、小乗という語が濫用されるのはごく特殊であるとしている[7]

現代における使用例

日本では、現代の上座部仏教を蔑視し「小乗仏教」と呼ぶこともあるが、小乗の語の由来に鑑みると不適切である[6][8][9][注釈 1]。上述の通り大乗経典に登場する「小乗」という語は説一切有部の中の大乗と対立していた一派を指す呼称であり、そもそも上座部全体を指す呼称ではない[4]

大乗との差異

竹村牧男は、大乗と小乗(部派)の違いについて、小乗(部派)では人間は真理体得者の釈迦(ブッダ)にはほど遠く、修行しても及ばないと考えられているのに対して、大乗では衆生は釈迦と同じブッダになれると考えられている、としている[11]。また小乗(部派)では修行の最終目的は阿羅漢となり輪廻から解脱することであるのに対して、大乗では最終的にブッダとなり衆生を救済することを目標に掲げるとしている[11]

歴史学的・宗教学的には、本来の釈迦の教義では浄土を想定せず、「輪廻からの解脱を達成し、死後に天界を含めて、一切皆苦のこの世界で二度と生まれ変わらないこと」を釈迦は目指していたと説明される[12][13]。そしてその教義を部派仏教は踏襲していたが、大乗仏教ではその教義を改編して成立したとされる(大乗非仏説)。

日本での小乗仏教(部派仏教)を巡る仏教史観

日本では「釈迦入滅から数百年後の部派仏教時代に阿毘達磨(アビダルマ)の煩瑣教学に陥って部派仏教は衆生から遊離した。それをもう一度釈迦本来の衆生救済の教えに戻そうとして大乗仏教の運動が起こり、大乗経典が創作された」という仏教史観が流布しているが、上記は大乗非仏説論に対抗するため村上専精宮本正尊によって提唱された日本人向けの護教論であって、何らかの歴史的裏付けがある訳ではない[14]

末木文美士によれば、何人かの高名な日本の仏教学者もこの理論を真に受けて、そうした見解を学界で提示したことはあるが、海外の仏教学者や海外の仏教徒からは一顧だにされない理論であると説明している[15]

仏典における扱い

初期仏教の仏典に由来するとされる阿含経の漢訳のなかでは、瞿曇僧伽提婆(ゴータマ・サンガデーヴァ)訳「増一阿含経」に小乗という漢語の使用が1例だけみられる[16][注釈 3]

脚注

注釈

  1. ^ 今日の南伝仏教はテーラワーダ(長老)仏教を自称し[10][要追加記述]上座部仏教、上座仏教と呼ばれている。
  2. ^ 静谷によると、平川彰『初期大乗仏教の研究』の説[19]
  3. ^ 増一阿含経は紀元後2-3世紀の成立とみられ[17]、その所属部派は不明である[18]大衆部所伝との説が有力視されるが[17]、大乗仏教の影響を受けているとの指摘があり[17]、大乗教徒によって伝えられ修飾されたものという見解もある[注釈 2][19]

出典

  1. ^ a b デジタル大辞泉『小乗』 - コトバンク
  2. ^ ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典『小乗仏教』 - コトバンク
  3. ^ 世界大百科事典 第2版『小乗仏教』 - コトバンク
  4. ^ a b c d 中村 & 三枝 1996, pp. 337–338.
  5. ^ 中村 & 三枝 1996, pp. 226, 337–338.
  6. ^ a b 岩波 仏教辞典 2002, p. 52, 小乗.
  7. ^ 中村 & 三枝 1996, p. 226.
  8. ^ 植木雅俊『今を生きるための仏教100話』(平凡社新書、2019年)p.172
  9. ^ 大乗仏教・上座部仏教の違い | 大阪市西淀川区のお寺 光明寺
  10. ^ 岩波 仏教辞典 2002, p. 781, 南伝仏教.
  11. ^ a b 竹村 2004, pp. 133, 140.
  12. ^ 佐々木閑『ブッダ 最期のことば』NHK出版 2016年、p22-24
  13. ^ 佐々木閑『いかにして多様化したか 部派仏教の成立』NHK出版 2025年、p85-86
  14. ^ 末木 2017, p. 367.
  15. ^ 末木 2017, p. 359.
  16. ^ 小乗 (阿含部) - 大正新脩大蔵経テキストデータベース。
  17. ^ a b c 『大蔵経全解説大事典』雄山閣、31頁。
  18. ^ 平岡 2015, p. 42.
  19. ^ a b 静谷正雄、「漢訳『増一阿含経』の所属部派」 『印度學佛教學研究』 1973-1974年 22巻 1号 p.54-59, doi:10.4259/ibk.22.54, 日本印度学仏教学会

参考文献

  • 中村元・福永光司・田村芳朗・今野達・末木文美士, ed. (2002年10月). “小乗”. 岩波 仏教辞典 第二版. 岩波書店.
  • 平岡聡『大乗経典の誕生: 仏伝の再解釈でよみがえるブッダ』筑摩書房〈筑摩選書〉、2015年。 
  • 中村元三枝充悳『バウッダ [佛教]』小学館〈小学館ライブラリー〉、1996年4月(原著1987年)。 ISBN 4-09-460080-9 
  • 竹村牧男『インド仏教の歴史: 「覚り」と「空」』講談社〈講談社学術文庫〉、2004年2月(原著1992年)。 ISBN 4-06-159638-1 
  • 末木文美士『思想としての近代仏教』中央公論新社、2017年。 ISBN 978-4121100306 

関連項目


小乗仏教

出典:『Wiktionary』 (2021/08/14 23:43 UTC 版)

名詞

小乗 仏教しょうじょうぶっきょう

  1. 上座部仏教または南伝仏教のこと。小乗とは、大乗仏教側から上座部部派や、主として当時紀元前1世紀ごろ以降)の説一切有部(せついっさいうぶ)の思想評して言った言葉侮蔑的な意味あいを含むことから、今ではほとんど使われなくなっている。

発音(?)

ショ↗ージョーブ↘ッキョー

関連語


「小乗仏教」の例文・使い方・用例・文例

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